近年、中小企業で後継者問題が解決できずに廃業する企業が多いことが問題になっている。中小企業であっても優れた技術を有する優良企業は多い。しかし中小企業の後継者不足の問題は深刻で、多くの企業がその悩みや問題を解決できずに廃業を余儀なくされている。事業承継不足の問題点としては後継者を育てるのが難しいことがあげられるが、事業承継の方法は親族内承継だけではない。

本稿では、中小企業でもできる事業承継の解決方法について解説する。

目次

  1. 後継者とは?
  2. 中小企業の後継者不足の現状
    1. 日本の経営者の高齢化による悩み
    2. 後継者が決まっていない企業、廃業を予定している企業が多い
  3. 中小企業で後継者が決まらない原因
    1. 事業承継の3つの方法
    2. 事業承継で生じる問題
    3. 中小企業で後継者が決まらない原因
  4. 事業承継の準備は早くから行う必要がある
    1. 早い段階から後継者を育成する
    2. M&Aによる事業承継など第三者承継も検討する
  5. 事業承継の準備は早めに行おう
後継者とは? いない企業は廃業する? 事業承継の解決方法について簡単に解説
(画像=BBuilder/stock.adobe.com)

後継者とは?

端的に言えば、会社の後を継ぐ人のこと。親族間や社員、社外の優秀な人物など第三者へ引き継がれる場合もある。受け継ぐものとしては、企業や財産など有形資産のほか、これまで培ってきた理念や伝統といった無形資産がある。

中小企業の後継者不足の現状

後継者がいないために廃業を決断する経営者も多くいる。最初に中小企業の後継者不足の現状を分析したデータから見てみよう。

日本の経営者の高齢化による悩み

中小企業庁が2023年4月には公表した「2023年版中小企業白書」に掲載されている株式会社帝国データバンクが集計したデータでは、中小企業の経営者は50~70歳代前半にかけた年齢層が多い。団塊世代の経営者が事業承継や廃業によって引退しているものの、それでもなお経営者の年齢層が高いことがうかがえるだろう。

75歳以上の経営者の割合は、過年度よりも2022年のほうが高くなっており、団塊世代の経営者の引退が進んでいるものの、経営者が高齢となっても事業承継ができていない企業はまだ多いといえる。中小企業白書では、経営者年齢の上昇に伴い「事業承継を実施できている企業」と「事業承継が実施できていない企業」に二極化していると見ている。

後継者が決まっていない企業、廃業を予定している企業が多い

日本政策金融公庫総合研究所が2023年3月23日に公表した「中小企業の事業承継に関するインターネット調査(2023年調査)」によると中小企業における事業承継の見通しの割合は、以下のようになっている。

後継者

なんと廃業を予定している企業(廃業予定企業)は、57.4%にものぼる。廃業予定企業の割合は、2019年調査時点で52.6%であったが、4.8ポイントも上昇した。そのうち従業者数1~4人の企業の割合が81.8%となっており、規模が小さい企業ほど廃業を予定する傾向にある。また廃業予定企業では、経営者が60歳代の企業が28.1%、70歳以上の企業が44.1%と高齢になるほど高いことも特徴的だ。

未定企業における事業売却に関する意識では「現在売却を具体的に検討している」と回答した企業が2.9%、「事業を継続させるためなら売却してもよい」と回答した企業が39.4%となっており、約4割の企業で事業売却の可能性を考えていることになる。

事業承継に向けた経営状況・経営課題の把握では、「決定企業」の3.4%、「未定企業」の2.5%が外部機関や専門家などから「すでに支援を受けている」と回答。一方で「決定企業」の15.6%、「未定企業」の19.7%が「将来支援を受けたい」と回答している。

これらを踏まえると中小企業でも事業承継計画の策定や事業承継時の具体的手続き、事業売却先の選定の支援を受けることを希望する企業は多く、一定のニーズがあると考えられる。

中小企業で後継者が決まらない原因

中小企業で後継者が決まらないのは、どこに原因があるのだろうか。ここでは、その問題点や原因について解説する。

事業承継の3つの方法

事業承継には、主に以下の3つの方法が考えられる。

・1.親族内承継
経営者の息子など子どもや兄弟など親族のなかから候補者を選んで承継する方法

・2.従業員など自社企業の生え抜きへの承継
自社の有望な役員や従業員など社内の優秀な人材を候補者に選んで承継する方法

・3.第三者承継
外部から後継者となる候補者を選んで承継する方法

事業承継で生じる問題

事業承継によって経営者が交代することで起こり得るリスクには、以下のようなものがある。

・1.売上の減少
特に中小企業では、創業者の力量で事業拡大を図ってきた企業が多い。なぜなら中小企業は、良くも悪くもワンマン経営になりやすく経営者の経営センスや能力、人間関係で経営基盤が成り立っているからである。経営者の人脈によって売上を獲得するなど、経営者自身の営業活動でビジネスが成立し、長年取引している顔見知り同士の取引が多いことも特徴だ。

経営者の長年培ってきたノウハウと人脈によって安定した経営基盤を築いてきたため、後継者問題で派閥ができたり跡目争いが生じたりすれば、取引先との信頼関係が損なわれてしまう可能性もある。相続によって子どもが後を継いでも、経営基盤をしっかりと引き継ぐことができなければ売上は減少しかねない。

経営者が変わることで別会社のように経営方針が一変することは、よくあることだ。なじみの客というのは、長年の信用により取引を継続してきているため、経営方針の変更によっても売上が減少することがあるのだ。世代交代によって経営方針が変われば、それがきっかけとなって取引先との関係が疎遠になったり取引を解消されたりする可能性もある。

・2.従業員から離職者が発生する
経営者の交代により、これまで経営を支えてくれた幹部や従業員の心が離れ、退職してしまうことも考えられる。ワンマン経営ではなくても企業経営者の人間性や魅力、経営理念で成り立っている中小企業は多い。経営者の交代によって求心力が低下すれば、離職者が発生することが考えられる。

また息子が後継者となって「息子自身の考えで経営を立て直す」ということもあるかもしれない。しかし後継者と従業員で経営方針に対する考え方の対立が原因で有能な人材が流出することもある。

・3.事業継続の危機となる要因が発生する
事業計画の作成や経営会議、銀行など金融機関の手続き、取引先との業務の打ち合わせなど事務的なことは引き継ぐことができるだろう。しかし言葉では説明しにくい経営者個人が持つセンスや長年の経験に基づくノウハウを引き継ぐことは容易ではない。また中小企業では、経営者自身が自社の株式を保有し、経営者の個人資産を事業に提供しているケースも多い。

事業資産と個人資産とが密接な関係にあるため、「相続による持株の譲渡」「個人資産と事業資産との分離」「後継者への事業承継」といったことがうまくいかないと事業継続の危機につながる可能性がある。

中小企業で後継者が決まらない原因

中小企業の経営者が連帯保証人となって、金融機関からの借入金など会社の債務を個人保証することは珍しくない。しかし親族内承継の場合、後継者が引き続き債務を個人保証するように金融機関から求められることがあるため、会社の経営状態が悪化すると後継者が債務を弁済することになるリスクが生じてしまう。このような経済的な負担を危惧して後継者となることを拒否する親族も少なくない。

会社経営には、社会情勢や市場のニーズの変化、資材高騰、為替レートの変動など経営者の手腕だけでは避けられないリスクが多く発生する。これらが要因で経営が厳しくなると後継者が経営責任を問われる事態にもなりかねない。経営リスクを恐れて親族内承継を希望する経営者が減少していることも、中小企業で後継者が決まらない要因といえる。

後継者は、技術的な能力はもとより、「リーダーシップに優れ人格的に優れている人物でなければならない」というプレッシャーを抱えている。しかし求められる能力が高いほど社内でも親族内でも後継者の候補となる人材を見つけることが困難になるだろう。「既存のビジネスを維持しつつ新しい分野に進出する」といったチャレンジ精神も経営には必要だ。

しかし、新しい時代に合った経営ができる人材は、募集してもなかなか見つけることができない。

事業承継の準備は早くから行う必要がある

「親族内承継」「従業員など自社企業の生え抜きへの承継」「第三者承継」のいずれの方法を選ぶにしても事業承継には時間がかかる。そのため事業承継の準備は、早ければ早いほどよいだろう。

早い段階から後継者を育成する

経営者の親族に会社を継がせるのであれば、英才教育とまではいわないが、後継者育成のためにも候補者に業務経験を積ませることが必要となる。後継者が経営者の子どもであれば、社外の企業に就職させて社会人としての一般常識を身につけてから自社に呼び入れる方法を取ってもよい。

社員のなかから後継者を選ぶのであれば、業務内容は熟知しており、専門知識を有しているため、業務への支障が生じる可能性は低く社内の混乱も少ないだろう。しかし社内・社外の協力者や金融機関との交渉、経営会議の同席、社外の管理職研修への参加など後継者育成のために行わなければならないことはたくさんある。

そのため社内・社外の者へ周知し、経営参加により経営者としての経験を積ませ、経営の判断力を養うことも必要だ。「親族内承継」「従業員等自社企業の生え抜きへの承継」のいずれを選ぶにしても、早い段階から後継者候補を選び、後継者育成を手掛けることが重要となる。また「後継者を身内から選ぶか」「社内から選ぶか」によって会社の株式(経営権)や資産を承継する方法は異なる。

さらに株式や現経営者が所有する事業資産の相続、譲渡、贈与など、税制面について税理士や弁護士などの専門家に相談することも必要だ。

M&Aによる事業承継など第三者承継も検討する

後継者がいない中小企業では、M&Aにより第三者が承継する方法も検討したい。親族への承継とは異なり条件面の交渉や個人債務の整理、経営方針のすり合わせなどに時間がかかるのが特徴だ。しかしM&Aで事業を絶やすことなく引き継ぎ、雇用している従業員の生活や取引先との信頼関係、経営のノウハウを守ることができる。

「息子が親の会社を引き継ぐことを望まない」「社内で後継者が見つからず廃業する」といったケースは少なくないため、近年は中小企業においてもM&Aが活発に行われている。事業譲渡によるM&Aで経営の継続性が保てなくとも譲渡益によって現経営者が利益を得られるため、後継者不在の企業なら検討する価値はあるだろう。

中小企業の事業承継に関する相談に対応するために国が設置した公的相談窓口である「事業承継・引継ぎ支援センター」 では、親族承継や第三者承継の相談ができる。そのほか事業承継計画の策定や事業承継時の具体的手続き、事業売却先の選定、経営者補償の問題解決などさまざまな支援が受けられるので、活用することを検討するのもよいだろう。

事業承継の準備は早めに行おう

経営者の高齢化が進み、後継者となる者がいないために廃業する中小企業は多い。しかし中小企業にも優れた技術や経営ノウハウを持つ企業は多く、事業を絶やすことなく引き継ぐことができないのは、日本経済にとって大きな損失となる。「親族内承継」「自社企業の従業員などへの承継」「第三者承継」のいずれの方法を取るにしても事業承継の準備は早いにこしたことはない。

中小企業の後継者不足は深刻な問題である。後継者が見つからない場合は、一部譲渡や事業縮小・拡大時にも活用できるM&Aを検討するのも方法の一つだろう。

加治 直樹
著:加治 直樹
特定社会保険労務士。1級ファイナンシャル・プランニング技能士。銀行に20年以上勤務。融資及び営業の責任者として不動産融資から住宅ローンの審査、資産運用や年金相談まで幅広く相談業務を行う。退職後、かじ社会保険労務士事務所を設立。現在は労働基準監督署で企業の労務相談や個人の労働相談を受けつつ、セミナー講師など幅広く活動中。中小企業の決算書の財務内容のアドバイス、資金調達における銀行対応までできるコンサルタントを目指す。法人個人を問わず対応可能であり、会社と従業員双方にとって良い職場をつくり、ともに成長したいと考える。
無料会員登録はこちら