飲食店は開業率と廃業率が高い水準となっており、開業しても失敗に終わるケースが珍しくない。今回は、飲食店の経営が難しい理由や、飲食店経営者の年収、飲食店経営で失敗しないためのノウハウ、準備について解説する。これから飲食店経営に必要なことを勉強したい方はぜひ参考にしてほしい。
目次
飲食店経営は地獄? 難しいといわれる理由6つ
飲食店の経営は「地獄と評されるほど難しい」とされているが、なぜなのだろうか。ここでは、飲食店の経営が難しい理由を6つ解説する。
理由1.利益率が低い
飲食店の経営が難しい最大の理由は、売上高に占める利益の割合が低いことである。ビジネスは景気などの外的要因によって左右されるため、本来は得られた利益を社内留保として貯めておくのがベストだ。しかし、飲食店の経営では、材料費や水道光熱費、家賃、人件費などのコストが毎月かかるため、どれほどがんばって営業しても社内留保を潤沢に確保することが難しい。
そのため景気悪化などの影響で売上が落ちた際には、資金繰りが悪化して経営が困難となるリスクが高いのだ。
理由2.競合が多い
中小企業庁が公表している「中小企業白書2019」によると、飲食店は廃業率のみならず開業率も非常に高い。また、開業率が高いということは、それだけ競合が多いことを意味する。消費者の絶対数は限られているため、競合が多くなるほど競争は激化していく。そのため、売り上げを確保することは困難になりがちだ。特に飲食店の場合、多くの人にとって馴染みがある業種でもあるため、新規参入が増えやすい。
同じエリア内で同じジャンルの飲食店と競合になることも頻繁にあるため、集客に苦戦するなどして収益の確保がより一層難しくなる。
理由3.初期費用が高い
平均的な大きさ・立地の飲食店を開業する場合、店舗の仲介手数料や設備費用などを合計して1,000万円前後の初期費用が必要だ。店舗面積を小さくするなどして費用を抑えても、300万~500万円ほどの費用はかかるだろう。
そのため、初期費用を確保できずに飲食店経営をあきらめる人も少なくない。銀行などの金融機関から融資を受けて始めることもできるが、審査に通過する必要があるのはもちろん毎月元本と利子を支払わなければならない。売り上げが立たないうちに資金繰りが悪化し、経営を続行できなくなるリスクがあるため、借入にも注意が必要だろう。
理由4.集客が難しい
多くの飲食店経営者にとって悩みのタネとなっているのが、集客の難しさである。
飲食店は似たような競合が多いため、顧客に自分の店舗を選んでもらうことは簡単ではない。開店当初は珍しさから来店する顧客はいるものの、客足は段々と減少してしまうケースが大半だ。安定的に顧客を確保するには、競合との差別化を明確にしたコンセプトを打ち出しつつ、イベントを行ったりSNSやWebサイトを活用したりするなどの多面的な集客施策が求められる。
ただし、集客の効果を得られる具体的な施策は店舗によって異なるため、正解を見つけるまでには試行錯誤が必要だ。
理由5.人手不足で従業員の確保が難しい
飲食業には「給与が低い」「長時間労働」といったイメージがつきまとい、人材確保に苦労しがちだ。
給与水準を上げれば人材は集まるが、ただでさえ低い利益率がさらに下がるリスクがある。初期費用をまかなうために借り入れをしたなら、さらに資金繰りは厳しくなるだろう。
人件費がアップした分を売上単価にのせようとしても、競合が多い以上、価格で後れを取るわけにもいかない。労働時間を短くすれば人件費を抑えられるが、営業時間を削れば売上にも影響する。
結局のところ、給与を上げることも労働時間を減らすことも難しい。慢性的な人手不足に悩まされながら経営を続けていくことになる。
理由6.在庫管理が難しい
飲食店は、生鮮食品を調理して料理を提供する。生鮮食品は在庫管理が難しく、思うように客足が伸びないと、すぐに廃棄せざるを得ない。
廃棄すると、仕入費用が無駄になる。逆に予想以上に客足が伸びたときは、在庫不足で売上は頭打ちになってしまう。
常に客足を予測しながら仕入れるのは難しい。コロナ禍の今はなおさら深刻な状況といえるだろう。
飲食店経営者の年収はどのくらい?
難易度の高い飲食店の経営だが、その対価として経営者が得られる年収はどのくらいなのだろうか? 飲食店経営者の年収に関しては「飲食店.com」が2018年1月に228名の飲食店経営者に対して行った調査の結果が参考になるだろう。
調査の結果によると、299万円以下と回答した経営者が16.7%と最も多く、次に多かったのが300万~399万円で12.7%だ。
一方で、1,000万円以上の年収を得ていると回答した経営者は全体のうち6.6%にとどまっている。
飲食店経営者の年収を見ると、少ないと感じるかもしれない。しかし、中には経営を学ぶことなく安易に飲食店を始め、苦労している人も含まれている。
飲食店経営を事前に学び、緻密な事業計画を練って開業すれば、年収を高めやすくなるだろう。
参考:飲食店経営者の「年収」や「悩み」をアンケート調査。赤字店の98.1%が「集客力」に課題
飲食店経営を始めるための準備5つ
飲食店の経営を始めるには、さまざまな事前準備を行わなくてはならない。ここでは、飲食店経営を始めるうえで必要となる主な事前準備を5つ紹介する。
準備1.事業計画の策定
事業計画は、開業時の資金を金融機関などから調達する際に必要だ。金融機関からの資金調達が不要な場合も、事業計画を策定することで「どのような店舗をどうやって運営して、どのくらいの利益を得られるか」を明確にできるため、ぜひ作成しておきたい。飲食店の事業計画には、主に下記の内容を記載する。
- ターゲットとなる顧客
- 店舗コンセプト(メニューや提供するサービスなど)
- 自社の強み(競合との差別化ポイント)
- 開業費用の内訳
- 資金繰りの計画
- 資金調達と返済の計画
- 売り上げの予測
特に重要なのが「ターゲットとなる顧客」「店舗コンセプト」「自社の強み」といった3つの項目だ。まずはターゲットとする顧客の趣味嗜好などを分析し、結果を基に顧客のニーズを満たす「店舗コンセプト」と、競合店舗と比較した「自社の強み」を明確にする。これにより飲食店経営において、競合に打ち勝つ可能性を高めることが可能だ。
また、売り上げの予測も重要な項目の一つである。座席数や客単価、回転率などの指標を基準に、根拠のある売り上げ予測を立てることで、資金面での計画を明確にできるだろう。
準備2.資金調達
飲食店は、開店からしばらくは赤字が続く可能性が高いため、初期費用に加えて数ヵ月分の運転資金も調達しておく必要がある。ただし、経営者としての実績がないと銀行から融資を受けられないケースもあるため、公的金融機関から資金調達を行う方法を検討したい。
例えば、日本政策金融公庫による融資や、国による補助金・助成金には、新規で開業する人向けの制度が数多く用意されており、経営者としての実績がなくても利用できる可能性が高い。銀行からの融資が難しい場合は積極的に活用したいところだ。
準備3.メニューや立地、仕入れ先の決定
飲食店経営で特に重要な「メニュー」「立地」「仕入れ先」の3要素については、慎重に決定する必要がある。
まずメニューについては、ターゲット顧客を明確にしたうえでラインナップを考える事が重要だ。例えば、健康志向の若い女性がターゲットならば、健康的かつ若い女性が好むようなおしゃれなメニューを開発すると良いだろう。また、他の店舗にはないオリジナル性があるメニューならば、固定客を増やせるのでなお良い。
店舗の立地も同様で、ターゲット顧客が訪れやすい場所にすることが大切だ。ただし、立地が良いほど賃料も高くなる。たとえ集客に困らなくても、賃料が高いと手元に十分な利益が残らなくなるため注意が必要だ。まずは開業希望地域を絞って物件を比較し、利益を圧迫しない程度の賃料、かつ好立地の場所に店舗を構えるのがベストだろう。
食材の仕入れ先に関しては、「安さ」だけでなく「供給の安定性」を重視して選ぶことが重要である。材料費が高いと、手元に十分な利益が残らないので好ましくない。一方で、仕入れ値が安くても、供給が不安定では顧客が注文するメニューを提供できなくなる。「安さ」と「供給の安定性」の両方を満たす仕入れ先を確保できれば、地獄といわれる飲食店経営を安定的に続けられるだろう。
準備4.資格や届出に関する手続き
飲食店の経営を始めるには、消防署や保健所などに営業許可に関する届出を申請しなければならない。
【必要な資格】
一般的に飲食店を開業する際に必要な資格は次の2つだ。
・食品衛生責任者
・防火管理者
【必要な届出】
続いて、飲食店経営を始める際に必要な主な届出を紹介する。
・食品営業許可申請
・防火管理者選任届
・防火対象設備使用開始届
・火を使用する設備等の設置届
・深夜酒類提供飲食店営業開始届出書(0時を過ぎてお酒を提供する場合)
個人事業主ならば開業届、法人ならば法人設立届出書を税務署に提出する。従業員を雇う場合、労災保険や雇用保険の手続きも必要だ。法人なら社会保険の加入手続きも必要で、従業員の社会保険料の約半額を会社が負担しなければならない。
飲食店の経営をスムーズに始めるためにも、こうした手続きは極力早めに済ませるのが望ましい。
準備5.集客と従業員の雇用
飲食店はお客さんが来ないと収益は得られないので、開店前から集客活動は積極的に行うべきだろう。店舗前の看板やチラシ配りといった方法のみならず、SNSの活用やWebメディアの運営といったオンライン施策も、低コストかつ手軽にできる集客方法としておすすめである。また、個人店ではなく、ある程度の規模で飲食店を経営する場合は、従業員の雇用も必要だ。
ただし、人件費は利益を圧迫する要因となり得るため、本当に必要な人数のみ雇用することを心がけたほうがよいだろう。
飲食店経営を成功させるためのノウハウ3つ
地獄と評されるほど難易度の高い飲食店経営だが、順調に成功している企業も当然存在する。ここでは、成功している飲食店の経営のポイントを基に、飲食店経営を成功させるためのノウハウを3つ解説する。
ノウハウ1.FL比率で経営の無駄を削減する
FL比率とは、売上高に占める「Food(食材費)+Labor(人件費)」の割合である。FL比率が高いほど、材料費や人件費をかけたわりに売上高への貢献が低いことを表す。飲食店経営では、少しでもFL比率を下げて経営の無駄をなくすことが重要だ。一般的な飲食店のFL比率は約50~60%と言われているため、60%以下を目安に人件費や材料費を設定することが大切だ。
もし経営する飲食店のFL比率が60%を超えている場合には、アルバイトのシフトを減らしたり材料の仕入れ値を下げたりするなどして、FL比率を下げることも検討しよう。
開業直後にメニューの数を絞るのも1つの選択肢だ。メニューの数を絞れば、仕入が比較的容易になり、食材の廃棄も起きにくい。従業員の経験が浅くてもオペレーションが混乱しにくく、丁寧に接客できるだろう。
ノウハウ2.ターゲット顧客に応じて店舗コンセプトやメニュー、集客施策を変える
ターゲット顧客に応じて、店舗コンセプトやメニュー、集客施策を変えることは、飲食店の経営を成功させるうえで非常に重要なノウハウの一つだ。
まずは、ターゲットとなる顧客のライフスタイルや趣味嗜好を徹底分析し、分析結果に応じて集客施策やメニューなどを決定する。事前にターゲット層に沿った戦略を立てれば、来店の減少によって飲食店経営が失敗するリスクは避けられるだろう。
若者をターゲットにするなら、SNSの活用を積極的に検討したい。インスタで日替わりメニューを告知したり、オープン記念のキャンペーンを実施したり、さまざまな活用法がある。フォロワーになり、繰り返し投稿を目にすると、来店意欲も自然と向上する。店舗独自のハッシュタグを作り、固定客にインスタへの投稿を促すという方法もある。
一方、インターネットをほとんど見ない高齢者がターゲットの場合、どれだけSNSで集客してもほぼ効果は得られない。この場合、各地域に密着した雑誌への掲載やTV取材を受けたり、直接チラシを配ったりするほうが効果的に集客できるだろう。
ノウハウ3.顧客情報を管理・分析して常にPDCAを回す
飲食業界は流行り廃りが激しいうえに、開業率が高いことからも分かるように、新しい競合が早いペースで増えていく。そのため、顧客が増えたからといって安心して集客施策を怠っていると、簡単に他の飲食店に顧客を奪われてしまうだろう。経営する飲食店に固定客を囲い込むためには、顧客情報を日ごろから管理・分析し、常にPDCAサイクルを回すことが不可欠である。
例えば、常連客の来店頻度が減っているならば、「常連客のニーズが変わった」「より常連客のニーズを満たす競合店舗が近くに存在する」といった可能性が見出せるだろう。そこで、メニューを変えて常連客のニーズに近づく努力を行ったり、コンセプトを変えて新しいターゲット顧客を集客したりするなどの施策を行って売り上げの低下を防ぐ必要がある。
一度成功したとしても、飲食業界では必ずしもその方法が永続的に通用するとは限らない。常日ごろから顧客の情報を管理・分析し、問題点が見つかったら早めに対策を講じることが飲食店の経営では重要となる。
飲食店経営のコンセプト決めで活用したいフレームワーク3選
飲食店経営の第一歩として、ターゲットや店舗のコンセプト、自社の強みなどを考える方法がわからない方も多いだろう。続いては、飲食店のコンセプトを決めるうえで参考になるフレームワークを3つ紹介する。
フレームワーク1.3C分析
3C分析とは、顧客(Customer)・自社(Company)・競合他社(Competitor)という3つの切り口で戦略を立てるフレームワークだ。
顧客については、地域の特徴や顧客の年齢層などの観点でニーズを分析したい。自社については、提供できる料理や強み・弱みといった観点で分析していく。競合他社については、料理のジャンルや価格帯などを調査と並行して分析する。
フレームワーク2.ポジショニングマップ
ポジショニングマップとは、横軸と縦軸を決めて競合他社や自社の立ち位置を分析する手法だ。
最初は、縦軸を価格にするとわかりやすいだろう。横軸は「健康志向・満腹感」「ファミリー層・単身者」「日常・特別な日」「こだわりが強い・こだわりはあまりない」など自由に設定する。
続いて、競合他社がポジショニングマップのどこに位置するかを考えていく。もし競合他社が存在しないポジションが見つかれば、ビジネスチャンスと考えられる。ただし、地域にニーズがないというリスクは考慮しなければならない。
フレームワーク3.ペルソナ分析
ペルソナ分析とは、顧客の姿をペルソナとして想定し、ペルソナにもとづき商品開発や宣伝方法を決定する手法だ。
大切なのは漠然とした想定ではなく、氏名・年齢・家族構成・趣味嗜好・仕事・年収・好きな雑誌・よく使うSNSなどをできる限り詳細に詰めていくことだ。ペルソナと近い属性を持つ人に見せ、リアリティを確認するのもよいだろう。
ペルソナを設定すれば、メニューの内容や価格帯、店内の雰囲気、BGM、店員の服装、店舗の外観などが自然と決まってくる。
飲食店経営に失敗しないためには万全の準備を
地獄ともいわれる飲食店経営だが、店舗開業を憧れる人も多い。飲食店経営は、初期費用や運営費用の高さなどの要因もあって持続経営の難易度は非常に高いが、固定客を確保できれば安定して大きな収入を稼ぐことも可能である。飲食店経営を考えている方は、万全を期して挑んでもらいたい。
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