Z世代の早期離職は上司力で激減できる
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転職サイトに登録する新社会人は13年で28倍に

Z世代の早期離職は上司力で激減できる

パーソルキャリアの調査によると、2011年から2024年までに転職情報サイト「doda」に会員登録した人のうち、4月に登録した新社会人の数を集計したところ、13年間で約28倍と爆発的に増加しています。社会人全体でも約5倍に増加していますが、新社会人の転職登録数の高まりはケタ違いです(【図表】参照。出典:「新社会人の転職サイト登録動向2024」2024.5.30.doda総合研究所)。中途採用より新卒採用を重視してきた大企業や公務員職場ほど、この傾向は衝撃でしょう。

若者の転職意向は、近年高まり続けてきました。象徴的なのが、高学歴エリートの人気就職先の代名詞であった国家公務員総合職、いわゆるキャリア官僚の早期離職です。内閣人事局の調査によると、自己都合理由で退職した20代の国家公務員総合職は、2013年度の21人から年々増加し、2019年度には87人と4倍を超えました。

2020年当時に国家公務員制度担当大臣だった河野太郎氏が、自身のブログに「危機に直面する霞が関(2020.11.18)」と題して公表し、話題を呼んだことを記憶している人も多いことでしょう。転職予備軍も、若手層に多いことが明らかとなったのです。河野氏はブログで、30歳未満の国家公務員で「すでに辞める準備中」「1年以内に辞めたい」「3年程度のうちに辞めたい」のいずれかが、男性15%、女性10%となっていると警鐘を鳴らしました。危機感を抱いた国は、その後キャリア研修を実施するなど、本腰入れて若手官僚の採用・育成に力を入れています。

しかし、人事院によると、国家公務員採用試験の総合職の申込者数は、ピーク時1996年度の4万5,254人に対し、2024年度は1万3,599人(昨年度より773人・5.4%の減)と3分の1にまで激減し、記録が残る1985年度以降異例の低水準なっています。また、若年層の離職も引き続き増加傾向で、総合職の採用後10年未満の退職者数は、近年、毎年100人を超えているとして危機感を募らせています(出典:人事院「人事行政諮問会議 中間報告」2024年5月)。

大企業を避けて、小規模のソーシャルベンチャーで働きがいを求める若者

同様の傾向は、民間の人気就職先であった大企業でも顕著になってきています。特にこれまで早期離職に悩むことの少なかった大企業、上場企業ほど、若手層の転職に頭を痛めるようになっています。

なぜ、若者の大企業や公務員離れが進んでいるのでしょうか。キャリア官僚等の採用や研修を担う人事院は、2020年当時、国家公務員採用試験申込者減少の理由として、コロナ禍と地方志向を理由に挙げていました。地元でプライベートを大切にして生きたい若者が増えていると、見立てていたのです。

しかし、コロナ禍は2020年からの現象であり、それ以前からの減少トレンドの理由にはなりません。そもそも論拠とした内閣人事局の調査の名称が「国家公務員の⼥性活躍とワークライフバランス推進に関する職員アンケート」(2020年6月19日の「女性職員活躍・ワークライフバランス推進協議会」で利用)。すなわち、頭からワークライフバランス志向の高まりと決めてかかっていることが伺えます。

私は、問題の本質はそこではないと考えています。その理由を説明するためにも、憧れていた大企業への転職に成功したものの、1年も経たないうちに退職することになった一人の若者のエピソードを紹介しましょう。(※プライバシーに配慮し、設定を一部変更しています。)

社会人6年目で初めて転職したTさん。新卒で就職したのは、中小企業ながら創業経営者の社会貢献への経営理念が浸透した会社で、人材育成にも熱心でした。Tさんは順調にキャリアアップし、管理職候補になっていました。会社にも、仕事や収入にも大きな不満はありませんでした。

しかし、30代以降を考えると、今の会社ではこのまま幹部を目指しても、事業規模から活躍できるステージは限られてしまう。30代半ば以降は転職先も限られると悩んだ結果、より大きなステージで自分の実力を試そうと、大企業への転職を決断。何より社会の公器とされる上場企業であれば、キャリアアップにふさわしい経験を積めると期待したのです。

一般的には、中小企業から大企業への転職は高いハードルがあるものの、Tさんのこれまでの実績が評価され、かつ、ぎりぎり第二新卒枠に該当していたこともあって、大手上場企業への転職に成功しました。若者の売り手市場傾向も追い風でした。

ところが新たな職場で働き始めると、管理体質が強く、短期的な営業目標の達成ばかりが求められる毎日に衝撃を受けます。前職でも営業経験があり、数字の大切さは分かっていました。しかし、その職場では中長期視野での理念やビジョン、顧客に提供する価値については全く語られず、ただただ上から降りて来た目標数字を追う体質に、違和感が高まる一方だったのです。

上司に疑問を訴えるも取り合ってもらえず、「中小企業から来た新参者のくせに大企業のマネジメントを批判するのか」と問題社員のようにも見られ、次第に憔悴。転職後半年ほどでメンタル不調になり、結局1年足らずで退職することになってしまいました。

Tさんはその後、キャリアアップの意味や目標も見失ってしまい、暫く自宅で引きこもりのような生活を送ります。少し気持ちが落ち着くと、このままではいけないと、視野を広げながら、再度就職活動を始めました。その過程で、創業間もないソーシャルベンチャーと出会い、経営者の理念に共感。収益以前に、地域で困っている人たちの助けになりたいと心の底から思い、奮闘する現場社員の様子も見せてもらい、「これぞ自分が望んでいた職場だ」と、入社を決断しました。

実は、Tさんが選んだ新しい会社は、組織としてもビジネスモデルとしても脆弱なベンチャーゆえ、Tさんの給与は半減しました。労働時間もかなり長くなってしまったのですが、大きな不満はないそうです。むしろ、これだけ難しい社会問題に真っ直ぐ打ち込めて、とてもやりがいがある。会社としてはまだ大きく収益が上げられていないけれど、一定の給与がもらえるだけで感謝していると、笑顔で話してくれました。

優秀な若手ほど、ワークライフバランスより自己成長できる魅力的な仕事を求めている

Tさんのように、就職先や転職先でリアリティショックを感じている若者は少なくないと、私は見ています。背景にあるのは、大企業、上場企業が、社会貢献への実感や働きがいを得られる場になり得ていない場合が少なくないという現状です。

確かに、Tさんも理想が高すぎ、上場企業というだけで過大な期待を抱いたかもしれません。しかし、会社は上場すると株主からの厳しい目にさらされ、経営は短期的な収益向上の圧力を受けざるを得ません。経営が株主の利益配当への要求を強く意識すれば、必定、現場も数値目標を追うばかりになり、長期視野での企業理念の実現や仕事の目的が置き去りになりやすいのではないでしょうか。日本を代表する製造業で不正問題の露呈が続いていますが、これは氷山の一角かもしれません。

とはいえ、民間企業は収益を上げなければ持続できないため、社会貢献による働きがい実感とともに、業績目標も追いかけざるを得ない面もあります。では、本来、民間企業が代替できない、社会貢献のみに奉仕する公務員はどうでしょうか。

Z世代の早期離職は上司力で激減できる!

先述の内閣人事局の調査内容をさらに見ると、若手職員(30歳未満)が退職をしたい理由は、男性では「もっと自己成長できる魅力的な仕事につきたいから」が49.4%と突き抜けています(【図表】参照)。いわゆるワークライフバランス意識の高まりを示す「長時間労働等で仕事と家庭の両立が難しいから」の34%より15ポイントも高くなっています。

一方、出産・育児や介護などのライフイベントの負荷がかかりやすい女性では、退職したい理由は「長時間労働等で仕事と家庭の両立が難しいから」が47%とトップながら、「もっと自己成長できる魅力的な仕事につきたいから」も44.4%と肉薄しています。

つまり、支持基盤に気を使った短期的な利権争いに終始する政治家の下働きは、若手官僚たちにとって「自己成長できる魅力的な仕事」ではないということです。志の高い若手官僚であるほど、真に国民代表の自覚がある政治家が本気で侃々諤々議論し決断したことを執行する、本来の国家公務員としての自己の存在意義を感じられなくなるのも無理はありません。魅力的な仕事とは、働きがいを感じられる仕事であり、その経験値を積むことが自己成長につながる仕事だと私は考えています。

キャリア官僚といえば、東大など高学歴者が目指す超エリート職で、国の未来を背負って立つ羨望の職業だったはず。それが、優秀な若者から見放されつつあるのです。その理由が、自己成長やキャリアアップの展望がないとする現状は、国家的な危機と感じざるを得ません。

Z世代の早期離職は上司力で激減できる!

同様の傾向は20代全般に見て取れます。パーソル総合研究所の「働く10,000人の成長実態調査2022」(20代社員の就業意識変化に着目した分析(2022年8月18日))によると、2019年から2022年までの経年比較で、20代が仕事選びの重視点として、「休みが取れる/取りやすいこと」「職場の人間関係がよいこと」「仕事とプライベートのバランスがとれること」「希望する収入が得られること」といった、ワークライフバランスに関する項目が軒並み減少傾向なのです。

Z世代の早期離職は上司力で激減できる!

一方で、「色々な知識やスキルが得られること」「資格や免許の取得に繋がること」「社会に貢献できること」「入社後の研修や教育が充実していること」といった、成長やキャリア形成に関する項目は上昇傾向です。世代別に見ても、20代の学習実施率が高いことが分かります(【図表】参照)。

経営者や管理職など、上の世代から見て、今どきの若者はワークライフバランスの権利ばかり声高に主張すると捉えることは、表層だけを見たもので、問題の本質を捉えているとは言えません。確かに、一定層は権利意識が肥大化しているかもしれませんが、優秀な若者ほど、働きがいを得られない長時間労働は勘弁してほしいと考えているのではないでしょうか。ワークライフバランス志向の高まりは、働きがいを得られない裏返しなのかもしれないのです。

もちろん、人生100年であり、もはや一つの会社や組織でキャリアを終える時代ではないため、趨勢としての転職トレンドは高まっていくでしょう。しかし、瞬間風速的にワークライフバランスが担保できない長時間労働に従事することになっても、自分のやっている仕事が世のため人のためになっていると実感できれば、ここまで若者の転職意向は高まらないのではないでしょうか。

本稿では、主に公務員職場や大企業の調査や事例を見てきました。しかし、今日の若者の就業意識を見極めるには、企業規模に関わらず念頭に置くべきでしょう。むしろ若者の成長実感や働きがい醸成の面では、トップのリーダーシップで変革のスピードを上げやすい中小企業こそ、実践できることなのではないでしょうか。

※本稿は前川孝雄著『Z世代の早期離職は上司力で激減できる』(株式会社FeelWorks刊)より一部抜粋・編集したものです。

Z世代の早期離職は上司力で激減できる
前川 孝雄
株式会社FeelWorks代表取締役/青山学院大学兼任講師

人を育て活かす「上司力®」提唱の第一人者。(株)リクルートで『リクナビ』『ケイコとマナブ』『就職ジャーナル』などの編集長を経て、2008年に (株)FeelWorks創業。「日本の上司を元気にする」をビジョンに掲げ、研修事業と出版事業を営む。「上司力®研修」シリーズ、「ドラマで学ぶ『社会人のビジネスマインド』」、eラーニング「パワハラ予防講座」「新入社員のはたらく心得」、「50代からの働き方研修」等で、400社以上を支援。2011年から青山学院大学兼任講師。2017年(株)働きがい創造研究所設立。情報経営イノベーション専門職大学客員教授、(一社)企業研究会 研究協力委員サポーター、(一社)ウーマンエンパワー協会 理事等も兼職。30年以上、一貫して働く現場から求められる上司や経営のあり方を探求し続けており、人的資本経営、ダイバーシティマネジメント、リーダーシップ、キャリア支援に詳しい。連載や講演活動も多数。
著書は『部下全員が活躍する上司力 5つのステップ』(FeelWorks)、『部下を活かすマネジメント“新作法”』(労務行政)、『本物の「上司力」』(大和出版)、『人を活かす経営の新常識』(FeelWorks)、『ダイバーシティの教科書』(総合法令出版)、『「働きがいあふれる」チームのつくり方』(ベストセラーズ)、『一生働きたい職場のつくり方』(実業之日本社)、『50歳からの逆転キャリア戦略』(PHP研究所)、『50歳からの幸せな独立戦略』(PHP研究所)、『50歳からの人生が変わる痛快! 「学び」戦略』(PHP研究所)等約40冊。最新刊は『Z世代の早期離職は上司力で激減できる!「働きがい」と「成長実感」を高める3つのステップ』(FeelWorks、2024年4月1日)

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