岩塚製菓社長 槇春夫,カンブリア宮殿
(画像=テレビ東京)

この記事は2023年3月2日に「テレ東プラス」で公開された「究極のせんべい作りに挑む~新潟発、執念のモノづくり:読んで分かる「カンブリア宮殿」」を一部編集し、転載したものです。

国産米100%のこだわり~300商品、売り上げ3位の米菓メーカー

年末の上野・アメ横はコロナ前と変わらぬ買い出し客で賑わっていた。多くの客を呼び込んでいたのが「二木の菓子 ビック館」。1万種類以上を扱うお菓子の総合デパートだ。せんべいやおかきの米菓コーナーでは、全国から300種類以上を取り揃えている。

中でも人気の商品が「岩塚の黒豆せんべい」(240円)。豆がたっぷり練り込まれていて歯ごたえのある食感が人気の秘密。作っているメーカーが岩塚製菓だ。

「これが一番安定して売れる商品です。外せない」(「二木の菓子」専務・川村耕一さん)

「田舎のおかき」(240円)も岩塚製菓のロングセラー。外はカリッとした堅焼きの食感だが、噛むと口の中でほろほろと広がっていく。「バンザイ山椒」(260円)は山椒のピリっとした感じがクセになるとリピーターが続出。さらには「きなこ餅」「バター餅」など、岩塚製菓の米菓は300品目もある。

ただ、商品のファンは多くても、メーカーの名前を知らない人がほとんど。ちなみに国内米菓メーカーの売り上げ順位は、1位が「柿の種」でおなじみの「亀田製菓」、2位は「雪の宿」が人気の「三幸製菓」、第3位が岩塚製菓となる。

岩塚製菓の大きな特徴がパッケージに記された「日本のお米100%使用」。多くの米菓メーカーは輸入米も使っているが、岩塚製菓は300品目すべてを国産米だけで作っている。

▽「日本のお米100%使用」岩塚製菓は300品目すべてを国産米だけで作っている

岩塚製菓社長 槇春夫,カンブリア宮殿
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新潟・長岡市。取材に向かったのは大雪が降った2022年12月。スタッフの車はなかなか進まず、ふだんは長岡駅から30分のところを4時間かかった。岩塚製菓の本社があるのはかつて岩塚村だった地域だ。

「もとは小学校の跡地、私の母校です。新潟県中越地震で本社が被災して、前の本社が使えなくなった。ここの小学校が廃校になっていたので、町から安く譲ってもらったんです」と、社長・槇春夫(71)は言う。

大雪や地震などの逆境にあっても、岩塚製菓はある信念を守り続けてきた。

「私は4代目だけど、歴代の社長は非常に米へのこだわりが強い。『加工品は原材料よりも良いものはできない。味付けをいろいろ変えても、素材の元が悪かったら、それ以上のおいしいものはできない』。それが代々の教えです」(槇)

そんな信念のもと、岩塚製菓はこだわりの米菓づくりを続けている。

絶品せんべいを生む製法~東京・銀座に高級専門店も

岩塚製菓社長 槇春夫,カンブリア宮殿
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◆岩塚製菓のこだわり1~他社が使わない高価な原材料

せんべいにする米はごはん用の「うるち米」で、おかきに使われる米は「もち米」。岩塚製菓最大のこだわりは、「うるち米」も「もち米」も100%国産を使っていること。米の平均価格は1トンあたり輸入米15万円に対して国産米23万円(農林水産省)。コストをかけても国産米にこだわっているのだ。

こだわりは米だけではない。岩塚の商品の中でも長年人気のある「大袖振豆もち」(280円)には他社が手を出さない高価な大豆が使われている。

「寒暖差が激しいところで採れるので甘みが凝縮されている。北海道の音更(おとふけ)でしか採れない希少な大豆なので輸入大豆に比べて値段が高いです」(岩崎製菓・渡辺正樹)

ほとんどが北海道十勝の音更地区でしか作られていないため、価格は輸入大豆の倍近く。コストはかかるが甘みが強いため、この大豆を使い続けているという。

◆岩塚製菓のこだわり2~独自の製造技術

通常、せんべいは米粉をふかして成形し、乾かしたあと焼き上げていく。多くのメーカーは米粉になった状態で仕入れているが、岩塚製菓では米粉づくりから自社で行っている。そのため独自の製粉機を持っている。

「いろいろな粒度に変えられて、食感が硬いせんべいなど、目的にあった製粉ができるのが強みです」(前出・渡辺)

例えば「黒豆せんべい」は米の食感を残すため粗めに。子供向けは口溶けをよくするため細かく、といった具合だ。

一方、おかきは一度餅にしてから焼くことで独特の食感が生まれるのだが、ヒット商品「田舎のおかき」ではさらなるおいしさの工夫が。それは高周波窯という特殊な焼き窯を使うことにある。

「通常のおかきの焼き窯だと中心部にムラができやすい。高周波窯を使うと均一な気泡ができます」(岩塚製菓・樋浦秀雄)

通常の焼き窯だと外側から熱を加えるため、中心まで火が届きにくく、中にムラができやすい。一方、高周波窯ではマイクロ波によって中心から熱が加わるため、ムラができずにふっくら焼きあがるという。きめが細かいから口の中でほろほろ溶けるのだ。

ここまでコストをかけることについて、社長の槇は「だから儲からないんです。かと言って、安い原材料であればなんでもいいとはならない。自分はしたくない」と言う。

このこだわりを知ってもらいたいと、岩塚製菓は東京・銀座に「瑞花」(ずいか)という店を出した。扱っているのは化粧箱に収まった岩塚の粋を集めた米菓。値段も高めだ。

▽「瑞花」の商品はほとんどが手作業で作られている

岩塚製菓社長 槇春夫,カンブリア宮殿
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「瑞花」の商品はほとんどが手作業で作られている。例えばザラメは、満遍なくかかっているか確認しながら手でまき、おかき同士がくっつかないよう広げる時も、割れないように手で行っている。従業員のひとりは「大変ですが、たった一枚に愛情を込められるのが手作業のいいところ」と言う。

「瑞花」に来る多くのお客が買いこむ店一番の人気商品が「うす揚」(432円)というせんべい。極薄の生地は高温の油に入れた瞬間、まるで花が咲くように膨らむ。こうして軽くてフワフワな上品な食感が生まれる。

▽「うす揚」極薄の生地は高温の油に入れた瞬間、まるで花が咲くように膨らむ

岩塚製菓社長 槇春夫,カンブリア宮殿
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「米菓という日本の伝統食品は世界中にない。食べ物としてのスタンダードは米の風味。それを大事にしないと作る意味がないと考えています」(槇)

「出稼ぎのない地域にしたい」~地元・雪国で愛され続ける

新潟・長岡市の岩塚製菓の工場の目の前に直売店がある。客の大半は地元の人たち。作る途中で割れたり、形が悪いものなどを、お得用として販売している。

直売店では地域で採れた農産物や加工品も売っている。その理由は「地域の生産者と消費者を繋ぐ場になっている」から。地域のメーカーや生産者のために売る場所も提供している。地元の生産者は「助かっています。スーパーのような大きいところは取り扱ってもらえないところもあるので」と言う。

岩塚製菓は地域と共に歩んできた会社だ。

戦後間もない頃、岩塚村では冬場になると、一家の大黒柱は出稼ぎに出た。家族揃って正月を迎えられる家はほとんどなかった。槇の父・計作とその友人の平岩金次郎は「出稼ぎに行かなくても、家族で暮らしていける地域にしたい」という思いを抱いていた。

▽岩塚村では冬場になると一家の大黒柱は出稼ぎに出た

岩塚製菓社長 槇春夫,カンブリア宮殿
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2人は地元の米を使って米菓作りを始める。1958年に発売した「苑月焼」はヒット商品に。1960年には岩塚製菓を設立し、地域の人たちを少しずつ雇用した。出稼ぎにいかなくても家族で暮らせる村になり始めたのだ。

地域との深いつながりは、今も変わりない。

「1,000人近くの従業員のほぼ100%が正社員。全員が長岡に住んでいる」(槇)

パートやアルバイトではなく、ほぼ100%正社員として雇用している。しかもほとんどが地元の人だ。

だから親子二代で働いている社員も多く、なかには三世代という一家も。子どもと孫が岩崎製菓で働く元社員は「岩塚製菓の中で職場結婚がものすごく多くて、その子どもが入社してくれる。やっぱり嬉しいことです」と言う。

▽親子二代で働いている社員も多く、なかには三世代という一家も

岩塚製菓社長 槇春夫,カンブリア宮殿
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ヒット商品と震災のダメージ~人に優しく手を差し伸べる

現社長の槇は大学卒業後、スーパーのダイエーを経て1976年、岩塚製菓に入社。それまでにない新たな米菓の開発に力をいれていく。

「当時のせんべいの味付けは塩か醤油しかなかった。それを砂糖醤油にしました。今までにない味だな、と」(槇)

1978年に発売した「味しらべ」は甘塩っぱさが珍しいと評判を呼び、大ヒットに。その後、82年には「きなこ餅」、99年には「黒豆せんべい」と、ヒット商品を次々と世に送り出していった。

順調に業績を伸ばしていった岩塚製菓だが、2004年マグニチュード6.8の新潟県中越地震が発生。震源地に近かった岩塚製菓の工場は壊滅的な打撃を受け、生産が完全にストップした。

「市場から消えたんです、当社の商品が。他社の商品が小売店にどんどん並べられていき、自分たちの商品だけが出せない」(槇)

槇はこの時、廃業も覚悟したという。だが、社員たちは諦めなかった。自宅が倒壊したのにもかかわらず、避難所からかけつけて、懸命に復旧作業に当たった。

▽避難所からかけつけて、懸命に復旧作業に当たった

岩塚製菓社長 槇春夫,カンブリア宮殿
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暖房が止まり凍える工場で、社員たちは機械にこびりついた米を懸命に削りとっていた。

当時、その現場の班長だった渡辺正樹は「とにかく工場を元の状態に戻したいという思いだけだったと思います」と振り返る。

「そういう社員を見ていて申し訳ないと思いました。これだけみんなが頑張っているのだから、自分も頑張らなくては、と」(槇)

地域の人々も手を差し伸べた。長岡市に住む中静さん夫婦は当時、避難所暮らしをしていたが、電気が通ると一時的に自宅に戻って風呂を沸かし、冷え切った体の岩塚製菓の社員たちに入ってもらったという。

「社員の人たちと仲良くなった気がします。地域に連帯感が生まれて、助け合わないといけないな、と」(中静さん)

この試練を機に、地域と社員の結束はより強いものとなり、売り上げも少しずつ回復。岩塚製菓は最大の危機を乗り越えたのだ。

震災で「助け合い」の大切さを知った岩塚製菓は、2011年の東日本大震災では社員が軽トラックで被災地をまわり、子供たちにせんべいづくりを教えながら、できたてを無料で振る舞った。

さらに、一時的な支援では意味がないと、福島・南相馬市の小学生たちと一緒に新商品を開発した。「バタしょっと」というふんわり食感のせんべいだ。パッケージには子供たちの写真を入れ、彼らが成人式を迎えるまでの10年間、商品をリニューアルし続けた。

▽福島・南相馬市の小学生たちと一緒に開発した「バタしょっと」

岩塚製菓社長 槇春夫,カンブリア宮殿
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開発メンバーのひとりだった南相馬市の佐藤純矢さんは、このプロジェクトがきっかけで人生が大きく変わったという。やはりメンバーで絆を深めた有紗さんと2年前に結婚。去年の暮れには長男が生まれた。「岩塚製菓さんのおかげ」だと言う。

さらに2020年12月、大雪により関越道で2,100台の車が立ち往生した時には、岩塚製菓の社員がトラックに積んでいた商品を自発的に配って回った。これがSNSで拡散し、マスコミも一斉に報道。岩塚製菓の名が一躍話題になった。

「“岩塚精神”と言ったらいいのか、そういうことができる会社になって嬉しかったです」(槇)

困難を知っているからこそ、人に優しく手を差し伸べるのが岩塚製菓だ。

若者の米菓離れに待った~イタリア料理の巨匠が動く

コンビニ大手のローソンと手を組んで、岩塚製菓がちょっと変わったおかきを作った。それが「グミみたいなおかき!?」(148円。出荷は終了し店頭在庫のみ)。見た目は普通のおかきだが、割ってみるとグミみたいな弾力がある。

新たな米菓を開発する拠点が長岡市に3年前に作られた「BEIKA Lab」。ここでは日々、米菓の可能性を探り続けている。

この日作っていたのは「あられにつけるイチゴ味のタレ」。「新しいあられの素焼きは甘みがあるので、甘い味付けも合うと思って」と言う。米菓を食べなくなった若者にもウケそうな色目がポップなあられが出来上がった。開発者は「いろいろな人に手に取ってもらって米菓のおいしさが広まってほしい」と言う。

新たに開発したイタリア風の米菓もある。監修を引き受けたのがイタリア料理の巨匠、落合務さんだ。米菓を海外の人にも食べてもらおうと、落合シェフと試作を重ねた。

落合さんは「岩塚製菓さんはもともと魚粉を使っていた。イタリア風なら魚粉じゃなくアンチョビのほうがいい」などとアドバイスした。

こうして1年半をかけて完成したのが「RESOUNO!」(250円)。日本の米菓は世界の「BEIKA」になれるのか?

▽「RESOUNO!」日本の米菓は世界の「BEIKA」になれるのか?

岩塚製菓社長 槇春夫,カンブリア宮殿
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~村上龍の編集後記~

岩塚製菓社長 槇春夫,カンブリア宮殿
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新潟県長岡市には、かつて岩塚村と呼ばれる小さな村があった。豪雪地帯だった村は貧しく、一家の大黒柱は出稼ぎに行った。

創業者は「出稼ぎに行かなくても皆が暮らしていける地域に」という夢を。あるとき、地元で穫れる米を使った菓子作りをすることに。「農作物の加工品は原料より良いものはできない」という信念のもと、米菓を作り続ける。

選び抜いた米だけを使用し、米の風味が豊かな原料をつかった製品。「だから儲かりません」と槇さんは苦笑する。儲からなくても、岩塚の米菓は光り輝く。

<出演者略歴>
槇春夫(まき・はるお)
1951年、新潟県長岡市生まれ。1974年、富山大学卒業後、ダイエー入社。1976年、岩塚製菓入社。1998年、社長就任。

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