BANKERS
宮崎銀行の地方創生部 事業承継・M&A支援室室長 甲斐 信氏

全国金融M&A研究会が主催する「2020年M&Aバンクオブザイヤー」の受賞行を取り上げる企画の第4弾。

日本全国の地域金融機関でM&Aや事業承継を担当されている行員(BANKER)に各行の取り組みや銀行のカラー、地域の事業承継事情など他行への参考になる情報をインタビュー。

2019年、7つの地域ブロック内それぞれにおいて、地域に最も貢献した提携行に授与される「地域貢献大賞」を受賞した宮崎銀行の地方創生部 事業承継・M&A支援室長 甲斐 信氏にインタビューした。

――甲斐さんはM&Aをご担当されて7年目だそうですね。M&Aチームのメンバーは、ベテランが多いのでしょうか?

甲斐:日本M&Aセンターさんに出向させていただいたのは私を含め2名のみで、この2名+7名でM&A業務を進めています。

2014年4月に事業承継・M&A支援室を新設し、創業メンバーでは私だけが残っています。税理士法人に出向して勉強してきた者もいますが、それでも経験年数は2年ぐらいです。メンバーのレベルアップを図るためOJTに力を入れています。

また、お客様とのM&Aの交渉の局面には、できるだけ営業部店の担当者にも同席してもらうようにしています。営業部店に関与させない方針の銀行もあると思いますが、我々は逆に事業承継、第三者承継の雰囲気を担当者の肌で感じてもらうようにしています。そのような形で、現場担当者のトレーニングも行っています。

――支店長が同行するケースは多いかと思いますが、担当者が同行するのですよね?

甲斐:はい。担当者に現場を感じてもらうようにしています。例えば、お客様にご用意いただいた書類などを直接受け取りに行ってもらい、それを取りまとめてもらったりします。そうすることで本人に「なぜこういうことが必要なのか?」というところを主体的に考えてもらうようにしています。

また、昨年までは年5回ほどですが土曜日に行員向けの勉強会を行っていました。いろいろ自分たちで企画してやるのもいいのですが、できるだけ提携先の話も聞いてもらいたいと考え、日本M&Aセンターさんにもご登壇いただきました。

――今後の成長に結びつくような動きとして、何かイメージしていることがあれば教えてください。

甲斐:今は時代も変わってきていますので、「御社のためにも、同じエリアの同業者と組んで一緒にやっていきませんか?」といった提案ができる時勢にはなっていると思います。宮崎銀行として、そういったことを推進していければと思っています。

――M&A業務をしていて良かったことは何でしょうか?

甲斐:私はM&Aを担当するまでは主にファイナンスを中心とした営業を担当していました。大きな企業ともなると金融機関を専門に担当されている方がいて、その方を交渉窓口としてやりとりしていましたので、経営者ご本人に会う機会があまりなく、実際に対面したときに緊張したり構えたりすることが多かったように思います。

しかし、M&A業務では会社の規模を問わず、譲渡企業も譲受企業も必ず経営者自ら前面に出ていらっしゃいます。社長または社長を含めた経営陣に対して、たとえ嫌がられる内容であっても包み隠さずお話ししたり、提案したり、説得したり、仲介者または代理人としての責務を全うしなければなりません。そのような経験を沢山させていただいたおかげで、まだまだ未熟ではありますが、臆さずに経営者と向き合ってお話をさせていただくことができるようになりました。

話は変わりますが、宮崎銀行では、年に1度、自分の経歴やこれから経験したい業務、希望する部署などを自己申告する制度があります。人事部から聞いた話ですが、我々M&Aチームは希望者の多い部署の一つだと聞いています。

地元のお客様への支援

BANKERS

――印象に残っているディールはありますか?

甲斐:私は2014年4月から9月末まで、日本M&Aセンターさんに出向させていただきましたが、出向から銀行に戻った直後に、地元の老舗洋菓子店から譲渡相談を受けました。社長がご病気で何度も入退院を繰り返されながら数十年頑張ってこられたお店でした。それだけではなく、地元でのブランド力が強いあまり、提携先である日本M&Aセンターも含めて銀行外への情報共有は絶対に禁止。出向から戻ってきていきなり自行対応しなければならなかったのです。

出向後とはいえ、自分(自行)の責任で対応する初めての案件で、交渉における面談では半ばビクビクしつつも、とにかく丁寧な対応を心掛けました。

そのお相手としてご紹介したのは、地元の異業種の会社でした。その会社の経営者はカフェ経営に興味があるものの、自社にノウハウがないので、カフェの延長線上の業種であれば検討したいという希望をもっていらっしゃいましたので、この洋菓子店をご紹介させていただきました。このマッチングは約半年をかけ無事クロージングに至りました。

その社長と奥様は、経営から退き、県外のご子息とお孫さんの近くで暮らしたいとおっしゃっていましたが、M&Aによりご希望を実現されました。今は県外でお孫さん達とお元気でお過ごしだと思います。

BANKERS
その時、譲渡企業の奥様から頂いたお手紙。甲斐氏はこれまでに何度も読み返している

クロージング後、その奥様より感謝のお手紙をいただき、嬉し涙を流しました。M&Aの交渉事で壁にぶつかったとき、今でも読み返します。

――M&Aへの価値観が若干変わってきたと感じる地域もあれば、そうでない地域もあります。

甲斐:そうですね。宮崎銀行とお取引のある地域では結構浸透してきたのではないでしょうか。これは我々の力というわけではなく、やはりM&Aという手段が身近になり、検討されている企業が多くなってきているからでしょう。

我々も身近な事例を紹介しながらお客様とお話をしたり情宣活動をしていますし、日本M&Aセンターさんもいろいろと広報されているので、周知されてきているのだと思います。

宮崎銀行では事業承継のイメージCMを昨年の3月に作り、自行ホームページで公開しておりますので、ぜひご覧いただければと思います。

⇒宮崎銀行のCM掲載サイトはこちら

――地方銀行の行員にしかできないことは何だとお考えですか?

甲斐:銀行業務には、ファイナンス、資産運用、ビジネスマッチング、コンサルティング等々の様々な仕事があります。お客様と一緒に明るい未来を描くこと、それが地方銀行の行員にしかできないことだと考えます。当行では“Design Future With You”を行内の統一スローガンとして掲げています。

――M&Aに関して、宮崎銀行として特に注力していること、アピールポイントはありますか?

甲斐:他行さんと比べることがないので分かりませんが、まず、M&Aにかかわる情報は最重要機密事項として、情報管理を特に徹底しております。

私の所属する地方創生部の事業承継・M&A支援室は本部の中でも別の建物に配置され、入退出もIDカードで管理しております。部長、副部長と室のメンバー9名の合計11名しか入退出できません。例え、会長、頭取はじめ役員も入室できないほど厳重なセキュリティです。

また、事業承継・M&Aエキスパート資格は営業を担当する行員のうち8割が取得しており、事業承継型M&Aに関する感度は高いのではないかと感じております。

――コロナウイルスの流行や自然災害などが起こる中、それに伴う廃業、M&Aへの影響はありますか?

甲斐:近年では宮崎県は他県に比べ自然災害による被害が小さかったので、自然災害による廃業という話はそんなにありません。ただ、私が今執務をしている場所は繁華街まで歩いて1分ぐらいのところですが、飲食店、特に居酒屋・スナック・バーなどが、コロナウイルスの影響で1割廃業したと聞いています。それからまた月日が経過していますから、15%もしくは20%ぐらいは事実上廃業になってしまっているのかもしれません。飲食店からのご相談は今後増えてくるのではないかと予測しています。

今後に向けて

BANKERS
オンラインで取材対応頂く甲斐様

――今後手掛けてみたい業務や案件を教えてください。

甲斐:今、お客様からいただいているご相談のほとんどは後継者不在型M&Aです。これからは会社の存続、生き残りをかけた成長戦略型M&A、合従連衡型M&Aが増えてくると思います。そのご相談を待つのではなく、地域経済のためにこちらから仕掛けていくような案件を手掛けたいと僭越ながら思っております。

――日本M&Aセンターに期待することは何でしょうか?

甲斐:金融機関からの出向(研修派遣)を積極的に受け入れ、情報やノウハウを存分に惜しみなく提供して下さる日本M&Aセンターさんは、まさに中小企業M&Aにおける日本一の企業だと思います。M&Aにより地域経済を維持・活性化させていくという点では、銀行も日本M&Aセンターさんも全く同じ方向を向いていると思います。これからも引き続きご指導や協業をお願いしたいと考えています。