役員年収
(画像=Andrey_Popov/Shutterstock.com)

企業経営者が企業を経営するにあたり、気になる点のひとつに役員年収がある。自分とともに企業を経営していく役員には優秀な人材が欲しい。しかしながら、昨今は人材の流動化が進み、優秀な人材ほど転職市場では引く手あまたである。

優秀な役員を自社にとどめておくためにも、現在の役員年収の実態や相場をつかんでおく必要があるだろう。さらに役員退任後の処遇についても考えておかねばならない。今回は役員年収と退任後の処遇をテーマに解説しよう。

中小企業の役員年収の実態

中小企業の役員年収の実態を把握するために注意したいのが、一般的に使われている中小企業の定義である。経営者に必要なのは、自社と競合するような同業者や自社の役員のスキルと能力を必要とする業界を超えた他企業の実態である。

中小企業庁では、中小企業の定義を中小企業政策の対象範囲の基準として、「資本金額または出資金額」と「従業員数」で下記のように定義している。

業種分類中小企業基本法の定義
製造業その他資本金の額又は出資の総額が3億円以下の会社又は
常時使用する従業員の数が300人以下の会社及び個人
卸売業資本金の額又は出資の総額が1億円以下の会社又は
常時使用する従業員の数が100人以下の会社及び個人
小売業資本金の額又は出資の総額が5千万円以下の会社又は
常時使用する従業員の数が50人以下の会社及び個人
サービス業資本金の額又は出資の総額が5千万円以下の会社又は
常時使用する従業員の数が100人以下の会社及び個人

※引用元:中小企業庁ホームページ「中小企業者の定義」

中小企業庁の定義でもわかるように、中小企業を表す範囲は広い。さらに、法律や制度、言葉として使用される場面によって、範囲が異なる。たとえば、法人税法の中小企業軽減税率の適用範囲は「資本金1億円以下の企業」となっている。

中小企業経営者が、自社の人材戦略の参考になる中小企業の役員年収の実態を把握するためには、公表されているデータの内容から、自社の規模や実態に合った数値をピックアップし考察する必要があるだろう。

今回の記事では、中小企業庁の中小企業基本法の定義を参考に、資本金額などのランクごとに役員年収の実態をまとめている。データは国税庁がまとめた「民間給与実態統計調査結果」から抜粋した。資本金額のランクは「2,000万円未満」「2,000万円以上」「5,000万円以上」「1億円以上」の4ランクのデータを掲載するので、自社の実態に合わせて検証してほしい。

中小企業の役員平均年収額は?

国税庁がまとめた「2018年民間給与実態統計調査結果」では、456万2,000人の企業役員のデータを取りまとめている。まず初めに、資本金額のランクごとに対象人数が多い役員年収をピックアップしてみていこう。

資本金額/人数合計1位:年収/人数2位:年収/人数3位:年収/人数
2,000万円未満/
180万5,768人
300万円以下/
25万1,358人
200万円以下/
23万5,899人
400万円以下/
20万7,823人
2,000万円以上/
44万4,397人
1,500万円以下/
7万331人
400万円以下/
4万3,109人
600万円以下/
4万480人
5,000万円以上/
15万8,514人
1,500万円以下/
2万6,328人
2,000万円以下/
1万5,562人
300万円以下/
1万4,783人
1億円以上/
11万71人
1,500万円以下/
2万5,473人
2,500万円超/
1万2,491人
2,000万円以下/
1万1,424人

※国税庁 2018年民間給与実態統計調査結果 第6表 企業規模別及び給与階級別の総括表(役員)のデータより作成。給与(1年間の支給総額)を年収として使用。

資本金額ごとの役員人数合計

役員総数456万2,000人を対象としたデータのうち、資本金額2,000万円未満の役員数が約180万人で、これは役員総数の約4割を占める。資本金額が大きくなるにつれ対象役員数は減っている。

資本金額ランクごとの対象人数が多い役員年収

上記の表は、2018年民間給与実態統計調査結果をもとに、資本金額ランクごとに対象人数が多い年収上位3位をまとめたものだ。ざっと目を通しただけでも、資本金額ランクによって、役員年収に大きな差があることがわかるだろう。中小企業役員といっても、年収は300万円以下から2,500万円超と格差があるのだ。

資本金額2,000万円未満の中小企業では年収200万円~400万円以下が上位3位までを占め、表には記載はないが、4位である年収500万円以下の20万3,048人を加えると、年収200万円~500万円以下割合は、総数の約半数を占める。

一方で、資本金額が2,000万円を超えた企業は、資本金額ランク「2,000万円以上」「5,000万円以上」「1億円以上」のいずれも、年収1,500万円以下が対象人数の多い年収1位となっている。資本金額が2,000万円を超えた企業の役員年収のポイントは1,500万円という金額であることが予測される。しかし、資本金額「2,000万円以上」「5,000万円以上」のランクでは、年収300万円~600万円の人数も上位3位の中に入っており、各企業によりばらつきがあることも想定されよう。

資本金額が「1億円以上」の企業の役員年収は、1位1,500万円以下、2位2,500万円超、3位2,000万円以下となり、高年収が実現している。

資本金額のランクごとの役員平均年収額

2018年民間給与実態統計調査結果をもとに、資本金額ごとに役員平均年収額をピックアップしてまとめたのが下記の表である。

資本金額2,000万円未満2,000万円以上5,000万円以上1億円以上
役員平均年収額605.0万円850.5万円1093.5万円1392.2万円

※国税庁 2018年民間給与実態統計調査結果 第6表 企業規模別及び給与階級別の総括表(役員)のデータより作成。給与(1年間の支給総額)を年収として使用。

「中小企業の役員年収はいくらか?」という問いをインターネットで検索すると、「平均年収額」が表示されていることが多い。ちなみに資本金額ごとではなくトータルでの2018年度の中小企業の役員年収は「686.9万円」となっている。

多くのメディアで紹介されているデータは、平均値のみが表示されている。資本金額ごとのデータが掲載されている場合でも、上記のような平均値のみが示されているケースがほとんどであろう。

しかしながら、企業経営者が自社の人材戦略の参考になる中小企業の役員年収の実態を把握するためには、平均値だけでは不十分であるような気がする。年収のようにばらつきがあるデータでは、平均値は実態を表す数値として十分であるとはいえない。そこで、「平均年収」をより実態のあるデータに近づけるために、前述の「資本金額のランクごとに対象人数が多い役員年収」の表と、平均年収をミックスしたものが下記の表である。

資本金額1位:年収ランク/
平均年収
2位:年収ランク/
平均年収
3位:年収ランク/
平均年収
2,000万円未満300万円以下/
258.1万円
200万円以下/
144.8万円
400万円以下/
354.4万円
2,000万円以上1,500万円以下/
1216.2万円
400万円以下/
358.2万円
600万円以下/
567.2万円
5,000万円以上1,500万円以下/
1216.8万円
2,000万円以下/
1712.2万円
300万円以下/
259.8万円
1億円以上1,500万円以下/
1245.4万円
2,500万円超/
1692.7万円
2,000万円以下/
1737.0万円

※国税庁 2018年民間給与実態統計調査結果 第6表 企業規模別及び給与階級別の総括表(役員)のデータより作成。給与(1年間の支給総額)を年収として使用。

資本金額2,000万円未満の中小企業の平均年収は、実に苦しいものがある。役員は、経営者とともに経営サイドとして企業経営に携わる人材である。企業経営者は、役員とともに業績を向上させ、コストやロスを減らすことで、同時に役員年収もアップさせていくという将来に向けてのビジョンを自社の役員に伝えていくことが重要だろう。

資本金額2,000万円以上の役員の年収ランクは「2,000万円以上」「5,000万円以上」「1億円以上」でいずれも1,500万円以下であった。平均年収をみてみると、「1,200万円台」の金額が並んでいるのがわかる。

企業経営者が自社の人材戦略の参考になる中小企業の役員年収の実態を把握するために考える「中小企業の役員平均年収額は?」という問いに対しての回答は、「資本金額のランクごとに対象人数が多い役員年収」と「平均年収」をミックスした金額を参考にするのが現実的であろう。

役位で変わる平均年収額

役員年収は、役位でも変わる。わかりやすいデータに産労創業研究所の「2015年役員報酬の実態に関する調査 結果概要」があるので紹介する。2015年のデータなので、平均年収の額についてはあくまで参考の金額になるが、役位で年収が変わるイメージの裏付けとしてほしい。

役位平均年収(平均年間報酬額)
会長3,693万円
社長3,476万円
副社長2,947万円
専務取締役2,433万円
常務取締役1,885万円
取締役1,775万円

※産労創業研究所 2015年役員報酬の実態に関する調査 結果概要 役位別にみた年間報酬額 を参考に作成。

一般従業員の職種別給与は?

前述では国税庁の2018年民間給与実態統計調査結果をもとに、資本金額2,000万円未満の企業の役員数が役員総数の約4割を占め、資本金額が大きくなるにつれ対象役員数も減っている現状を紹介した。

資本金額2,000万円未満の企業の役員の平均給与は605.0万円である。同じ資本金額2,000万円未満の企業の給与所得者の平均年収は325.8万円であるので、企業規模別で考えると、役員は高い年収を得ていると考えられる。

一方で、企業規模を考慮しないで年収を考えると、資本金が10億円以上の企業の給与所得者の平均年収は546.1万円となり、資本金額2,000万円未満の企業の役員の平均給与との差は約50万円となっている。

業種別では、平均年収の高い業種では、一般従業員でも平均給与が資本金額2,000万円未満の企業の役員以上か遜色ない年収を受け取っていることがわかる。たとえば、電気・ガス・熱供給・水道業の平均年収は787.7万円となり、金融業,保険業の平均年収は586.1万円となっている。

職種別で考えると、一般従業員が中小企業の役員年収と同等の給与を得ている職業が存在する。厚生労働省の「2018年賃金構造基本統計調査」の職種別データによると、医師や弁護士など国家資格が必要な専門性の高い職種や、システム・エンジニアなどの専門職、大学教授、高いインセンティブが期待できる自動車外交販売員、航空機操縦士などは、高額の年収が期待できる。

高額の年収が期待できる職種平均年収額
医師1,161万円(企業規模10人以上)
弁護士765万円(企業規模10人以上)
システム・エンジニア609万円
大学教授1,154万円
自動車外交販売員605万円
航空機操縦士2,217万円

※厚生労働省 2018年賃金構造基本統計調査 職種別第1表 職種別きまって支給する現金給与額、所定内給与額及び年間賞与その他特別給与額(産業計)企業規模1,000人以上を参考に試算。

中小企業の役員退任後の処遇はどうする?

優秀な役員を自社にとどめるためや次期役員候補を採用募集する際に、役員年収とともに重要なのが役員退任後の処遇だ。具体的には役員定年制や退職弔慰金制度などがある。

役員退任後の処遇の実態

役員退任後の処遇は、個々の企業の状況と退任する役員の存在価値によってケースバイケースで考えることが多い。特に処遇することなく、そのまま退任するケースもあるが、役員退任後も会社に残るケースでは一般的に下記のポストを準備する。

・常勤または非常勤の顧問・相談役
常勤または非常勤の顧問・相談役は、企業規模や特定の業界に限らず、役員退任後の処遇として準備されるポストであり、多くの企業で採用されている。

・グループ会社の役員
退任後の役員にグループ会社の役員を任せるには、グループ会社などが存在することが前提となる。したがって、企業規模がある程度大きい企業によくあるケースである。

・社長として雇用する
事業承継時の後継者に適任の役員がいる場合は、再度、社長として雇用されるケースもある。企業規模が小さい企業と比較すると、企業規模が大きい企業の割合が高くなるが、どちらの場合も実態としては稀である。

役員定年制がある企業の割合

役員定年制の採用は、役員の役位によって割合が変わってくる。産労創業研究所の「2015年役員報酬の実態に関する調査 結果概要」のデータを参考にすると、役員定年制採用の割合は、会長・社長で約3割、副社長約4割、常務取締役・取締役約6割となっている。

役員の退職慰労金制度がある企業の割合は?

総務省による2013年度の「民間企業における役員退職慰労金制度の実態に関する調査」では、従業員数50名以上の企業約1万社に対して調査を行い、2,997社から回答を得たデータをまとめている。

「従業員規模別」退職慰労金制度がある企業の割合

従業員規模ある廃止したない合計
50人未満127(33.3%)17237381
50~100人未満286(42.1%)50343679
100~300人未満639(52.9%)1464241,209
300~1,000人未満241(47.4%)95172508
1,000人以上71(32.3%)8267220
合計1,364人(45.5%)3901,2432,997

※総務省 2013年度の「民間企業における役員退職慰労金制度の実態に関する調査」役員退職慰労金制度の有無(従業員規模別)を参考に作成

上記の役員退職慰労金制度の有無(従業員規模別)の表の合計のデータをみてみると、役員の役員退職慰労金制度があると回答した企業は、2,997社中1,364社で45.5%となった。従業員規模別データ上では、50人未満と1,000人以上の役員退職慰労金制度の採用がやや少なめになっているが、従業員規模と関連性があるとは断定できないであろう。

違う角度の指標で取りまとめた2つのデータで一定の傾向がみられたので紹介しておこう。それは、「設立後の経過年数」と「資本金額」である。

「設立後の経過年数別」退職慰労金制度がある企業の割合

設立後の経過年数ある
5年未満20.7%
5~10年未満28.8%
10~20年未満32.8%
20~30年未満41.4%
30年以上52.1%
合計45.5%

※総務省 2013年度の「民間企業における役員退職慰労金制度の実態に関する調査」役員退職慰労金制度の有無(設立後の経過年数別)を参考に作成

「設立後の経過年数別」のデータをみてみると、企業が設立から期間が経過するにつれて役員退職慰労金制度を採用する企業の割合が増えている傾向がわかる。

「資本金額別」退職慰労金制度がある企業の割合

資本金額ある
1,000万円未満19.7%
1,000~5,000万円未満37.4%
5,000万円~1億円未満49.3%
1~3億円未満57.3%
3~10億円以上56.5%
10億円以上37.6%
合計45.5%

※総務省 2013年度の「民間企業における役員退職慰労金制度の実態に関する調査」役員退職慰労金制度の有無(資本金額別)を参考に作成

資本金額別に役員退職慰労金制度の実態を分析すると、「1,000万円未満」と「1,000~5,000万円未満」のランクの企業の役員退職慰労金制度の採用の割合が合計の45.5%を下回っている。特に「1,000万円未満」は、19.7%となり最も少ない割合になっている。

企業経営者は適切な役員報酬の計画を立てなければならない

優秀な役員を自社にとどめるためには、企業経営者が役員に対し最適な役員報酬の設定と役員退任後の未来予想図を提示していく必要があるだろう。一方、自社の経営状況によっては、役員報酬の減額が必要な場面も想定される。経営者には増額だけでなく減額も含めた経営に最適な役員報酬の設定が求められるであろう。

優秀な役員の動機付けは決して報酬面だけではない。経営者とともに企業経営を向上させるためにビジョンや企業理念の共有が必要なのではなかろうか。今回は、資本金や人員など、いくつかの視点から「役員報酬」と「役員退任後の処遇」について解説した。自社の状況に合わせて、最適なプランを考える参考にしていただきたい。

文・小塚信夫(ファイナンシャルプランナー・ビジネスライター)