自営業,個人事業主,雇用保険
(写真=kenchiro168/Shutterstock.com)

独立をして開業をする、フリーランスとして働くなど、個人事業主として事業を行っていく場合には、企業の従業員として働く場合と比較して公的に受けられる保障の内容が違ってくる。今回は雇用保険の話を中心に、雇用保険を含めた「社会保険」についてお伝えすると共に、個人事業主が必要となる保障などについてお伝えをしていく。

雇用保険などの「社会保険」、個人事業主は加入義務があるのか

はじめに、雇用保険を含めた日本の社会保険制度について概要をお伝えする。現在日本の社会保険には5つの制度があり、狭義の社会保険の「健康保険」「介護保険」「年金保険」、労働保険の「雇用保険」「労災保険」、この5つを合わせて広義の社会保険と呼んでいる。

そもそも社会保険とはどのような目的で作られ、どのような仕組みで成り立っているのだろうか。社会保険は、生活をしていくうえで遭遇する様々なリスクに備えて、加入者(被保険者や事業主)が保険料を支払い、実際にリスクに遭遇した加入者に必要なお金やサービスが給付されるという、相互扶助の仕組みとなっている。5つの保険制度によって給付やサービスの内容に違いはあるが、公的な社会保険制度は法律などによって加入が義務付けられている。その財源は加入者が負担している他、国や地方公共団体も一部負担をしている。

5つの社会保険の特徴

では、5つの社会保険について概要を順に伝えしていく。

1.健康保険

医療保険制度とも呼ばれ、国民全員が加入・保険料納付の義務があり、加入者に医療サービスを提供している。医療機関で保険証を提示することで、一定割合の自己負担(年齢によって1割~3割)で医療を受けることができる。なお働き方や年齢などによって加入する健康保険が次のように異なっている。

・国民健康保険……個人事業主はここに加入する
加入者:自営業者、年金生活者、非正規雇用労働者のうち職場の健康保険に未加入の者、会社員OB(退職者医療・経過措置)

・協会管掌健康保険
加入者:中小企業の正規労働者

・組合管掌健康保険
加入者:大企業の正規労働者

・共済組合
加入者:公務員

・前期高齢者医療制度
加入者:65歳~74歳までの高齢者

・後期高齢者医療制度
加入者:75歳以上の高齢者

2.年金保険

日本の公的年金制度は、働いている現役世代が保険料を支払い、その保険料を財源として高齢者世代に年金を給付する「賦課方式」「世代間扶養」の仕組みとなっている。将来、現役世代が年金を受給する高齢者世代になった時には、その時の現役世代が支払う保険料が年金の財源となり、民間保険会社の個人年金などのように自分が支払った保険料を将来年金として受け取る「積立方式」とは仕組みが異なる。こちらも働き方などによって加入する年金制度に次のような違いがある。

・国民年金(基礎年金)……個人事業主はここに加入する
年金制度の被保険者は、自営業者などの「第1号被保険者」、会社員・公務員の「第2号被保険者」、専業主婦など第2号被保険者の被扶養配偶者である「第3号被保険者」に分かれているが、国民年金はすべての被保険者が加入するものである。

・厚生年金保険
こちらは国民年金に加えて、第2号被保険者が加入する年金となり国民年金の保険料と共に給与などから天引きされる。個人事業主は第1号被保険者となるため、厚生年金保険には加入できない。第2号被保険者は第1号被保険者に比べて多くの保険料を支払っているため、将来受け取る年金額も多くなっている。個人事業主である第1号被保険者は、自助努力で将来のための資金を確保する必要があると言える。

・その他
第1号被保険者が国民年金の上乗せとして加入できる「国民年金基金」、企業が独自に厚生年金の上乗せとして導入する「厚生年金基金」「確定給付企業年金」などがある。また、「401k」と呼ばれる「確定拠出年金」を導入している企業も増えている。401kは「企業型」の他「個人型」の制度もあり、個人事業主は個人型に加入することにより、将来受け取る年金の上乗せをすることも可能となる。

3.介護保険……40歳以上の個人事業主は加入義務がある

介護保険制度は2000年から導入された、5つの社会保険の中では最も新しい社会保険制度となる。介護状態や認知症などになり介護が必要となった場合に、かかった費用の1割を負担することで、介護サービスを受けられる仕組みとなっている。

介護保険制度の運営主体は各市区町村となり、加入は40歳以上から、保険料は所得水準によって決まる。40歳以上65歳未満の加入者(第2号被保険者)は、医療保険の保険料と一括徴収(納付)、65歳以上の加入者(第1号被保険者)は原則公的年金から保険料が天引きされる。

4.雇用保険……個人事業主本人は加入できない

雇用保険制度は、労働者が失業など雇用の継続が困難となる事態に直面したり、技能の習得などのために職業教育訓練を受けた場合に給付を行う制度となっている。労働者を一人でも雇用する事業主は加入の義務がある。雇用保険は、労働者が解雇などにより失業するリスクをカバーする保険という位置付けであるため、自ら事業を行っている個人事業主本人は「労働者」とならず、雇用保険には加入できないこととなっている。

5.労災保険……個人事業主本人は原則加入できない

労災保険制度は、労働者が勤務中や通勤の際に災害に遭った場合に、医療費や休業中の賃金の補償を行う制度となっている。業務災害(業務が原因の事故など)・通勤災害(通勤途中の事故など)の際に労働者またはその遺族に対し所定の保険給付を行う。保険料は全額事業主負担となっている。こちらも自ら事業を行っている個人事業主本人は「労働者」とならず、雇用保険には加入できないこととなっている。ただし、建設業など一定の業種の場合には特別加入ができるケースもある。

このように、雇用保険を含めて5つの社会保険制度があるが、個人事業主本人が強制加入する制度、加入できない制度があることをご理解いただきたい。

従業員を雇った場合、親族が一緒に働いている場合の雇用保険は?

では、事業が順調に進み人を雇うことになったり、事業を親族に手伝ってもらうことになった場合には、雇用保険に加入する必要があるのだろうか。ここでは、雇用保険の加入義務などについてお伝えする。

労働者を雇用した場合

労働者を雇用した場合には、雇用保険の原則加入が義務付けられている。下記の労働者を雇用する場合「以外」は、雇用保険に加入する必要がある。

【雇用保険の適用除外の主な要件】
 1.1週間の所定労働時間が20時間未満
 2.継続して31日以上雇用する予定がない
 3.季節的に雇用される場合で、次のいずれかに該当する場合
   ・4か月以内の期間を定めて雇用される
   ・1週間の所定労働時間が30時間未満
 4.学校教育法で規定される学校・専修学校・各種学校の学生または生徒(昼間学生)

上記4つのいずれかに該当する労働者を雇用する場合には、雇用保険の加入手続きを行う必要は無い。裏を返せば、1週間に20時間以上働いてもらう予定で、1か月以上雇用する場合には、雇用保険の加入対象となり、手続きが必要になるということである。

また、個人経営の農林水産業で、雇用している労働者が常時5人未満の場合には加入が任意となるが、雇用されている労働者の1/2以上が雇用保険への加入を希望する場合には、加入を希望していない労働者を含めた加入要件を満たす労働者全員分の加入の申請が必要となる。

親族が働いている場合

では1週間に20時間以上働いていて、1か月以上事業を手伝っている親族がいる場合には、雇用保険に加入する必要があるのか、またはそもそも加入できるのだろうか。他人を雇用する場合と違い、親族が働いている場合には次のような要件がある。

【事業主と同居している親族】
原則として被保険者とならない。なお、事業主本人も被保険者とならない。ただし、次の3つのいずれにも該当する場合には、被保険者となる場合がある。

  • 業務を行うにつき、事業主の指揮命令に従っていることが明確であること
  • 就労の実態が当該事業場における他の労働者と同様であり、賃金もこれに応じて支払われていること。特に、始業および終業の時刻、休憩時間、休日、休暇など、また賃金の決定、計算および支払方法、賃金の締切、支払の時期などについて就業規則その他これに準ずるものに定めるところにより、その管理が他の労働者と同様になされていること
  • 事業主と利益を一にする地位(役員など)にないこと

例えば親族を雇用保険に加入させたいという場合には、まずは「別居している」「生計を一にしていない」というのが前提条件となる。また同居している場合にも、「業務の指揮命令系統」「労働条件や賃金形態」「労働時間の管理」が他の従業員と同じであれば、雇用保険の被保険者となれる場合がある。他人(第三者)の従業員がいるということも条件となる。なお、親族の雇用保険加入の届出をする際は、「同居の親族雇用実態証明書」で服務形態や給与体系の申告をする他、就業規則・給与規定・源泉徴収簿・雇用契約書・タイムカードなどを提出し、加入の可否の判断を仰ぐことになる。

雇用保険の保険料はいくら?

では、雇用保険に加入することになった場合には、どの程度の保険料を負担することになるのだろうか。雇用保険は労働者(従業員)に様々な給付を行うために、事業主・労働者の両方が保険料を負担することになる。労働者の「賃金」の額に一定の料率を掛けた額を保険料として納めることになり、料率は年度ごとに決められる。なお事業によって保険料率が異なり、さらに労働者の保険料負担は「失業等給付」部分のみとなるが、事業者は失業等給付に加えて「雇用保険二事業」部分(雇用安定事業、能力開発事業)の保険料も負担することになる。2019年度の雇用保険料率(月額)は次の通りとなる。

・「一般の事業」の雇用保険料率:9/1,000
労働者負担:3/1,000 事業主負担6/1,000(失業等給付3/1,000・雇用保険二事業3/1,000)

・「農林水産・清酒製造の事業」の雇用保険料率:11/1,000
労働者負担:4/1,000 事業主負担7/1,000(失業等給付4/1,000・雇用保険二事業3/1,000)

・「建設の事業」の雇用保険料率:12/1,000
労働者負担:4/1,000 事業主負担8/1,000(失業等給付4/1,000・雇用保険二事業4/1,000)

※園芸サービス、牛馬の育成、酪農、養鶏、養豚、内水面養殖および特定の船員を雇用する事業については一般の事業の率が適用される。

このように、個人事業主であっても従業員を雇用した場合には雇用保険の義務が発生する他、要件を満たせば親族も雇用保険に加入できることになる。

知っておきたい雇用保険に関する様々な手続き

雇用保険に加入する際は様々な手続きが必要となるため、ここでは主な手続き内容についてお伝えする。なお雇用保険の被保険者となる人を雇用し、初めて「適用事業所」になった場合には雇用保険の他、先にお伝えした「労災保険」にも加入することになる。労災保険の保険料は事業主のみ負担し、労働者である被保険者の保険料負担は無い。

適用事業所となった時:一元適用事業(農林水産業・建設業など以外)の場合

「保険関係成立届」を保険関係が成立した日の翌日から10日以内に、所轄の労働基準監督署に提出する。合わせて「概算保険料申告書」を保険関係が成立した日の翌日から50日以内に、所轄の労働基準監督署または所轄の労働局または日本銀行(銀行・郵便局などでも可)に提出する。

その後、「雇用保険適用事業所設置届」を設置の日の翌日から10日以内に、「雇用保険被保険者資格取得届」を被保険者ごとに資格取得の事実があった日の翌月10日までに、それぞれ所轄のハローワークに提出する。

従業員を雇用した時

従業員を雇用するたびに管轄のハローワークに「雇用保険被保険者資格取得届」を提出する。合わせて賃金台帳、労働者名簿、タイムカード、他の社会保険の資格取得関係書類、雇用契約書など雇用期間を確認できる資料を提出する。なお届出によって交付される「雇用保険被保険者証」は、事業主から被保険者本人に渡す必要がある。

従業員が離職した時

「雇用保険被保険者資格喪失届」「雇用保険被保険者離職証明書」を、被保険者でなくなった事実があった日の翌日から10日以内に、出勤簿、退職辞令発令書類、労働者名簿、賃金台帳、離職証明書、離職理由が確認できる書類などを、管轄のハローワークに提出する。被保険者が死亡した場合も同様の手続きが必要となる。

雇用保険を含めた「社会保険」の給付内容と個人事業主に必要な保障

雇用保険に加入することになった場合には、従業員は様々な給付を受けられることになる。大きく「求職者給付」「就職促進給付」「職業訓練給付」「雇用継続給付」の4つの「失業等給付」に区分されているが、まずはそれぞれの給付についての主な内容をお伝えする。

1.求職者給付(基本手当)

被保険者である従業員が、定年・倒産・契約期間満了などにより離職した場合に、再就職するまでの失業中の期間、収入の一部として一定額が支払われるものである。一般の被保険者が基本手当を受け取れる日数は、離職の日における年齢・被保険者期間・離職理由などによって90日~360日となっている。

また支給額(基本手当日額)は、離職した日の直前の6か月に支払われた賃金(賞与などは除く)の合計を180で割った「賃金日額」の約50~80%(60歳~64歳については45~80%)となっており、年齢によって上限額が定められている。

2.就職促進給付(再就職手当)

こちらは、上記基本手当の受給資格者が就職した場合に、基本手当の支給残日数(就職日の前日までの失業の認定を受けた後の残りの日数)が所定給付日数の1/3以上あり、一定の要件に該当する場合に支給される。

3.職業訓練給付

労働者の能力開発やキャリア形成を支援するための教育訓練受講に支払った費用の一部を支給する。

4.雇用継続給付(育児休業給付金)

雇用保険の被保険者が1歳または1歳2か月(支給対象期間の延長に該当する場合は1歳6か月または2歳)未満の子を養育するために育児休業を取得した場合に給付される。

従業員はこのような給付が受けられるが、個人事業主本人は同様の給付を受けることができない。事業主のリスクの一つとして、病気・ケガなど何らかの理由で「働けなくなる」ことが挙げられる。雇用保険の他、先にお伝えした労災保険にも加入できないため、このようなリスクに備えておく必要がある。また、死亡時の保障としては会社員・公務員のように厚生年金からの「遺族厚生年金」の給付が無いため、保障が足りない場合も想定される。高齢になった場合の「老齢年金」についても同様である。

この他にも様々なリスクが考えられるが、不足だと考えられる保障については、民間の生命保険会社や各種共済の商品、401kなどの制度を活用したうえで、万が一の時に備えておくことも重要となる。個人事業主は事業を継続・拡大していくことと共に、自身を守ることも考えておく必要があると言えるだろう。

文・THE OWNER編集部