社長、会社を継がせますか?廃業しますか?
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(本記事は、奥村 聡氏の著書『社長、会社を継がせますか?廃業しますか? 誰も教えてくれなかったM&A、借金、後継者問題解決の極意』=翔泳社、2020年9月9日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)

倒産が近くなった会社がするべきこと

倒産の文字が見えてきた時の三つのルール

会社が倒産に直面することになった複数のケースから、私なりに三つの教訓をまとめてみました。

まず一つ目が、「泣かせていいのは銀行だけ」です。事業をやっている以上、会社がうまくいかない時はあります。潰すことになったら、支払えない負債が残るのは仕方ない面があります。しかし、その範囲は銀行だけにとどめるべきです。一般人や一般の法人まで含めてしまうと、社長の首を絞める結果になることは先の事例でお話ししました。

そもそも仕入れ先も社長の親類や友人も、貸金業を営んでいるのではありません。金を貸し、貸倒れのリスクを負うのは銀行の役割です。そのために、保証や担保も取るし、保証協会のバックアップもあります。もちろん、銀行とのお付き合いは重要だし、返済の断念を奨励するつもりがないことは言わずもがなです。これは、あくまで最終局面の話です。

自ら負けを認めて不時着を試みれば、ある程度のコントロールが可能となります。取引先などに多大な損害を与えることは回避できるかもしれません。

なお、倒産間際になってからどうにかしようとしても、間に合わないことが多々あります。本当に苦しくなってから、身内からの借金を返そうとし、さらには社長個人からの会社への貸付金を回収しようとする人がよくいます。しかし、そんな都合のよい話が通じるわけはありません。

銀行などの他の債権者からすれば、「なんでウチには払わず、そっちを優遇するんだ」と反発を受けることは普通の感覚ならば想像がつくはずです。法律以前の話です。商売に関係のない親類や友人は、最初から巻き込まないようにしておくことが大切です。

二つ目は、「早く底まで落ちるべし」です。落ち目の人がどうにかしようとして、焦って打つ手はほぼ外します。詐欺話やありえない儲け話にも引っかかりがちです。恐怖から逃げたいという意識が、救いっぽく見えるものに飛びつかせます。だったら、墓穴を掘る前に、目を見開き、恐怖と対面し、一度底まで落ちてしまったほうがいいわけです。

助けてあげる側から見たら、もう少しわかりやすいでしょう。資金繰りに追われて理性を失った社長が、あなたのところに来て、「助けてくれ、お金を貸してほしい」と懇願します。「お金くらい貸してあげてもいい」と思ったとしても、貸してはいけません。この時点で貸しても、意味のあるお金の使われ方はしないからです。あなたのお金は他の借金の返済に回されるだけです。

でも、底を打った後ならば違います。負けを受け入れ、観念し会社をたたむことにした後です。この時の支援は、生活を立て直すための有効なものとなります。一度最悪のところまで落ちれば後は再び上がっていけます。ドン底からもう一度はじめればよいのです。中途半端なところであがこうとしても何もうまくいかず、傷口を広げるだけです。

底まで落ちるという意味を、もう少し掘り下げてみましょう。それは、精神的な意味合いが大きいと思います。未来で待っている最悪の状況を知ること。できないことをしっかりあきらめること。それでようやく、精神的に落ち着くのではないでしょうか。ドン底の気分を一度しっかり味わうことは省略してはいけない過程なのかもしれません。

そのために感情をそのまま表に出すのも一つの案です。恐怖、不安、悔しさ、悲しみを言葉にして誰かに聞いてもらうとよいかもしれません。社長が一度弱音を吐くと、気持ちが落ち着き、ものごとを素直に受け取れるようになることが多いようです。

エリザベス・キューブラー=ロスという、アメリカの精神科医をご存じでしょうか。200人に及ぶ末期患者への直接取材を経て、代表作の『死ぬ瞬間』を発表しました。他にも数多くの著書を残しており、5段階の死の受容プロセスが有名です。

彼女の晩年の姿をおさめたドキュメンタリー映像を見たことがあります。神に怒り、罵っていました。死へ向かう過程で感情をうまくアジャストできず、もがき苦しんでいるように私には感じられました。そんな彼女の晩年の姿には批判もあったようですが、私はむしろ「人間はこんなものだし、これでいいんだ」と、安心を覚えました。彼女はいわば死の権威です。頭の中では死を誰よりもわかっていたはずです。でも自己の体験はまた別なのです。

私たちだって同じです。未知の世界に対し、わかったようなふりをして、無理に涼しい顔をする必要なんてないと思います。感情を表に出し、弱音を吐いてみたらどうでしょうか。感情をこうして自ら味わうことが通過儀礼になる気がしています。

三つ目は、「最後は自分でリセットボタンを押す」です。本書の前半に「強制退去は避けましょう」という話をさせてもらいました。やはり最後は潔く、自分でおわりを作りましょう。追い詰められておわるのでは、最低限の準備すらできないし、精神衛生上もよくありません。同じ負けであれ、自分の意思で撤退するとなれば、全くニュアンスが変わります。リセットボタンを押すというのは、もちろん廃業へと進むことです。

社長、会社を継がせますか?廃業しますか? 誰も教えてくれなかったM&A、借金、後継者問題解決の極意
奥村 聡
事業承継デザイナー・司法書士。平成21年、自らが立ち上げた地域最大の司法書士事務所を他者へ事業譲渡。コンサルタントに転身し、会社のおわりに寄り添い800社以上を支援。会社分割などの法的手法を武器に事業承継や廃業、過大借金、経営陣の不仲、伸び悩みなどの場面で出口を切り拓く作戦を立案してきた。中小企業経営の循環に貢献し、地域経済の風通しをよくすることを目指す。
 
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