後継者不足、人材不足、物価高騰……日本の中小企業は今、多くの悩みを抱えています。その中で経営者が特に頭を抱えている問題は何なのか。THE OWNERを運営する株式会社ZUUM-Aの取締役で、これまで資金調達や組織マネジメントなど様々なサービスで経営者を支援してきた小谷光弘(写真右)がファシリテーターとなり、ドライバー派遣のサービスを展開する株式会社トランスアクト代表取締役の橘秀樹さん(写真中央)、経営コンサル・金融・人材育成を事業の柱とする株式会社WADOウイングス代表取締役の林正孝さん(写真左)の2人の経営者のリアルな声を聞く。
「Webで集客することがうまくいっても商品となる人が不足している」
小谷 ではさっそくですが、お2人がどのような事業を展開されているのかお聞きできますでしょうか。橘社長からお願いいたします。
橘 株式会社トランスアクト代表取締役社長の橘秀樹と申します。よろしくお願いいたします。事業内容はちょっと変わっていまして、企業のオーナー様や役員様に向けて専属の運転手と、あと一部、秘書の派遣をしています。普段、同じ立場の方とお話する機会がなく、それこそ経営者仲間と飲みに行く、というような余裕もなくて、こういう場はとてもありがたく、情報交換させていただきながら勉強させていただければと思っています。
弊社はニッチな業界でありながらシェアを確保できていますが、弊社の人員不足によりニーズに対応できずにお断りするケースもあり、今は特に人手不足が大きな課題だと感じています。
小谷 ありがとうございます。では続きまして、林社長よろしくお願いします。
林 株式会社WADOウイングスの林でございます。よろしくお願いします。 僕はもともとソニー生命という会社にいまして、ソニー生命の最後の4年間は、本社でコンサルティング事業部を立ちあげることになり、そこの責任者をしていました。
立ちあげのきっかけは、その時代ソニー生命は7,000社からヘッドハンティングで人が来ていたんですね。トップ営業マンをはじめいろいろな業種のトップの人間が、ありとあらゆる会社から来ていました。そういう人材がたくさんいる中で「保険だけを売る」というのはあまりにももったいないなと。それで僕が責任者となって事業部を立ちあげまして、コンサルをやることになりました。
子会社を作ろうとしていた中で結果的にできなかったんですけど、僕自身は独立して、今は経営コンサルティングを柱とした会社を経営しています。ソニー生命の前にリクルートという会社にいて、そもそも組織、人事のことはかなり理解していまして、そういうことをベースに経営コンサルティングをやっています。
その他に、ソニー生命時代から取り組んでいた、生命保険や損害保険、銀行業務や証券業務といった金融事業をやっていまして、もう1つ、人材育成ビジネスもやっていまして、5つのコミュニティと、一般社団法人で大学校と、『三徳館』という女性だけの塾を運営しています。これらの活動は、日本のいいところを世界に発信していこうと、WADOというのは和の道、それを羽のように世界に広げていこうと、WADOウイングスという社名はそういうところからきています。正社員5名と、業務委託、アルバイトスタッフを入れて30名ほどで活動しています。
ちょっと変わったところとして、自宅をオフィスにしていまして、地下室で研修やセミナー、1階にオフィス、2階に懇親会場と。1回のイベントにつき、20名から多い時は40名ぐらいに参加していただいています。
小谷 ありがとうございます。ではここから、お2人に経営者としての課題や悩みについてうかがいます。今、一番課題に感じられているのはどんなことですか?
橘 先ほども少しふれましたが、我々にとっては人材不足が大きな課題ですね。
幸いなことに、今は反響営業ができていまして、インターネットで検索していただいてお問い合わせいただき、そこからお仕事をいただいていて、創業して10年になりますが、私自身、営業に出たことが一度もないんです。でもそれは、お客様層が限定的で、こちらから手当たり次第にお声がけしても受注にはつながりにくいサービスだからでもあるんですけど。
ただ、Webで集客することはうまくいっているんですけど、商品となる人が不足していて。運転手さんもそうですし、お客様と運転手をつなぐコーディネーターも人が足りていません。
小谷 採用はどのような形でやられていらっしゃるんですか?
橘 今は有料求人媒体ですね。でもその費用対効果が見えていません。採用するために費用をもっとかけるべきなのか、あるいはもうマーケットにふさわしい人がいないのか。このあたりを見極めなければいけないところです。
林 ちょっと気になったんですが、いろいろな性格のお客様がいらっしゃると思うんですけど、どのようにして運転手さんとマッチングさせるんですか? 例えば性格なのか、特性なのかを見て判断されるのか。
橘 私も昔、大手企業の会長の運転手をさせていただいたことがありました。それで怒られたこともありますけど、その会長にピタリとあう運転手を教育することはできないんですよね。
また以前、超一流のアスリートの運転手を派遣したことがあるのですが、ちょうどエースのドライバーがいなくて、やむを得ず少し腕の劣るドライバーを派遣しました。でも、そのアスリートからはとても喜んでいただけて。やっぱり相性というのはありますし、こちらの考えや尺度なんてまるでアテにならないなと。
そもそも、運転手派遣にあたって、事前にお客様としっかりとコミュニケーションを取ることはできないですし、実際に派遣した後にわかることもたくさんあります。あらゆる情報や過去の経験などからマッチする運転手を派遣するようにしていますが、先ほど言ったような相性もありますので、常に難しさは感じていますね。
林 僕は以前、適性検査などを実施してきて、今は統計学なんかも教えているんですね。統計学は非常に価値が高く、誰も知らないような条件から、人と人の相性がわかったりするんです。そうしたマッチングをされているかと思ったので。
橘 ありがとうございます。そういった発想はなかったですね。ぜひ参考にさせていただきます。
「今後も新しいものを作り、僕が育てた人たちがビジネスとして大きく広げてくれたら」
小谷 では今度は、林社長が今、一番に課題に感じられているのはどのようなことでしょうか。
林 うちはインターネット、特にSNSでの集客ですね。これまでリアルで営業してきて、そこは圧倒的に強いんですよ。でもWebでは1回もうまくいったことがなくて。
これまでリアルのセミナーなどで成果を出してきたので、社員もそこに頼っちゃう部分はあるんですよね。それもあってか、Web上での展開が弱くて、例えばセミナー動画などの出来はいいんですけど、それを販売に結びつけられていないんですよね。
小谷 我々もそうですが、コロナ禍を機に、それまで実施していたセミナーを、リアルからオンラインに切り替えて、Facebook広告やインサイドセールスなどを磨き続けて成果を出してきた会社は多いと思います。橘社長もWebでの集客はうまくいっているとのことでしたが、どのように進められてきたのでしょうか。
橘 偉そうに言ってしまいましたけど、ただ限界も感じていて。画像を作ることなども、今は自分でやっていて、そのレベルでも訴求できるマーケットなのかなというのもあって。結局、自分ができる程度のものしか作れませんし、デザイナーやWebディレクターなどそういった部分もアウトソースを考えているんですけど。
林 うちも何度もやってるんですよ。でもお手上げ状態ですね。やっぱり商材が難しいんだと思います。FacebookもTwitterも専門家に来てもらって取り組んだんですけど、表現の仕方が難しいみたいで。ただ、僕自身は単に集客したいわけではなくて、そういう要望の難しさもあったかもしれないですね。でも、それは僕の甘えですね。フェイストゥフェイスであれば集客できるので、結局それでやろうとする。そこがうまくいかない原因の1つにあると思います。
小谷 なるほど、ありがとうございます。では最後に、お二方は自社の将来像についてどのようにお考えでしょうか。
橘 私たちが展開している事業のマーケットはすごく小さいんですよね。だから上場を目指す、というのはあまり現実的ではなく、顧客である超富裕層にしっかりとリーチしていく、そのシェア率を上げていくことが当面の目標です。
定義が難しいですけど、業界トップを目指したいです。「運転手派遣と言えばトランスアクト」と言われるぐらいの認知を取り、お客様を1人でも多く増やしていくこと。まずはそこをしっかりとやっていきたいですね。
小谷 ありがとうございます。林社長はいかがですか。
林 僕がいたリクルートという会社には“元リク会”という、リクルート出身の人たちの会があって、彼らがリクルートの良いところを発信しているんですよね。僕にとってそれが理想とする会社のあり方かなと思っていて。うちの会社もそうなっていけたらと思って、今、WADOヴィレッジという“村”を作っているんです。
僕は30年、塾を運営していて、その当時、20歳そこそこだった卒業生が次々に会社を設立して、その中で5社ぐらいが上場しています。WADOヴィレッジでも育成を進めていて、そこで育った人間がビジネスをして、ちょっと疲れた時に帰ってくる。そういう場所にできたらなと。
それと自衛官のセカンドキャリアを支援していくプログラムを作っているんですが、これは世界に一つだけだと思うんです。そういった新しいものを作り、ビジネス化していくことを今後も続けていきたいですし、そういったことを僕ではなく、僕が育てた人たちがビジネスとして大きく広げてくれたらと思っています。それが僕の大きな夢ですね。
小谷 とても素晴らしいですね。育てられた人たちが様々な経験をされて、また戻ってこられて、そこからまた新たな競争が生まれて、というサイクルが楽しみですね。
では、今回の対談は以上とさせていただきます。ありがとうございました。