10月24日、老舗家電メーカー「船井電機」が東京地裁から破算手続きの開始決定を受けた。1990年代から2000年代にかけてOEMメーカーとして確固たるポジションを築いた同社であるが、液晶テレビ市場における中国メーカーの台頭、AV機器の需要構造変化の中、2004年度に3500億円を越えていた売上高は2017年度には1300億円台へ急落する。苦境を打開すべく、同年からヤマダデンキ向けに液晶テレビの独占供給を開始するが業績は回復せず2021年度の売上は696億円まで落ち込んだ。
ヤマダデンキとの提携に再建を期したその2017年、創業者が逝去、株式を相続した遺族は秀和システムグループの上田智一氏に経営を託す。2021年、同グループはTOBにより経営権を取得、同年8月、船井電機を非上場化、2023年3月に資本関係を再編、船井電機は「船井電機・ホールディングス」の傘下企業として再出発することとなる。
新体制へ移行するとホールディングスは、船井電機の資産を担保に脱毛サロンチェーン「ミュゼプラチナム」を買収する。しかし、わずか1年たらずで同社は金融関連事業者に譲渡される。問題はここだ。この過程でミュゼの未払広告代金22億円に船井電機が連帯保証を付けていたことが発覚、役員の入れ替わりも続き、9月には上田氏が退任、そして、破算に至る。ミュゼについては銀行借入に対しても簿外で保証がつけられていることも判明、その他関連会社貸付を合わせると300億円を越える現預金が船井電機から流出していたという。
ミュゼに関する経緯の真意は不明である。とは言え、結果的に船井電機の信用と資産が食い物にされたことに異論はあるまい。そして、今、後継者難を背景に活況を呈する中小企業のM&A市場でも被買収企業の資産奪取を狙ったM&Aが表面化しつつある。これに対し中小企業庁は “中小M&Aガイドライン” やM&A支援機関の登録制度を創設、M&A仲介の業界団体も不適切なM&Aの排除に乗り出す。かつて、ITバブルの崩壊前後、仕手筋をはじめとするグレーな資金が資本市場に流入、脆弱な新興上場会社をターゲットとしたM&Aが社会問題化した。中小企業のM&Aが地方の雇用維持と産業界の活性化に資することは言うまでない。悪質な買手の流入を阻止すべく官民は早急に策を講じていただきたい。
今週の“ひらめき”視点 10.27 – 10.31
代表取締役社長 水越 孝