滞納
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国民の三大義務の中には、「納税の義務」がある。税金は、国家や社会を維持するための重要な財源でもあるため、税金を滞納した場合は「財産差し押さえ」なども行われる。ここでは、税金を滞納した法人に科されるペナルティや、税金を滞納したときの対処法について説明する。

目次

  1. 法人が納める税金の種類
  2. 法人が滞納したらどうなる?滞納から差し押さえまでの流れ
    1. 税金を滞納した場合は「延滞税」を支払わなければならない
  3. 法人の財務調査とは?
  4. 法人が税金を支払えないと思ったら?
    1. 税金の支払猶予や減免について相談する
    2. 税金の延納を相談する
  5. 税金滞納は早めの対応が肝心

法人が納める税金の種類

税金には多くの種類がある。ここでは、法人に関する税金を種類に分けて説明する。

まず、税金には、「国税」と「地方税」がある。

「国税」は、文字通り国が徴収する税金のことであり、「国税庁」が管轄する税金が国税と考えると分かりやすいだろう。例えば、所得税、法人税、地方法人税、贈与税、相続税、消費税、酒税、たばこ税、揮発油税、登録免許税などが該当する。このうち、法人に関係のある国税は、地方法人税だ。また、法人名義の車がある場合には、自動車重量税も関係する。

「地方税」は、都道府県や市区町村が徴収する税金のことだ。例えば、個人住民税、法人住民税、個人事業税、法人事業税、不動産取得税、自動車税、軽自動車税などが該当する。このうち、法人に関係ある地方税は、法人住民税、法人事業税だ。また、法人名義の車がある場合には、自動車税、軽自動車税も関係する。

また、税金には、「直接税」と「間接税」という分け方もある。

「直接税」とは、納税者が直接税務署や市区町村に納める税金だ。所得税、地方法人税、個人住民税、法人住民税などが直接税に該当する。

「間接税」は、税金を納めなければならない人(納税義務者)と税金を負担する人(担税者)が異なる税金だ。ただ、担税者が税金を滞納することは考えにくいため、納税義務者である事業者が納税の対応をすることがほとんどである。

法人が滞納してしまう可能性がある税金は、直接税に該当する地方法人税、法人県民税、法人事業税、消費税などである。また、法人名義の車がある場合には、自動車重量税、自動車税、軽自動車税などの税金も滞納してしまうことがあるので、注意が必要だ。

法人が滞納したらどうなる?滞納から差し押さえまでの流れ

税金は、社会を支える大事な財源だ。税金が無ければ、国や地方自治体の財源はたちまち立ち行かなくなり、国民や住民の生活や健康を脅かすことになる。そのため、税金の滞納者に対しては、国税庁や都道府県、市区町村は厳しい対応で臨んでいる。

それでは、法人(会社)が税金を滞納した場合、どのような手続きが取られるのだろうか?

まず、法人が税金を期限までに納めないと、国税庁、都道府県、市区町村から、文書や電話で納税状況についての連絡と確認がある。この時点では、税金を納めたか否かの確認があり、もし納めていなければ早急に納めるように促される。

しかし、それでも税金を納めないときや、国税庁や都道府県、市区町村に相談しなかった場合は、納税を強く促す内容の「督促状」が送達される。

「督促状」を受けても納税されない場合には、国税庁、都道府県、市区町村の担当職員が、滞納している法人が取引している金融機関、法人などの財務調査を行う。

財務調査によって、差し押さえが可能な財産が存在することが判明すれば、法人に連絡を行った上で差し押さえが開始される。実際に担当職員が法人のもとに赴いて、現金や動産(調度品など)を差し押さえることもある。差し押さえた動産は、滞納した税金の支払いのために、競売にかけられて現金に換金される。

差し押さえを行っても、滞納している税金の額に達しない場合には、残りの滞納分をどのように納めるかについて、法人の責任者と相談することになる。

税金を滞納した場合は「延滞税」を支払わなければならない

差し押さえを受ける前に滞納した税金を納める場合、滞納している税金額を支払えばすべて終わりではない。納税期限を過ぎてから税金を納めるときには、原則的には期限の翌日から納付が完了するまでの間は、日数に応じて利息を支払わなければならない。これを「延滞税」と呼ぶ。

延滞税は、以下の場合に課される。

・確定申告等で定められた税額を法定納期限までに完納していない場合
・税金の納期限後に申告書や修正申告書を提出し、納付が必要なだけの税額がある場合
・更正や決定の処分を受けた場合に、納付が必要な税金がある場合

実際に課される延納税の額は、国税の場合は次のように決められている。

(1) 納付期限から2ヵ月以内の期間

原則として、滞納した税金に年「7.3%」をかけた金額が延滞税額となるが、滞納期間によって税額が異なるので、具体的には以下の割合を参考として欲しい。

2018年1月1日~2020年12月31日…年2.6%
2017年1月1日~2017年12月31日…年2.7%
2016年1月1日~2016年12月31日…年2.8%
2014年1月1日~2015年12月31日…年2.9%
2010年1月1日~2013年12月31日…年4.3%
2009年1月1日~2009年12月31日…年4.5%
2008年1月1日~2008年12月31日…年4.7%
2007年1月1日~2007年12月31日…年4.4%
2002年1月1日~2006年12月31日…年4.1%
2000年1月1日~2001年12月31日…年4.5%

(2) 納付期限から2ヵ月過ぎた期間

原則として、滞納した税金に年「14.6%」をかけた金額が延滞税額となるが、2014年1月1日以降は、年「14.6%」と「特例基準割合+7.3%」のいずれか低い方が適用される。

2018年1月1日~2020年12月31日…年8.9%
2017年1月1日~2017年12月31日…年9.0%
2015年1月1日~2016年12月31日…年9.1%
2014年1月1日~2014年12月31日…年9.2%

法人の財務調査とは?

税金を滞納すれば直ぐに財産が差し押さえられるわけではなく、まずは法人に対して税金の徴収職員が財務調査を行う。財務調査とは、具体的にどのような内容なのだろうか?

差し押さえは、法人の財産の所有権を強制的に奪う行為なので、たとえ納税の義務を果たしていない滞納であっても、手続きや調査基準が厳格でなければならず、法人が現在所有する財産を十分に調査する必要がある。また、法人固有の財産を調査するという極めてデリケートな作業でもあるため、「国税徴収法第141条」に基づいて実行される。

財務調査によって調べられる対象は、滞納している法人自身の財産はもちろん、法人に関係している官公署や金融機関、取引先などに対して以下の二つの調査を行う。

1つ目は、「身辺調査」だ。これは、調査対象法人の登記簿謄本など、経営に関わる帳簿を取得し、取引先や売上額の調査などを行う。つまり、法人に係る情報を取得する作業を行うことになる。

2つ目は、「財産調査」で、ここから本格的な調査が始まる。これは、預貯金の残高、取引の詳細の調査、不動産登記簿の取得、自動車の有無の調査、保険の加入の有無に関する調査、売掛債権などの財務に関わる調査をする。つまり、税金を滞納している法人が、どれくらいの金銭や財産を蓄えており、未回収の債権などが無いかを調べることで、差し押さえに足る財産があるか最終判断をする調査のことである。

ただし、全ての財産を差し押さえると、法人は今後事業を継続することができずに倒産することになりかねない。今後未払いの税金を回収できなくなる可能性もあるため、「国税徴収法第75条」では、業務に欠かせない財産など、差し押さえができない財産について規定されている。

事業の形態にもよるが、差し押さえを回避できる財産としては、例えば、業務用のパソコン、車両、資料などが該当する。また、業務を継続させるための運転資金も含まれる。また、事業における契約や取引に必要な実印も差し押さえることはできない。

法人が税金を支払えないと思ったら?

それでは、法人が税金を支払えないと思った時には、どうしたらいいのだろうか。

税金の支払猶予や減免について相談する

最も大切なことは、税金の支払いが困難であると判明した時点で、国税ならば国税庁に、地方税ならば都道府県や市区町村の窓口、もしくは税務署などにできるだけ早く相談に行こう。

税金を滞納し始めてから、財産の差し押さえを受けるまでに時間的余裕があるからと税金への対応を放置してしまうと、延滞税が課税されて納税額がどんどん膨らんでいく。そうなる前に、何らかの対応をしなければならない。

法人が、事業に著しい損失を与える火災や風水害などの被害を受けたといった特別な事情があった場合には、各々の事情に応じて税金減免を受ける事もできる。

また、納税をする事で事業の存続が難しくなる場合など、一定の要件を満たせば、税金の一括納付の猶予を受けることができる。「換価の猶予」や「納税の猶予」といったものであるが、許可を貰うためには、申請書の提出はもちろん納税の意思があることを示す必要がある。

税金の延納を相談する

滞納の理由が税金の減免の対象でない場合には、一括払いが難しい旨を伝え、延納(分割払い)を相談することもできる。この場合、返済計画の準備も行い、税金を支払う気持ちがあるという誠意を見せることも重要あ。

延納許可が降りたからといって、できるだけ早く滞納分の支払いを終わらせたいと、月々の支払い額をギリギリの金額で提示することは避けた方が賢明だ。もし、現在の状態よりも事業経営が悪化した場合、さらに分割払いの期間を延ばすことになり、再度相談する事態になりかねない。

ただし、延納の場合は、納税猶予と違って延滞税が引き続き課されるため、支払い期間については注意が必要である。

税金滞納は早めの対応が肝心

税金を納めることは、国民や法人の義務だ。税金を滞納することによって、遅れて納税する場合には延滞税を納入しなければいけないし、督促を無視して税金を滞納し続ければ、いずれは今まで築いてきた財産を差し押さえられる事態にも陥る。

もし、経済的理由などで一括して税金を納めることが難しい場合には、所定の手続きを行うことで、換価の猶予や納税の猶予を受ける事もできる。税金を滞納する前に、税金の支払いが苦しくなった時点で、早めに最寄りの税務署に相談しよう。

文・井上通夫(行政書士・行政書士井上法務事務所代表)

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