目次
産経ニュース エディトリアルチーム
埼玉県で急成長している不動産会社がある。「戸建賃貸住宅」の建設を中心として事業を展開する株式会社東日本地所(さいたま市中央区)だ。戸建賃貸住宅事業では、生産緑地法の指定解除という追い風も吹き、県内だけでなく、西東京地域にも営業エリアを広げている。ICTシステムの導入により、事業拡大に伴う情報共有やセキュリティ対策、業務効率化も図っており、次なる成長に向けて着々と体制整備を進めている。(TOP写真:東日本地所の急成長を支える戸建賃貸住宅)
戸建賃貸住宅が成長の柱。500棟(受注実績)の建築実績を誇る
「当社は4つの事業分野で構成されている」。こう話すのは、株式会社東日本地所の山田義夫取締役経営管理本部長だ。①戸建賃貸住宅の建築、②アパート建築等投資物件不動産売買、③不動産の仲介、④アパート・マンションなどの賃貸管理、の4つだ。
同社は2016年9月に、黒岩主信代表取締役が3人で創業。翌年には賃貸事業を始めた。中でも急成長の柱となっているのが、2018年4月に「グランソフィア」というブランドで販売を始めた戸建賃貸住宅だ。翌2019年には100棟の販売を達成。以降、毎年のように100棟ずつ増やしていき、2022年には400棟、「2023年には600棟の受注を目指す」としている。(山田取締役)という。ほとんどが埼玉県内の物件というが、驚異的な伸びを記録しているといえる。現在(2023年4月)では社員は100人に増えた。
そのビジネスモデルはこうだ。営業担当者が地図を見てエリア内の空き地を探し、土地所有者を調べる。条件に合う不動産所有者に対して、土地の有効活用、資産運用として、その土地を保有したままで戸建の賃貸住宅の建設を勧める。アパートやマンションなどの賃貸住宅の建設を勧める不動産会社は多いが、戸建の賃貸を推進するのは全体の数パーセント程度と、「ニッチ(すき間)ビジネス」(山田取締役)という。
建築の低コスト化も武器に。「生産緑地」解除でチャンス拡大
短期間で多くの建設実績を残せたのは、子供のための生活環境を重視する子育て家庭などが増え、「都内や都心の在住者が、郊外の戸建に住みたいというニーズが増えた」ことだ。特に2020年以降はコロナ禍もあって在宅勤務が急増。急成長のビジネスに拍車をかけたという。
急成長の理由は、もう一つある。戸建賃貸の設計から建築までを請け負うだけでなく、完成後の入居者まで紹介するという「一括してワンストップで完結する方式」(山田取締役)のためだ。さらに設計面でも、土地の面積や形状の違いはあるものの、間取りなどをある程度パッケージ化し、大量生産しているため建築コストを抑えていることも大きな特徴。
「埼玉県南部は人口流入が続いており、さいたま市内の好立地の土地はまだまだある」と、山田取締役は強気だ。その背景には「生産緑地法」がある。同法は宅地供給と良好な環境を守るため、1992年に改正され、時限立法として、農地保存のために30年間は指定地域を決めて営農義務を課す内容。その代わり、固定資産税や相続税などで優遇が受けられる。その30年間の指定が2022年に解除され、生産農地の買い取りを希望する土地所有者は営農義務が解除され、地元の農業委員会に申請して許可を得られれば、一般の住宅地と同様に売買できるようになった。
高齢化により農業の担い手も減少傾向にあるため、「土地の流通は確実に増える」と見込む。しかも、もともと農地だったため、ある程度の面積がある。これまでは大型の物件でも、1件の土地で最大6~7棟程度建てた実績はあるが、今後は「大型の物件なら、10棟ぐらい建てられる可能性もある」という。土地売却物件が増えれば、同社と同様の戸建賃貸住宅を手掛けるライバルが増える可能性もあるが、山田取締役は「競争は激しくなるかもしれないが、当社は建築を含めたパッケージで提案できる」と、アドバンテージを強調する。
東京都にも進出。ICTで社内情報を共有し効率化進める。セキュリティ対策も実施
急成長に伴い、現在ではさいたま市内に本社及び大宮・浦和に営業所を配置、2022年11月には埼玉県外で初めて東京都府中市に支店を設けるなど、組織は急拡大している。その一方で、従業員も急速に増え、社内のICTシステムの整備も急務となった。最初は、「パソコンの不備とセキュリティの問題」(山田取締役)だった。
データを一元化していなかったため、社内で情報共有に課題があった。そこで、社内に100台以上あるパソコンを入れ替えながら、バックアップサーバーでデータの一元管理を実現。アクセス権限を付けながら、スケジュールや情報共有を進めた。営業や設計情報などをデータベース化したことで、特に営業部門では「必要な情報だけを取り出してプレゼン資料を作成するなど、資料作りが早くなり、共通の営業フォーマットもできてきた」。
社員の増加や拠点の増加とともに、社内情報のやり取りが急増。それに伴いネットワークの負荷が高まり、遅延などの弊害も目立ってきた。そこで2022年後半にはIPv6(インターネット・プロトコル・バージョン6)と呼ばれる高速通信を導入し、遅延などを解消する最新型の情報共有システムに切り替えた。2021年には外部からの攻撃に備えるUTM(統合型脅威管理)によるセキュリティ対策も施した。
複合機でセキュリティ対策も実施。タブレット端末で働き方改革も実現
社内セキュリティ対策では、複合機での対策も進めた。従来は複合機に印刷を指示すると即時にプリントしていた。本社には「複合機が1台しかなかったため常に混雑し、他の人の書類と混在するため、顧客情報や経理情報など管理面で問題があった」。そこで複合機を入れ替えると同時に、セキュリティセットを導入。印刷指示をすれば複合機にデータが蓄積され、必要に応じてタッチパネルで出力する仕組み。これだと出力履歴が残るため情報流出を防ぐとともに、紙の無駄を防ぎ「コスト削減にもつながった」と、二重の効果が表れた。
工事現場を巡回する現場監督者には、試験的にタブレット端末も導入。これまで当日の工事終了後は、資料作りなどで帰社する必要があったが、外出先からサーバーにアクセスしてデータ保存できるため、現場からの直帰が可能となるなど、「現場の人の労働時間が激減し、働き方改革にもつながった」(山田取締役)とし、タブレット端末を本格的に導入していく方針だ。
中期計画には、営業エリア拡大を盛り込む
山田取締役は、2022年11月に府中支店を開設した背景を「西東京地域は、全体の人口は増えていないが、若年層は増えており、戸建の需要は高い」と説明する。生産緑地指定の解除も受け、「2023年9月から始まる中期計画では、今後もさらに営業エリアを増やしていくことを盛り込む」という。
「現在では、1ヶ月に約10棟を施主様へ完成引き渡しをしている。計画をスムーズに進めるためには、営業と工事部門、建設現場の連携を一層深める必要がある」とし、今後もICTの活用により社内体制を整備していく方針だ。同社の活躍の場は埼玉県を中心として、首都圏にも広がっていきそうだ。
企業概要
会社名 | 株式会社東日本地所 |
---|---|
本社 | 埼玉県さいたま市中央区新都心7-2 大宮サウスゲート5階 |
HP | https://higashi-nihonjisho.com |
電話 | 048-711-7051 |
設立 | 2016年9月 |
従業員数 | 約100人 |
事業内容 | 戸建賃貸住宅の建築、アパート建築等投資物件不動産売買、不動産の仲介、アパート・マンションなどの賃貸管理。 |