住宅手当とは?条件や支給額など経営者が知っておきたい基礎知識を解説
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澤田 朗
澤田 朗(さわだ・あきら)
日本相続士協会理事・相続士・AFP。1971年生まれ、東京都出身。日本相続士協会理事・相続士・AFP。相続対策のための生命保険コンサルティングや相続財産としての土地評価のための現況調査・測量等を通じて、クライアントの遺産分割対策・税対策等のアドバイスを専門家とチームを組んで行う。設計事務所勤務の経験を活かし土地評価のための図面作成も手掛ける。個人・法人顧客のコンサルティングを行うほか、セミナー講師・執筆等も行う実務家FPとして活動中。

従業員に対する福利厚生の中に住宅手当がある。従業員が負担する家賃や住宅ローンの一部を企業が補助する仕組みだ。今回は導入を検討する経営者に向けて、住宅手当の概要や支給要件、支給額などを説明していく。導入するメリット・デメリットなども参考にしてほしい。

目次

  1. 福利厚生の住宅手当とは?
    1. 住宅関連の補助
    2. 賃金の分類
    3. 住宅手当の支給要件は?
    4. 住宅手当は課税対象?
  2. 福利厚生の住宅手当に関する現状
    1. 住宅手当の支給状況は?
    2. 住宅手当の支給額は?
  3. 住宅手当がもたらすメリット・デメリット
    1. 企業の場合
    2. 従業員の場合
  4. 住宅手当は縮小・廃止傾向にある理由3つ
    1. (1)成果主義の普及と拡大
    2. (2)「パートタイム・有期雇用労働法」の施行
    3. (3)テレワークの浸透
  5. 住宅手当廃止時の留意点2つ
    1. (1)従業員の不利益にならないよう配慮する
    2. (2)個々の労働契約の見直し
  6. 福利厚生として住宅手当を導入している企業の事例
    1. 1.株式会社サイバーエージェント
    2. 2.クックパッド株式会社
    3. 3.グリー株式会社
    4. 4.オリンパス株式会社
  7. 住宅手当の申請に必要な書類
    1. 住民票
    2. 賃貸借契約書または登記簿謄本
    3. その他の添付書類
  8. 住宅手当の導入を成功させるポイント

福利厚生の住宅手当とは?

住宅手当は毎月支給される給与の一部である。まずは住宅手当の位置付けを他の手当と合わせて確認していく。

住宅関連の補助

・住宅手当

住宅手当は、持ち家の住宅ローンや賃貸住宅の家賃補助など、支給要件はさまざまである。住宅手当では、持ち家や賃貸住宅に関わらず、従業員の住宅費用の一部や全部を会社側が負担するという補助を行う。

・家賃補助

文字通り家賃を補助するもので、賃貸住宅に住んでいる従業員が補助対象となる。家賃の一部や全部を会社側が負担して補助するものであり、支給額は企業によってさまざまである。

・社員寮・社宅

企業が賃貸アパートやマンションを購入したり、不動産会社から賃貸物件を借り上げたりして、従業員に住宅を提供するものである。通常の賃貸物件よりも家賃を安くして提供することで、従業員の住宅費用の負担を間接的に補助する制度である。

・引っ越し手当

転勤や単身赴任時の引っ越し費用を補助することで、従業員の費用負担軽減を図るものである。勤務先により近い住宅への引っ越しを促すことにもつながり、企業にとっても通勤費を軽減できるメリットがある。

賃金の分類

住宅手当

※筆者作成

住宅手当は毎月支払う定例給与の所定時間内賃金に含まれ、生活補助給部門に区分される。家族手当や食事手当などと同様に、従業員の生活に必要な資金を補助する。

住宅手当の支給要件は?

住宅手当は企業によって支給要件が設けられるケースが多い。一般的な支給パターンは以下のとおりだ。

パターン1.一律支給

住宅の形態に関わらず一律で支給するパターンがある。

従業員が賃貸住宅に住んで家賃を支払っていたり、持ち家で住宅ローンを支払っていたりする場合などに支給する。

扶養家族の存在によって支給の有無や支給額が区分されることもある。

パターン2.住宅の形態に応じて支給

住宅の形態別に支給内容が変わるパターンもある。たとえば、賃貸住宅や持ち家に住んでいる場合に支給するケースなどだ。

持ち家の場合は賃貸住宅の場合と支給額が変わることもあり、一般的に賃貸住宅のほうが支給額は多い傾向だ。

この支給パターンでも、扶養家族の有無によって支給額が区分される場合もある。

パターン3.立場や生活環境に応じて支給

従業員の立場(正社員・派遣社員など)、扶養家族の人数、勤務先から居住地までの距離、居住地の家賃相場などによって支給要件が定められる場合もある。

住宅手当は課税対象?

現金で支給する住宅手当を含め、受け取った金額は従業員の給与として課税対象となる。賃貸住宅に住む従業員が家主と直接契約して家賃を負担している場合も同様だ。

では、企業が従業員に社宅や寮を提供している場合はどうだろうか。従業員から「賃貸料相当額」以上を受け取っていれば給与として課税されない。

賃貸料相当額は一定額の家賃であり、具体的には下記1から3の合計額をさす。

1.その年度における社宅等に関する固定資産税の課税標準額×0.2(%)

2.12円×社宅等の総床面積(㎡)/3.3(㎡)

3.その年度における敷地に関する固定資産税の課税標準額×0.22(%)

従業員に無償で貸している場合、上記の賃貸料相当額が給与として課税される。賃貸料相当額より低い家賃を受け取っている場合、受け取っている家賃と賃貸料相当額との差額が給与として課税される。

ただし、受け取っている家賃が賃貸料相当額の50%以上であれば、受け取っている家賃と賃貸料相当額との差額は給与として課税されない。

賃貸料相当額が3万円の社宅を従業員に貸し出す場合について考えてみよう。

パターン1.無償で貸し出す場合

3万円が給与として課税される。

パターン2.1万円の家賃を受け取る場合

賃貸料相当額3万円と家賃1万円の差額2万円が給与として課税される。

パターン3.2万円の家賃を受け取る場合

2万円は賃貸料相当額である3万円の50%以上となる。したがって、差額の1万円は給与として課税されない。

社宅等を提供する場合は、従業員の税負担も考慮しながら家賃設定を行うべきだろう。

福利厚生の住宅手当に関する現状

中小企業に関する住宅手当の現状や支給額の推移などをお伝えする。なお、東京都産業労働局による「中小企業の賃金事情」のデータを参考にした。

住宅手当の支給状況は?

住宅手当とは?条件や支給額など経営者が知っておきたい基礎知識を解説

過去3年の推移では約4割の企業が住宅手当を支給しているが、半数以上の企業は住宅手当の制度を導入していないことがわかる。

2010年と比較すると、住宅手当を支給している企業は若干減少傾向にある。

住宅手当の支給額は?

【総平均】(単位:円)

住宅手当とは?条件や支給額など経営者が知っておきたい基礎知識を解説

【一律支給】(単位:円)

住宅手当とは?条件や支給額など経営者が知っておきたい基礎知識を解説

【住宅の形態別支給】(単位:円)

住宅手当とは?条件や支給額など経営者が知っておきたい基礎知識を解説

過去3年間の総平均支給額は17,000円前後となっており、扶養家族がいるほうが多く支給されている。ただし、一律支給・住宅の形態別支給を見ると、最高額が80,000円で最低額が1,000円と支給額に大きな差がある。

住宅の形態別支給では、持家より賃貸のほうが多く支給されている。企業ごとに住宅手当の金額がばらついている。

※参考(東京都産業労働局「中小企業の賃金事情」)

https://www.sangyo-rodo.metro.tokyo.jp/toukei/koyou/r1tintyou_all.pdf
https://www.sangyo-rodo.metro.tokyo.lg.jp/toukei/koyou/30chingin_all.pdf
https://www.sangyo-rodo.metro.tokyo.jp/toukei/koyou/29chingin_all.pdf
https://www.sangyo-rodo.metro.tokyo.jp/toukei/pdf/chincho_22/pdf/all.pdf

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住宅手当がもたらすメリット・デメリット

住宅手当が企業と従業員にもたらすメリットとデメリットを説明する。

企業の場合

求人時にアピールをすることで人材を確保しやすくなるほか、従業員の退職防止やモチベーションアップにつながる。

各種手当の有無で企業を選択する求職者がいることも考えられる。住宅手当も雇用を安定させたい場合に役立つだろう。

一方、従業員の人数や住宅手当の額、支給基準などによって企業の負担が大きくなる。

導入後に制度を廃止すると従業員に不満が生じるため、導入前に制度の内容について吟味しなければならない。

従業員の場合

住宅費の支出が減ることで家計の負担を和らげられる。また、手当を他の支出に活用できるので、新入社員でも金銭面の不安を解消しやすいだろう。

ただし、制度の内容によっては実家から通勤している場合などに支給対象外となる。

また、住宅手当は給与として課税対象となるため、所得税・住民税と合わせて年金保険料・社会保険料の負担が大きくなる。

そのほか、転職をした場合に手当がなくなると、家計の収支を見直さなければならない。

住宅手当は縮小・廃止傾向にある理由3つ

最近では住宅手当を縮小、あるいは廃止する企業が増加している。その理由としては主に次の3つの背景が挙げられる。

(1)成果主義の普及と拡大

住宅手当は業務の成果の有無や大小に関わらず支給されるもので、成果によって報酬が変わる成果主義を導入している企業は、住宅手当を縮小、廃止する傾向にある。

(2)「パートタイム・有期雇用労働法」の施行

「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」いわゆる「パートタイム・有期雇用労働法」が2020年4月1日に施行され、2021年4月1日からは中小企業にも適用されている。

この法律では雇用形態によって「不合理な待遇差」があることを禁じているため、住宅手当を正社員のみに支給してパートタイマーや契約社員には支給しないということが、原則的にできなくなった。

(3)テレワークの浸透

働き方改革や2020年の新型コロナウイルス感染拡大による緊急事態宣言により、テレワークの導入推進が進められている。

在宅勤務によって通勤費用は減っているが、住居内の通信設備の購入や整備、勤務スペースの確保のためのレイアウト変更や備品購入など、テレワークによる支出に関しては社内手当が整備されていない。

このため、住宅手当という名目から在宅勤務に対する手当を支給する企業が、今後増加すると考えられる。

住宅手当廃止時の留意点2つ

住宅手当を廃止すれば、相対的に従業員の賃金は減少することになる。このため、住宅手当廃止にあたっては、次の2つの点に留意する必要がある。

(1)従業員の不利益にならないよう配慮する

住宅手当を廃止する代わりに在宅勤務に対する手当を支給するなど、支給目的を変更した代替案を示す必要がある。代替案が無い場合には、従業員や労働組合との交渉などが必要となる。労働組合と代替案を含めた協議を行った上で、従業員側が納得できる説明を行うことが重要だ。

(2)個々の労働契約の見直し

住宅手当などを廃止する際には、一律ではなく従業員ごとに労働契約を締結し直すことになるため、新たな手当や成果主義の導入など、従業員から同意を得られる案を提示するなどの配慮が必要である。

福利厚生として住宅手当を導入している企業の事例

ここまで住宅手当の概要を説明してきたが、具体的な導入事例を知るとさらに理解を深められる。実際に企業が導入している住宅手当制度を紹介しよう。

1.株式会社サイバーエージェント

「家賃補助制度 2駅ルール・どこでもルール」を導入している。オフィスの最寄駅から各線2駅圏内に住む正社員に月3万円を支払う。

勤続年数が5年を経過した正社員は、住所を問わず月5万円の家賃補助を受けられる。

2.クックパッド株式会社

オフィスから2km圏内に住む社員に毎月3万円を上限として住宅手当を支給。ただし、通勤手当(毎月上限3万円)や自転車通勤手当(毎月1万円)と併用することはできない。

3.グリー株式会社

通勤負担の軽減と健康維持の促進を目的として、会社が定めた近隣住宅補助対象エリアに住む社員に対し、家賃の5割にあたる金額(上限5万円)を毎月支給。

また、近隣住宅補助対象エリアの圏外から対象エリアに引っ越す場合も、初回のみ20万円を引越補助として支給している。

4.オリンパス株式会社

自宅から通勤できない社員に対して独身寮を提供。女性社員には女性専用独身寮や市中借り上げ物件も用意している。結婚5年未満の従業員は、新婚者用社宅を利用できる。

いずれも入居期間は5年間で、各事業所に1時間以内で通える。

住宅手当の申請に必要な書類

従業員が住宅手当を申請する場合には、主に次のような書類が必要となる。企業によって必要書類は異なるため、代表的な書類のみ紹介する。

住民票

従業員が住んでいる自治体の役所で入手する。住民票には世帯主の記載があるため、誰が世帯主なのかを証明するために必要となる。

賃貸借契約書または登記簿謄本

賃貸住宅の場合は入居時に交わす『賃貸借契約書』、持ち家の場合は『登記簿謄本』を提出する。いずれも自己名義で契約、所有していることを証明する書類である。

その他の添付書類

賃貸住宅の場合には、家賃の口座振替や引き落としが確認できる通帳の写し、持ち家の場合は住宅ローンの支払明細書などが必要となる。いずれも家賃、住宅ローンを支払っていることを証明する書類である。

住宅手当の導入を成功させるポイント

福利厚生の一環として住宅手当を提供する企業があるが、前述したデータの推移からその数は減少傾向だとわかる。一律支給による企業の負担増や、支給要件に対する不公平感の解消など要因はさまざまだろう。

いずれにせよ、一度導入した制度を廃止するときは注意したい。手当がなくなれば従業員の不満につながりかねないからだ。

他の福利厚生を充実させたり、基本給を上乗せしたりして、従業員が納得できる代替案を示さなければならない。

住宅手当は人材確保や従業員のモチベーションアップなどにつながる福利厚生制度だ。しかし、継続して提供できなければ意味がない。

導入する場合、他の福利厚生制度や諸手当の内容を考慮してから支給条件や金額を設定していく。特に、企業側の負担と従業員側の満足度を調整することが大切である。

以上の内容を参考に住宅手当の導入を検討してみてほしい。

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文・澤田朗(フィナンシャルプランナー・相続士)

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