12月2日、従来型健康保険証の新規発行が停止された。現行保険証は1年、マイナ保険証に代わって交付される「資格確認書」は最長5年、それぞれ猶予期間が与えられるものの、実質的に従来型の健康保険証は廃止され、「マイナ保険証を基本とする仕組みに移行」(政府広報)した。
2017年にスタートしたマイナンバーカードの交付率は2020年3月時点で15%と低迷、普及促進に向けて同年9月から「マイナポイント事業」を展開する。予算規模は2兆円だ。それでも交付率が50%程度と伸び悩む中、2022年10月、河野デジタル相は唐突に従来型保険証の廃止を宣言する。これが反発を呼ぶ。国民皆保険制度を人質にとった “取得の強制” に対する批判が噴出するとともに拙速な政策決定による現場の混乱が顕在化する。こうした状況を受け、与党内でも見直しが取り沙汰されることになる。
結局、既定路線どおりに始まったわけであるが、そもそも内閣府は2017年に公表した “マイナンバーカード導入後のロードマップ(案)” に、健康保険証について「2018年度から段階的運用開始」と書き込んでいる。もちろん、これは “案” であり、また、スケジュール的にも無理があると言えるが、何故、その時点で “任意から義務化へ” に関する法改正を提議しなかったのか。ここでボタンの掛け違いを修正しておけば多額の税金をポイントや広告宣伝費に投じる必要もなかったし、より丁寧な制度設計に十分な予算と時間を割けたはずだ。
この過程で看過できないもう一点は、「紙の保険証による不正利用は年間数百万件」との言説がSNSで拡散、これが世論誘導に援用された点である。しかし、根拠とされた研究論文は「不正の多くは単純な番号ちがいや資格停止後の利用」と説明しており、実際、この問題に対する国会審議では「加入者2500万人の市町村国民健康保険において、2017年から2022年の5年間に確認された “なりすまし受診” や偽造などの不正は50件」と厚労省大臣官房審議官が答弁している。つまり、強調すべき便益はそこではないということであり、導入の正統性を “より良い医療の提供” という被保険者の利益として説明し切れなかったところに、ボタンの掛け違いを修正することなく突き進んだマイナ保険証の不幸がある。
今週の“ひらめき”視点 12.1 – 12.5
代表取締役社長 水越 孝