MISSION -ミッション- 元スターバックスCEOが教える働く理由
岩田 松雄(いわた・まつお)
株式会社リーダーシップコンサルティング代表。元立教大学ビジネスデザイン科教授・早稲田大学非常勤講師。元スターバックスコーヒージャパン代表取締役最高経営責任者。1982年に日産自動車入社。製造現場、飛び込みセールスから財務に至るまで幅広く経験し、社内留学先のUCLAビジネススクールにて経営理論を学ぶ。帰国後は、外資系コンサルティング会社、日本コカ・コーラビバレッジサービス常務執行役員を経て、2000年(株)アトラスの代表取締役に就任。3期連続赤字企業を見事に再生させる。2009年スターバックスコーヒージャパン(株)のCEOに就任。

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『MISSION -ミッション- 元スターバックスCEOが教える働く理由』シリーズ
  1. 部下に尊敬されるリーダーの4つの習慣
  2. 元スタバCEOが教える「面接で人を見抜くため質問」とは?

成果をあげる人とあげない人の差は才能ではない。
いくつかの習慣的な姿勢と、基礎的な方法を身につけているかどうかの問題である。
──ピーター・ドラッカー

ピッチャーとサード、どっちが偉いか?

自分のミッションを実現するためには、必ず周囲のサポートが必要になります。その極めて典型的な例が、企業の活動です。会社のミッションを成就させるには、社員のサポートが必要になる。そして、社員それぞれのミッションが、会社のミッションと共鳴できれば最高です。

私は社長、役員を経験してきましたが、だからと言って自分がえらいなどと思ったことはありません。野球で言えばサードとピッチャー、どちらがえらいか議論しても意味がないのと同じです。ライトもベンチの人もいて初めて試合ができる。そこに上下関係などないのです。

会社でもミッションを実現するために、お店で、物流センターで、本部で、そして社長室でそれぞれのポジションを守っているに過ぎません。ここからは、私がいろいろと壁にぶつかりながら社長業で得てきた、人を巻き込むヒントをご紹介していきます。

火花を見逃さないリーダーの4つの習慣

習慣1 リーダーは御用聞きと心得る

私がリーダーの役割でもっとも大切だと考えるのは、御用聞きです。

最近どう?
元気?
何か困ったことはない?

現場にそう聞いて回る。それこそがリーダーの仕事です。

これが社長の場合はなおさらです。何か問題が起きたとき、もっとも強い解決能力を持っているのですから。しかし、社員は最初から心を開いてくれるわけではありません。相手が社長だから緊張しているということもあるでしょうが、基本的にはだれも、いきなり本音を話したりはしません。粘り強く、何度もアプローチを続けるのが上に立つ人の大切な役目です。

すると、だんだんリクエストが出てくるようになります。電球が切れたので変えてほしい。排水口が臭う。もう3か月も前からお願いしているのに対処してくれない。

すると私は、その場で関係部署に電話をかけて対応を依頼します。

社長がそんなことまでする必要はない、という声も聞かれました。しかし私はやめなかった。なぜなら、社長が現場の声を聞いて直ちに動くことで、現場の人たちは社長も自分たちのことをきちんと気にかけていると知ってもらいたいからです。本来の担当者にも、私の代わりに同じことをしてほしいと思うからです

そして、これは個別に困っている問題に対して、経営者が本気で一緒に考えてくれているというメッセージになるのです。

習慣2 リーダーにしかできないことをする

私はアトラスで初めて社長になってから、原則として、名刺を交換したすべての方にお礼状を書いていました。秘書さんにサポートしてもらいながら、パーティーでも、勉強会でも、相手がどのような立場の方であろうと、必ず自筆でサインをした手紙をお送りしていました。

そして、ザ・ボディショップやスターバックスで新しいお店がオープンするときは、開店セレモニーに出席するだけでなく、できるだけ店長さんを連れて、新店のMSR(〝向う 三軒 両隣り〟のお店)の「ご近所さん」に挨拶に行き、帰社後さらにお礼状を出していました。

特にスターバックスがショッピングモールなどにあとから出店すると、既存のテナントからいやがられることもあります。世界的なブランドでお客様の集客力があるのだから歓迎されそうですが、反面少しでも似ている業種では、お客様を奪われかねないと警戒しているのです。

あるお店の店長さんが商店会などで冷たくされているという話を聞きました。私は出張のついでに、そのモールに行き、店長さんと一緒にそれらのお店を一軒一軒回ったことがあります。そこで挨拶に現れた現場の責任者の方と名刺交換し、お礼状まで出す。こうすることが、新しい店舗をサポートするための援護射撃になると思ったのです。

習慣3 ラブレターのようにマネジメントレターを書く

ザ・ボディショップは私が離れる時点で175店舗まで拡大しました。スターバックスに至っては、就任当初で800店舗以上のお店が存在し、退職時には900店舗に近づいていました。

できることならそのすべてを巡回し、お店のみなさんと話をしたいと思っていましたが、それはかないません。もちろん地域ごとに店長に集まってもらうミーティング(ラウンドテーブル)をできるだけ多く行う努力をしていました。

私の考え、メッセージ、そして会社のミッションを伝える手段は、マネジメントレター(全パートナーに送るメール)でした。ザ・ボディショップのときは毎週1回、スターバックスでは月に1回、さらに何かニュースがあったときに臨時発行していて、月2回ほど書いていました。

私にとって、マネジメントレターは、遠くに住む恋人に送るラブレターのようなものでした

たくさんのお店があり、距離的にも離れています。お店のみなさんに簡単に会いに行くことはできない。私の思いを直接伝えたいけれど、なかなか会えない。

一方お店のみなさんも、本部の様子がわからない。今社長は何を考えているのか、何が会社の問題なのか、これからどこを目指しているのか、今どのような状態なのか。

私は、できるだけ詳しく会社の現状を記し、最近あったいいこと、そして現状の問題と取り組みを書きました。アニータやハワード・シュルツに会って話せばその内容を伝え、ミッションこそがブランドを形作る、というような、この本でも何度も繰り返している話を毎回訴えたのです。

お店回りをしていると、マネジメントレターを読んでくれたお店の店長さんたちから、声をかけられるようになりました。いつも楽しみにしています、忘れかけていたミッションを再認識できた、といったうれしい言葉をくれるのです。

つい最近ザ・ボディショップの人から連絡をいただき、こう言われました。

「岩田さんは毎回、レターの一番最後を『ありがとうございました』と締めくくってくださいましたよね。あれ、とても心に響いていました」

スターバックスの店舗の前で交通事故を起こしてしまった女性に1杯のコーヒーをお出ししたパートナーは、その当時起こった西日本での災害を見た私が、「困った人を見かけたら手を差し伸べてほしい。スターバックスの社員である前に人間として正しい判断をしてほしい。私は必ずそれを支持する」と綴ったレターを読んでくれていたと思います。

社長は経営全般を見ることが大切な仕事です。売り上げ150億円、あるいは900億円。前年比何%増。営業利益率は? SPH(時間当たり人時生産性)は?一株当たり利益は?株価は?それらのことは経営者として頭に入れておくことは大切です。しかしそれ以上に自分の思いをみんなにどう伝えるのか、みんなの思いをどう感じとっていくのか?それこそが一番大切な仕事だと思います。

数字や指標が大切なことは否定しない。しかし、たとえ売り上げが何百億円であろうと、それは300円のコーヒー、1000円のボディシャンプーの積み重ねでしかない。何億回もの火花がお店で輝いた結果初めて形作られているのです。だから私は、お店の人たちに気持ちを込めてレターを贈り続けたのです。

習慣4背景と意義を必ず説明する

立場が上になればなるほど、リーダーの重要な役割は、いかに人に仕事をしてもらうかということになります。

私は指示やお願いをするとき、できるだけその背景にある意図や、意義を説明するように心がけていました。

A:「このデータ、前期、前々期と比較して表を作って、30部コピーしておいて」

B:「このデータ、明日の○○ブロックの店長会議で使いたいんだ。前期、前々期と比較して表を作ってほしいんだけど、店長さんたちを元気づけるために伸びが強調できるようにしておいて。みんな喜ぶだろうから。今聞いている参加者は30名だけど、必要分コピーしておいてね」

AとB、しゃべる時間の差はせいぜい10秒。しかしBのほうは、自分が与えられた仕事が持っている意味、それがどういう形で社業にかかわっているのかをはるかに理解しやすいはずです。

ちょっとでいいので、背景や意義を説明しておくと、相手はモチベーションがわき、仕事の優先度合い、要求されているクオリティのレベルを判断できるのです。これは、クセさえつけてしまえばそれほど難しいことではありません。

マネジメントレターとも共通しますが、私は、よきリーダーはよき説明者であると考えています。

せっかくミッションを持ち、目標を掲げて走っていても、今どのあたりを走っているのか、スピードはどのくらい出ているのか、もっとよいやり方はないのか、自分は全体に貢献できているのかを知りたくなるし、知らされるほうが、目標に向かおうとする力そのものがより強くなる。だから、数字をはじめとする情報はできるだけオープンにし、みんなで共有するほうがいいのです。