組織の持続的な成長と成功には、レジリエンスが欠かせない。では、レジリエンスとは一体何だろうか? 本記事では、レジリエンスの意味や高める方法、地方企業における事例を簡単に解説する。

目次

  1. レジリエンスの意味とその重要性
    1. レジリエンスの定義
    2. レジリエンスと類似する用語との違い
    3. レジリエンスが重要な理由
  2. レジリエンスを高めるビジネス面でのメリット
    1. 変化が大きい部署の社員の負担を軽減できる
    2. 困難に強い企業に成長できる
    3. 社内の人間関係改善
  3. レジリエンスのある人・ない人の特徴
    1. レジリエンスのある人
    2. レジリエンスのない人
    3. 6つのレジリエンスコンピテンシー
  4. レジリエンスの妨げとなる考え方
    1. ABC理論
    2. A-C理論
  5. レジリエンスを簡単に強化する日常的な行動
    1. 個人の日常生活での行動
    2. 組織の日常運営での行動
  6. 組織レベルでのレジリエンス強化戦略と具体的な事例
    1. シナリオプランニング:ユニ・チャームの例
    2. 環境への調和:サントリーホールディングスの例
    3. 独自のブランド力:キリンホールディングスの例
    4. 自律分散型組織の構築:サイボウズの例
  7. レジリエンスを強化して持続的な成功を達成しよう
挫折から這い上がる力を支える6つの要素とは?
(画像=metamorworks/stock.adobe.com)

レジリエンスの意味とその重要性

まずレジリエンスの基本的な意味について、心理学とビジネスの観点からそれぞれに解説する。また類似する用語との違いにも触れ、なぜレジリエンスが重要なのかについても見ていこう。

レジリエンスの定義

心理学的な観点のレジリエンスとは、個人が困難や逆境に遭遇した際、精神的な回復力を持ちつつストレスを克服し、前向きに成長する能力を指す。つまり人々がストレスや挫折を乗り越え、自己効力感やポジティブな心理的健康を回復する能力のことだ。

ビジネスの文脈におけるレジリエンスとは、組織や企業が変化や不確実性に対して柔軟かつ迅速に適応し、持続的な成功を収める能力を意味する。ビジネスにおけるレジリエンスを高めるには、市場の変動、競争の激化、災害などの外部要因に対して回復力を持ちながら事業を継続することが重要だ。

レジリエンスと類似する用語との違い

レジリエンスと似た概念としては「頑健性(ロバストネス)」や「適応力(アダプティビリティ)」などがある。類似する概念との違いは以下の通りだ。

・頑健性(ロバストネス)
システムや個人が予期しない変化や外部の攻撃に対して耐性を持ち、機能を維持すること。つまり破損や障害が生じてもシステムや個人は続行可能な状態を保つ能力だ。

・適応力(アダプティビリティ)
変化する環境や状況に対して適切に対応し、必要な変化や調整を行う能力を指す。適応力は、環境の変化に対して柔軟に対応し、新たな状況に適切に対応する能力である。

・メンタルヘルス
個人の心理的な健康状態や精神的なウェルビーイングのこと。一方、レジリエンスは困難や逆境に対処し、回復し成長する能力を指す。メンタルヘルスは、より広範な概念であり心の健康全般をカバーする一方、レジリエンスは特定のストレスや逆境に対処する能力に焦点を当てる。

・ストレス耐性
個人がストレスに対してどれだけ耐えることができるかを指す。ストレス耐性は、ストレスに耐えることに焦点を当てる一方、レジリエンスはストレスを乗り越えるための対処能力や回復力をより強調した概念である。

・ストレスコーピング
個人がストレスや困難な状況に対処するための具体的な戦略や手法。ストレスコーピングは対処の方法論に焦点を当てるが、レジリエンスは対処能力の幅広さや回復力に着目する。

・ハーディネス(ハードィネス)
ストレスや困難な状況に対して強さや耐性を持つ能力。ハーディネスは、個人の強さや抵抗力に焦点を当てる概念だが、レジリエンスはストレスや逆境に対処する柔軟さと回復力を強調する。

これらの用語は、いずれも関連性を持つが、それぞれが異なる側面や視点を強調している。レジリエンスは困難や逆境に対処し、回復する能力を総合的に表す概念といえるだろう。

レジリエンスが重要な理由

レジリエンスが重要な理由は、以下が挙げられる。

  • ストレスや逆境への対処能力
  • 成長と学習
  • 変化に対する適応性
  • チームの連携と回復力

レジリエンスは、個人や組織がストレスや逆境に対処し、回復するための能力を提供。心理的な健康やパフォーマンスを維持する。またレジリエンスを持つ人々や組織は、困難な経験を通じて成長し、学習する。失敗や挫折を乗り越えることで、新たな洞察や能力を獲得し、より強固な基盤を築くことができるのだ。

変化に対する適応性もレジリエンスを高める重要な理由である。現代の社会やビジネス環境は、不確実性や変化が常に存在している。レジリエンスを持つ個人や組織は、変化に対して柔軟に適応し、持続的な成功を収めることも可能だ。また組織やチームにおいてもレジリエンスは重要となる。なぜならメンバーが困難な状況に直面した際に互いに支え合い、共通の目標に向かって回復できるからだ。

総じてレジリエンスは、個人や組織が変化や逆境に立ち向かい、成長と成功を達成するための重要な能力といえるだろう。

レジリエンスを高めるビジネス面でのメリット

レジリエンスを高めることは、ビジネスにおいて多くのメリットをもたらす。以降では、具体的にどのようなメリットがあるかを見ていこう。

変化が大きい部署の社員の負担を軽減できる

レジリエンスを高めると、変化の激しい部署の社員は変化に柔軟に対応し、ストレスや不確実性に対処する能力が向上する。レジリエンスの向上により、社員の心理的負荷を軽減し、生産性やモチベーションの維持などが実現可能だ。

困難に強い企業に成長できる

レジリエンスの高い企業は、困難な状況においても柔軟かつ迅速に対応し、持続的な成功を収めることができる。変化や競争の激化による課題や障害を乗り越え、成長する能力を持つことで、市場での競争力を強化し、持続的な企業の発展も期待できるだろう。

社内の人間関係改善

レジリエンスを高める取り組みは、社内の人間関係改善にも寄与する。レジリエンスの高い個人は、ストレスへの対処力が高く他者への理解やサポートの意識も高くなる。その結果、協力やチームワークが促進され、社内のコミュニケーションや協働性が向上するだろう。

総じてビジネス面でのレジリエンスの高まりは、部署の社員負担の軽減、企業の困難への対応力強化、社内の人間関係の改善など、さまざまなメリットをもたらす。これらの要素は、持続的な成功と成長に不可欠だ。

レジリエンスのある人・ない人の特徴

では、具体的にレジリエンスのある人とない人には、どのような特徴があるだろうか。

レジリエンスのある人

レジリエンスのある人は、プラス思考と前向きな態度を持ち、失敗や困難を学びの機会として受け入れる特徴を持つ。なぜなら彼らは、自己効力感と自己信頼を持ち困難に立ち向かう自信があるからだ。また彼らは、ストレス耐性が高く適切にストレスを管理することができる。柔軟性があり、変化に対応する能力が高く他者との関係を築きながらストレスを克服することも可能だ。

さらには意義や目的を持ち、自身の価値観に基づいて行動できる。

レジリエンスのない人

レジリエンスのない人は、困難やストレスに対して消極的な態度を示し、失敗や困難を否定的に捉えがちだ。彼らは、自己効力感や自己信頼が低く困難に立ち向かう自信に欠ける。ストレスに弱く適切にストレスを管理できず、変化に対する適応力も低いため、新しい状況に固執が見られる傾向だ。社会的なサポートを受けることに抵抗感があり、孤立感を抱えることが多い。

また意義や目的を見出せず、行動の方向性があいまいになりがちだ。

6つのレジリエンスコンピテンシー

6つのレジリエンスコンピテンシーとは、困難や逆境に対処し、回復し成長するための重要なスキルや能力だ。それぞれのコンピテンシーを開発し、総合的に取り組むことで、よりレジリエンスな思考と行動を身につけることができるだろう。以下では、6要素を列挙する。

  • 自己認識
  • 自制心
  • 現実的楽観性
  • 関係構築力
  • 自己効力感(キャラクター・ストレングス)
  • 精神的柔軟性

・自己認識
自己認識は自身の感情や反応を理解し、自己管理はそれらを適切に制御する能力だ。自己認識を高めることで自身の強みや弱点を把握し、自己管理を通じて感情やストレスへの対処法を選択できるようになる。

・自制心
目標を実現するための努力を継続する能力だ。目標を明確に設定し、達成するための戦略を持つことで達成感を味わい、自信を養うことができる。

・現実的楽観性
安易な楽観主義ではなく、現実に即した形で前向きな気持ちで行動できる能力。この能力があれば、一見して困難に見えることでも突破口を見出そうと前向きな姿勢で問題に取り組める。

・関係構築力
他者との関係を築き、支えを受けたり相談したりする能力。他者との結びつきや信頼関係を構築し、助けを求めることで孤立感やストレスを軽減し、回復力を高められる。

・自己効力感
プラス思考や希望を持ち、困難な状況に対して前向きな意味を見出す能力。ネガティブな思考パターンを払拭し、課題や挫折を成長の機会と捉えることで希望を持ち、回復力を高めることができる。

・精神的柔軟性
変化に対して柔軟に対応し、新しい状況に適応する能力。固定的な考え方や習慣に固執せず、変化に対して柔軟な対応をすることで、ストレスや逆境に対処できる。

これらは、いずれも個人が困難や逆境に対処し、回復し成長するために重要なスキルや能力だ。それぞれのコンピテンシーを開発し、総合的に取り組むことで、よりレジリエンスな思考と行動を身につけることができるだろう。

レジリエンスの妨げとなる考え方

不適切な信念や思考パターン、外部要因への過度な依存は、レジリエンスを妨げる要因となる可能性がある。レジリエンスの妨げとなる考え方を理解することで、これらの考え方に対処する方法を見つけよう。

ABC理論

「人々の感情や行動は、刺激に対する信念や解釈によって左右される」とする理論だ。Aは「出来事・刺激(Activating event)」、Bは「認知(Belief)」、Cは「結果としての感情(Consequence)」を表す。レジリエンスを妨げる場合、負の信念や非現実的な思考パターンが強く影響し、困難に対処する力や回復力を阻害する。

A-C理論

「人々の結果としての感情(Consequence)は、外部の出来事・刺激(Activating event)から直結している」という理論だ。出来事と結果の間に自身の認知が入り込まず、場合により個人が自己責任を放棄して外部要因で行動を制御されるため、レジリエンスの妨げとなる。

レジリエンスを簡単に強化する日常的な行動

レジリエンスを強化するためには、個人の日常生活や組織の日常運営において取り組むことが重要だ。

個人の日常生活での行動

個人の日常生活では、ABCDE理論の活用が有効だ。Aは刺激(Activating event)、Bは信念(Belief)、Cは結果(Consequence)を意味し、Dは反省・反論(Dispute)、Eは効果や影響(Effect)を指す。ABCDE理論を活用し、自身の思考や信念を見直し、よりポジティブな視点を持つよう意識してみよう。

自身の負の信念を振り返り、より建設的な考え方に切り替えることでレジリエンスを強化できる。日常生活で実践できる主なトレーニング法は、以下の通りだ。

  • ストレスマネジメントやリラクゼーション技法の習得
  • 自己ケアやバランスの取れた生活習慣の確立
  • ポジティブな思考や感謝の実践
  • 挑戦や困難を経験する機会の積極的な探求 など

これらの行動を通じてストレスへの対処能力や回復力を養うことで、レジリエンスの強化が期待できる。

組織の日常運営での行動

組織を運営するなかでレジリエンスを日常的に強化するために有効な行動としては、以下が挙げられる。

  • 社員のレジリエンス力を強化
  • チャレンジを評価する企業文化を醸成
  • ビジョンやミッションの浸透
  • BCP(事業継続計画)への取り組み

組織は、社員のレジリエンスをサポートするために情報の適切な共有やオープンなコミュニケーションを促進する必要がある。またトレーニングやワークショップを通じてストレス管理や自己ケアのスキルを提供し、社員の心理的な健康とレジリエンスを向上させる取り組みも重要だ。さらに組織は、チャレンジや失敗を学びの機会と捉える文化を醸成することにも力を入れるべきだろう。

社員が新たなアイデアや提案に積極的に取り組める環境を整え、フィードバックと成長の機会を提供する。組織のビジョンやミッションを明確に伝え、社員に共有することで共通の目標に向かって取り組む意識や意義を高めることができるだろう。ビジョンやミッションは、組織全体のレジリエンスを強化する重要な要素だ。

組織は、予期せぬ出来事や災害に備えるためのBCPを策定し、実施することでレジリエンスを高めることができる。BCPとは、組織の持続性を確保し困難な状況にも迅速かつ適切に対応するための枠組みだ。これらの日常的な行動が個人や組織のレジリエンスを強化し、変化や困難に対処する力を育むのに役立つ。

組織レベルでのレジリエンス強化戦略と具体的な事例

組織がレジリエンスを強化するためには、以下のキーワードを意識することが重要だ。

  • シナリオプランニング
  • 環境への調和
  • 独自のブランド力
  • 自律分散型組織の構築

シナリオプランニングとは、将来の変化やリスクに備えてシナリオを立案し、対策を準備する戦略のことだ。環境への調和は、社会や自然環境との調和を図る経営戦略である。独自のブランド力は、強力なブランド価値を持ち、顧客の信頼を築くことで組織のレジリエンスを高める戦略を指す。以下に、これらのキーワードに即した具体的なレジリエンス強化戦略の事例を紹介する。

シナリオプランニング:ユニ・チャームの例

ユニ・チャームでは、気候変動が事業戦略における大きな要素の一つだと捉えている。そこで気候変動の対応策を左右する2軸の不確定要素より、4パターンの未来シナリオを作成した。複数のシナリオを作成することで、どの方向に動いても柔軟に対応できるよう備えている。

環境への調和:サントリーホールディングスの例

サントリーホールディングスは、環境に配慮した経営を行うことでレジリエンスを高めている。持続可能な水資源管理やCO2削減への取り組み、人と自然が共存して長く持続していく社会を目指すことを宣言し、取り組みを継続している。

独自のブランド力:キリンホールディングスの例

キリンホールディングスは、強力なブランド力を構築し、海外にも積極的に進出するなど市場変動に対するレジリエンスを発揮している。ブランド価値の向上や顧客のニーズに応える商品開発、近年ではヘルスサイエンス領域にも力を入れるなど市場変化にも柔軟に対応している。

自律分散型組織の構築:サイボウズの例

サイボウズは、自律分散型の組織体制を構築することでレジリエンスを高めている。その一例が取締役の社内公募だ。最終的にサイボウズは、ティール組織を目指しているという。ティール組織とは、指揮命令系統がなく平等な権限と責任をもって進む自律的な組織だ。

これらの事例は、組織がレジリエンスを強化するための戦略の一部だ。実際には、個々の組織の特性や課題に合わせて適切な取り組みを行うことが重要である。

レジリエンスを強化して持続的な成功を達成しよう

レジリエンスは、組織の持続的な成長と成功に欠かせない要素で、困難や変化に柔軟に対応し、回復力を発揮する能力を指す。レジリエンスを高めるためには、意識的な行動が重要だ。組織のレジリエンスを向上させることで未来の変化や困難に立ち向かい、持続的な成功を達成しよう。

著:藤森 みすず
食品衛生管理者、情報処理のアプリケーションエンジニア。21年ほどメーカー系SIerにてプログラマー、システムエンジニアを経験。退職後、Webライターとして様々な分野の執筆を行う。一時期、飲食業開業について学んだことがあり、起業関連の情報にも精通。FXなど投資関連も得意とする。

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