飲食業は、コロナ禍による度重なる緊急事態宣言や人々の価値観の変化などによって大きな影響を受けた業界の一つだ。コロナ禍以降も、SNSでの迷惑動画拡散による風評被害、原材料や燃料コストの増加などの逆風が吹き続けている。
本記事では、飲食業が抱えている課題やコロナ禍以降で求められていること、今後取り組むべき経営改善策について解説する。
目次
飲食業界が抱えている4つの課題
飲食業は消費者に直接飲食サービスを提供する業態であるため、売上の管理がしやすいなどのメリットがあるが、業界特有の課題も抱えている。
1.飲食業界は競合が多く利益率が決して高くない
飲食業界は競合の数が非常に多く、開業率は高いが同時に廃業率も高い。
飲食業にはカフェや日本料理店、ラーメン店などさまざまな種類がある。事業としては比較的取り掛かりやすいため、開業率は全産業の中で宿泊業とともに最も高いが、競合が多いこともあって廃業率も高い。
また、飲食店は食材費や人件費といったコストが高く、損益分岐点が全産業の中でもトップクラスに高いため利益を出しにくく、キャッシュフローが悪化し、資金繰りに苦労しやすい。
2.コロナ禍によって収益が激減した
2020年のコロナ禍によって飲食店では客足が遠のき、業界自体の市場規模が大幅に縮小した。
飲食業界の市場規模は、2019年は 10 兆 3,321 億円と2015年の9 兆 7,923 億円から順調に拡大していたが、2020年には7兆3,780億円と前年比71%まで落ち込んだ。
政策支援の活用はもちろん、各社がテイクアウトやデリバリーなどのサービス展開に新たに取り組んだことで倒産件数は抑止された。しかし、ロシアのウクライナ侵攻による原材料および燃料コストの増加が、アフターコロナに飲食業が経営を回復させる足かせとなっている。
3.SNSによる風評被害やネット中傷の発生
2023年1月に発生した「あきんどスシロー迷惑動画(スシローペロペロ事件やアルコールスプレー噴射問題)」のように、SNSでの迷惑動画拡散による風評被害によって、ブランド名に傷をつけられるケースも発生している。
食べログなどの口コミサイトに掲載される情報により、店の売上が影響を受けることも多い。個人店でも、YouTuberやブロガーなどによる一方的な評価によって人気を左右されることもあり、SNSによる迷惑動画の拡散はとどまる所を知らない。
4.人手不足により店舗運営が難しい
飲食業はコロナ禍以前から慢性的に人手が不足しており、店舗運営における従業員一人当たりの負担は大きい。
飲食業を支えているパートタイム労働者の就労状況に着目すると、2019年8月の過不足状況は全産業の中でワースト1位であり、慢性的に人手不足が続いている。
アフターコロナの飲食業に求められていること
コロナ禍では、感染拡大防止のために『外食業の事業継続のためのガイドライン』が発行され、飲食業はさまざまな自助努力にも励んできた。世の中がアフターコロナに目を向ける中、飲食業は何を求められているのだろうか。
テイクアウトやデリバリーサービスの拡充
店内での飲食が減る中で、テイクアウトやフードデリバリーサービスを充実させることが求められている。
コロナ禍による外出自粛で、消費者の飲食店の利用頻度や利用金額が減った中、逆にテイクアウトの利用経験は増えており、飲食店の利用の仕方が変化してきている。
若年層を中心にUber Eatsを利用したフードデリバリーも一般化しており、大手チェーン店ではスマホアプリを利用したテイクアウト事前注文システムも導入されている。
今後さらに、消費者の変化するニーズに応えるために、持ち帰りを意識したメニュー設計も重視されるだろう。
キャッシュレス決済システムの導入
クレジットカードや電子マネーを用いたキャッシュレス決済への対応も、チェーン店だけでなく個人飲食店に対しても求められるようになっている。
コロナ禍により紙幣や通貨の受け渡しによる直接決済が敬遠されることもあり、クレジットカードはもちろん、コンビニエンスストアなどで一般的となったPayPay、楽天ペイ、d払いなどの電子マネーをはじめとするキャッシュレス決済への対応が、飲食業にも期待されている。
インバウンドによる来日客への対応
アフターコロナのインバウンド需要復活による、来日客への対応も欠かせない。
コロナ禍によって行われた渡航制限も解除が進んでおり、外国人客も徐々に戻りつつある。東京や大阪以外の地方都市圏の飲食店でも、訪日客に対応したサービス設計が必要だ。
メニューについては、外国語に対応していることはもちろんだが、食文化やアレルギーへの配慮として、利用食材やアレルゲンがひと目で分かるような表示が求められる。
またインバウンド対応のためにも、さらにキャッシュレス決済を導入しなければならないだろう。
飲食業で今後取り組むべき経営改善策5つ
飲食業を取り巻く慢性的な課題や、コロナ禍を含めた突発的なトラブルには、今後も引き続き対応していかねばならない。ここでは、飲食業経営者が今後取り組むべき経営改善策を5つ紹介する。
1.ICT化による一部業務の自動化
飲食業の人手不足解消のためには、ICT化による業務の自動化や負荷軽減が必要だ。
ICT化とはIT化とほぼ同義であり、ITシステムを導入して業務負荷を軽減したり、顧客情報を効率的に管理したりすることが目的だ。飲食店での代表的なICT化には、以下のようなものがある。
POSレジシステム:商品の販売情報を決済した時点で記録や集計できるシステム
OESシステム:店内のタブレット端末で注文を受け付け、厨房に共有するシステム
キャッシュレス決済システム:クレジットカードリーダーや電子マネーアプリなどの決済用システム
ICT化によるメリットは人件費の削減だが、情報収集によりメニューの最適化やサービスの見直しなどにも役立てることができる。しかし、ICT化には導入にも維持にも費用がかかるため、便利だからといってあらゆるシステムを導入することは難しい。
最初は導入費用や維持コストが比較的安いモバイル型POS端末を導入するなど、小さく始めて費用対効果を確認しながら、徐々にICT化を進めよう。
2.自店舗の魅力を発信
SNSなどを活用して、自社店舗の魅力を積極的に情報発信していくことが欠かせない。
ほぼ全ての年齢層でスマートフォンが利用される中、スマホの検索を意識して店の魅力を見込み客に伝えることが必須だ。ただし、情報を発信するだけでは情報の拡散力は低いため、来店客がSNSなどで情報を発信したくなるような演出やサービスを提供することも、魅力の発信につながるだろう。
個人店などの小規模店舗はリソースが限られるため、人気競合店が行っている発信内容などを参考にする、食べログなどを含めた飲食店専用の外部サービスを利用するなど、最小限のコストで情報を発信できるように意識しよう。
3.集客方法の見直し
集客については、SNSを含めたインターネットでの店舗検索への対応や意識が欠かせない。
厚生労働省によると、飲食店利用者が外食の際に店を選ぶときの情報源は、「インターネットの店舗検索サイト」が1位であり、タウン誌やチラシなどの紙媒体よりも利用者が多い。
そのため、ウェブ媒体での積極的な情報発信だけではなく、インターネット検索を意識した集客が欠かせない。Googleマップでの店舗情報表示や口コミ情報の共有のためのGoogleビジネスプロフィールの利用は必須だ。
また、新しいメニューやサービスの認知度向上のために、期間限定でGoogle広告やSNS広告などの有料広告サービスを利用することも検討するといいだろう。
もちろん、「家族や知人などの口コミ」や「店舗外観」なども店選びの参考とされていることから、リピート客を増やすためにも顧客満足度を高める取り組みを忘れてはならない。
4.人材採用手法の見直し
あらゆる産業で人材が不足している中で、自社店舗にマッチする人材を確保するためには、人材採用方法を見直す必要もある。
飲食店経営では、パートやアルバイトなど店舗運営で主力として働く人材の確保が欠かせない。また、従業員の接客がそのまま自店舗の評価にも直結するため、適切な人材かどうかの見極めも必要だ。
しかし、ハローワークや求人サイト、タウン誌などでの求人募集だけでは、マッチ度の高い人材を集められない可能性が高い。
そのため、すでに働いている従業員に適性の高い友人や知人を紹介してもらう「リファラル採用」や、SNSでの情報発信によって求人に興味を持ってもらったり、直接アプローチしたりする「ソーシャルリクルーティング」などの活用も検討するといいだろう。
5.BCP対策の準備
中小規模の飲食店でも、コロナ禍やスシロー事件のような不測の事態に備えるBCP対応が求められる。
BCPとは「事業継続計画」という意味であり、自然災害などの緊急事態が発生した際の損害を抑えるために計画を立てることだ。中小店舗では資金面などから対応策に限界があるとはいえ、事前にリスクを想定して対策をしておかなければならない。
パンデミックのような不測の事態に備えるには、政府や政策金融公庫、民間金融機関などの資金繰り支援を事前に把握しておき、有事の際に競合に先んじて相談できるようにしておくべきだろう。SNSによる誹謗中傷などに対しては、弁護士に対応策を相談しておき、類似事件の対応などを参考にすることが大切だ。
飲食業はコロナ化や迷惑行為などのトラブルを想定し、事前に対策を
飲食業を取り巻く環境は、原材料や人件費の高騰などもあって引き続き厳しい。コロナ禍や来客による迷惑行為など、予想もしなかったトラブルへの対応も必要だ。
さまざまな課題に一度に対応しようとすると、店舗経営が立ち行かなくなる恐れがあるため、まずは自社を取り巻く課題について冷静に分析し、ICT化などは小さく始めながら効果を検証しよう。
また、自分一人で全てを抱えるのではなく、専門家や仲間である従業員に相談することも忘れないで欲しい。
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文・隈本稔(経営・キャリアコンサルタント)