事業承継
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後継者不足が深刻化する現代では、多くの中小企業が「誰が会社を引き継ぐか」という点に悩まされている。今や事業承継対策は、中小企業にとって喫緊の課題とも言える問題だ。本記事では事業承継対策の必要性に加えて、基本的な流れや方法などを解説していく。

目次

  1. 事業承継対策はなぜ必要?事前の準備が必要になる3つの理由
    1. 1.相続のトラブルを防ぐため
    2. 2.会社や事業を存続させるため
    3. 3.税金の問題を解決するため
  2. 特にこんな会社は対策が必要!
    1. 後継者がいない会社
    2. 相続人が複数いる会社
    3. 経営者が事業のすべてを担っている会社
  3. 事業承継対策の基本的な流れ
    1. 【STEP1】会社の現状を把握する
    2. 【STEP2】後継者を選ぶ
    3. 【STEP3】事業承継計画書を作る
  4. 事業承継対策で押さえたい3つのポイント
    1. 1.早めに取り組む
    2. 2.自社株式対策を行う
    3. 3.後継者の立場になって考える
  5. 早めの事業承継対策で、長く続く会社を目指そう

事業承継対策はなぜ必要?事前の準備が必要になる3つの理由

事業承継とは、自身が経営している会社・事業を後継者に引き継ぐことを指す。事業承継で後継者に引き継がれるものは、単に役職や仕事のノウハウだけではない。

たとえば、顧客や従業員はもちろんのこと、資金や株式なども引き継ぐ必要がある。人との信頼やお金が絡んでくるため、対策が不十分な場合はトラブルに発展することも多い。

そのようなトラブルを防ぐ手段としては、「事業承継対策」に取り組む方法が効果的だ。では、具体的にどのような理由で事業承継対策が必要になるのか、以下で詳しく解説していこう。

1.相続のトラブルを防ぐため

事業承継対策は、相続のトラブルを防ぐことにつながる。

裁判所が毎年発表している司法統計情報によると、2018年に家庭裁判所で取り扱われた遺産分割事件の総数は13,040件で、このうち調停が成立したのは6,683件。つまり、「誰が何をどのくらい相続するか」で多くの家庭が揉めているにも関わらず、当事者同士の話し合いで解決できた案件はその半分以下に留まっている。相続問題は、それだけ話し合いでの解決が難しいという証拠だ。

仮にこうしたトラブルで親族同士が揉めていたら、取引先や従業員はどう思うだろうか。事業を任せておくことが不安になり、次第に会社から離れてしまうだろう。また、相続トラブルの影響で銀行からの信用を失えば、今後融資をしてもらえなくなる恐れもある。これでは将来的に相続問題が解決しても、事業を続けていくことは困難だ。

このような相続トラブルを防ぎ、かつ周りからの信頼を失わないようにするには、「事前に誰に何をどのくらい相続するのか」を事業承継対策で明らかにしておく必要がある。

2.会社や事業を存続させるため

事業承継によって会社を存続させるには、これまで経営者が培ってきた多くのものを後継者に引き渡す必要がある。それは、今日明日ですぐにできるものではない。

たとえば、経営者に職人のようなスキルが求められる場合には、ノウハウの引き継ぎだけで数年単位の準備期間が必要になるだろう。規模がそれほど大きくない中小企業においても、事業承継に数年以上の時間がかかるケースは決して珍しくない。

仮に、承継が完了する前に経営者がケガ・病気などで倒れてしまえば、後継者は不安を抱えたまま経営にあたることになる。そうなっては倒産リスクが跳ね上がってしまうため、積み重ねてきたものを自分の代で終わらせないためにも、事業承継対策に取り組むことは必須と言える。

3.税金の問題を解決するため

相続税・贈与税が優遇される「事業承継税制」の実施によって、多くの中小企業は税金に悩まされることなく、事業承継を進められる状況になってきている。しかし、この事業承継税制の適用を受けるには、特例承継計画の策定や手続きなどが必要となるため、余裕をもって準備に取りかかることが重要だ。

また、仮に事業承継税制の適用を受けられない場合には、相続税・贈与税の負担が後継者に重く圧しかかる。経営面にも悪い影響を及ぼしかねないので、事業承継対策では承継後の資金計画・経営計画も考えておかなくてはならない。

特にこんな会社は対策が必要!

ここまで解説した通り、事業承継対策は中小企業にとって非常に重要なものだ。中でも以下に該当する会社は、早めに対策を始めなければ事業の継続が危うくなるだろう。

後継者がいない会社

現時点で後継者がいない会社は、早急に事業承継対策に取り組むことが必要だ。

東京商工リサーチが行った調査によると、2018年に休廃業・解散した企業は46,724社。多くは経営の悪化によるものだが、中には経営自体は順調でも後継者がいないために廃業に追い込まれた企業も存在する。

事業承継に失敗した会社が失うものは、事業用資産やノウハウだけではない。取引先に迷惑をかけるうえに、規模によっては多くの従業員が路頭に迷ってしまうため、早い段階で後継者候補を決めておく必要がある。

相続人が複数いる会社

相続人が複数いる会社も、早めの事業承継対策が必要になる。

相続人が複数いると、相続トラブルのリスクがどうしても高まる。さらに、意思決定や行動が速い点は中小企業の強みだが、相続人同士で揉めていると迅速な対応が難しくなるので、中小企業ならではの強みも失ってしまう。

複数の相続人が存在する場合は、すべての相続人が納得できる形で事業承継対策を進めることが重要だ。話し合いだけで長い時間を要するケースも多いため、基本としては長期的な計画が求められる。

経営者が事業のすべてを担っている会社

ワンマン経営に近い体制の会社も、事業承継対策に取り組んでおく必要がある。こうした会社では、取引先との関係が経営者個人を元にしていることが多い。そのため、経営者が急に亡くなったり、引退せざるを得なくなったりすると、取引先との関係性が崩れてしまう可能性があるのだ。

しかもこのような会社では、周囲からは事業承継対策を勧めにくい。事業承継対策を提案することは、経営者に対して「そろそろ引退を考えたほうが良いのでは?」と伝えることと同義であるためだ。したがって、経営者自身が事業承継対策について積極的に考えないと、倒産のリスクが高まってしまうだろう。

事業承継対策の基本的な流れ

ここからは、事業承継対策の具体的な流れを解説する。事業承継対策は、大まかに以下の3つの手順で進めていく。

【STEP1】会社の現状を把握する

まずは、会社の現状を把握する必要がある。それによって誰を後継者にすべきか、事業承継においてどのような課題が発生するかなどを、具体的にイメージできるようになる。

このステップで確認するべき点は、主に以下の6つだ。

・会社の資産と負債
・後継者候補
・現在の経営状態と今後の見通し
・取引先(顧客や銀行など)
・法定相続人
・経営者個人の資産状況

これらの点を整理することで、「相続でどのような問題が起きるか」「誰が後継者に相応しいか」「この状況で会社を継いでくれる人物がいるか」などの問題点が見えてくる。もし誰も会社を継ぎたいと思うような状況ではない場合、後継者の選定も難しくなるだろう。

早めに問題点を見つけ出し、それについての対策を進めることが求められる。

【STEP2】後継者を選ぶ

次に、後継者を選定する。後継者選びでは、子どもや兄弟などの親族から選ぶ場合と、会社役員などの親族以外から選ぶ場合、または会社を買い取ってもらうM&Aなどの方法がある。どの方法を選ぶにしても、経営者と後継者の意思確認と、周囲からの理解を得ることが重要だ。

・親族の場合

子どもや兄弟などの親族は、周囲に後継者として受け入れてもらいやすい。もともと従業員として働いていた親族であれば、経営者の考えや仕事の方法なども理解しているうえに、取引先との信頼関係も築けているだろう。さらに、長時間を要する「後継者の育成を始めやすい」という利点がある。

一方で、前経営者と後継者が親族であるために遠慮がなく、親族間の関係性を壊してしまう恐れがある。親族が継ぎたくなるような事業にしていくことも、経営者の大切な仕事のひとつだ。

・親族以外の場合

長年働いている役員や従業員であれば、事業の内容や経営方針などを十分に理解しているため、問題なく事業承継を進められるケースが多い。従業員を後継者にする場合には、まずは経営に携わる立場にしてから後継者に指名すると、周囲からの理解を得やすいだろう。

ただし、経営者個人に債務がある場合は、特に注意が必要だ。後継者が親族であれば、こうした債務の連帯保証人になることも仕方がないが、後継者が親族でない場合は多くのケースで抵抗感を示されるだろう。場合によっては、事業承継自体を拒否される可能性もある。

親族以外に事業を引き継がせる場合には、個人の債務は可能な限り減らしておくことが必要だ。

・M&Aの場合

親族にも親族以外の従業員にも事業を引き継げない場合は、「M&A」という選択肢がある。M&Aとは、第三者に会社の株式を売却し、会社・事業を丸ごと引き継いでもらう方法だ。株式の売却によって経営者が資産を得られるほか、従業員を解雇しなくて良い点がメリットと言える。

ただし、M&Aによる事業承継では、「魅力的な会社であること」が前提条件となる。そうでなければ興味を示す買い手が見つからないため、最終的には廃業に追い込まれることもある。

自社を売りに出す前に自社の価値を磨き、トラブルを事前に排除しておくことが重要だ。

【STEP3】事業承継計画書を作る

後継者を選んだら、「事業承継計画書」を作成する。

事業承継計画書とは、経営計画に事業承継計画や相続対策を追加したもの。計画書には、事業承継や税金などの問題を解決するために、「いつ・何をするべきなのか」を記載していく。事業承継には長い時間を要するため、基本的には長期の計画が必要だ。

また、計画書は定期的に確認し、通常業務と同時進行することが望ましい。難しい場合には、税理士や会計士といった事業承継に詳しい専門家に相談することも検討しておこう。

事業承継対策で押さえたい3つのポイント

最後に、事業承継対策のポイントを解説していこう。より良い形で事業承継を進めるには、以下の3つのポイントを押さえることが大切だ。

1.早めに取り組む

事業承継対策で最も重要なポイントは、「早めに取り組むこと」だ。

日本政策金融公庫の「中小企業の事業承継」によると、中規模企業の場合、47.4%が「後継者の育成には5年以上10年未満かかる」と回答している。全体的にも見ても9割の企業が「最低でも3年以上かかる」と答えており、後継者の育成には非常に長い時間が必要とされている。

どんなに優秀な経営者でも、年齢が上がるにつれて健康上のリスクは大きくなる。仮に事業承継対策をしっかりしないまま、急死や病気で経営ができなくなったらどうなるだろうか。従業員や取引先は、事業が継続できるのか不安に思うだろう。

そうならないためにも、事業承継対策は健康なうちから早めに取り組むことをおすすめする。

2.自社株式対策を行う

中小企業の事業承継対策では、「自社株式対策」が重要だ。

相続や贈与によって事業承継を進める場合、保有する自社株式の評価額を下げることで、支払う税金を抑えられる。評価額を下げる方法としては、従業員持株会や中小企業投資育成会社を活用する、役員退職金を支給するなど、いくつかの手段がある。

また、自社株式の税金対策については、行政の用意している制度を利用する方法もある。例えば、前述でも触れた「事業承継税制」は、中小企業にとって非常に心強い制度だ。一定の条件を満たしていれば、株式取得の際に発生する相続税・贈与税の支払いが猶予される。

さらに、自社株式購入の資金が足りなければ、事業承継補助金などを利用する方法もある。

3.後継者の立場になって考える

事業承継対策の原則として、「後継者の立場になって考えられているか」は強く意識しておきたい。従業員との関係性や会社の経営状態など、経営者には悩みが尽きない。こうした悩みをきちんと解決し、「後継者が力を発揮できる場所」を作れているか常に考える必要がある。

トラブルを未然に防ぎ、後継者自身が「引き継ぎたい!」と思える会社を作ることが、スムーズに事業承継を進めることへとつながるだろう。

早めの事業承継対策で、長く続く会社を目指そう

事業承継をスムーズに進めるには、さまざまな準備を整えておく必要がある。基本的には長期の計画が必要になるため、早めに事業承継対策を立てなくてはならない。

現時点で経営者の身体が元気であっても、いつ体調を崩すのか、いつ事故に遭うのかは誰にも分からない。どのような状況になっても困らないように、余裕のあるうちから事業承継対策に取り組んでおこう。

もしどうしても後継者が見つからない、育成がうまくいかないという場合は第三者への事業承継を検討しても良いだろう。他社への事業承継・M&Aについては専門家に相談しながら進めよう。

文・THE OWNER編集部

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