「鬼滅の刃」(きめつのやいば)は、マンガや映画が爆発的ヒットを記録している。最近では、鬼滅の刃とコラボしたコーヒー缶も大ヒットするなど、人気の勢いは全く衰えを見せていない状況だ。しかし、なぜ鬼滅の刃はここまで空前の人気を呼んでいるのか。その理由を考えてみよう。
数字でみる「鬼滅の刃」
読者の中には鬼滅の刃を全く知らないという人もいるはずだ。簡単に内容を紹介すると、鬼となった妹を人間に戻すため、鬼退治をしながらその方法を探す主人公の人生を描いた物語だ。週刊少年ジャンプで2016年から連載が始まり、2020年5月に連載が終了している。
鬼滅の刃はコミックが第22巻まで発行されており、累計発行部数は電子版を含めて1億部を超えている。2019年9月までは累計1,200万部だったことから、その後の1年間で8,800万部増えたことになり、人気が急上昇していることがうかがえる。
<鬼滅の刃の累計発行部数>(集英社による発表)
2019年4月:350万部
2019年9月:1,200万部
2019年12月:2,500万部
2020年2月:4,000万部
2020年5月:6,000万部
2020年7月:8,000万部
2020年10月:1億部
鬼滅の刃第22巻の初版は370万部を記録し、日本国内の出版業界史上、過去最高の数字となった。人気漫画「ONE PIECE」の第57巻が記録した初版300万部という数字をゆうに超えている。
ちなみに、コミックの巻数が22巻と少ないだけに、累計発行部数では、4億部を超える「ONE PIECE」、2億部を超える「ゴルゴ13」「ドラゴンボール」「NARUTO」「名探偵コナン」などには敵わないものの、過去最多という初版の部数からその人気ぶりがよく分かる。
また、2020年10月16日に公開された鬼滅の刃の映画「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」は、公開から3日間で興行収入が46億円と日本国内で過去最高を記録した。新型コロナウイルスで外出自粛ムードが広がっている中、この数字は驚異的だ。
鬼滅の刃の人気の理由
このように快進撃を続けている鬼滅の刃だが、なぜここまで人気が広がっているのだろうか。その理由は主に4つあると言われている。
「死」と向き合うストーリー
少年漫画のヒット作に共通している点としては「友情」「努力」「家族」「恋愛」「勝負」などが挙げられ、鬼滅の刃でもストーリーの随所にこうした要素が盛り込まれている。ただ、このような要素を盛り込んでいるマンガはほかにあるにも関わらず、鬼滅の刃はなぜここまで際立った人気ぶりとなったのか。
鬼滅の刃がほかの作品と異なる点は、「死」に向き合うシーンが非常に多いことだ。ストーリーにおいて重要な役割を果たすキャラクターが次々と死んでいき、生きる価値を読者に考えさせる。キャラクターの死を含め、緊張と緩和が目まぐるしく繰り返されることも、読者をどっぷり鬼滅の刃の世界観にのめり込ませることにつながっている。
幅広い年齢層でファンを獲得
鬼滅の刃の累計1億部という数字は、特定の層に支持されるだけでは達成できない数字だ。鬼滅の刃は若者から大人まで、年齢や性別を超えて支持されている。その理由としては、多くの層が共感できる家族愛や兄姉愛などがストーリーに盛り込まれているからだと言われている。
また、鬼退治という分かりやすいストーリーの中で奥深い心理描写がなされている点も、子供だけではなく大人を惹き付ける理由となっている。
アニメ放送前に映画館で先行上映
鬼滅の刃をマーケティング的な観点で分析すると、アニメ化などの際に過去に例がない試みが行われている点にも気づく。
鬼滅の刃はアニメ化の際、テレビ放送前の2019年3月に映画館で第1〜5話の特別版が先行上映された。2週間の限定公開だったが、この試みが話題を呼び、FacebookやTwitterなどのSNSなどを通じて鬼滅の刃のアニメ化の情報が広がった。
新型コロナウイルスも人気に追い風?
鬼滅の刃の人気はコロナ禍以前からのものだが、最近もその人気ぶりは健在だ。人気が維持されている理由の1つとしては、新型コロナウイルスの感染拡大にもあると言われている。巣ごもり消費が増え、動画サイトなどで配信されている鬼滅の刃の視聴回数が伸びた。
コロナ禍によって旅行や外出などがしにくくなった分、自宅でアニメなどを観る時間が相対的に増えているからだと言われている。
マーケティング施策やコロナ禍も大ヒットを後押し
この記事では、鬼滅の刃の大ヒットの真相について分析した。鬼滅の刃のコンテンツ力は強力だが、マーケティング施策やコロナ禍も鬼滅の刃の大ヒットを後押ししたと言える。現在のところコミックの続編の情報はないが、待望する声も多い。
ちなみに、鬼滅の刃の作者は吾峠呼世晴氏で、謎に包まれた新人作家だ。鬼滅の刃の続編は出ないとしても、吾峠氏の次回作を楽しみにしているファンは多い。
文・岡本一道(金融・経済ジャーナリスト)