矢野経済研究所
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6月3日、政府は10年後の2034年度を政策達成の目標年次とする地方創生に向けての基本構想を公表した。新たな政策構想は石破首相が地方創生相時代に策定した総合戦略「まち・ひと・しごと創生法」(2014年施行)を引き継ぐもので、この5月22日に開催された“第9回新しい地方経済・生活環境創生会議”がとりまとめた「地方創生2.0 基本構想 骨子(案)」がベースとなっている。

旧政策が人口減少に歯止めをかけることを狙いとした一方で、新たな政策構想は“人口減少という事態を正面から受け止める”ことを前提とし、そのうえで経済成長と社会機能の維持をはかる、とする。目玉施策は「ふるさと住民登録制度」だ。専用アプリから好きな市町村を選んで登録すると地域住民と同様に公共施設の利用やイベントへの参加が可能になる。目標は1千万人、複数登録を可能とすることで延べ1億人の関係人口の創出を目指す。

新制度の狙いは言うまでもなく“移住予備軍の拡大”にある。ただ、あえて完全な定住をゴールとする必要はないと筆者は考える。“魅力ある地域”とは小さなトーキョーではない。すべての地域が訪日外国人の誘客増をはかる必要はないし、DX・GXのイノベーションモデルを目指す必要もない。ましてや、誰もが産官学共創拠点発の起業を夢みているわけではない。多様な人材が都市と地域、地域と地域間を循環する可変的な社会制度をこそ構想すべきではないか。

当社においても地方創生支援は重要なテーマであり、従来から地場産業振興、観光資源開発、新産業創出、企業誘致、中小企業の販路開拓・海外進出支援等に取り組んでいる。今、注目しているのは“郷土”ゲームを通じた地方の再興だ※。地方には特定地域や特定集団の中に伝承されてきた独特の“遊び”文化がある。それらはまさに地域の暮らし、生業、歴史の一部であり、地域の自立と自由の象徴でもある。筆者はそんな地方の未来を応援したい。政府は月内に基本構想を閣議決定し、2025年度内に“総合政策”に落とし込むという。既存の行政区分、所管官庁の枠組み、既得権益のしがらみを越えた大胆なソリューションに期待する。

今週の“ひらめき”視点 6.1 – 6.5
代表取締役社長 水越 孝