スタートアップという言葉をよく見聞きするようになった。しかしなかには、スタートアップがどういう企業であるか理解しているつもりでも、意味やベンチャーとの違いをきちんと説明できない人もいるだろう。そこで本記事では、スタートアップの意味やベンチャー・スモールビジネスとの違いについて解説していく。

あわせてスタートアップ支援サービスや成功ポイントなどについても紹介する。

目次

  1. スタートアップの意味は
    1. スタートアップの定義
    2. スタートアップの特徴
    3. ベンチャーとの違い
  2. 政府もスタートアップ育成を支援
  3. スタートアップ成功例
    1. メルカリ
    2. シナモン
    3. スマートニュース
  4. スタートアップ起業のポイント
    1. ビジネスモデルの確立
    2. 資金調達
    3. 人材確保
    4. 短期的な経営戦略(イグジット)
  5. スタートアップ支援サービス
    1. J-Startup
    2. StarT!Ps(スターティプス) from NEDO
    3. Startup Hub Tokyo(TOKYO創業ステーション)
    4. ドリームゲート
  6. スタートアップを目指すなら明確なビジネスモデルを
スタートアップとは? 意味や成功ポイントを簡単に解説
(画像=アトリエマッシュ/stock.adobe.com)

スタートアップの意味は

まずは、スタートアップの意味について確認しておこう。

スタートアップの定義

スタートアップとは、「Start(スタート)」と「Up(上昇)」という言葉の通り、「急成長をする組織」と定義されている。例えば、起業して数年間で数千億円の価値評価が付いたり、数十年で世界を変革させるような事業を行ったりする会社や組織を指す。「スタートアップ=ITや技術系の企業」と考える人も多いが、実際はITや技術系の企業に限られているわけではない。

たしかに世界を変革させるためには、新たな技術も必要となるため、必然的にITや技術系の企業がスタートアップに多い傾向だ。しかしITや技術を用いた事業であっても「着実な成功」を目指すビジネスの場合はスタートアップに該当しない。この場合は、スモールビジネスやベンチャーに該当する。

スタートアップの特徴

スタートアップ企業には、主に以下の6つの特徴が挙げられる。

  • イノベーション
  • 「Jカーブ」の成長曲線
  • 短期間でイグジット(EXIT)を達成する
  • ベンチャーキャピタルやエンジェル投資家をステークホルダーとする
  • 即戦力の人材を集めた組織づくり
  • キャピタルゲインを報酬とするインセンティブ設計

イノベーションは、「技術革新」とも呼ばれるが、革新的なビジネスモデルや商品・サービスなどで社会に大きな変革をもたらすことを指す。まさにスタートアップの目的とするところであり、イノベーションは欠かせないものだ。また起業間もなく急激な成長をもたらす、いわゆる「J」の形の成長カーブを目指し、早期にイグジットを達成する出口戦略を描いている。

ちなみにスタートアップでいうイグジット(出口戦略)とは、スタートアップへの投資家が資金を回収することを意味する。投資家とは、ベンチャーキャピタルやエンジェル投資家を指し、資金回収にはM&AやIPOなどの手法を選択するのが一般的。これらを実現させるためには、即戦力となる人材が必要だ。

ただ自身のスキルが高いだけでなく組織や事業の成功に向け、インセンティブとしてキャピタルゲインを得られるようにストックオプション供与という構図もある。

ベンチャーとの違い

フットワークが軽く大企業が実現できないような経営により新しい商品やサービス、事業を展開する企業には、ベンチャーもある。これは、スタートアップと共通する点であるが両者は「イノベーション」と「成長曲線」の2点が大きく異なるのが特徴だ。ベンチャーは、既存のビジネスモデルをベースに独自の変化や工夫を加えて商品・サービス・事業を展開する企業である。

そのため「市場で受け入れられるだろう」というある程度の確信が得られる事業を行うことで、安定した収益を目指す。一方、スタートアップは社会に変革をもたらすようなイノベーションで急成長を目指すのだ。

政府もスタートアップ育成を支援

新たな事業に挑戦したいと思っても、短期で急激な成長を目指すとなると、スタートアップでの起業に二の足を踏む人もいるかもしれない。そもそも日本では、米国と違ってスタートアップが生まれやすいエコシステムが脆弱だ。起業家の数そのものが少なく、優秀な人は大企業に集中してしまいスタートアップに移動しない。

スタートアップに投資するベンチャーキャピタルはあってもファンドの規模が米国の場合に比べて小さいなど数々の問題点が指摘されている。しかし米国のGoogle、Meta(旧Facebook)、Airbnbなどを見てもわかるように、スタートアップは経済成長のドライバーとなる企業であり、日本政府も経済が成長軌道を取り戻すためには勢いのあるスタートアップの出現が不可欠との考えだ。

そこで2022年を「スタートアップ創出元年」と位置づけ、2022年11月には「スタートアップ育成5か年計画」を策定。この5年間でスタートアップへの投資額を10倍にして人材・資金・ビジネス環境などのさまざまな支援策を展開していく方針だ。各支援策の詳細は、本記事では割愛するが、主な支援策を羅列しておくので気になる人は経済産業省のサイトで確認して欲しい。

  • 未踏IT人材発掘・育成/未踏アドバンスト/未踏ターゲット事業
  • 海外派遣による起業家等育成
  • 中小機構のインキュベーション事業
  • 出向起業補助金
  • 信用保証協会における新たな信用保証制度
  • スタートアップへの再投資に係る非課税措置の創設
  • ストックオプション税制の拡充
  • オープンイノベーション促進によるM&A促進

この他にも良質なさまざまな支援策が準備されている。

スタートアップ成功例

ここでは、日本でのスタートアップ成功例を3つ紹介していく。

メルカリ

メルカリは、今や誰もが知るフリマアプリの「メルカリ」の企画・開発・運用をする会社である。2013年2月の設立から順調に出品数を増やし、サービス開始後約9年半で累計出品数約30億品(2022年11月27日)を達成した。「家庭に眠る不用品を売買する場を提供する」というビジネス自体は、目新しいものではない。

しかしメルカリは「スマホで出品物を撮影」「AIが商品名やカテゴリー、価格などを自動入力」「約3分で出品可能」とユーザー視点に立った画期的なアイディアおよびイノベーションで独自のビジネスモデルを確立した。資源を循環させる豊かな社会の創造にも成功している。創業5年後には、東証マザーズ(現:グロース)市場に上場。

創業時のメルカリの株価は1株500円だったがIPO価格(公募価格)は3,000円、初値は5,000円だった。まさにスタートアップの成功例といえるだろう。

シナモン

株式会社シナモンは、人間のように文書を読み取るAI OCRの「Flax Scanner(フラックス・スキャナー)」を中心に、企業の生産性を改善する人工知能プロダクトの開発・提供を行う企業だ。「AIで世界の進化を加速させる」をミッションに、日本・アメリカ・ベトナム・台湾などに200人以上のグローバルチームを持ち、多数の大手企業への提供実績を有する。

同社の法人設立は2016年10月。約3年後となる2019年11月25日発表のForbes JAPAN「起業家ランキング2020」では、同社代表の平野氏がBEST10に選出された。さらに同氏は、世界経済フォーラムが選出する世界に変化をもたらす40歳以下のヤング・グローバル・リーダーズ(YGL)の2022年度クラスにも選出されている。

スマートニュース

スマートニュースは、多岐にわたる媒体で発信されている良質なコンテンツをリアルタイムでさまざまなチャンネルに分類して表示するスマホアプリを開発・運営する企業だ。単にニュースを流すだけでなく、約3,000のメディア(2021年12月時点)から自分の好みに合わせてニュースの特集や媒体を追加し、自分だけのニュースフィードをカスタマイズできる。

これによりユーザーは、「いくつもの媒体にアクセスせず情報通になれる」というサービスだ。2012年6月の設立後、約7年で日米合わせたダウンロード数は5,000万以上と急成長を遂げている。

スタートアップ起業のポイント

スタートアップとして起業するために押さえておきたいポイントを紹介する。

ビジネスモデルの確立

ベンチャーとの違いでも説明したように、スタートアップは社会に変革をもたらすほどのビジネスモデルの確立が欠かせない。独自性のあるアイディアや技術・知識だけで社会は動かない。社会全体を動かすためにこれらをどのようにビジネスモデルとして確立するかを熟慮することが必要だ。

資金調達

早期で事業の成功を目指すスタートアップでは、資金力が必要だ。一般的にスタートアップでは、ベンチャーキャピタルやエンジェル投資家が資金の提供者となるが、投資を受けるには革新的なアイディアやビジネスモデルなど成功に向けた裏付けがカギを握る。先に紹介した日本政府の支援なども選択肢に入れながら有効な資金調達法を検討したい。

人材確保

自身が発案者の場合でも、そのアイディアを事業として実現するにはチームでスタートアップビジネスを行わなければならない。即効性のある人材として各分野の知識・経験に長けた専門家を確保する必要があるだろう。またそれぞれが専門家としての自負があることから、意見が衝突しないようにチームをうまくまとめるリーダー役も必要だ。

人材をいかにして集めるかがポイントとなり、これにより事業の進捗が大きく変わってくるだろう。

短期的な経営戦略(イグジット)

イグジットもあらかじめ想定しておく必要がある。イグジット例としては、上述したようにIPOやM&Aが一般的だ。しかし「どちらの手法を選択するか」「イグジットをして利益回収する」といったことだけを考えればいいわけではない。イグジットした後もビジネスは継続し、すべてのステークホルダーへの責任は続く。事業計画を立てる際は、これらのことも意識しておきたい。

スタートアップ支援サービス

日本政府の「スタートアップ育成5か年計画」を紹介したが、すでに複数のスタートアップ支援サービスが実施されている。ここでは、主な支援サービスを4つ紹介していく。

J-Startup

「J-Startup」は、2018年6月に創設されたスタートアップ創出支援機関だ。以下の3組織が事務局となっている。

  • 経済産業省 経済産業政策局(METI)
  • 独立行政法人日本貿易振興機構(JETRO)
  • 国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)

潜在力の高いスタートアップに対して集中的な支援プログラムを実施するとともに、グローバルに活躍できるよう海外への進出支援にも熱心だ。

StarT!Ps(スターティプス) from NEDO

「StarT!Ps from NEDO」は、前出した国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が運営するスタートアップ・中小企業向けのポータルサイトだ。資金調達支援やマッチング支援などNEDOのスタートアップ向けの支援事業・制度が詳しく紹介されている。またスタートアップに挑戦したい人の後押しとなるようにNEDO事業利用者の成果や参加エピソードなども紹介されている。

Startup Hub Tokyo(TOKYO創業ステーション)

「東京創業ステーション」は、東京都と東京都中小企業振興公社が立ち上げた起業支援ハブ。スタートアップ起業相談や支援も請け負っている。丸の内と多摩地区に2つの拠点を持ち、起業に関する無料相談(事前予約が必要)やイベント、セミナーなどほぼ毎日開催している。ワークショップや交流会もあるため、起業を志す人は参加してみるとよいだろう。

ドリームゲート

民間企業としてスタートアップ支援をするのが「ドリームゲート」だ。2003年4月、小泉内閣の経済財政諮問会議において経済産業省からの公募を株式会社リクルートが受託、当時同社社員であったドリームゲート代表の松谷氏が担当者としてプロジェクトを立ち上げたのが始まりだ。2023年現在は、日本最大級の起業支援プラットフォームとして「起業したい」「起業準備を始めている」「すでに起業した」という人向けにさまざまな支援サービスを提供している。

事業計画や資金調達、会社設立、会計・税務、IT、法務、市場分析などビジネスに必要不可欠な各分野の専門家を選び、無料相談ができる(実際の業務依頼は有料)。専門家による起業・経営セミナーも随時開催しているため、参加してみるのもよいだろう。

スタートアップを目指すなら明確なビジネスモデルを

スタートアップは、事業の急成長や社会の変革を目指す起業形態だ。日本政府もわが国の経済の再成長に向け、スタートアップの育成支援を拡大させた。新しいことで社会を良くするために起業を目指す人は、スタートアップに挑戦するのもいいだろう。ただスタートアップで成功するには、明確なビジネスモデルや資金調達、人材確保などクリアすべき点も多い。

スタートアップが気になっている方は、夢を実現するためにも、まず起業の専門家に相談してみてはいかがだろうか。

續 恵美子
著:續 恵美子
ファイナンシャルプランナー(CFP®)。生命保険会社で15年働いた後、FPとしての独立を夢みて退職。その矢先に縁あり南フランスに住むことに。夢と仕事とお金の良好な関係を保つことの厳しさを自ら体験。こうした経験をもとに、生きるうえで大切な夢とお金について伝えることをミッションとして、マネー記事の執筆や家計相談などを行う。
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