労働力人口の減少に伴い、ほとんどの産業で人手が不足している。その中でも飲食業の人手不足は深刻であり、店舗運営に支障をきたしているところも少なくないだろう。本記事では、飲食業の人手不足の状況や原因について説明した上で、採用者数を増やす方法や少ない人数で運営できるための仕組み化などについて解説する。

目次

  1. 飲食業界の人手不足の状況
    1. 飲食業は慢性的な人手不足
    2. コロナ禍によって店舗維持の負担が増加
  2. 飲食業の人手不足の原因5つ
    1. 1. 給与待遇が他業種よりも低い
    2. 2. キャリア形成が難しい
    3. 3. 人間関係のトラブルが起こりやすい
    4. 4. 労働条件があまり良くない
    5. 5. 研修制度などが整っていない
  3. 飲食業で採用者数を増やすための施策4つ
    1. 1.給与待遇や労働環境を改善する
    2. 2.人材の評価・育成制度を明確にする
    3. 3.自社で働く魅力を発信する
    4. 4.採用活動の方法を見直す
  4. 飲食業の人手不足を解消するためには
    1. DXを推進する
    2. ICTの活用で徐々に自動化に対応する
  5. 飲食業の人手不足解消には、採用方法や給与待遇を見直すと同時にICTも活用しよう
飲食業の人手不足が必然である理由と改善策について解説
(画像=koumaru/stock.adobe.com)

飲食業界の人手不足の状況

飲食業界の人手不足は深刻であり、コロナ禍によるダメージも全産業の中でトップクラスだ。それぞれについて解説する。

飲食業は慢性的な人手不足

飲食業は人手不足が慢性的に続いており、コロナ禍以前から欠員率が高い。農林水産省の報告によると、2004年以降のデータでは欠員率は全産業の中でもトップであり、2015年には最も欠員率が低い製造業の2倍以上となっている。

また、飲食店で接客などを主力として行っているパートタイム労働者の過不足状況は、2019年8月がワースト1位で、この期間以外にも生活関連サービス業と並んで慢性的に人手不足が続いている。

コロナ禍によって店舗維持の負担が増加

コロナ禍では店内で飲食する客の減少により収益が悪化し、雇用者数を削減せざるを得ない店舗も少なくなかった。

コロナ禍直前の2019年の飲食業界では市場規模が10兆3,321億円だったが、2020年は7兆3,780億円と前年比71%まで落ち込んだ。飲食業全体として3割程度の売上減少となり、資金繰りに苦しむ店舗が少なくなかった。

収益悪化の対応策として、開店時間の短縮や労働時間削減、賃金抑制などで対応する店舗もあったが、雇用者数を削減することで店舗の維持を優先した経営者も多い。

飲食業の人手不足の原因5つ

飲食業が人手不足になっている原因には、業界特有の課題が関連している。ここでは、飲食業が人手不足になっている主要な原因を5つ紹介する。

1. 給与待遇が他業種よりも低い

飲食業は他業種に比べて賃金が安く、待遇面で劣っているという課題がある。

厚生労働省の『賃金構造基本統計調査』によると、2021年の「宿泊業、飲食サービス業」の賃金平均は年収257万6,000円であり、全産業の中で最下位だ。特に、女性の賃金は215万円で、こちらも全産業でワースト1位だ。

2. キャリア形成が難しい

飲食業は経験が偏ることが多く、他業種で活躍できるようなキャリア形成が難しいという一面がある。

飲食業界でも大手ならば社内部署も細分化されているため、社員の希望に応じたキャリア形成を支援している場合がある。しかし、中小の飲食店では店舗ごとの運営が基本であり、携わる業務が流動的なこともあってキャリアアップが難しい。

3. 人間関係のトラブルが起こりやすい

飲食業は店舗内という限定された空間内で常に社員と店員が関わり合う環境であるため、人間関係のトラブルも起こりやすい。

職場のハラスメントに関する実態調査報告書』によると、2020年度の職場内でのハラスメントの発生率1位はパワハラ、2位はセクハラである。飲食サービス業は顧客と直に接する業種なので顧客等からの迷惑行為も多く、その割にハラスメント対策への取り組み割合が低いという結果だった。

そのため、職場内での店員同士のトラブルはもちろん、顧客とのトラブルも発生しやすいという特徴がある。

4. 労働条件があまり良くない

飲食業は長時間労働が慢性化しており、労働条件が良くないという一面がある。

働き方改革以前の状況ではあるが、農林水産省の2016年度の報告によると、外食産業の所定外労働時間は正規雇用、非正規雇用ともに多く、繁忙期には特に負担が大きい。

所定外労働が増える理由のトップは「人員が足りないため」であり、「業務の繁閑の差が激しい」「客対応が長引く」といった理由が続いている。

年間休日数については「就労条件総合調査(2020年)」によると103.9日であり、全産業で最下位だ。

5. 研修制度などが整っていない

業界構造上、現場で働く社員はパートやアルバイトが多く、そもそも研修制度が整っていないという課題もある。

大手チェーン店であれば、すでに独自の研修を行っていたり、外部サービスを利用したりしており、幹部候補の育成システムも整っている。しかし、中小規模の飲食店では育成方針が定まっておらず、経営者の背中から学ぶという文化が根強く残っている。

飲食業で採用者数を増やすための施策4つ

自社に必要な人材を雇用するためには、飲食業の人手不足の原因を受け止めつつ、各種施策に取り組み必要がある。

1.給与待遇や労働環境を改善する

社員や店員の給与待遇や就労時間を含めた労働環境の改善が何よりも重要だ。

飲食業は全産業の中でも給与待遇が悪く、休日日数が少ない割に所定外労働時間が長いといったことが周知の事実となっている。

求人の出し方を見直して採用者数を増やしたとしても、定着率が悪ければ継続的に採用活動を行わなければならない。また、労働環境が悪いことがSNSなどで情報拡散されれば、応募してくる人材自体が減ってしまうだろう。

そのため、地域の競合点などを一つの基準として、自発的に待遇や労働環境を改善していくことが必要だ。また、従業員満足度を把握することが経営改善はもちろん、定着率アップには欠かせないため、定期的に社員や店員にアンケートを取ることも忘れないで欲しい。

2.人材の評価・育成制度を明確にする

飲食店の従業員にはパートやアルバイトが多いが、人材の評価や育成制度の明確化は不可欠だ。

給与待遇を改善しようとしても、いきなり初任給の時給を上げることは難しいだろう。しかし、勤務期間や社内での活躍によって昇給や昇格する制度が整っていることをアピールできれば、求人への応募者を増やすことができる。また、育成制度があることで従業員は安心して働くことができ、定着率のアップも期待できる。

評価や育成制度の設定だけでは伝わりにくいため、応募職種に応じて参考になる社員の「ロールモデル」を示したり、求人票だけでなくSNSや自社HPで発信したりすることが大切だ。

3.自社で働く魅力を発信する

自社のコーポレートサイトやSNSアカウントで自社の魅力や働くメリットを発信することも大切だ。

飲食業の採用活動では、ハローワークや求人サイト、地域のタウン誌などへの求人掲載がほとんどだ。しかし、求人票はフォーマットに沿って採用条件や給与額などが記載されているだけで、応募する側が職場で働くイメージができないのはもちろん、企業側も自社に必要な人材にアプローチできないというデメリットがある。

採用活動において、企業は情報を自ら発信していくことを意識し、一緒に働く仲間の情報開示や育成制度など、他の飲食店にはない魅力をアピールすることが肝要だ。

4.採用活動の方法を見直す

採用活動の方法自体を見直すことも人材不足の解消には欠かせない。

飲食店経営では、店舗で常に接客を行うパートやアルバイトなどの人材確保が欠かせないため、求人にいかに応募してもうらかが重要だ。また、従業員はそのまま店舗の顔にもなるため、接客マナーはもちろんだが自社のイメージに適した人材の採用が求められる。

中小企業の採用活動では、ハローワークや求人サイトなどを用いた求人募集が多いが、それだけではマッチ度の高い人材を集めにくい。そのため、以下のような採用活動にも取り組んでみることをおすすめする。

リファラル採用:従業員に自社とのマッチ度が高い友人や知人などを紹介してもらう採用手法

ソーシャルリクルーティング:SNSを用いて人材に直接アプローチしたり、マッチ度の高い人材が興味を持つような情報を発信したりする採用手法

飲食業の人手不足を解消するためには

飲食業は業界自体の特徴もあって、人材の採用率が急激に高まることは期待できない。そのため、人手不足を雇用だけで補うのは難しく、業務の生産性を向上させる取り組みが欠かせない。

DXを推進する

日本ではDX(デジタルトランスフォーメーション)が推進されている。人手不足が進む中で労働生産性を向上させるためには、デジタル技術を導入するのも人手不足解消の方法の一つだ。

DXは単なる経営改善のための取り組みではなく、デジタル技術の導入によって経営革新につなげるものだ。

飲食業であれば、POSデータによって店舗利用者の情報を分析し、新しいメニューやサービスを生み出すのはもちろん、繁閑を見越した原材料の調達によってコストを下げるなど、情報の活用によってさまざまなチャレンジができるようになるだろう。

ICTの活用で徐々に自動化に対応する

人手不足を解消しつつも自社の利益率を改善させるためには、ICTの活用による自動化も必要不可欠だ。

ICT化は、経営に直接関連するようなITシステムを導入し、これまで人が行ってきた業務を自動化するといった目的で行われるものである。一部の業務でも自動化できれば、従業員の負荷を低減できメニューやサービスの充実化などに取り組む時間が増えるだろう。

飲食店で行う代表的なICT化には、以下のようなものがある。

POSレジシステム:注文・決済情報をその場で記録・集計できるシステム

OESシステム:店内に設置したタブレット端末で注文を入力・送信してもらい、キッチンなどに共有するシステム

キャッシュレス決済システム:クレジットカードや電子マネーでの支払受付ができる決済システム

飲食業に特化したITシステムサービスも増えており、自社で独自のシステムを開発しているケースもある。ただし、ITシステムは導入や保守に費用がかかるため、最初はスマホアプリタイプの安価なPOSシステムを利用して費用対効果を確認するなど、小さく始めて徐々にICT化を進めよう。

飲食業の人手不足解消には、採用方法や給与待遇を見直すと同時にICTも活用しよう

飲食業の人材不足は深刻であり、中長期的に経営を安定させるためには、人材確保はもちろん、労働生産性を向上させることも大切だ。

人材採用については、給与待遇はもちろんだが、昇給や育成制度の整備を行い、求人情報だけでなく自社で働く魅力やメリットを自ら発信していかなくてはならない。

また、ITシステムの導入によるICT化を小さく始めて、店舗運営を効率化しつつ新しいメニューやサービスを提供するためのデータ収集にも取り組んでみよう。

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文・隈本稔(経営・キャリアコンサルタント)

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