
近年、国際化の進展などに伴い、多くの業種において企業間競争がますます激化している。この状況下で企業が目標を達成するためには、合理的な戦略を立案する必要があるだろう。
運営状態の具体的な把握や、定期的な経営状況の見直しに役立つのが「経営分析」だ。経営分析は、合理的な企業経営を実現するだけでなく、経営における意思決定を行う上で重要な指針にもなる。この記事では、経営分析の重要性や代表的な分析手法を紹介する。
目次
経営分析とは何か?
経営分析とは、現在の企業の状態を様々な観点から分析する行為を指す。
経営分析を実施する際には、一定期間の経営成績や財務状態などを示す財務諸表が必要になる。そのため、「経営分析」は、「財務諸表分析」または「財務分析」と同義で使われることも多い。
経営分析によって企業の経営状態が数値で示されるため、財政状態や運営成績などを把握しやすくなる。また、定期的に経営分析を行うと数値の推移がわかるため、業績の改善や悪化を判断でき、必要であれば早急に対応することができる。
企業の安全性や成長性を判断できるため、投資家や金融機関などの投資判断に役立つ。
【ポイント1】収益性分析
収益性分析とは、企業が稼ぐ力を客観的に測る分析手法のことだ。利益額または利益率で判断されるほか、利益と資本の相関関係も測定される。いくつかの種類がある分析方法の中から、主なものを紹介する。
資本利益率分析
資本利益率分析では、資本と利益をもとにしたいくつかの指標が用いられる。代表的な指標は以下のとおりだ。
1.総資本経常利益率(ROA)
「年間の経常利益÷総資本の年平均」で算出される総資本経常利益率は、経営活動においてどの程度の利益を得られたかを示す指標だ。総資本経常利益率が高いほど収益性があると判断でき、5%以上で良好、10%以上で超優良とみなされる。
2.自己資本当期純利益率(ROE)
「年間の当期純利益÷自己資本の年平均」で算出される自己資本当期純利益率は、株主の出資分でどれくらいの配当金の源泉を得られたかを示す指標だ。自己資本当期純利益率が高いほど、自己資本をもとに多くの利益を獲得していると判断できる。投資対象として魅力的な企業であるとも言えるだろう。
3.売上高総利益率
「売上総利益÷売上高」で算出される売上高総利益率は、売上高に対する利益の割合を示す指標だ。売上総利益とは、売上高から売上原価を差し引いた粗利益を指す。売上高総利益率が高いほど、自社の商品・サービスが利益を生み出す力が大きいと判断でき、低ければ仕入原価を下げるなどの対策が求められる。
4.売上高営業利益率
「営業利益÷売上高」で算出される売上高営業利益率は、売上高から経費などを差し引いた営業利益の、売上高に対する割合を示す指標である。この数値が高いほど、本業で稼ぐ力があると判断できる。
売上高総利益率が高いにもかかわらず売上高営業利益率が低い場合は、事業運営上で必要な諸経費に問題があると考えられ、人件費や宣伝広告費の削減が求められる。
5.売上高経常利益率
「経常利益÷売上高」で算出される売上高経常利益率は、売上高に対する経常利益の割合を表す指標だ。経常利益とは、営業利益に本業以外の損益(営業外収支)を加えたものである。売上高営業利益率と比べてこの数値が高ければ、受取利息や受取配当金などの営業外収支によって生み出される利益が大きいと判断できる。
売上高営業利益率に対してこの数値が著しく低い場合は、支払利子や社債利子などの営業外費用の削減が求められることになる。
利益増減分析
利益増減分析は、前年度における利益額および利益率との比較による収益構造の分析を指す。販売価格の上昇または下落、販売数量の増減、原材料価格の高騰または下落など、利益の増減の要因を探り、それらの寄与度を明らかにするための分析につなげていく。
損益分岐点分析
損益分岐点とは、収益が費用を上回って黒字に転換するポイントのことである。「損益分岐点売上高」を算出することで、赤字から黒字に転換する売上高を把握できる。損益分岐点売上高は、「固定費÷限界利益率」で求められる。
損益分岐点分析の観点で経営を黒字化するためには、売上を損益分岐点売上高以上に高めるか、コストカットによって損益分岐点を下げるしかない。
【ポイント2】安全性分析
企業における安全性とは、財政基盤の健全性のことだ。安全性の低い企業は、債務弁済能力に不安があり、倒産のリスクが高いと言える。代表的な安全性分析の手法は、以下のとおりだ。
短期財務安全性分析
1.流動比率
「流動資産÷流動負債」で算出される流動比率は、1年以内に返済する義務がある流動負債に対し、1年以内に回収できる予定の資産である流動資産がどの程度あるかを表す指標だ。流動比率が100%を下回っている場合は資金繰りに不安があり、200%以上が健全と言われている。
2.当座比率
「当座資産÷流動負債」で算出される当座比率は、流動資産の中でも特に現金化しやすい当座資産がどの程度あるかを表す指標で、100%以上が望ましい。流動比率に比べて当座比率が低い場合は、現金化しにくい棚卸資産が過剰であると判断できる。
長期財務安全性分析
1.固定比率
「固定資産÷自己資本」で算出される固定比率は、長期的に使用する固定資産の自己資本に対する割合を示す指標で、固定資産投資の安全性を判断できる。100%以下が望ましく、数値が低いほど良い。
2.固定長期適合比率
「固定資産÷長期資本」で算出される固定長期適合比率は、自己資本と固定負債の合計である長期資本に対する固定資産の割合を示す指標である。固定負債を活用している企業の長期的な安定性を把握でき、100%以下ならば健全と言える。
3.自己資本比率
「自己資本÷総資本」で算出される自己資本比率は、返済の必要がない自己資本の総資本に対する割合を表す指標だ。企業における財政基盤の健全性を判断でき、高いほうがリスクが低いと判断できる。
4.負債比率
「負債÷自己資本」で算出される負債比率は、自己資本に対し負債の割合を表す指標である。基本的には比率が低いほどリスクが低いと言えるが、事業内容によっては自己資金だけでは投資額を賄い切れない場合もある。
自己資本比率や負債比率を見る際は、負債の大小だけで十分な経営分析ができるわけではないことを理解しておきたい。
キャッシュ・フロー分析
キャッシュ・フロー分析の代表的なものは、金融費用に対する事業利益の比率を示す「インタレスト・カバレッジ・レシオ」という指標を利用した分析手法である。インタレスト・カバレッジ・レシオは、「利子および法人税控除前の営業活動によるキャッシュ・フロー÷支払利子や社債利子等」で算出できる。
利子支払能力を把握でき、この比率が高いほど利子の支払い能力が高い企業と判断できる。
【ポイント3】生産性分析
生産性分析を行うことで、生産量や生産額などの産出量に対し、経営資源が効率的に使われているかを判断できる。様々な経営資源の中から、ここでは従業員に着目した生産性の分析方法を紹介する。
付加価値生産性分析
「付加価値額÷従業員数」で算出される付加価値生産性分析によって、従業員1人が生み出す付加価値額を算出できる。この数値が高いほど、従業員がより多くの付加価値を生み出していると判断できる。
付加価値分配率分析
「人件費÷付加価値額」で算出される付加価値分配率分析は、生み出した付加価値額に対する人件費の比率を示す指標だ。この場合の人件費は、給与と法定福利費の合計額である。
この数値が低ければ効率的に労働力を活用していることになり、高いと人件費に問題があると判断できる。しかし、低すぎると従業員が不満を生まれ、高すぎると内部留保の減少につながるため、バランスの良い数値をあることが望ましい。
【ポイント4】成長性分析
成長性分析は、企業の成長率や将来の成長の可能性を測る指標である。自社の成長性だけにフォーカスするのではなく、参入市場全体の成長率と比較することも重要だ。市場の成長に合わせて、シェアを失わないような自社の成長を意識し、競合他社との比較という観点をもつことが求められる。
成長率分析
「評価年の売上高÷基準年の売上高」で算出される成長率分析は、前期など基準となる時期と比較した、売上高の増加を示す指標である。成長の勢いを表す指標とも言えるだろう。
基本的に高いほど評価されるが、急激な成長率の増加は長期的に見ると好ましくないこともある。企業の成長に伴って人材育成もしっかりと行われているか、借入金の増加に伴って安全性を損なっていないかなど、成長以外の側面にも注意を払う必要がある。
成長要因分析
成長要因分析とは、人員数や店舗数など、企業成長の要素となり得る様々な項目を基準年と比較するものだ。成長要因は企業や業種によって異なるため、より的確な分析結果が得られる要因の選択が求められる。
経営分析で計画的な会社運営を!
経営分析を行うことで、企業の現状を数値化でき、経営成績や財政状態を具体的に把握できる。また、企業が抱える問題点や改善点を見つけ出し、早急な対応策を講じることができる。
本記事では、収益性分析・安全性分析・生産性分析・成長性分析を紹介したが、他にも様々な分析手法が存在する。今後の企業運営には、経営分析を定期的に実施し、限られた資本をより戦略的に配分することが重要になるだろう。
文・THE OWNER編集部