矢野経済研究所
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NTT法廃止に向けた自民党の原案がまとまった。具体的には来年の通常国会で「研究成果の開示義務」を撤廃させたうえで、遅くとも2025年の通常国会までにNTT法の完全廃止を実現するよう政府に提言する。NTT法は1985年、日本電信電話公社の民営化に際して制定された。固定電話の全国一律ネットワーク維持や研究成果の公開を義務づけるなど、公共公益性の維持と通信業界における公正な競争を促すことが狙いである。

これに対して、KDDI、ソフトバンク、楽天モバイルを含む電気通信事業者や公共性の維持を不安視する地方自治体等は「反対」を表明、慎重な政策議論を要望する「連名要望書」を10月19日付で提出している。11月7日、NTTは「NTT法のあり方に関する見解」を発表、引き続き他の事業者に公平なネットワークを提供すること、NTT東西とNTTドコモを統合する考えはないこと、公正な競争は電気通信事業法で、外資規制については外為法等でカバーすべきであるなど、NTT側のロジックを展開した。

一方、競合する通信大手3社は11月14日付の共同リリースで反論する。問題の根底にあるのは、25兆円もの国民財産を投じて構築されたNTTの通信基盤は単なる一企業の固定資産とは異なる、という点だ。グループ再統合に対する警戒も根強い。一方、地方にとっての懸念はユニバーサル・サービスの後退である。これに対してNTTは「民営化時に株式を政府に割り当てた。よって資産は株主に帰属する」と主張、また、全国一律サービスの維持についても電気通信事業法で規定されているとする。

通信環境は固定電話が主流であった時代とは大きく異なる。通信分野における国際競争力を強化し、新たなテクノロジーに対応した競争環境を整備するためにも法律の見直しは不可避である。とは言え、そもそも今回の見直しは、防衛費増の財源確保に向けて「5兆円に相当する政府が保有するNTT株式の売却」が提案されたことが契機となった。さすがに自民党原案でも防衛費の財源問題とは切り離された格好になっているが、時限を明記した原案のどこかにそれは燻っていないか。技術革新のスピードは待ったなしだ。検討を先送りすべきではない。しかし、結論ありきの拙速な議論で通信の未来を規定すべきではない。公共性と公正な競争環境の確立に向けて、オープンな議論に期待する。

今週の“ひらめき”視点 11.12 – 11.16
代表取締役社長 水越 孝