
東京証券取引所によると今年の株主総会の集中日は6月27日だ。とは言え、集中率は25.2%、1995年が同96.2%であったことを鑑みるとまさに様変わりだ。さて、今年は例年にも増して議決権行使の行方に注目が集まる。株主から提案・反対を突き付けられた企業は100社を越える。うち半数がアクティビスト(物言う株主)を含む機関投資家からのものであり、かつてシャンシャン総会などと揶揄された牧歌的な光景はもはやない。
取締役選任議案でファンドと会社側が対立するフジ・メディア・ホールディングス、日産車体との親子上場が問題視される日産自動車、社長再任の会社提案に対して創業家と筆頭株主が反対を表明した太陽ホールディングスなど注目銘柄は少なくないが、(株)エージーピー(AGP)にも関心が集まる。同社は国内主要10空港で駐機中の航空機に電力・空調を供給するJALの持分法適用会社であるが、筆頭株主JALは今回の総会に“株式併合による非公開化”を発議した。
これに対してAGP経営陣は「TOBを経ない非公開化は公正でない」と反対を表明、一方、JALに次ぐ大株主である日本空港ビルディングとANAはJAL案への賛同を表明済みだ。これら3社のシェアは71.14%、よって議案は株主提案どおり可決されることが確実である。しかし、ここで注目したいのはAGPが対抗措置として導入したMoM(マジョリティ・オブ・マイノリティ)議案の行方である。6月9日、同社はMoM議案に関する説明会を開催、株式併合の不実施に関する件(第7号議案)と株主提案による取締役就任の効力を生じさせない措置(第8号議案)に対する議決権行使を少数株主に呼びかけた。
少数株主の過半をもって可決されるMoM決議に法的拘束力はない。しかし、株式併合によって強制排除される少数株主の意見を公式な記録として残すことで「支配株主の今後の行動に一定の規律をもたらす」こと、「裁判所に対して不服申し立てを行う際の権利主張の根拠の1つとなる」ことなどが期待される。上場企業である以上、資本の論理にもとづくM&Aは避けられないし、買収側、被買収側、どちらの立場にもなり得る。いずれの側にあっても勝負の分かれ目は株主の賛同を得られるか否かだ。説得力のある成長ストーリー、高いガバナンス、株価、株主との丁寧な対話こそが自社の主張を通すための唯一の武器であり防波堤となり得る。6月26日、AGP少数株主の判断に注目したい。
今週の“ひらめき”視点 6.8 – 6.12
代表取締役社長 水越 孝