資本準備金
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企業の経営活動にともなう多額の支出や損失に備える資金として、資本準備金の積み立てが企業の会計処理で認められている。ただ、類似する勘定科目があって紛らわしいので注意したい。今回は、資本準備金の概要をはじめ、基礎知識やメリットを解説する。

企業のバランスシートにおける資本準備金

資本準備金は、企業の経営活動にともなう将来の支出や損失に対する備えをさす勘定科目である。まず、バランスシート(貸借対照表)について説明しよう。

バランスシートとは?

バランスシートは、企業の決算日時点における財政状態を表す書類だ。財政状態とは、どのような形で資金調達・資産運用されているのかを一元的に表したものである。

バランスシート

要素1.資産

資産とは、企業が経営活動する際に直接活用する財産だ。現預金や売掛金、有価証券、土地建物などの目に見える財産だけでなく、知的所有権などの目に見えない財産もある。

要素2.負債

負債とは、企業が第三者から借りる形で調達した資金をさす。具体的には、借入金や買掛金、支払手形などが該当し、すべて返済が必要だ。

要素3.純資産

純資産とは、原則として返済義務のない企業資金である。純資産の構成内容は資本金、資本剰余金、利益剰余金の3種類に分かれる。

資本金とは、出資者が会社に払い込んだ資本金額の一定額を会社財産として保有した金額である。債権者のために会社の財産を保護することを目的としている。

剰余金は、純資産額が法定資本の額を超えた金額をさす。資本剰余金は資金取引で生じた剰余金額、利益剰余金は税金支払い後に残った利益を企業の内部に蓄積した金額である。

資本準備金の性質

資本準備金は、将来的に見込まれる多額の支出や損失に備える積立金である。

似た勘定科目に引当金もあるが、これは当期の期末日までに見込まれる支出や損失に備えたものだ。一方、資本準備金は期をまたぐ将来的な支出や損失の発生に備える点が大きな違いである。

資本金・資本準備金・資本剰余金の勘定科目での違いを把握

資本金・資本準備金・資本剰余金は呼び名が類似している勘定科目だが、運用目的や意味合い、法律的根拠などが異なる。

勘定科目1.資本金

資本金に関しては、会社法第445条第1項の条文で以下の根拠が設けられている。

“株式会社の資本金の額は、この法律に別段の定めがある場合を除き、設立又は株式の発行に際して株主となる者が当該株式会社に対して払込み又は給付をした財産の額とする”

資本金は債権者保護の観点から一定額以上の会社財産を保護することを目的とし、原則株主が会社に対して払い込んだ額が資本金になる。

ただし、資本金は事業規模の拡大にともない増加させる必要はない。資本金を増額する場合は、株主総会の普通決議が必要となる。

さらに株主が払い込んだ全額を資本金として計上しなくてもよい。資本金を減額する場合は、株主総会の特別決議に加えて債権者保護の手続きも必要となる。

勘定科目2.資本準備金

資本準備金に関しては、会社法第445条第2項および3項の条文で、以下の根拠が設けられている。

“資本金の払込み又は給付に係る額の2分の1を超えない額は、資本金として計上しないことができる”
“資本金として計上しないこととした額は、資本準備金として計上しなければならない”

将来的に見込まれる多額の支出や損失の発生に備えた積立額が資本準備金だが、その原資を資本金総額の2分の1の範囲内で調達できる。

すなわち、株主から払い込まれた額のうち2分の1以内の金額を資本金とは別の目的で保有し、将来のリスクに備えられる。

家計で子供の養育費や家の購入費を貯めつつ、それとは別に将来の災害発生や所得変動などに対応できるよう預貯金として保有するケースと似ている。

勘定科目3.資本剰余金

資本剰余金は、資本準備金に資本取引から生じた剰余金額を加えた額をいう。

資本取引から生じた剰余金額は、自己株式を処分した際に生じた売却益(実際の売却価格と帳簿上の価格との差)や、資本が増加した場合に資本金および資本準備金に含めなかった金額などである。

資本剰余金に関しては、会社法第453条の条文で以下の根拠が設けられている。

“株式会社は、その株主(当該株式会社を除く。)に対し、剰余金の配当をすることができる。”

すなわち、資本準備金を除いた資本剰余金が株主に対する配当原資となる。配当を手厚くしたい場合には、資本金や資本準備金を取り崩し、資本剰余金を増やすことも可能だ。

資本準備金を増減させるときの手続きは?

資本準備金は増減させることが可能だが、いずれの場合も一定の手続きが必要である。

資本準備金を増額させる場合の手続き

資本準備金を増額させるケースとして、資本金と資本剰余金(資本準備金を除いた金額部分)からの組み入れが考えられる。

資本金から組み入れる場合は、株主総会での特別決議が必要だ。特別決議は、会社の解散や合併、事業譲渡、資本減少など会社経営の根幹にかかわる議案に関する取り決めをさす。

議決権の過半数に及ぶ株主が出席したうえで出席株主における議決権の3分の2以上の賛成が必要となる。定款に定めがある場合は、議決権の割合がそれぞれ変わる。

資本剰余金から組み入れる場合は、株主総会での普通決議が必要だ。普通決議は、取締役や監査役の選任、利益処分などの会社経営に関する通常の議案に関する取り決めである。

議決権の過半数を有する株主が出席したうえで過半数の賛成が必要となる。

資本準備金を減額させる場合の手続き

資本準備金を減額させるケースとして資本金と資本剰余金への組み入れが考えられる。いずれの場合も原則、株主総会での普通決議に加えて債権者保護の手続きが必要だ。

株主総会の普通決議では、下記の事項を決定する。

・減少する資本準備金の額
・減少する資本準備金の額の全部もしくは一部を資本金に組み入れるときは、その旨と金額
・資本準備金の減少の効力が発生する日

ただし、資本準備金の減少と同時に資本金の増額手続きをするなら話は別だ。効力発生日以降の資本準備金額が効力発生日前の額を下回らない場合は、株主総会を開催せずに取締役会で決定できる。

債権者保護の手続きに関しては、下記の内容を官報に公告したうえで企業が認識している債権者に催告する。

・資本準備金額の減少の内容
・最新の貸借対照表もしくはその内容が掲載されている場所
・債権者が一定の期間内(1ヵ月以上)に異議を申し立てできること

認識している債権者が存在しない場合でも官報への公告は必要だ。なお減少させる資本準備金の全額を資本金に組み入れる場合は、債権者に対する不利益が存在しないため、債権者保護の手続きは不要である。

資本準備金の増減と登記手続き

資本準備金は登記事項ではないため、資本準備金の増減に対する登記変更は必要ない。

ただし、資本準備金の全部もしくは一部を資本金に組み入れたり、資本金の一部を資本準備金に組み入れたりすることで資本金額が変動した場合、効力発生日から2週間以内に変更登記の申請が必要だ。

資本準備金を積み立てるの3つのメリット

資本準備金を積み立てるメリットは下記のとおりだ。

・赤字を補てんしやすくなる
・資本金を増額しやすくなる
・節税効果が得られる
・金融機関からの融資を受けやすくなる

メリット1.赤字を補填しやすくなる

企業の決算が赤字に陥った場合、金融機関や取引先などからの信用が低下し、株価が下落することもある。対策として下記の2つの方法がある。

・売上増加によって黒字化する
・バランスシート上の利益剰余金の累積欠損を補填する形で赤字を解消する

ただし、売上を増やすことは容易ではない。また、資本金を原資とした利益剰余金の欠損補填を行う場合も、株主総会の特別決議や債権者保護、登記変更の手続きが煩雑だ。

しかし、資本準備金を原資とすれば、株主総会の普通決議と債権者保護の手続きだけで済む。

メリット2.資本金を増額しやすくなる

資本金を増額させることで企業の財務体制が安定し、金融機関や取引先などからの与信力が高まる。企業が資本金を増額する場合は、以下の2つの方法がある。

・一般株主から資本の払い込みを募集する(株式売却)
・資本準備金の全部もしくは一部を資本金に組み入れる

一般株主による資本の払い込みは企業の思いどおりにはいかない。

しかし、資本準備金の全部もしくは一部を資本金に組み入れることで資本金額を増やす方法は、株主総会の普通決議だけで済む。

メリット3.節税効果が得られる

企業に対する課税は、資本金額によって仕組みが変わる。具体的には以下のような違いだ。

・消費税に関して、資本金額が1,000万円未満の場合は、設立後2年間は納税が免除される
・法人住民税の均等割額に関して資本金額1,000万円を境に金額が変わる
・資本金額が1億円以下の場合は中小法人と見なされ、年間所得が800万円以下である場合は法人税率が軽減されたり、企業規模を基準とする外形標準課税の対象から外れたりする

資本金の一部を資本準備金に組み入れて資本金を少なくすることで節税効果を得られる。

メリット4.金融機関からの融資を受けやすくなる

バランスシート上の純資産は、返済不要な金額である。そのため、純資産の比率や金額が大きいほど、財務体制が健全に近づき、第三者からの信用力が向上する。

結果として金融機関から融資を受けやすくなり、事業競争力が強化される。

資本準備金の取り崩しの事例2選

会社の財務体制を健全化するために、資本準備金を取り崩してから累積欠損を補填した事例がある。

事例1.株式会社ユーグレナの資本準備金の取り崩し事例

株式会社ユーグレナ(東京都港区)は、ミドリムシに含まれる59種類の栄養素を活かした健康食品や化粧品の販売、健康サポートに関する事業を展開している。

さらに事業拡大を図る目的でミドリムシ由来の航空機向けバイオジェット燃料やバイオディーゼル燃料の研究開発なども行ってきた。しかし、本業の柱である健康食品の販売が伸び悩みを見せ始める。

さらに2020年度に事業化を目指していた航空機向けバイオジェット燃料に関して実証プラント建設計画の立ち遅れなどによる先行投資負担が重たくなる状況が生じた。

そのことが原因で、2018年度決算で大幅な赤字を計上し、バランスシート(貸借対照表)上の繰越利益剰余金額が大幅なマイナスとなった。

この状況が改善しない場合、株価下落(時価総額の減少)などで経営リスクが発生するため、2019年12月20日時点で118億8,010万7,432円あった資本準備金のうちの96億5,586万3,592円を取り崩した。

そのほか、資本剰余金への振替を行い、繰越利益剰余金の累積欠損96億5,586万3,592円と相殺する形で欠損補填を行った。

結果として、資本準備金は22億2,424万3,840円に減少したが、繰越利益剰余金の累積欠損が解消された。

事例2.東芝テック株式会社の資本準備金の取り崩し事例

東芝の連結子会社である東芝テック株式会社(東京都品川区)は、事務用機器を中心とした電気通信機器類の製造および販売の事業を展開している。

東芝テック株式会社は、2012年に米IBM社からPOS(販売時点情報管理)システム事業を買収してPOS業界に関する世界シェア1位を目指した。

しかし、2016年3月期に海外POS事業に関して多額の損失が発生し、当期の決算で1,000億円強の連結最終赤字に陥った。

財務体制の健全化が急務となった東芝テック株式会社は、2017年3月31日時点で491億8,313万9,905円あった資本準備金を全額取り崩してその他資本剰余金への振替を行い、それと別途積立金をあわせた749億7,098万716円を繰越利益剰余金の欠損補てんに回した。

ちなみに、繰越利益剰余金は当期決算時点でマイナス924億円にまで膨らんでいた。結果として資本準備金額は0となったが、繰越利益剰余金の累積欠損が175億円にまで縮小し、財務体制健全化への道筋を見出すことができた。

資本準備金を正しく理解し経営リスクに備える対応を

債権者としてのリスクを緩和させる目的で企業は資本金を備える。一方、資本準備金は企業の財務体制を安定させるのに役立つ。資本準備金を積み立てることで経営リスクに対応できる余力を残しておきたい。

文・大庭真一郎(中小企業診断士)