法人には様々な税金がかかる。法人税、住民税、事業税などだ。毎期税理士が計算してくれるが、結局、税率がどのくらいなのか知らない方も多いだろう。今回は、そんな法人にかかる税率について確認をしていきたい。なお、本稿の内容については、執筆時点である、2020年5月時点での法令によっている旨ご了承いただきたい。
目次
法人にかかる税金の種類
法人を運営していると、様々な税金が課税される。事業をしっかりと継続していくためには、どのような税金がどのようなタイミングで、いくらくらい課税されるのかということをしっかりと理解しておかなければならない。
税金の大まかな分類
国に対する税金である国税と地方に対して支払う税金である地方税に分かれているが、それぞれ期限に遅れてしまうとペナルティが課せられる。法人に対して課せられる税金は主に2種類あり、法人の所得に対して課せられる税金とそうでないものに区分される。所得とは、法人が事業によって稼ぎ出した利益のことであり、それに対して様々な税金が課税される。いわゆる「税金対策」と言われる税金とは、これに関連するもののことが多い。
所得に対して課税される税金
以下の諸税は、よくニュース等でよく取り上げられている消費税とは異なり、法人所得に対して支払う税金の税率は法人(会社)の資本金や事業の開始年度等によっても違い、税率の改定も頻繁に行われている。できる限り早期に改正のフォローを行う必要がある。
・法人税
まずは、法人税である。法人税とは、個人でいうところの所得税にあたる税金であり、法人への課税の基本ともいえるだろう。税率は法人の形態や規模、利益の金額により、所得に15%~23.2%を掛けて算出することとなっている。
・法人住民税
つぎに、法人住民税は、個人でいうところの住民税にあたる税金である。所得割と均等割に分けられており、都道府県民税と市町村民税をそれぞれ納付することになっている(東京都特別区においては、都民税として一括して納付する)。
法人住民税は均等割があることが特徴であり、赤字の法人にも毎年課税される。税率は自治体によって異なるが、標準税率(地方自治体(道府県及び市町村)が課税する場合に通常よるべき税率)が7%、制限税率(地方公共団体が課税することのできる税率の上限)が10.4%である。
・法人事業税
法人住民税と一緒に計算し、納付するものとして、法人事業税がある。法人事業税は、法人(会社)が事業を行う上で利用している道路・港湾・警察・消防等の様々な公共施設やサービスについて、経費の一部を負担する目的で設けられた税金である。
期末時点で資本金が1億円以上の法人については、外形標準課税といい、付加価値割、資本割、所得割がそれぞれ課税される。それ以外の法人については、所得割(一部の業種においては収入割)が課税される。
・特別法人事業税
最近新設されたのが、特別法人事業税である。特別法人事業税は、地域間の財政力格差の拡大・経済社会構造の変化等を踏まえ、県内総生産の分布状況と比較して大都市に税収が集中する構造的な課題に対処し、都市と地方が支え合い、共に持続可能な形で発展することを目的として新たに創設されたものである。
所得の有無にかかわらず課税される税金
法人にかかる税金は、所得に比例してかかる税金ばかりではない。ほかにも多くの局面において税金がかかってくるが、主として、取引そのものに対して課税されるものと、資産に対して課税されるものがある。どちらにおいても、所得の有無にかかわらず課税されるため、赤字の場合などに納税資金に困る場合がある。
取引そのものにかかる税金としては、消費税、地方消費税、印紙税、登録免許税、不動産取得税、宿泊税、関税などがある。資産に対して課税されるものとしては、固定資産税、自動車税などの自動車諸税、事業所税などがある。
特に消費税については、金額が高額になることも多い。特に非課税仕入れの多い会社(人件費比率の高い会社など)においては、決算をして思わぬ高額納税に見舞われ、納税資金の調達に奔走することもしばしばあるため、所得に対して課税される税金と同様に、特に注意をする必要がある。
また、業種によっては、固定資産税や事業所税も毎年払うことになる税金ではあるものの、非常に高額となることがある。
法定実効税率とは
法定実効税率とは、法人が所得に対して負担する税金の実質的な税率である。単純に考えれば、法定実効税率は、法人税や住民税、事業税など、所得を計算の基礎とする税金の合計と一致するはずであるが、主として2つの要因のため、合計とは一致しない。
理論上の法定実効税率と実際の税負担率が異なる理由
第一に、住民税については、法人税から計算することになっているため、実質的な所得に対する負担率としては、「法人税×住民税」となる。第二に、事業税については、支払った事業年度において、損金算入が認められている(法人税、住民税は経費にならないが、事業税は経費になる)ため、その分翌年の税金に対する節税効果がある。その効果を勘案する必要があり、これらを踏まえると、
法定実効税率 = 〔法人税率×(1+地方法人税率+住民税率)+事業税所得割税率×(1+特別法人事業税率)〕÷〔1+事業税所得割税率×(1+特別法人事業税率)〕
というのが計算式となる。この法定実効税率は、上場企業などで税効果会計に活用されている。
また、理論上の法定実効税率と実際に企業が負担する法人税の利益に対する負担率は多くの場合は一致しない。その原因は、接待交際費や寄付金の損金不算入額などの別表調整や研究開発や投資に係る税額控除など、税金計算における調整項目があるからである。
実際の法定実効税率
では、実際に現在の法定実効税率はどのくらいになっているのであろうか。法定実効税率は、事業税において外形標準課税が適用されている法人とそうでない法人とで異なる。
外形標準課税適用法人で、標準税率が適用されている場合については、29.74%、超過税率が適用されている場合おいては、30.62%となっている。外形標準課税非適用法人で、標準税率が適用されている場合については33.58%、超過税率が適用されている場合においては、34.59%となる。
ここで、外形標準課税適用法人で標準税率が適用される場合についての計算を確認してみよう。上記の式に当てはめると、下のような計算式となる。
〔0.232×(1+0.103+0.07)+0.01×(1+2.6)〕÷〔1+0.01×(1+2.6)〕=0.29742857…
法人の所得の計算方法について
法人税等の税金は所得に応じて計算されるが、そもそも、「所得」はどのように計算されるのだろうか。法人税の規程を紐解けば、所得は、益金から損金を差し引いて計算するものと定められている。
会計上の概念と税務上の概念の違い
益金や損金は、収益、費用と似た概念ではあるが、それぞれ会計のための用語と税務のための用語であるので、内容については微妙に異なる。収益および費用は会計上の用語であり、法人の経営成績や財政状態を決算書の利用者(ステークホルダーと言われることが多い)に明らかにすることを目的としている。一方、益金、損金は税務上の用語であり、公平な課税の実現や税収確保などを目的としている。
会計上の収益の概念と法人税法上の益金の概念、会計上の費用および損失の概念と法人税法上の損金の概念は全く別であるため、通常は一致しない。しかし、重なる部分も多くあり、法人税の課税基礎となる所得はそれぞれ独立して計算して算定するのではなく、会計上の利益に様々な調整を別途行うことにより算定することとしている。
所得の算出方法
具体的には、会計上の決算書の一つである損益計算書で計算した税引前当期純利益に、税務上の調整項目を加算または減算をすることにより所得を算定する。このような調整に関しては、主として、益金算入、損金不算入、益金不算入、損金算入の4種類がある。これらの項目を会計上の利益にプラス(加算)したり、マイナス(減算)することにより、法人税法上の所得を計算する。
益金算入とは、会計では収益としなかったが、税法では益金とするものである。例えば、会計処理上で収益が漏れていて、別表で加算する場合が考えられる。損金不算入とは、会計では費用としたが、税法では損金にならないものである。例えば、税法上の限度額を超えて計上した減価償却費や交際費、役員給与などが考えられる。
益金不算入とは、会計では収益としたが、税法では益金とはならないものである。例えば、会計では受取配当金を収益計上したが、税法上は益金とはしない、受取配当などの益金不算入額がある。
損金算入とは、会計では費用ではないが、税法では損金となるものである。例えば、会計では貸倒損失を計上していなかったが、税法上で貸倒処理をする、貸倒損失認定損などがある。
法人に係る税率を引き下げるには
法人の所得に対してかかる税金の実効税率を引き下げるためには、主に2つの方法がある。
損金不算入
1つ目が、「損金不算入」となる項目をできるだけ出さないという点である。代表的な損金不算入項目としては、役員賞与、接待交際費、寄付金などがあり、それら損金不算入となるような項目が多いと、法定実効税率以上の負担割合になってしまうことがある。
そのようなことを避けるために、会社で経費を使用する際は、限度額や経費になりうるものかどうかをきちんと検討しておく必要がある。
税務上の特例措置の活用
2つ目は、所得控除や税額控除などの、税務上の特例措置を活用することにより、負担率を下げる方法である。法人に対する課税については、国のその時々の政策により、政策的な減税措置がなされることがある。
特定の投資をした際や、従業員の給与を上げた場合、研究開発を促進した場合など、多くの特典がある。このような特例税制については、毎年のように改正がなされ、要件が変更されていくため、適用する際には、きちんと税理士と相談していくことが必要である。
課せられる税金を確認し、計画的な資金管理を
法人税など法人に課せられる税金の税率や算出方法について、簡単に解説した。法人に課せられる税金は多岐にわたり、業務内容や資本金などによっても異なる。自社に課せられる各種税金の額や納税のタイミングなどを一通りおさえて、節税や資金計画に活かしていただきたい。
文・内山瑛(公認会計士)