ずるい考え方
木村 尚義
流通経済大学卒業後、ソフトウェア開発会社を経てOAシステム販売会社に転職。その後、外資系IT教育会社にて、それまでの経験を生かした研修を展開。2万人以上の受講者から好評を得る。従来の発想の枠を越え、常識にとらわれないビジネススタイルを「創客営業」と名付け、全国にてセミナーを実施中。株式会社創客営業研究所代表取締役・アカデミーヒルズ六本木ライブラリー個人事業研究会会長

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ケース1 トップ企業にはりついた化粧品メーカー

後発だからこその強み

勢力図がある程度できあがっている業界に新規参入していくのはむずかしいものです。普通なら、「見込みなし」と判断して、早々にあきらめるでしょう。

しかし、やりようによっては、新参の企業が隙間に入り込むことは不可能ではありません。

確かに後発は、トップ企業と比べるとお金も人も技術も足りないというケースがほとんどです。

しかし、後発だからこそ、後出しジャンケンのように確実に利益が得られることもあるのです。

ここでは、ある化粧品メーカーA社が、参入不可能と思われていた業界で一定の地位を確立した事例を紹介しましょう。

トップ企業の「隣」を狙え

たとえば、飲食店が新規の出店計画を立てるとします。

このとき、どの部分に一番資金が必要になると思いますか?

出店場所を絞り込むときには、周辺の土地柄などを考慮して、年齢や性別などの属性別に、どんな人たちが来店してくれそうかを調べる調査を実施します。

いわゆる「マーケティング・リサーチ」ですね。

最もお金がかかるのは、ここです。

大手なら、このマーケティング調査に潤沢に予算をつぎ込めますが、弱小企業ではそうはいきません。

ようやくいい場所を探せても、そこに同業他社がすでに出店していた……というケースも珍しくない。

そういう場合、普通なら「かなわないから、別の場所に出店しよう」と考えるでしょう。

しかしA社は、少し違う考え方をしました。

実際にトップ企業が出店しているということは、調査の結果、「収益が見込める」という予測がたったからだと考えたのです。

そこでA社は、トップ企業にはりつくという戦略をとりました。

トップ企業があるデパートに販売ブースを置けば、A社も同じデパートに進出し、トップ企業が駅のホームに宣伝ポスターを貼れば、A社も必ずその隣にポスターを貼ったのです。

実は他の業界でも似たような例があります。

飲料メーカーのB社も、A社とまったく同じ戦略をとりました。

トップ企業が設置している自動販売機の隣に、自社の自動販売機を次々に設置していったのです。

デパートの販売ブースであれ、自動販売機であれ、トップ企業がそれなりに調査をしているわけですから、その場所は実際に「買ってもらえる」スポットなのです。

また、トップ企業の製品を買う人には、同時にA社やB社の商品が目に入りますから、そのたびにブランドの認知度も上がっていくというわけです。

ここがポイント!
自社の販売戦略に他社のマーケティング力を利用した。

ケース2 「業界第2位」をアピールしたレンタカー会社

われわれはナンバー2です!

ナンバー2の存在は、なかなか知られないものです。

富士山は日本で一番高い山ですが、「2番目に高い山は?」と聞かれて、すぐに答えが思いつく人は少ないでしょう(正解は3193 メートルの北岳)。

同じように、業界内のトップ企業はよく知られているのに、ナンバー2はなかなか認知されないものです。

では、ナンバー2の企業が、自社を効果的にPRするにはどうしたらいいでしょうか。

この戦略に成功した、ある会社の例をご紹介します。

1962 年、アメリカのエイビスレンタカーは、「業界ナンバー2」というイメージを前面に出してPRしようと考えました。

ちなみに、当時アメリカのレンタカー業界における1位は「ハーツレンタカー」。エイビスは、ハーツに大きく差を付けられています。

この試みに、当初、エイビスの役員は大反対でした。

それはそうでしょう。

日頃「1位に追いつけ、追い越せ」という意気込みで仕事をしているわけですから、ナンバー2のPRなんて、誰だってやりたくありません。

自らナンバー2だと認めてしまえば、その地位に固定されてしまうと考えるのも無理からぬことでしょう。

しかし、現実には業界内のナンバー2であることには変わりありません。「2位だと認めることになる」と言っても、単に事実を公表するだけで、状況が大きく変わるわけではないのです。

そう考えた役員たちは渋々宣伝にゴーサインを出しました。

まずは、「エイビスは業界ナンバー2だから、ナンバー1になれるように頑張ります!」というCMを流します。

さらに、エイビスのスタッフは「われわれはナンバー2です!」というバッジを付けました。

レンタカーを借りにきたお客さんは、バッジに目がいきますし、スタッフは毎日バッジを見るので、お客さん以上に意識します。

バッジは、スタッフに「ナンバー1」を意識させるアイテムとして機能したのです。

でも、これだけでは業界第1位のハーツに追いつくことはできませんでした。

トップ企業に対する不満を吸収せよ

当時のハーツレンタカーは、さすがに業界内のトップとして、たくさんのお客さんを抱えていました。

しかし、お客さんが多ければ、どうしてもスタッフのもたつきがあります。また、多くの申込みをさばくために、戻ってきたばかりのクルマを汚れたまま貸し出すこともありました。

こうしたサービスの低下をエイビスは見逃しませんでした。

ハーツの利用者が感じている不満を、自社なら解消できると考えたのです。

なぜなら業界ナンバー2のエイビスには、利用者の行列もできていませんでしたし、クルマを貸し出すまでに洗車する時間も充分あったからです。

そこで、CMで次のようなメッセージを流しました。

われわれは業界ナンバー2です。

でも、決して「かわいそうだから」という理由で利用しないでください。

もしも、スタッフがモタモタしていたり、クルマが汚れていたりしたら、わたしたちエイビスを容赦なくつぶしていただいて結構です。

結局、エイビスレンタカーは、これらの広告キャンペーンによって2年間で28%もシェアを伸ばしました。

当然ですが、ナンバー2は、ナンバー1がいるからこそ、存在するのです。

ですから、2位という立場を前面に出すことは、ナンバー1の力を利用した行為と言えるのです。

日本でも、2000 年にKDDI がナンバー2であることを意識した広告戦略を展開しました。「2位が世界を面白くする。通信業界現在2位」というコピーでCMを流したのです。「判官贔屓(はんがんびいき)」という言葉があるように、日本人は2位だと言われると、思わず応援したくなるところがあります。

KDDI の広告は、その点も「織り込み済み」でつくられたのでしょう。

ここがポイント!
「ナンバー2」という立場を前面に打ち出して、認知度を上げた。