
働き方改革の影響で、最近では業務委託を活用する企業が増えている。そこで今回は、企業が業務委託を活用するメリット・デメリットや、契約の注意点などを分かりやすくまとめた。業務の効率化やコスト削減を目指す経営者は、ぜひ最後までチェックしていこう。
目次
- 業務委託とは?
- 派遣社員とはどう違う?業務委託と他業務形態の違い
- 「請負契約」と「委任契約」とは?業務委託の2つの種類をチェック
- 業務委託契約に関連する法律
- 労働者側(働く側)の業務委託のメリット・デメリットとは
- 企業が業務委託をする3つのメリット
- 企業が業務委託をする3つのデメリット
- 業務委託契約書を作成する際の3つの注意点
- フリーランスや個人事業主と契約を結ぶときの注意点
- 企業側が必ず避けるべき「偽装請負」とは?防ぎ方のポイント
- 業務委託契約を結ぶまでの流れ
- 業務委託契約の内容を変更したいときは?
- 業務委託契約を解除したいときはどうする?
- 業務委託費用の会計処理
- デメリットや注意点も意識した上で、業務委託を上手く活用しよう
- 事業承継・M&Aをご検討中の経営者さまへ
業務委託とは?
業務委託とは、主に社内だけで対応できない業務を、外部の企業や個人へ委託する業務形態のことだ。一般的な業務委託では、委託する側と委託される側が「業務委託契約」を結び、費用や期限、業務内容などに関する取り決めを行う。
近年注目度が高まりつつある「業務委託」
業務委託は昔から存在した業務形態だが、働き方改革の影響で個人事業主やフリーランス(委託される側)が増えたことにより、以前に比べて注目度が高まりつつある。業務委託をうまく活用すれば、業務の効率化やコスト削減にもつなげられるので、興味のある経営者はこれを機にしっかりと知識を身につけておこう。
派遣社員とはどう違う?業務委託と他業務形態の違い
企業が業務委託を効果的に活用するには、他業務形態との違いを正しく理解することが必要になる。そこで以下では、雇用契約や派遣契約との違いを簡単にまとめた。

上記の通り、業務委託契約と雇用契約・派遣契約にはさまざまな違いがある。委託をする企業側としては、勤務時間の制約や指揮命令権の有無の違いは、確実に押さえておきたいポイントだ。
社内で発生する業務内容や業務量、労働環境などによって適した契約は変わってくるので、人員を増やすための選択肢は広い視野をもって検討しておきたい。
「請負契約」と「委任契約」とは?業務委託の2つの種類をチェック
業務委託契約には、請負契約と委任契約の2種類がある。上記の「成果物の完成責任」をはじめ、同じ業務委託であっても契約の種類によってその後の状況は変わってくるため、業務委託をする前には請負契約・委任契約についても理解しておくことが必要だ。
では、この2つには具体的にどのような違いがあるのか、以下で分かりやすく解説をしていこう。
請負契約とは?
「請負契約」とは、成果物の完成によって報酬が発生する業務委託契約のこと。つまり、定めた期限内に成果物が納品されない限り、委託する側は報酬を支払う必要がないので、請負契約は「成果物の完成責任があるタイプ」の契約と言える。
具体的な委託先としては、デザイナーやプログラマー、ライターなどの職種が挙げられるだろう。ちなみに、請負契約において納品後の成果物に不備・不具合が見つかった場合は、委託される側に修正対応の義務が発生する(瑕疵担保責任)。
委任契約とは?
一方で、成果物に関する取り決めがない業務委託契約は、「委任契約」と呼ばれている。契約期間中の"業務"に対して報酬が発生する仕組みなので、委任契約は「成果物の完成責任がないタイプ」の業務委託と言い換えられる。
具体的な委託先としては、医師や弁護士などをイメージすると分かりやすいはずだ。ほかにも受付業務や美容師など、委任契約の委託先にはさまざまな職種が存在する。
ちなみに、法律行為以外の業務を委託する場合に結ぶ契約は、委任契約ではなく「準委任契約」と呼ばれている。
業務委託契約に関連する法律
企業にとって業務委託は重要な契約ではあるものの、法律において特別な定義はないとされている。
最も近い性質をもつものとしては、「請負契約(民法632条)」や「委任契約(民法643条)」が挙げられるだろう。また、契約の形態を考えると「準委任契約(民法656条)」も業務委託も一種と考えられる。
ただし、実際の業務委託は複雑な契約になりやすいため、これらのいずれかに分類できないケースもある。特に複数の人物に対して業務を依頼する場合や、さまざまな成果物が出来上がる場合は、請負契約・委任契約の各特性を併せもつこともあるだろう。
したがって、業務委託では契約書が重大な意味をもつと言える。判断に迷った際に根拠となる法律が存在しないため、契約書だけで全ての内容が分かるようにしなければならない。
これから業務委託契約を結ぶ企業は、その点を意識した上で正しい知識を身につけていこう。
労働者側(働く側)の業務委託のメリット・デメリットとは
労働者側が業務委託の仕事を探す方法としては、主に以下のような方法が挙げられる。
・知人からの紹介
・委託先を探している企業への営業
・求人サイトの利用
・クラウドソーシングサービスの利用 など
では、実際に業務委託の案件を引き受けると、労働者側にはどのようなメリット・デメリットが生じるだろうか。労働者側のメリット・デメリットを理解しておくと、双方が納得しやすい契約を結ぶことにつながるため、業務委託をする側の企業もしっかりとチェックしていこう。
労働者側(働く側)の業務委託の4つのメリット
労働者側が業務委託をする最大のメリットは、働き方の自由度がぐっと高まる点だ。正社員などの一般的な雇用形態に比べると、業務委託では引き受ける仕事を選びやすくなるため、必然的に働き方の幅が広がってくる。
では、具体的にどのようなシーンで自由度が高まるのか、そのほかのメリットと合わせて紹介していこう。
・1.時間や場所にとらわれない
一般的な業務委託契約では、働く時間や場所が指定されることはない。つまり、隙間時間を活かして自宅やカフェで働くことが可能になるため、労働者側は時間や場所にとらわれない自由な働き方を実現できる。
働き方の幅が広がると、「ワークライフバランス(※仕事とプライベートをうまく調和させること)」の実現にもつながるはずだ。例えば、日常生活に合わせて仕事のスケジュールを調整すれば、家事や趣味に費やす時間を確保しやすくなるので、プライベートをより一層充実させられる。
・2.引き受ける案件を絞ることで、得意な業務のみを行える
引き受ける案件を自由に選べる点も、業務委託で働く大きなメリットだろう。
雇用主が存在しない業務委託では、サラリーマンやアルバイトのように特定の業務を強制されることがない。契約を結ばない限りは責任も発生しないので、案件に興味をもてない場合は断ることが可能だ。
また、得意分野に絞って案件を選べば、自身の社会的な評価を高めることにもつながる。
・3.能力次第ではサラリーマン以上の高収入を狙える
業務委託における報酬は、案件の難易度や成果物の内容によって契約ごとに決められる。つまり、雇用契約のように報酬が固定額ではないため、能力次第ではサラリーマン以上の高収入を狙える。
例えば、一般社団法人プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会が公開している「フリーランス白書2020」によると、年収が1,000万円を超えるフリーランスは全体の10%以上にのぼる。
もちろん高いスキルや知識は必要になるが、なかにはサラリーマン時代の数倍の収入を得ているようなフリーランスも見られる。
・4.自身の能力が成果物で評価される
業務委託を受けるフリーランスなどの評価は、主に成果物のクオリティによって判断される。そのため、クライアントの予想を上回る成果物を納品した場合は、「この次も頼みたい」「ほかの関連会社にも紹介したい」とチャンスが一気に広がることもあるだろう。
一方で、雇用契約を結ぶサラリーマンなどの労働者は、必ずしも成果物のみで社会的評価が下されるわけではない。上司との関係性や人柄によって評価が変わるケースもあるので、実務をこなす能力のほかに一定のコミュニケーション能力も求められる。
労働者側(働く側)の業務委託の4つのデメリット
上記のメリットだけを見ると、業務委託は魅力的な働き方に見えるかもしれない。しかし、業務委託にはいくつか注意点も潜んでおり、特に以下のデメリットは事前に押さえておく必要がある。
・1.労働基準法が適用されない
業務委託における労働者は、労働基準法の対象には含まれない。つまり、最低賃金や労働時間などに関する決まりがないため、契約によっては割に合わない形での労働を強いられてしまう。
また、心身の負担を考えると、年間の休日数が保障されない点も注意しておきたいポイントだ。サラリーマンのように決まった休日がないため、業務委託では引き受ける案件の量やスケジュールを調整しながら休日を確保しなければならない。
・2.雇用保険や労災保険に加入できない
雇用保険や労災保険に加入できない点も、労働者側が事前に理解しておくべきデメリットだ。これらの保険は雇用契約を結んでいる労働者を対象にしたものであるため、原則として個人事業主やフリーランスは加入できない(※建設業など一部例外あり)。
したがって、業務委託のみで生計を立てていると、病気やケガをした場合に経済的に困窮する恐れがある。そのようなリスクを抑えたい場合は、民間保険や共済への加入を検討してみよう。
・3.契約や交渉、仕事探しを自分で行う必要がある
個人で業務委託を受ける場合は、契約や交渉はもちろん、仕事探しの段階から自分一人で行わなくてはならない。さらに確定申告や納税手続き、税務処理なども自分だけで行うことになる。
なかでも仕事探しは、多くの個人事業主やフリーランスがつまずきやすい工程だ。特に駆け出しの時期は社会的な信用性が低いため、仕事探しに工夫をこらす必要がある。
・4.収入やキャリアが安定しにくい
案件ごとに報酬が変わる業務委託において、収入を安定させることは簡単ではない。企業から常に求められる人材でなければ、無収入の空白期間が続く可能性も考えられる。
また、一般的なサラリーマンとは違い、着実なキャリアアップの道が用意されていない点も大きなデメリットだ。順調にキャリアを形成したいのであれば、引き受ける案件のタイプや営業のかけ方を工夫する必要がある。
企業が業務委託をする3つのメリット
ここからは、企業が業務委託を利用するメリットを紹介していこう。以下を見て分かるように、委託する側にはさまざまなメリットが発生するため、社内のリソースが不足している場合はぜひ積極的に検討しておきたい。
1.専門性の高い業務を任せることで、人件費を抑えられる
前述で紹介したプログラマーや弁護士のように、業務委託の委託先は専門性の高い職種が中心だ。これらの人材を会社で雇うとなれば、毎月多くの人件費が発生することになるが、業務委託によって専門性の高い業務を外部に任せるとこのコストを大きく抑えられる。
ほかにも、新しい人材のための備品代や設備代、社会保険料などを抑えられる点も業務委託の大きなメリットだ。業務委託と聞くと、「社内で処理するよりもコストがかかる」と思われがちだが、状況次第でコストの節約につながる点はしっかりと理解しておきたい。
2.人材教育のコストやリスクを抑えられる
難しい業務を外部に任せることによって、新人社員の教育コストを抑えられる点も業務委託のメリットになる。
特に専門性の高い業務をこなす場合は、新入社員が一人前に働けるようになるまで多くのコストが発生する。また、多くのコストをかけたからと言って、新入社員が期待通りに育つとは限らないので、企業の採用活動や教育には一定のリスクがあると言えるだろう。
その点、業務委託を利用すれば新入社員を採用・教育する必要がなくなるため、上記のようなコスト・リスクをぐっと抑えられる。なかでも人材教育のリスクを抑えられる点は、経営の安定にもつながるはずだ。
3.手が空いた社内人材を有効活用できる
業務委託を利用すると、これまで難しい業務に時間をかけていた社内人材の手を空けられる。この社内人材を有効活用できる点は、企業にとって想像以上に大きなメリットとなる。
例えば、手が空いた社内人材をより適した業務へ再配置すれば、企業全体の生産性はぐっと高まるだろう。また、ノンコア業務を外部に委託すると、本業に割ける社内リソースを増やせるので、業界内での競争力もアップする。
業務の効率化は働き方改革にもつながるポイントなので、業務委託によって社内人材を再配置できる点は、経営者として強く意識しておきたい。
企業が業務委託をする3つのデメリット
業務委託を利用する前には、以下で紹介するデメリットもきちんと理解しておきたい。メリットだけに目を向けると、経営面に深刻な問題が生じる恐れもあるので注意しておこう。
1.専門性が高いと、コストが大きくなる恐れがある
一般的に業務委託の報酬は、業務の専門性が高いほど膨らんでいく。委託する業務内容や業務量によっては、報酬が自社の採用コスト・教育コストより高くなる恐れもあるため注意が必要だ。
また、報酬の適正額を判断することが難しい影響で、なかには相場より高い報酬を支払っているような企業も見受けられる。つまり、業務委託のコストをできるだけ抑えるには、各業界や業務範囲における相場を事前にチェックしておかなくてはならない。
2.人材の管理が難しく、製品やサービスの質が下がることも
前述の通り、業務委託では企業側に指揮命令権がないため、業務を委託した人材を管理することが難しい。意思疎通が上手くできないと、成果物(製品やサービス)の質が大きく下がってしまうこともあるので、進捗状況や目標のこまめな共有が必要だ。
成果物の質は、その企業全体の評価に大きく関わってくる。仮に業務委託によって製品の質が下がると、株主や消費者からの評価も変わってきてしまうので、委託する業務範囲についても慎重な設定が必要になるだろう。
3.社内のノウハウ構築や人材教育に結びつかない
専門性が高く難しい業務を社外に任せられる点は、業務委託の大きなメリットだ。しかし、あまりにも業務委託に頼り過ぎると、社内でノウハウを蓄積することができなくなるため、最終的には優秀な人材が育ちにくくなる。
業務委託をした業務に関して、そのノウハウや知識を社内に蓄積させたいのであれば、定期的にミーティングを開くなどの工夫が必要だ。ただし、レポートや口頭による共有だけでは、なかなか蓄積されないノウハウも存在するため、やはり委託する業務範囲は慎重に考えておきたい。
業務委託契約書を作成する際の3つの注意点
業務委託を利用する場合は、自社と委託先との間で契約書を交わす必要がある。委託された側は、原則としてこの契約書をもとに業務にあたるため、契約書の内容には細心の注意を払うことが必要だ。
では、具体的にどのようなポイントを意識するべきなのか、主な注意点を以下でチェックしていこう。
1.報酬の支払い方法によって、契約書は3つの種類に分けられている
業務委託の契約書は、報酬の支払い方によって以下の3つの種類に分けられている。

上記を見て分かる通り、業務の委託先によって契約書の種類は変わってくる。また、それぞれの契約書で注意するべき点が異なるので、契約内容を取り決める際には「どんなリスクがあるのか?」や「どんな基準を設けておくべきか?」などを強く意識することが重要だ。
2.トラブル回避のために、13の項目を記載する
業務委託契約書の記載内容は、委託する業務内容や業務量、報酬の基準などによって変える必要がある。そのため、ケースによって契約書の内容は変わってくるが、余計なトラブルを防ぐには「一般的な契約書の記載内容」をしっかりと押さえておくことが必要だ。
そこで以下では、実際の業務委託契約書に記載されることが多い項目を簡単にまとめた。

上記を見て分かるように、業務委託契約書に記載するべき項目は多い。どれかひとつが欠けると、深刻なトラブルに発展する可能性も考えられるため、契約を結ぶ前にはひとつずつ丁寧に確認しておこう。
3.「責任の範囲」を慎重に設定する
業務委託契約のなかでも、「責任の範囲」は特にトラブルに発展しやすいポイント。前述でも解説した通り、請負契約・委任契約のどちらを選ぶのかで成果物の完成責任の有無が変わってくるため、まずは契約の種類を慎重に決めなくてはならない。
また、特に請負契約を選ぶ場合は、「どこまでの責任があるか?(責任の範囲)」についても明確にしておく必要がある。この部分に関して委託側・委託先の間で認識のズレがあると、深刻なトラブルにつながるリスクが高まるので、責任の範囲は契約書内で明確にしておこう。
フリーランスや個人事業主と契約を結ぶときの注意点
働き方改革やテレワークの推進などの影響で、最近ではフリーランスや個人事業主と業務委託契約を結ぶケースも増えてきている。ただし、他企業への業務委託とはやや事情が異なるため、契約を結ぶ前には以下のポイントをしっかりと確認しておきたい。
関連法規に準拠した契約になっていることを確認する
独占禁止法や下請代金支払遅延等防止法(以下、下請法)など、業務委託契約には関連法規がいくつか存在する。特に自社が「資本金1,000万円以上の企業」にあたる場合は、下請法によって以下のような行為が禁止されることになる。

中でも下請法で注意しておきたいポイントは、相手の属性に関わらず発注内容の書面化が義務付けられている点だ。フリーランスへのパワハラなどが顕在化した影響で、下請法による取り締まりは年々厳しくなりつつある。
行政処分などのトラブルを防ぐために、そのほかの関連法規についても細かくチェックしておきたい。
委託先が稼働できなくなった時の対処を考えておく
業務委託先がフリーランスや個人事業主にあたる場合は、稼働できなくなった時の対処が必要になる。いくら信用のおける個人であったとしても、病気やケガ、身内の不幸などで急に業務がストップする恐れがあるためだ。
例えば、常にほかの委託先を用意したり、社内で代わりに業務を行う人物を決めたりしておけば、万が一トラブルが発生してもスムーズに対処できる。また、トラブルの対処には誰があたるのか予測できないため、マニュアルを整備しておく必要もあるだろう。
このように、さまざまなトラブルを想定して事前対策を用意しておけば、相手がどのような属性であっても業務委託のリスクを抑えられる。
企業側が必ず避けるべき「偽装請負」とは?防ぎ方のポイント
偽装請負とは、形式的には業務委託として契約が結ばれているものの、実際には労働者派遣と同じ扱いをすることだ。代表的なケースとしては、主に以下の4つが挙げられる。

偽装請負は明確な違法であり、行政処分や裁判にまで発展したケースも存在する。企業側の自覚がない場合もあるので、偽装請負の概要や防ぎ方についても改めて確認していこう。
偽装請負はなぜ発生する?労働者派遣との違い
そもそも、偽装請負はなぜ発生するのだろうか。その点を紐解くために、まずは業務委託契約と労働者契約の違いから見ていこう。

両者の最大の違いは、労働基準法が適用されるかどうかにある。
労働者契約は労働基準法の対象に含まれるため、労働者には就業規則に記載された賃金や休暇を与えなければならない。つまり、雇用側から見ると人件費がかさむので、業務委託として発注しようとする企業が存在しているのだ。
なお、企業側が自覚をしていなかったとしても、偽装請負とみなされれば処罰が下される可能性がある。数千万円規模の支払い命令が出された事例もあるので、偽装請負は確実に避けなくてはならない。
偽装請負を防ぐポイント
偽装請負を防ぐには、労働者側だけではなく企業側の努力も必要になる。特に以下で挙げるポイントは、毎回の業務委託契約時にしっかりと確認しておきたい。

偽装請負は外部から判断しづらい特性があるため、その点に安心して労働者契約を回避しようとする例も存在する。しかし、今後は取り締まりが一層強化される可能性があるので、自覚の有無に関わらず偽装請負は確実に避けることを心がけよう。
業務委託契約を結ぶまでの流れ
ここからは、実際に業務委託契約を結ぶまでの流れを解説する。各ステップのポイントや注意点もまとめているので、ひとつずつ丁寧に確認していこう。
【STEP1】契約内容のすり合わせ
まずは契約書を作成するにあたって、主な契約内容をすり合わせる必要がある。事前に決めておくべき内容としては、委託内容や支払金額、支払方法、納期などが挙げられるだろう。
また、発生する費用を細かく把握するために、できればこの段階で見積書を作成してもらうことが望ましい。相手が業務委託に慣れている法人・個人であれば、その旨を伝えるだけでスムーズに発行してもらえるはずだ。
【STEP2】契約書の原案(ドラフト)作成
契約内容が固まったら、次は原案(ドラフト)を作成する。契約書に決まった形はないが、秘密保持や損害賠償に関することまで細かく記載することが重要だ。
なお、公序良俗や法律に反する内容は、仮に当事者間の合意があっても無効になる。深刻なトラブルにもつながりかねないので、これらの内容を記載することは控えたい。
【STEP3】社内での承認
契約書の原案を作成したら、相手先に共有する前に社内での承認作業を挟んでおきたい。特にその案件に関わる従業員に対しては、内容に問題がないか十分に確認を取る必要がある。
この承認作業を怠ると、契約直前で新たな問題が見つかることもあるので、できれば全ての関係者に原案を確認してもらおう。
【STEP4】相手先の確認と修正
業務委託に関わらず、ビジネスにおける契約書は自社が有利になるように作成をするケースが多い。この点自体はそこまで問題ではないが、仮に相手先から修正の要望が届いた場合は、誠意をもって対応する必要がある。
ただし、相手先の要望をすべて受け入れると、いつの間にか不利な契約になってしまうリスクもあるだろう。そのため、妥協できない条件がひとつでも存在する場合は、両者が納得するまで交渉を重ねることが重要だ。
お互いが歩み寄る姿勢を見せれば、【STEP1】のプロセスに逆戻りしても大きな信用を失うことはない。結果的にその案件が流れたとしても、ほかの委託先を探す選択肢が残されているので、妥協を重ねて不利な契約にならないよう注意しておこう。
【STEP5】製本と契約の締結
原本の問題を全て解決したら、次は契約書を製本する。紙の契約書を用いる場合は、同じものを2部製本かつ押印し、発注側・受注側のそれぞれが1部ずつを保管する流れが一般的である。
なお、請負型の業務委託契約を結ぶ際には、契約書に印紙を貼ることが必須だ。契約金額ごとの印紙代は以下の通りである。
なお、近年ではデジタル化が加速したことから、電子署名による業務委託契約も増えてきている。予備知識として、電子署名によって契約を交わすメリット・デメリットについても触れておこう。

注意しておきたいデメリットはあるものの、最近では新型コロナウイルスの影響により非対面式の契約が増えているため、今後も電子署名は普及する可能性が高い。今のうちから慣れておくことで、将来的に発生するコストや労力を大きく削減できるだろう。
【STEP6】契約書の管理と保管
契約が締結されれば、いよいよ業務委託が始まることになる。短期間で終わる契約もあるが、その場合であっても【STEP5】で交わした契約書は厳重に管理・保管しなければならない。
契約書を適切に管理できていない企業には、以下のようなリスクが潜んでいる。

契約書の管理・保管場所としては、社内の人間が簡単に持ち出せないところや、自然災害(火事や水害)の影響を受けづらいところが望ましい。例えば、役員しか入れない部屋に専用のキャビネットを設置するなどの工夫をとりいれて、情報漏えいや紛失などのリスクを最大限抑えよう。
【STEP7】契約の更新
【STEP6】までで契約の締結は完了だが、業務委託契約は更新されることが多いため、期間満了を迎えた際の更新方法についても押さえておきたい。業務委託契約の更新方法には、以下の2種類がある。

申し出による更新は毎回行う必要があるため、手間を省きたい方には自動更新条項の活用をすすめたい。契約を解除しない限りは外注費用が発生するものの、普段から契約関係や経費を管理しておけば、解除のタイミングを忘れる心配もないだろう。
ちなみに、業務委託契約書を作成する際に、自動更新条項の記入を忘れるミスは多く見られる。記入漏れに不安を感じている経営者は、必要な条項を自動で挿入してくれる電子契約書サービスの利用を検討しよう。
業務委託契約の内容を変更したいときは?
不測のトラブルや環境変化などにより、業務委託契約の変更を余儀なくされるケースも存在する。契約内容の変更自体は可能だが、正しい手順を踏まないと深刻なトラブルにつながる恐れがある。
そのため、契約内容を変更する方法や注意点についても、これを機にしっかりと確認しておこう。
契約内容を変更する流れ
業務委託契約の内容を変更する場合は、「変更契約書(※覚書でも可)」を作成して契約を再締結する必要がある。変更契約書に記載すべき内容は以下の通りだ。

変更契約書は追加的な書類であるため、あくまで原契約書とセットになる内容にまとめることが重要だ。単体では効力を発揮しないので、変更契約書の作成時には必ず上記の内容をすべて記載しておこう。
契約変更は当事者間のすり合わせが必須
契約内容を後から変更すると、基本的には発注側・受注側のいずれかにデメリットが発生する。また、相手先が必ずしも再契約に応じるとは限らないため、変更内容は事前にすり合わせておくことが必須だ。
なお、重要な契約項目を変更する場合は、改めて収入印紙が必要になることもある。具体的な項目としては、取引金額や契約期間などが挙げられるだろう。
契約変更に際して判断に迷った場合は、専門家への相談もひとつの選択肢になる。特にトラブルに発展しそうなケースでは、できるだけ早いうちに顧問弁護士などへの相談を検討しておきたい。
業務委託契約を解除したいときはどうする?
場合によっては契約の変更ではなく、契約解除の必要性に迫られるケースもあるだろう。契約解除の原則については、以下のように契約の種類によって異なる。

ただし、上記はあくまで法律に基づいた原則であり、契約の内容次第では状況が変わることもある。また、強引に手続きを進めると相手先からの信用を失ってしまう恐れがあるため、ここからは契約解除の基本的な手順をチェックしていこう。
【手順1】契約内容を確認する
まずは保管していた契約書(製本したもの)を探し、原契約の関連事項を確認する。契約解除の要件が定められている場合は、内容をしっかりと読み直し、要件を満たすための準備を進めていこう。
そのほか、違約金や損害賠償なども確認しておく必要がある。また、残りの契約期間によって補償内容が変わることもあるので、「いつまでの契約なのか?」についても入念に確認しておきたい。
なお、業務委託契約書にこれらの記載がない場合は、原則として民法に従った対応をすることになる。
【手順2】解除通知書を作成・郵送する
契約書に定められた要件を満たしていれば、口頭であっても業務委託契約は解除できる。しかし、いきなり契約解除を申し出ると心象を悪くする恐れがあるため、まずは「解除通知書」で意思を伝えることが重要だ。
解除通知書に決まった形式はないが、一般的なケースでは以下の内容を記載する。

相手先の債務不履行によって契約解除をする場合は、上記に加えて対象となる金額や猶予期間、勧告内容を記載する。
なお、解除通知書は一方的に送るものなので、両者の関係性によってはトラブルや紛争に発展する恐れがある。したがって、郵送の際にはその事実が証拠として残るように、内容証明郵便を利用することが望ましい。
【手順3】話し合いの場を設ける
解除通知書を郵送するだけでは誠実な対応とは言えないため、その後には話し合いの場を設ける必要がある。すでに意思表示は示しているが、話し合いの場では改めて契約解除の理由を伝えなくてはならない。
この後の工程をスムーズに進めるためにも、相手先が必要とする情報はしっかりと提供することを心がけよう。
【手順4】解除合意書を作成・締結する
相手先が契約解除について了承したら、その合意内容を書面にした「契約解除合意書」を作成・締結する。契約解除合意書は必須ではないが、後のトラブルを回避するために作成しておくことをすすめる。
契約解除合意書の記載内容としては、主に以下のものが挙げられる。

上記の「原状回復」とは、原契約を進めるにあたってすでに受け取っている対価を返還することだ。契約解除をすると、そもそも業務委託自体が成立しなかったことになるため、基本的には受け取った対価の全額を返還する。
これらの手続きが完了し、お互いが納得した上で契約解除合意書を締結すれば、最初に締結した原契約が解除される。
契約期間満了時の解約方法は?
自動延長条項がある業務委託契約の場合は、解約の申し出を行わない限り契約関係が続くことになる。つまり、常に費用が発生する状態となるため、外注が不要になったタイミングで解約の手続きを行わなくてはならない。
契約期間満了時に解約する方法は、以下の通りである。

解約を申し出る期限については、解約をする1ヶ月~2ヶ月前に設定されているケースが多い。また、口頭のみで申し出を行うと、自動延長の効力が発揮されてしまう恐れがあるため、この場合も必ず書面(契約終了通知書)を残すようにしよう。
業務委託費用の会計処理
業務委託によって発生した費用は、従業員への給与とは別に会計処理を行う必要がある。また、委託先や内容によっても処理方法は変わってくるので、契約を結ぶ前に勘定科目や仕訳についても確認しておこう。
業務委託費用の勘定科目
勘定科目については、基本的には「外注費」として処理をする。ただし、以下のように例外もあるため、判断に迷った場合は顧問税理士などへの相談を検討したい。

特に派遣社員への委託は判断を誤りやすいため、「費用をだれ(どこ)に支払ったか?」を明確にした上で会計処理を進めよう。
業務委託費用の仕訳
業務委託費用の仕訳では、借方に「外注費」、貸方に「普通預金」を記載する。例えば、外部法人に30万円で業務委託をした場合は、以下のような形で仕訳を行う。

なお、個人事業主である弁護士や税理士への業務委託では、源泉徴収が必要になるケースもある。この場合は源泉徴収分を差し引く必要があるため、外部法人とは仕訳の方法が異なる。

ちなみに源泉徴収の税率は10.21%だが、支払金額が100万円を超える分については20.42%で計算をする(※2022年2月現在)。この部分も間違えやすいので、会計処理はひとつずつ情報を確認しながら丁寧に進めてほしい。
デメリットや注意点も意識した上で、業務委託を上手く活用しよう
業務委託を上手く活用すれば、委託する企業側にはさまざまなメリットが発生する。ただし、本記事で紹介した業務委託のデメリットや、契約書における注意点を軽視すると、深刻なトラブルにつながる恐れもあるので注意が必要だ。
業務の効率化やコスト削減を目指したい経営者は、本記事の内容を参考にしながら、業務委託の最適な活用方法を考えてみよう。
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