ずるい考え方
木村 尚義
流通経済大学卒業後、ソフトウェア開発会社を経てOAシステム販売会社に転職。その後、外資系IT教育会社にて、それまでの経験を生かした研修を展開。2万人以上の受講者から好評を得る。従来の発想の枠を越え、常識にとらわれないビジネススタイルを「創客営業」と名付け、全国にてセミナーを実施中。株式会社創客営業研究所代表取締役・アカデミーヒルズ六本木ライブラリー個人事業研究会会長

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ラテラルシンキングってどんな思考法?

発想の枠を広げる思考法

「ラテラル・シンキング」という思考法をご存知ですか?

「それはどんな考え方なんですか?」と聞かれると、「ラテラルシンキング」のセミナーを数多く実施してきたわたし自身、答えに困ります。

何しろ、一言で定義するのが簡単ではないからです。

一般的な説明としては、イギリス人のエドワード・デ・ボノ博士が1967年に提唱した考え方で、「どんな前提条件にも支配されない自由な思考法」ということになります。

さらに言えば、「発想の枠を広げる思考法」とでも言えばいいでしょうか。

でも、これではまだ漠然としていますよね?

もう少しわかりやすくするために、皆さんおなじみの「ロジカルシンキング」という考え方について触れておきましょう。

積み上げるロジカル、ジャンプするラテラル

ロジカルシンキングとは、「論理的な思考」のことです。

A→B→Cというように物事を順番に積み上げながら、筋道立てて正解を導いていく考え方です。

したがって、思考の各ステップが正しくつながっていることが大前提。もし、途中で論理の運び方に無理があれば正解にはたどり着けません。

常識や経験から、妥当だと思われる「正解」を導くためにロジックを掘り下げていくので、垂直思考(Vertical Thinking)と呼ばれることもあります。

これに対してラテラルシンキングは、解決策を導くための順番や過程はあまり問題になりません。

だから、筋道立てて考える必要もない。

それどころか、スタート地点からジャンプして、いきなり答えに到達してもいいのです。

ラテラルシンキングに唯一の正解はない

ラテラルシンキングには、ロジカルシンキングと違って、「唯一の正解」というものがありません。

ラテラルシンキングのラテラル(Lateral)は、「水平」という意味です。したがって、ラテラルシンキングは日本語に訳すと「水平思考」となり、これはロジカルシンキングと違って、水平方向に視点を広げる思考法だということです。

視点を広げる際にさまざまな選択肢が生まれますが、問題の解決につながるものはすべて正解。

答えが多ければ多いほうが望ましく、あらゆる案に対して「それもアリだね」という態度をとる思考法なのです。

答えを導くときには、常識的に考える必要はありません。「~であるべき」「~となるのは当然」という考え方から離れて自由に発想し、さまざまな可能性を探ってOKとなります。

このように、ロジカルシンキングと比較すると、ラテラルシンキングがどのような思考法なのか、何となくイメージできるのではないでしょうか。

要するに、問題を解決するときに、ロジカルシンキングで問われるのは「過程」であり、ラテラルシンキングで問われるのは「結果」なのです。

ラテラルシンキングの特徴はこれだけではありません。

他にも次のようなものがあります。

特徴① あらゆる前提から自由になる

ラテラルシンキングは、「常識」に縛られず、物事を異なる角度から見ることを心がける思考法です。

ですから、ラテラルシンキングを使えば、さまざまな前提や枠組みにとらわれず、自由に発想することができます。

わたしは、高校時代にアーチェリーをしていました。的に矢を当てるには、試行錯誤しながら徐々に的中率を上げていくのですが、この作業は、いわばロジカルシンキング的です。

ラテラルシンキングは「的に矢を当てる」という行為の本質に着目して、自由に発想します。

的中率を上げたいなら、的を大きくすればいいですよね。あるいは長いボウガンを使ってもいい。

いや、矢を正確に的中させることが目的なら、的まで歩いて行って突き刺せばいいでしょう。

さらには、「なぜ、的に矢を当てる必要があるのか?」という前提自体を疑ってみる……。「そんなことを言い出したら、競技ができないじゃないか」と言う人がいるかもしれません。

そうですね。確かにアーチェリーの競技では、こんな方法は認められません。しかし、当たり前だと思われている前提を疑ってみることで、問題が一気に解決するケースもあるのです。

特徴② 今までにないものが生まれる

ラテラルシンキングを行うと、あらかじめ与えられていた前提をひっくり返すこともでき、まったく新しいものが生まれやすくなります。

異質なもの同士を組み合わせたり、既存の価値観を逆転させたりして、それまでなかったものを生み出すのは、ラテラルシンキングならではの特徴です。

ですから、発明や開発の場では、ラテラルシンキングが大いに活躍するのです。

特徴③ 問題が最短ルートで解決される

ラテラルシンキングでは、問題を解決するためなら、どんな手段を採用しても構いません(もちろん、法律や道徳に反するものはNGですが)。

たとえば、大阪支社でトラブルが発生し、東京本社から一刻も早く現地に向かわなければならなくなったとしましょう。

そんなとき、電車の時刻表を見て、最短の乗り継ぎを探すのがロジカルシンキングだとすれば、ヘリコプターで現地まで飛ぶのがラテラルシンキングです。

常識にとらわれずに発想すると、誰も気が付かなかった近道や、「その手があったか!」という奥の手が発見できます。

結果として、問題を解決する"最短ルート"が見つけやすくなるのです。

特徴④ お金/時間/手間が節約できる

あくまで結果論ですが、ラテラルシンキングで発想すると、お金や時間、手間を大幅に節約できる場合があります。

ひとつ、例をご紹介しましょう。

1970年に開催された大阪万博での話です。

主催者は、「ある問題」に悩まされていました。

当時の大阪万博は日本中を巻き込んだ一大イベントでしたから、早く会場に入ろうとする人たちが、開門前から入口に押し寄せました。

入場時間になってゲートが開くと、来場者たちは人気のパビリオンに向かって一斉に走り出します。ところが、入口付近のスペースが極端に狭くなっているため、急いでいる人同士がぶつかって大変危険です。

警備員がいくら「走らないで!」と怒鳴っても効果なし。

これでは、いつ事故が起きてもおかしくありません。

来場者の安全を確保するには、どんな解決策があるでしょうか。

警備責任者になったつもりで、考えてみてください。

ロジカルシンキングで発想するなら、

  • 警備員を増員する
  • ゲートを大きくする
  • 入場者を制限するための柵をつくる

……というプランが考えられるでしょう。

ところが、この問題の解決策はまったく違うものでした。

要するに、入場者が走らないようにすればいいのです。

主催者は、入場を待っている人たちに、とても小さな会場案内図を配りました。

走りながらでは文字は読めませんから、急ぐ人はずいぶん減ったのだとか。

これが、いわばラテラルシンキング的な解決策です。

もし、ゲートを拡張する案を採用していれば、工事の手間と時間、お金が必要だったでしょう。でも、紙を配布するだけなら、負担はグンと少なくなります。

ラテラルシンキングには、こうした効果もあるのです。

ロジカルとラテラルの関係は相互補完

誤解のないよう強調しておきますが、ラテラルシンキングとロジカルシンキングは、決して対立する考え方ではありません。

また、問題を解決するときに、どちらかひとつを採用しなければならないわけでもありません。

ラテラルシンキングができれば、ロジカルシンキングは必要ないという話ではないのです。

ラテラルシンキングで考えると、たくさんの選択肢が得られます。その選択肢の1つひとつについて、現実に実行できるかどうか、実行する上で問題がないかどうかはロジカルシンキングで考察します。

なぜなら、たくさんの選択肢が浮かんでも、最終的に実行できるのは、ひとつだけだからです。

ですから、思考の順序としては、最初にラテラルシンキングで発想し、次の段階はロジカルシンキングで検討するといいでしょう。