
◆新工場と冷食展開で、国産バレイショの持続的供給体制を構築へ
カルビーグループはこのほど、冷凍食品事業への本格参入を発表した。しれとこ斜里農業協同組合と共に北海道・斜里町に新工場を建設し、2027年度内に家庭用の冷凍スナック「ポテりこ」の生産を開始する。現在約10億円規模のグループ冷凍食品事業を、早期に100億円へ拡大する計画だ。
グループ内で原料バレイショの安定調達・供給を担うカルビーポテトの田崎一也社長は、「日本のバレイショ産業をわれわれがリードしていく。最終的には原料バレイショで国産100%をめざす」と語る。

――カルビーポテトの社長就任までを振り返って
1991年にカルビーへ入社して以来、営業畑を歩んできた。各エリアの支店長を経験し、営業本部長、上級執行役員を経て、常務執行役員に任命された。2017年の“ポテチショック”発生時はカルビーで営業のトップとして、生産商品を絞るなど対応にあたっていたが、一連の騒ぎはメディアへの情報の出し方を含めて事前に防ぐことができたものという考えがあった。そのことは今も自分の中に苦い記憶として残っている。
この出来事が、カルビーグループのビジネスモデルは、原料がなければ立ち行かないと痛感する機会になり、それならば自分の手で立て直したいと思っていたため、カルビーポテトの社長職を引き受けた。
――それからどのような取り組みを
現在、カルビーグループでは国産バレイショの約19%を使用している。その供給を安定させるため、さまざまなリスクの低減に努めてきた。
例えば道内の産地で最も大きい十勝エリアの畑をさらに広げつつ、網走など他のエリアにも畑を広げ、大幅に増産できる見込みが立ってきた。昨年、十勝エリアは干ばつ気味だった一方、網走や上川は天候に恵まれた。同じ十勝内でも畑によって状況は違う。そうなると、これまでお世話になってきた産地との関係を継続しながら、新しい産地を開拓する必要が出てくる。九州や東北でも同様に、新しい産地を増やしていきたい。
――どのような方法で
前提として、生産者が前向きに生産できる環境を整える必要があると考えている。例えば収穫したバレイショを畑からそのまま移動し、貯蔵庫前で選別作業を行えるようにした。そうすれば一連の作業を少ない人数で行うことができ、現場の負担軽減につながる。直近では貯蔵庫前選別の割合が約3割まで高まってきた。
また、昨年は十勝で5カ所目となる幕別支所を開設し、1室あたり1000トン、全体で1万トンの貯蔵能力をもつ道内最大規模の倉庫の運営を担っている。温暖化の影響をふまえて10室中5室に冷蔵設備を導入した。
5年、10年前までの北海道は、夜になると気温が下がるので、外気を入れれば庫内の温度を保つことができた。しかし温暖化の影響で一昨年あたりから夜間も外気が暑くなり、コントロールできなくなっている。
われわれの事業はバレイショの貯蔵庫がないと成り立たない。今、所有する倉庫は1980年頃に建てたものが多く、道内には200強の貯蔵部屋がある。これから順次、冷蔵設備を導入していきたい。
――バレイショの品種開発について
主要バレイショのひとつトヨシロは、優秀な品種だが病害虫(シストセンチュウ)への抵抗性がないため、近年の気候変動で腐敗などが出やすくなっている。その減収分に代わってシストセンチュウへの抵抗性がある独自品種の「ぽろしり」を提案し、選んでくださる生産者が増えてきた。
供給リスクに備えて今も一部の商品で輸入イモを使っているが、最終的には原料バレイショを国産で100%賄えるようにすることが理想だ。産地と一丸となって今取り組んでいることを愚直に推し進めていけば、実現できるだろう。
これから国産バレイショの収量を増やし、それをスナック菓子だけでなく冷食領域まで広げていく。冷食はスナックよりも賞味期間が長い。ある程度、在庫を持てるので廃棄リスクを減らせる。
――経営体質の強化につながる
そうとも言える。北海道産のバレイショをスナック菓子の原料として通年で使い続けることはできないが、冷食用であれば1~2年冷凍保存ができる。
スナック菓子で培ってきた製造技術やブランド力を生かし、付加価値化を推し進めていきたい。日本には素晴らしい冷凍食品がたくさんあるが、われわれは価格を含め、今市場にあるものと同質化して競争するつもりはない。
まずは多くの方に食べていただけるよう、直営店で販売しているホットスナックの「ポテりこ」を入り口にする。家庭用・業務用商品として量産し、2028年中からの全国発売をめざす。

――生産量や仕様は
知床斜里町の新工場が稼働すれば、従来の10倍近く「ポテりこ」を生産できる。家庭用製品の中身は、業務用と若干異なるものになるだろう。というのも、直営店では油調理、家庭では電子レンジというように、調理方法が違う。そのあたりを考慮して試作を重ね、入数などを検討していく。
業務用ルートとしては外食市場、特にファミリーレストランや居酒屋業態で拡販できそうだ。今も一部の店舗で期間限定メニューとして「ポテりこ」が採用されており、通年化を求める声や反響は大きい。
――国内ではフライドポテトの需要が大きい
日本にはアメリカやベルギー産の輸入ポテトが多く、これらは価格競争になりがちだ。これに対してわれわれは国産バレイショを使い、徹底的に品質にこだわった商品を提案し、差別化を図っていく。
世の中にあるフライドポテトを作ろうと思えば、今あるバレイショの品種を使って作ることはできるが、それらとは異なる食感や味わい、香りを出すために工夫が必要だ。場合によってはバレイショの新品種を開発する必要もあるだろう。
――今後の目標は
引き続き国内のバレイショ産業をリードする存在として、生産者と消費者の橋渡し役をしっかりと務めていきたい。われわれの商品を通じて世の中と日本、そして生産者、消費者に貢献できるように努めていく。