2020年3月、株式会社日本M&Aセンターは、マレーシアに駐在事務所を開設した。

同社では2013年に海外M&Aを取り扱う「海外支援室」を開設して以来、海外M&Aを促進、2016年にシンガポールオフィスの開設を皮切りに、インドネシア、ベトナムと海外展開を強めてきた。今回のマレーシア駐在事務所も海外進出の一環だとされている。

国内トップクラスのM&A仲介会社でもある日本M&Aセンターの展望、マレーシアで目指すところについて新たにマレーシア駐在員事務所長に就任した、尾島悠介さんにお話を伺った。

尾島悠介
株式会社日本M&Aセンター
マレーシア駐在員事務所長
尾島悠介(おじま・ゆうすけ)
大手商社を経て2016年日本M&Aセンターに入社。商社時代には3年間インドネシアに駐在。入社2年目よりシンガポールを中心にマレーシアやタイ、フィリピンのM&A案件を取り扱う。
現在はシンガポールを拠点に、アジア諸国の中堅中小企業と日本企業との海外M&Aに従事。2020年3月よりマレーシア駐在員事務所長に就任。

日本M&Aセンターの海外進出について

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日本M&Aセンターの尾島さん

──尾島さんの経歴について教えてください

新卒で入社した商社では、工場やプラント向けに大型の機械や設備を販売し、生産ライン・システムを最適に稼動させるためのソリューション提案を行っていました。

インドネシアでの3年間の駐在経験を通じて、ASEANの成長の可能性を実感するとともに、日系企業がASEANでさらに発展していくためには、現地企業との提携等によってさらに強固な関係を築くことが不可欠だと感じるようになりました。経営者と直接対峙し、会社レベルで組織を変えることのできるM&A業務に魅力を感じ、日本M&Aセンターの海外支援室で働くことを決めました。

その後、入社2年目よりシンガポールに赴任し、ASEAN各国の譲渡案件の発掘を行いつつ、日系企業の海外M&Aの買い手アドバイザーとしてエクゼキューション業務に携わっています。また、会計事務所や金融機関とのネットワーク構築やセミナー等のM&Aの啓蒙活動にも取り組んでおります。

──シンガポール、インドネシア、ベトナムに続きマレーシアに拠点を設けた理由は?

日本M&Aセンターが海外M&A、つまり、日本企業とマレーシア企業を結ぶだけではなく、中長期的にはマレーシア企業同士のM&AやASEAN各国企業同士のM&Aも行っていこう、という戦略のための足場づくりとしての側面が大きいです。

私自身の生活の拠点はシンガポールにあり、これまでもマレーシアには通っていたのですが、地理的にも文化的にも近い事もあり、マレーシアの譲渡案件の紹介も頂く事が多く、マレーシアでの実績も増えてきました。そこで、今後のビジネス展開も考え、マレーシアに駐在事務所を設ける流れになりました。

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2020年7月に行ったウェブセミナーの様子

──尾島さんのマレーシアでの活動について教えてください

大きく分けると、ネットワーク構築を伴うマレーシア企業の譲渡案件の発掘と、案件が進んだ際の企業評価や契約書交渉を含めたM&Aのアドバイザリー業務が中心となります。

マレーシアでM&Aを手がけているのは、現地の大手銀行や大手証券会社の投資部門、いわゆるIBD(投資銀行部門)といわれる人達に限られています。 ただ、彼らは、トランザクションサイズで50億から100億円を超えてこないと、案件として取り扱いません。日本に比べると小規模とはいえ、なかなか中堅中小企業のM&Aが行われていないのが現状です。

実は、これは90年代日本のM&A業界の状況と似ているんですね。 ということは、今後マレーシアでM&Aの需要がのびるということでもあります。その時に備えるという意味でも、事業承継問題や成長戦略を解決する手段としてのM&Aをもっと啓蒙していきたいと考えています。

そこで我々は、日本M&Aセンターが中堅中小企業向けにM&Aを浸透させてきたやり方を踏襲し、マレーシアの金融機関、あるいは会計事務所と組み、ネットワークを作り上げ、かつダイレクトで案件を取っていくような取り組みを現在進めているところです。私の業務も、会計事務所や金融機関へのネットワーク構築が週の2~3割くらいを占めています。

もちろん、ネットワークづくりと並行して、ローカル企業へのダイレクト営業も行っています。現地の経営者や会計事務所からクライアントを紹介していただいたり、あるいは自分たちでリストを作って電話でアプローチしていくような活動ですね。これらは、現地スタッフに頼るところも大きいです。

マレーシアで活動を行う上で、言語など日本とは勝手の違うところもありますが、日本で30年近くやってきた日本M&Aセンター独自の成功ノウハウをそのまま展開することが可能なので、当社の優位性は極めて高いと思っています。

──尾島さんが現在注力している事について教えてください

個人的に、日本M&Aセンターの使命である"M&A業務を通じて企業の「存続と発展」に貢献すること"という言葉がすごく好きで、常に意識して業務に取り組んでいます。当社としては、これまでは日本企業向けが中心でしたが、マレーシア企業に対しても同じ使命感を頂き、とりわけM&Aの啓蒙と教育に注力しております。

M&Aが一つの選択肢、解決策にありますよという点を訴えかけて、まずはM&Aについて知っていただく。そのあと、どんな風にM&Aを進めていくのか、どのように株価をつけるのか、そういった具体的な教育にステップアップしていく。

これまでM&Aの啓蒙を目的としてセミナーを2ヶ月に1回ぐらいのペースで行っています。中でも、2019年10月にクアラルンプールで開催した、「To Grow a Business YOU NEED EQUITY PLANNING 4.0」セミナーでは800人以上もの参加者がありました。 6、7月にはコロナの関係もありウェブセミナーに切り替えて開催しましたが、共に1,000を超える視聴者数があり、その後の問い合わせも含めてM&Aのニーズが非常に高いのを実感しています。

マレーシアのビジネス・M&A事情

ozima
2019年にマレーシアで開催されたセミナー。英語だけではなく、中国語も交えることも

──日本企業からみたマレーシアの魅力、M&Aを行うメリットは何でしょうか?

マレーシアはインドネシアやタイ、ベトナムに比べると知名度において遅れを取っているのは事実だと思います。

ちょっと言葉が悪いのですが地味なんですよ。(笑)

ただ、初めて来た日系企業の方は皆さんびっくりされるのですが、マレーシアはものすごい発展を遂げているんです。

首都であるクアラルンプールは、シンガポールや東京と変わらないぐらい、交通、電気、ネット環境など、世界でもトップクラスのビジネス環境が整っています。

そして、イギリスの植民地であったことから、基本的にビジネスは英語であることも、グローバル展開しやすい理由の一つ。また、M&Aに重要な財務・税務の透明性も比較的高く、法務や契約関連も整備されており外資規制も少ないことが特徴です。

また、マレーシアは、ASEAN域内ではシンガポールに続く経済大国に位置づけられており、人口及び経済も安定して成長しています(人口は約3千万人)。インドネシアやベトナムと比較すると成長力や規模は劣りますが、既にマーケットとして成熟しており、M&Aでの進出が比較的容易です。

確かに、タイやインドネシア、ベトナムの方が様々な面でコストは抑えられるでしょう。ただ、これらの国でM&Aをやろうと思ったとき、やはり難易度が高いです。帳簿が3つ、4つ存在することや、そもそも全部合ってない事も当たり前のようにあります。それに比べるとマレーシアはコンプライアンスの部分でも安心できるというのが強みの一つだと思っています。

実は、シンガポールやマレーシアでのM&A経験のある日系企業やPEファンドは、短中期的にシンガポールやマレーシアで足を固めつつ、ベトナムやインドネシアで中長期的な展開を行うケースが多くなっています。

──マレーシアの後継者問題、M&A状況について教えてください。

一般的に、マレーシアの中堅中小企業のオーナーさんはそれなりにお金にも余裕があり、裕福なので、子どもを海外の大学に留学させている場合が多いです。

特に、マレーシアはイギリスの植民地だった歴史もありイギリス、あるいはイギリスの文化圏であるオーストラリア、ニュージーランドなどに留学をさせている方が多い。

そうすると、海外で高い教育を受けた子どもは、大学を卒業すると、まずマレーシアの大企業に就職してしまう。あるいは、留学先や海外で就職してしまうのでマレーシアに帰ってこない、経営を継がないといったケースが起こってしまいます。

また、他のASEAN諸国(シンガポールを除く)と比較すると、マレーシアは経済的に成長から成熟期へ移行しており、大手・中堅同士の統合も進んできています。すでに、業界再編の波が来ているのです。

そういった意味では、日本の後継者問題と状況が似ているのですが、マレーシアのみならず、東南アジアでは、そういった事業承継に対して需要があるのにも関わらず、まだまだ、中堅中小企業にM&Aがまだあんまり普及していません。

よって、国は違えど、事業承継や業界再編型M&Aは万国共通であり、当社の日本国内でのノウハウ・経験がそのまま活きる可能性を秘めているのです。

──日本企業のM&Aについてマレーシアの企業、経営者達はどのような印象を抱いているのでしょうか?

マレーシアはとても親日の国です。

マハティール氏(マレーシアの第4代、第7代、暫定首相を歴任)が1981年に打ち上げた「ルック・イースト政策」、“日本に学べ”という指針によって、国内の経済・産業を成長させてきました。

そういった背景もあり、「日本=ハイエンド、プレミアム、技術力が高い」そういうポジティブなイメージが根づいているので、日系企業にとってはビジネスが始めやすい国だと思います。

マレーシアの経営者からしても、同じM&Aで国内の企業に譲渡するよりも、日本企業へ譲渡しグループ会社になる事はとても名誉だと思っています。また、技術力や生産・品質管理等、日本では当たり前のことが、それによってマレーシアでは会社の更なる発展・成長が見込める事も、非常に重要な要素だと思っているようです。

──今後の展望について教えてください

一番最初に申し上げた通り、マレーシアにはまだまだM&Aが普及してない、つまり、中堅中小企業のビジネスオーナーはM&Aの理解度が低く、また、M&Aコンサルタントやプレイヤーが少ないです。特に我々のようにM&Aに特化したアドバイザリーファームはほとんどいない状況です。

今はまだ、マレーシアだけではなく、東南アジア全体がブルーオーシャンになっていますので、われわれとしては一刻も早く市場を創り上げ、事業を拡大し、日本はもちろん、ASEANのM&Aのデファクトスタンダードを作りあげていきたいと思っています。

ozima
「海外経験×M&A×新規事業立上げ」という3つの領域を極めたいと語る
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