M&A
(画像=Andrey Popov/stock.adobe.com)

M&Aのプロセスの中でも、特に意識しておきたい工程が「ソーシング」だ。ソーシングはM&Aの成功を左右するため、行動を起こす前に正しい知識を身につける必要がある。M&Aの成功率を少しでも上げるために、重要なポイントをしっかりと押さえていこう。

目次

  1. M&Aにおける「ソーシング」とは?
  2. ソーシングには2つの方法がある!各方法のメリット・デメリット
    1. 1.プル型のソーシング
    2. 2.プッシュ型のソーシング
  3. 売り手(譲渡企業)がソーシングを考える重要性とは?
  4. M&Aにおけるソーシングの具体的な手順
    1. 【STEP1】ターゲットの選定基準の設定
    2. 【STEP2】ロングリストの作成
    3. 【STEP3】ショートリストの作成
    4. 【STEP4】優先順位に従って交渉を進める
  5. ソーシングは”専門家”をうまく活用することがポイントに
  6. ソーシングはM&Aの成功を左右するプロセス!少しでも悩んだら相談を

M&Aにおける「ソーシング」とは?

「ソーシング」の意味は、この言葉が使用されるシーンによって以下のように変わってくる。

・一般的な意味…仕様などの購買条件を明確にし、条件を満たす取引先を獲得すること
・金融業界における意味…不動産ファンドが、投資対象になる不動産を調達すること
・M&Aにおける意味…ターゲットになる企業を選定し、その企業との交渉を進めること

上記の中でも、本記事では「M&Aにおけるソーシング」に絞って解説を進めていく。

M&Aにおけるソーシングは、「ターゲット企業の選定」と「交渉」の2つだけを表す言葉ではない。この間に含まれるすべての工程がソーシングに含まれるため、M&Aの全プロセスの中でソーシングが占める割合は非常に大きい。

具体的に含まれる工程や手順については後述で丁寧に解説していくため、ひとつずつ理解しながらゆっくりと読み進めていこう。

ソーシングには2つの方法がある!各方法のメリット・デメリット

まずは基礎知識として、M&Aのソーシングには「プル型・プッシュ型」の2種類があることを理解しておきたい。以下では、各方法の概要やメリット・デメリットを簡単にまとめたので、各方法の違いを意識しながらチェックしていこう。

1.プル型のソーシング

「プル型のソーシング」とは、M&A仲介会社に案件を紹介してもらう形で進めるソーシングのことだ。M&Aの対象企業(売り手や買い手)は、希望条件に合致する案件を紹介してもらう必要があるため、事前に買収予算や売却価格などの条件・情報を仲介会社に提示する。

仲介会社はその条件・情報をもとにM&A案件を紹介するが、相談先によっては既存の案件だけではなく、将来的にM&A案件になりそうな企業を紹介してもらえる場合もある。いずれのケースにおいても、M&Aの対象企業は紹介されるまで待つスタンスになるので、プル型のソーシングは「受動的な方法」と言い換えられるだろう。

ちなみに、プル型のソーシングは国内・海外を問わずさまざまなM&A案件で実施されている。

2.プッシュ型のソーシング

一方で「プッシュ型のソーシング」とは、M&A仲介会社を介さずにソーシングを行う方法だ。対象となる企業を自ら探し出し、さらに交渉も自力で進める必要があるので、高い営業力やネットワークが求められる。

また、特に海外企業とM&Aを行うケースでは、現地の法律や税制についても深く理解しておかなくてはならない。もちろん、一般的なM&Aに関する知識も求められるため、入念な下準備が必須になる方法と言えるだろう。

このように見ると、「プッシュ型はデメリットが大きい」と感じるかもしれないが、ほかの買い手候補・売り手候補との競争を避けやすい点は大きなメリットだ。

主なメリット主なデメリット
プル型のソーシング・専門家の力を借りられる
・専門家に任せられる部分が大きいため、本業に取り組むための余力を残せる
・仲介会社に支払うコストが発生する
・ほかの買い手候補や売り手候補との競合になる可能性がある
プッシュ型のソーシング・仲介会社に報酬を支払う必要がない
・ほかの買い手候補や売り手候補との競合を避けやすい
・M&Aに関する知識や、さまざまな能力が求められる
・経営者や従業員の負担が大きくなる

独自のネットワークが必要になる海外のM&A案件においては、プッシュ型のソーシングが選ばれるケースもある。ただし、上記のデメリットを見ると、幅広い知識・能力が求められるプッシュ型はハードルが高いことが分かるだろう。

M&Aは少しでも手順を間違えると、契約自体が無効になってしまう恐れがあるので、着実に進めたいのであればプル型を選ぶ方法が無難だ。

売り手(譲渡企業)がソーシングを考える重要性とは?

M&Aの買い手にとってソーシングは、言うまでもなく重要なプロセスだ。売り手との統合後にシナジー効果を発生させ、多大な利益を生み出すためには、相手企業の選定~交渉を慎重に進めなくてはならない。

では、売り手の立場から見ても、果たしてソーシングは重要と言えるのだろうか。その点を明らかにするために、まずはどのフェーズや工程がソーシングに含まれるのか、以下で大まかにチェックしていこう。

ソーシングに該当するフェーズ具体的な工程
【1】準備フェーズ・M&A仲介会社への相談
・秘密保持契約やアドバイザリー契約の締結
・各種資料の提出
・ノンネーム登録
【2】交渉フェーズ・トップ同士の面談
・基本合意契約の締結
・デューデリジェンス

上記【1】の準備フェーズは、M&Aの目的を達成するために必ず通ることになるプロセス。たとえば、売り手側にも「売却金額にこだわりたい」「従業員の雇用を継続させたい」などの目的があるので、その目的を意識してM&A仲介会社に相談をする必要がある。

また、M&Aの細かい条件や契約内容を煮詰めていく、【2】の交渉フェーズも軽視はできない。仮に、トップ同士の面談で買い手側の条件をすべてのむと、従業員の雇用条件が悪化するなどの弊害が生じてしまう。

つまり、M&Aにおけるソーシングは、買い手・売り手のどちらの立場でも成功を左右するポイントになる。M&Aの初期にあたるプロセスではあるものの、ソーシングには非常に重要なフェーズ・工程が含まれているため、経営者はその重要性を理解したうえで計画を立てていきたい。

M&Aにおけるソーシングの具体的な手順

ソーシングをうまく進めるには、具体的な手順や業務内容をしっかりと理解しておくことが重要だ。そこで以下では、一般的なソーシングの手順を徹底的にまとめた。

全体の流れも意識しながら、各工程の概要やポイントを確認していこう。

【STEP1】ターゲットの選定基準の設定

M&Aを希望する企業は日本全国に存在するため、相手企業のリストをただ眺めるだけでは候補を絞れない。自社にとって最適な相手を選ぶには、最初に「ターゲットの選定基準」を明確にすることが必要だ。

ターゲットの選定基準は、M&Aの目的によって大きく変わってくる。たとえば、売却金額にこだわるのであれば資金が潤沢な買い手を、従業員の雇用を守りたいのであれば活躍の場が用意された買い手を選ぶ必要があるだろう。つまり、買い手・売り手のどちらの立場であっても、この工程では「M&Aの目的」を強く意識することがポイントになる。

【STEP2】ロングリストの作成

ターゲットの選定基準を決めたら、次は候補企業を大まかに選定した「ロングリスト」を作成する。ロングリストの作成時には、各社の財務指標や産業分類などがまとめられた企業情報データベースを活用するケースが一般的だ。

この企業情報データベースに記載された情報をチェックしながら、【STEP1】で設定した選定基準をもとに候補企業を絞れば、ロングリストは簡単に作成できる。なお、この後の工程で候補企業はさらに絞っていくため、ロングリストの時点ではあくまでも「大まかな候補のリスト」で構わない。

【STEP3】ショートリストの作成

「ショートリスト」とは、ロングリストからさらに候補を絞ったリストのこと。ショートリストは、ロングリストの中から優先度の高い企業をピックアップすることで作成できる。

ショートリストの時点であまりにも多くの候補が残っていると、具体的な検討や調査などに時間がかかってしまうので注意しておきたい。実際の候補数はケースごとに異なるが、10社程度を目安として考えておくと良いだろう。

なお、その後のM&Aアドバイザーとの話し合いは、このショートリストを使って行われる。つまり、ショートリストはM&Aの方向性を大きく左右するため、重要な資料になる点はしっかりと理解しておこう。

【STEP4】優先順位に従って交渉を進める

ショートリストで候補企業を絞ったら、次は優先順位に従って相手企業との交渉を進めていく。ただし、いきなり経営者同士で交渉を行うのではなく、まずはM&Aアドバイザーからコンタクトを図るケースが一般的だ。

なお、この段階で情報漏えいが発生すると、従業員が不安になるなどの弊害が生じる恐れがある。そのため、交渉の初期段階では限られた情報しか記載されていない「ノンネームシート」と呼ばれる書類を用いて、慎重に交渉を進めていくケースが多い。

その後、相手企業がM&Aに興味を示したら、社名などの具体的な情報を開示しながら交渉を進める。お互いが抱えている課題や経営資源など、交渉フェーズでは統合に関するさまざまな内容を話し合うことになるので、準備をしっかりと整えてから臨む必要があるだろう。

ソーシングは”専門家”をうまく活用することがポイントに

ここまで解説した通り、M&Aにおいてソーシングは非常に重要なプロセスであり、経営者自身も正しい知識や手順を理解しておく必要がある。ただし、M&Aでは買い手・売り手のさまざまな要素が複雑に絡み合うため、経営者の力だけで全工程をスムーズに進めることは難しい。

そこでぜひ考えておきたい選択肢が、「専門家の活用」だ。たとえば、M&A仲介会社やコンサルティング会社などの専門家は、さまざまな工程で企業のM&Aをサポートしてくれる。

専門家と聞くと契約関係をイメージするかもしれないが、M&Aの専門家がサポートしてくれるのは、契約を結ぶ工程だけではない。相談先によっては、M&Aの目的や計画を考える段階から、統合後のアフターフォローまで手厚くサポートしてくれる。早い段階で相談をしておくと、計画の段階から方向性のズレが生じにくくなるため、M&Aの成功率をぐっと高められるだろう。

ただし、専門家にも得意分野や不得意分野があることから、相談先は自社の状況を意識しながら慎重に選んでおきたい。特に以下の点は、多くの企業にとって外せないポイントになる。

・サポートしてくれる範囲
・報酬体系
・得意としている業界や分野
・M&Aプロセスの進め方

なかには、相談段階であれば無料で受け付けている専門家も存在するため、コスト面が不安な方はそのような相談先を探してみよう。

ソーシングはM&Aの成功を左右するプロセス!少しでも悩んだら相談を

M&Aの準備フェーズ~交渉フェーズに該当するソーシングは、M&Aの成功を左右する重要なプロセスだ。M&Aの方向性はソーシングの内容次第で決まるので、最終的な目的をしっかりと意識して、各工程を慎重に進めていく必要がある。

また、計画や目標を明確にする工程をはじめ、ソーシングではさまざまなタイミングで専門知識が求められる。経営者や従業員だけで進めることが難しい場合もあるため、少しでも不安や悩みを抱えている企業は、無理をせずに専門家に相談することを検討しよう。

著:片山 雄平
1988年生まれのフリーライター兼編集者。2012年からフリーライターとして活動し、2015年には編集者として株式会社YOSCAに参画。金融やビジネス、資産運用系のジャンルを中心に、5,000本以上の執筆・編集経験を持つ。他にも中小企業への取材や他ライターのディレクション等、様々な形でコンテンツ制作に携わっている。
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