
インドネシアのエネルギー・鉱物資源相は6月29日、中国車載電池メーカーCATLと現地企業によるリチウムイオン電池工場の起工式に参列、「2026年内を予定している稼働時の年生産能力は6.9GWhであるが、将来、15GWhへ拡張する」と表明した。世界有数のニッケル埋蔵量を誇るインドネシアは2020年にニッケル鉱石の輸出を禁止、車載用電池の国産化をはじめEVサプライチェーン全体の現地化を進めている。外資誘致はその一環である。
さて、そのインドネシアであるが、自動車市場は決して好調とは言えない。2024年の新車販売台数(卸売ベース、以下同)は前年の100万台から13.9%減の86万台にとどまった。とりわけ、ガソリン車は前年比2割減と苦戦、ディーゼルも同1割減となった(インドネシア自動車製造業者協会)。背景には高金利と消費の伸び悩みがある。インドネシア大学の経済社会研究所(LPEM)によると2018年から2023年にかけて850万人以上の中間層が下位層に転落、結果、消費全体に占める中間層のシェアは4割近く縮小したという。
一方、ハイブリッド車(HEV)とバッテリー式電気自動車(BEV)に限れば、それぞれ前年比8%増、同122%増と好調を維持している。もちろん、全体のシェアは11.7%にとどまる。しかし、2021年が同0.36%であったことを鑑みると急成長ぶりは一目瞭然である。先週、筆者はインドネシアを訪問した。ジャカルタから南へ60㎞、西ジャワ州ボゴール市内、旧式のオートバイの群れをかき分けるように走っていたクルマはほとんどが日本車だ。ジャカルタ市内も同様だ。とは言え、市の中心部、海外のブランドショップが集積する大型商業施設「グランドインドネシア」のゲート付近では真新しいヒョンデの「IONIQ5」やBYDのSUVがやたらと目についた。
日本車は依然として新車販売の上位を独占、2024年のシェアは88%である。ただ、2021年が同94%、2022年92%、2023年91%と微減基調にある。EVは安い買い物ではない。都市部を除けば充電環境も十分でない。そんな状況下でEVを選択する層は、環境意識が高く、進取の気性に富んだ、中間層以上の都市在住者、ということになろう。90年代後半、世界初の量産型HEV「初代プリウス」を真っ先に支持したのは米西海岸の若きセレブたちだ。今、インドネシアの“彼ら”にとって日本車は“クール”であるのか。商品戦略とブランド戦略において、今こそ未来に向けて先手を打っておく必要がある。
今週の“ひらめき”視点 6.22 – 7.3
代表取締役社長 水越 孝