ハッピーカーズ物語
(画像=dbunn/stock.adobe.com)

(本記事は、新佛 千治氏の著書『クルマ買取り ハッピーカーズ物語』=サンライズパブリッシング、2020年8月7日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)

海との出会いが人生を変えた

人生、どこに転機が転がっているかわかりません。何が転機になるかも、たぶん死ぬまでわからないのではないでしょうか。

でも、僕の人生を俯瞰してみると、サーフィンとの出会いが、転機というか、少なくともひとつのターニングポイントになったように思います。サーフィンは、文字通り、波に乗るスポーツです。当然ながら、波がなければサーフィンはできません。

そしてこれは、仕事や人生にも共通しているといえるでしょう。

僕は1年中、波があればサーフィンをします。

冬でも湘南の海はそれほど水温が下がらないので、雨が降っても、雪が降っても、雷がゴロゴロと鳴らない限りは常に波の様子をチェックして、サーフィンできそうだと思ったら、すぐにボードを持って飛び出します。

サーフィンは子どもから大人まで(ときには犬なども!)楽しめるスポーツですが、実は、途中で離脱してしまう人も多いんです。

世界大会のような映像を見ると、みんな、いとも簡単に波に乗っていて、自分にもできそうだなと思ってしまいがちですが、実際にはひとりでやってもなかなか上達しないし、そもそもどこで練習すべきかもわからない。ひたすら波を追いかけて泳ぐだけの時間が長くて、疲れるし、お金もかかるし、結果、やめてしまうという話もよく聞きます。

また、例え海の前に住んでいたとしても、1日の中でサーフィンできるのはほんの数時間、コンディションによってはほんの数十分ということもあります。

サーフィンができる最適な波は、基本的に波の向きや強さ、地形によって常に変わるので、ほんの少し潮が上がっただけで、さっきまでパーフェクトな波だったのに、まったく急変してしまうなんてことも日常茶飯事。

基本的に波のない湘南のビーチはことさらデリケートで、海底に砂がついている場所を日々チェックして、なおかつ潮の満ち引きを計算して予測しなければ、なかなか良い波にありつくことはできません。

そして、そういう苦労を乗り越えた人だけが、本当のサーフィンの楽しさを知ることができるのです。一旦サーフィンの楽しさを知ることができたら、もう、その魅力から離れることはできないでしょう。

良い波の日もあれば、悪い波の日もある。

上手なサーファーは悪い波でも乗りこなすのが上手です。どんな環境にも、自分を合わせて、最高の演技ができるスキルが身についています。

「今日は波が悪いから」。湘南のサーファーでこんなことを言う人は実はあまり見かけません。基本的に良い波なんて都合良く来ないことをみんなよくわかっているのです。

上手なサーファーほど"自然のリズム"に柔軟に適応しながら、それぞれのスタイルでサーフィンを楽しんでいます。

環境のせいにしないで、自分自身をアジャストしていく。これは、人生や仕事にも共通することだと思います。波がない人生は、確かに穏やかで安定していて、ゆったりしているかも知れません。ドキドキ、ヒヤヒヤしたりすることもなく、何かに脅かされたりすることもなく、毎日、心穏やかに過ごすことができるでしょう。

しかし、変化がなければ、進化することもありません。

雨が降って新しくできた湖だって、新しい水が注ぎ込まなければどんどん濁り、やがて淀んでしまいます。それと同じように、僕は人生も適宜、新しい挑戦や変化を加えていかなければ停滞し、つまらないものになっていくと思います。

そういう「挑戦」や「変化」という人生の波にぶつかると、今までの安定した穏やかな生活が脅かされる恐怖から、一瞬居心地の悪い思いをするものですが、それを乗り越えることで僕らの人生はまた一段階、ステップを上がっていくのだろうと思います。

仕事でもプライベートでも、何だかうまくいかないなというとき、もがけばもがくほど沈み込んでいくという経験を何度もしてきました。わかってはいるのにパニックに陥ってしまう。でもどうしようもないときは、あがいても仕方ないのです。そんなとき、僕はいつもと同じようにサーフィンをします。

結局、波が来ないと始まらないんです。人生もサーフィンも。

ビジネスとサーフィンが共通する理由

世の中の経営者といわれる人たちの中には、サーファーが意外に多いと聞きます。

米カリフォルニア州に本社を置くアウトドア衣料・用品メーカー「パタゴニア」の創業者イヴォン・シュイナード氏もそのひとり。

もちろんアメリカだけでなく、日本にもサーファー社長は多くて、多忙な合間をぬって、週2回、房総に通ってサーフィンをしたり、出張で海外へ行くたび、現地でサーフスポットを探したり、という社長もいます。

大抵、そういうサーファー社長に「あなたはなぜ、サーフィンをするのですか」と聞くと、口を揃えて「サーフィンを通して周囲と融合する大切さを心身で知り、謙虚でいることができるようになった」とか、「シンプルに本質のみを追求する癖がつき、虚構に惑わされなくなった」といった答えが返ってきます。

確かに、それも真実です。

でも僕は、ビジネスとサーフィンの共通点はほかにもあると思っています。

もっといえば、ビジネスだけにかかわらず、人生を丸ごと考えてもサーフィンとは共通するポイントが多いような気がするのです。

ベストポジションを選ぶ

サーフィンでは原則として、ひとつの波にひとりしか乗れません。

基本的に、一番良い場所にいる人が最優先。うまい人とそうではない人の違いは、「良い波の立つ場所にいられるかどうか」です。

よって、上手なサーファーは、まずは海に入る前に、浜辺から波の状態を観察します。

波の崩れ方はどうか、大きさはどうか、風向きはどうか、波と波の間隔はどうか。

波の崩れ方や大きさは、場所と時間によってまったく異なり、風向きによっても変わってきます。

だからその時々でベストなポジションを選び、適宜、調整が必要なのです。

あとはひたすらじっと待つだけ。

沖合のずっと先を眺め、良い波が来るのを待ちます。

いきなり海に入って、たまたま来た波に乗っていては、せっかくの良い波に乗れません。

じっくりと観察し、予測して、ベストな場所に自分自身をキープし続けることによって、これぞという波を掴むことができるのです。

僕は時々サーフィンの大会に出場しますが、大抵の大会は、旗で仕切られた規定のエリアの中で行われます。

選手が4人ずつ海に入り、それぞれ波に乗って技を競い合うわけですが、当然、同じ波は二度と来ません。演技時間は決まっていて、その時間の中で波に乗って、技を披露しなければならないのです。

「良い波が来なかったので、点の出る技が披露できませんでした」では通用しません。

「あの選手のところには波が来たのに、自分のところには波が来ないとは、なんて不運なんだ」という言いわけも無意味なのです。

高い得点が出る可能性のある波の種類を見極め、その場所を予測し、じっくりと波を待ち、しかるべきタイミングで波が来たら、チャンスを逃さずそれに乗り、ベストな演技を披露して得点を獲得することを求められる競技なのです。

戦略における修正の必要性

自分の出番まであと1時間後。今の風の状態はこうで、今はここの場所がベストだけど、1時間後にはきっと風がこう変わり、潮の流れもこうなるだろう。

その場合は、今は良さそうに見える右側の波より、左側のほうが波の数は少ないけど、得点の出る可能性が高い波が来る。

こんな具合に、綿密に戦略を立てて自分の順番を待っていても、いざ自分の順番になって海に入ってみると、予測が的はずれだったなんてことも多々あります。

むしろ、客観的に海を眺めて予測したはずの読みが現実とずれていることは、そう珍しいことではありません。

そんなとき、自分を信じてその場所で波を待つのか。それとも、「やっぱりこっちだ」と微調整して、波を待つ場所を変えるのか。そのような戦略の修正も必要になってきます。

サーフィンの試合でのコンテストエリアのコンディションとビジネスにおけるマーケットは、極めて不安定要素が高く、未来の確実な予測が誰にもできないという共通点があります。

例えば、マーケティングで市場を研究したうえで、3年計画や5年計画、中長期計画などを立てて会社の未来を予測したとしても、かならずしもその通りにはいきません。むしろその通りにいくことは少なくて、随時、修正が必要になってきます。国際関係の変化や経済の動きなど、社会にはいつも潮目と呼べるようなタイミングがあって、運命の境目みたいなその瞬間をどう捉えるかによっても、ビジネスの流れは変わってきます。

良い経営者とは、そうした流れを正しく、的確に予測する能力に長けていることが前提で、必要に応じて予測を軌道修正しながら、時代の潮流に乗っていくことができる人ではないでしょうか。

サーフィンもビジネスも同じ。サーフィンが上手な人は、波を読むのが得意で、環境にうまく自分自身を合わせていきます。ビジネスの波も、海の波も、再現性はありません。目の前の波は、一度きり。もう、同じ波は訪れることがないのです。

一度決めたらテコでも離れない

「時代の変化や置かれた状況に応じて、柔軟に戦略を調整することが大切だ」ということと少々矛盾しているように思われるかも知れませんが、狙いを定めたらテコでも離れない強い信念も、サーファーに共通する特徴のひとつ。

荒波を前にしてもじっと耐える辛抱強さ、というべきでしょうか。

これはサーフィンやビジネスに限らず、何をするにも必要となる"スキル"ではないかと思います。

ハッピーカーズをはじめるにあたり、勝負するテリトリーを湘南に定めてから1か月ほどは、ひたすら「中古車を売りたい人がいたら紹介して欲しい」と友人に声をかける日々が続きました。

もちろんすぐにお客様が現れたわけではありません。

ときにはやり方を変えて、折り込みの広告をポスティングしたりもしましたが結果が出ず、それでも「湘南から手を引こう」とは一度たりとも考えたことはありませんでした。

徹底的に考え抜いた末の決断を簡単に諦めるなんて、ましてや結果が出る前からやめてしまうなんて、そんな生温い姿勢は通用しません。

「石の上にも3年」とはよく言ったものです。2~3か月後には営業の効果が現れはじめ、1件、さらに1件と買取りの問い合わせが入るようになりました。

このときの達成感が、ほかに類を見ないものだったことはいうまでもありません。

目標が何であれ、自分の信じた場所にどっかりと腰を据えて、コツコツと努力を続けていれば報われる。「一度決めたらテコでも動かない」というサーフィンの精神が正しかったことを実感するとともに、ビジネスにおいてもそれが活かされていることに、改めて気づかされるのでした。

コミュニティを育て、居場所をつくる

それからもうひとつ。コミュニティを育てて居場所をつくることもサーフィンやビジネス、人生における共通点ではないでしょうか。サーフィンというと、自然を愛する人たちがおおらかに楽しむスポーツ、というイメージがあるかと思います。

確かにそんな一面もあるのですが、実は、ルールがたくさんあって、そのルールを知らないで海に入ると、極端なことをいえば追い出されてしまうこともあります。

どれだけサーフィンの技術が高くても、はじめての海へ行くのは結構緊張するもの。

僕も湘南へ引っ越してきたばかりの頃は、まずは海へ入らず、ひたすら観察したものです。どういう人が、どのようにサーフィンをしているのかをひと通り観察してから海に入っていました。

なるべく邪魔をしないように、みんなのリズムを壊さないように溶け込んでいくことを意識すること。これはサーファーの間では常識です。たまに、肩で風を切るように海に入ってくる道場破りもいますが、それは論外です。

地道に、毎日、毎日、その場にいるみんなのリズムを壊さないように居続ける。

そうするうちに、気がつけば周りの人に認めてもらえるようになるのです。すると自然に笑顔も増えていきます。いろいろな話ができるようになるとますます楽しい。

ハッピーカーズも、完全な地域密着型のビジネスで、それぞれの加盟店が目指すのは、車のことなら気軽に何でも相談できる専門家。地域でナンバーワンの相談役です。そのように地域の人たちに認めてもらうには、まずはその場所に居続けること。土地の歴史を学ぶこと。

そして相手を理解したうえで、自分の顔と名前を知ってもらうこと。

自分がどういう人で、どういうパーソナリティや経歴をもっていて、どのようにみんなの役に立つことができるのか。自分自身をじっくりと知ってもらうためには、まずはこちらが相手のことを理解することが、営業の第一歩です。

そうやって自分の認知度を高めながら、じっくりと時間をかけて周囲の人とのコミュティを築いていくのは、本当にサーフィンとよく似ています。

決して焦らず時間をかけて、丁寧にコミュニティを育んでいくことがベースにあり、そのうえに信頼関係や仲間意識などを醸成させていくことがとても大切です。

それぞれが地元に根づいて、多くの方々に応援してもらいながら、何かのナンバーワンになっていく。

ハッピーカーズの仕事ともまさに一致することだと思います。

ハッピーカーズの加盟店のオーナーには、地域に根ざした「新しい働き方」を自由に実践してもらいたいし、店舗を構えるそれぞれの地域において、コミュニティのハブ的役割を果たして欲しいと思っています。

大切なのは、恐怖を飼いならしていくということ

正直なところ、フリーランスとして独立、そして会社を起業してからというもの毎日が不安と恐怖との闘いです。

例えば、今月はある程度の売上を確保できたけれども、来月はどうかわからない。もしかしたら突然売上が途絶えて、にっちもさっちもいかなくなるときが来るかも知れない。そこそこの売上があった制作会社時代でさえ、受注が止まってしまう恐怖と闘っていましたし、従業員を何人か雇用していたときには、従業員が一斉に辞めてしまったらと考えると、ありえないとはわかっていても、それはそれで経営者にとっては恐怖のひとつでした。

儲かっていても儲かっていなくても、起業または独立開業して会社の傘に守られないで生きていくということは、当然毎日が恐怖との闘いです。

しかし、そうした不安は飼いならすしかありません。

「失敗したらどうしよう」とか、「お金が入ってこなかったらどうしよう」とか、ありとあらゆる不安がたくさん襲ってきたとしても、それにいちいち反応してビクビクしたのでは、不安はますます大きくなるだけです。

不安を抱えながら行動しても、ろくなことはありません。

「ああ、自分はまた不安に襲われているな、大丈夫、大丈夫、結局、やるしかない」と、できる限り冷静に対応していく。

最近50歳を目前として、ようやくその恐怖の飼いならし方がわかってきたような気がしますが、きっとこれから何度でもさらなる巨大な恐怖に打ちひしがれることになるでしょう。

結局のところ自分が歩んできたことに対する自信、自らをどれだけ信頼できるかがこの恐怖を飼いならすことのポイントだと思います。

自分自身を鍛えながら、少しずつ壁に向かって挑戦し、自分自身をストレッチさせながら逆境に慣れていくこと。

これは独立開業する人なら絶対に避けて通れないプロセスだと断言します。

能力や実力がある優秀な経営者が起業後すぐにダメになってしまうというケースは少なくありません。そうです、恐怖は目には見えなくても決してあなどることができない強敵なのです。その恐怖を克服していく術をサーフィンは教えてくれました。

クルマ買取り ハッピーカーズ物語
新佛 千治(しんぶつ ちはる)
株式会社ハッピーカーズ 代表取締役
営業職としてメーカーに入社落ちこぼれ営業マンから全国トップクラスの営業マンに成長するも、自分の可能性をもっと広げてみたいと、退社。大波に乗ることを目指してハワイへ。
帰国後、新たにデザインの勉強をはじめ、広告業界に飛び込む。出版社にデザイナーとして入社し、のちに大手情報サービス会社で広告制作ディレクター、コピーライターとして実績を積み、2005年にはクリエイティブディレクターとして広告制作会社を立ち上げる。
その後、外部要因に左右される経営環境を変えるべく、もうひとつ事業の柱をつくろうと中古車の輸出ビジネスを開始。海外への販売ルートの開拓を視野に、中古車の輸出先となるアフリカのタンザニアに現地法人を立ち上げる。
しかし、治安の問題もあり短期間で撤退を決断。中古車輸出業から手を引く。その際の経験を活かし、日本国内において一般のお客様から中古車を仕入れて、オークションで販売する車買取り業者、株式会社ハッピーカーズが誕生。
2015年の事業立ち上げからわずか4年で、全国に70以上の加盟店を展開する企業へと成長する 。

※画像をクリックするとAmazonに飛びます