伸びる会社、沈む会社の見分け方
小宮 一慶(こみや・かずよし)
経営コンサルタント。株式会社小宮コンサルタンツ代表。十数社の非常勤取締役や監査役、顧問も務める。1957年、大阪府堺市生まれ。1981年、京都大学法学部卒業。東京銀行に入行。1984年7月から2年間、米国ダートマス大学経営大学院に留学。MBA取得。帰国後、同行で経営戦略情報システムやM&Aに携わったのち、岡本アソシエイツ取締役に転じ、国際コンサルティングにあたる。その間の1993年初夏には、カンボジアPKOに国際選挙監視員として参加。1994年5月からは、日本福祉サービス(現セントケア)企画部長として在宅介護の問題に取り組む。1996年に小宮コンサルタンツを設立し、現在に至る。
著書に、『社長の心得』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『経営者の教科書』(ダイヤモンド社)、『図解「ROEって何?」という人のための経営指標の教科書』『図解「PERって何?」という人のための投資指標の教科書』(ともにPHP研究所)など多数。

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(本記事は、小宮 一慶の著書『伸びる会社、沈む会社の見分け方』PHP研究所の中から一部を抜粋・編集しています)

大局観とバランス感覚

経営者,相矛盾する2つの要素
(画像=PIXTA)

○ 会社を伸ばす社長は、大局を見つつ細部にも目を配る
× 大雑把で単純な社長は会社をつぶす

▼中小企業の社長が、毎月自社の預金残高を確認する習慣を怠ったら危ない

経営者の仕事は「判断して決める」ことです。とくに、「何をやるか、やめるか」の適切な決断ができるかどうかで、会社の命運の8割がたが決まります。

よく、会社を大成長させたり再興させたりした敏腕社長が、まったく違う業種の社長になることがあります。経営者は、その業界・業種のことや、会社のオペレーションレベルのことまで詳しく知っていなくても、経営という視点で押さえるべきところをつかめればできます。

これは、経営コンサルタントが多くの業種の会社のサポートもできるということを考えても分かるでしょう。私たちはそれぞれの会社のオペレーション部分まで分かっているわけではありませんが、会社全体を俯瞰的に見て、どの部分をどうしていったらいいかを考えることができます。経営には経営の「原理原則」があるからです。経営者もそうなのです。

財務についても、社長が自分で財務諸表を作れる必要はありません。その数字を読みこなすことができていればいいのです。

ただ、統計や財務に特別明るいわけではなくても、良い経営者はみんな数字に強いです。

担当者が出してくる書類を見て、パッと問題箇所を見抜き、「これはどういうことか」と突っ込むことができます。担当者が気づかなかった数字の間違いに、社長が気づいたりもします。

経営者は大局的視点を持っていなければいけないですが、大雑把ではいけないのです。

「数字のことはよく分からないから任せるよ」と言うような社長が成功できた試しはありません。自社の数字、とくに経営の数字を正確に把握していない、またはざっくりとつかんでいるけれど、細かなところは部下が考えればいいと思っている、それではダメです。

もっとのんびりしていた時代には、どんぶり勘定でもなんとかできた零細企業はありましたが、いまの時代は、たとえどんなに小さな会社でも数字の分かっていない社長では立ち行きません。

いちばん見ないといけない数字は自社のキャッシュです。私は、中小企業の社長が、毎月自社の預金残高を確認する習慣を怠ったら危ないと思っています。会社はお金がなくなったときにつぶれます。傾きはじめたら、小さい会社ほど倒れるのが早い。自社の預金残高は会社の生命線なのです。それだけ預金残高は重要という意識を鮮明にして経営にあたっていないといけないのです。

余談ですが、預金残高のチェックは経理担当者へのけん制ともなります。人間というのはどんな人でも出来心というものがあります。不正をさせない状況を作るのも社長の仕事です。

▼優れた経営者ほど、相矛盾する二つの要素を併せ持つ

経営者は、精緻な思考ができるほうがうまくいきます。

単純な考え方は分かりやすいですから、スパッと潔い考え方をしているように見えることがありますが、世の中は複雑にできています。ものごとはさまざまな要素がからまり合っているものです。単純さとは、往々にして短絡的な考え方になりやすいものです。

「AかBか」「白か黒か」しか考えられない人は、経営者には向きません。考えられる方向性はいくつもあって、その先「こうした場合はこうなる」とさらに分岐していく。そういうなかで、どの道をどう通っていくか。複雑なことを緻密に考えていけることが大事です。

「お客さま第一」も単純ではありません。何が本当のお客さま第一かを考え抜かなければなりません。

さらには、胆力が要ります。何ごとにもあたふたせずに、肝を据えてやりぬく精神力。

胆力があるかどうかは、信念を持っているか、強い責任感や使命感を持っているかということと関係します。結局、「自分がなんのためにこの事業をやるのか」という核が必要です。

ただ、信念や使命感さえあればいいというわけではもちろんありません。経営者というのは、バランス感覚が重要です。信念や行動力があって情熱を持っていることは必須ですが、情熱だけではダメで、冷静沈着な思考力もなければいけない。

決断も行動もスピーディなほうがいいですが、それが拙速なものになってはいけない。

大局を見据えなければいけないですが、それが大雑把になってはいけない。

細部に目を配る必要がありますが、細かいことばかりうるさく言ってもいけない。

事業を伸ばして儲けていくことを常に念頭においていなければいけませんが、儲けのことばかりを考えていてはいけない。

常に、兼ね合いの見定めが必要です。バランス感覚がよくないと失敗します。複雑さに対応できる力が求められるのです。

苦境のときに何を語るか

経営者,相矛盾する2つの要素
(画像=PIXTA)

○ 良い経営者は、社員に「希望」を持たせる
× ダメな経営者は、社員に「不安」を抱かせる

▼リーダーの器は危機のときに試される

ある大手の金融機関が危機的状況にあったとき、私は新任課長の研修に関わっていました。月に1回、6カ月間行う研修だったのですが、翌月行くと、何人かが辞めている。第一選抜で課長になったエリートたちですが、その人たちが次々と転職していくわけです。

6カ月やって最後の研修のときに、ある役員さんが来られて、みんなに言葉をかけました。

「いまのこの状況を招いてしまったのは、現経営陣である自分たちの責任だ。そのことをお詫びしたい。これまでのことは、自分たちがすべて責任を取る。世間からはいろいろ言われるだろうし厳しいことも多々あると思うが、君たちは前だけを向いて、胸を張って進んでください」

なかなか言えるものではないと思いました。

この人がトップになったら、この会社はきっと大丈夫だと思って見ていました。残念ながら社長にはなりませんでしたが、副社長になられました。

私は、「いい経営者は、社員に夢を持たせられる人だ」と考えていますが、調子のいいときには誰でも夢のあることを語れます。苦しい状況のときに、夢や希望を与えることを語れるのは、リーダーとして本物だ、ということです。

ダメな経営者は、そういうときに「こういうたいへんなときですから、一人ひとり全員が自覚を持ってください」と危機感を社員に押しつけ、不安を煽ります。 危機は基本的に経営者の責任です。まずは自分の不徳を謝らなくてはいけない。責任の所在をはっきりさせ、非を認めるところは認め、その上で先のことを語る、という3つのステップが行われるべきなのです。そこできちんと詫びることができるかどうかに、リーダーとしての「器」のほどが明らかになります。

社員が踏ん張るべきときに踏ん張れるかは、士気を高められるリーダーがいるかどうかにかかっています。社員にあまりに危機感をあおると、不安が増幅するだけです。(提供:ZUU online