CEMSなど地域のエネルギーマネジメント用設備・システムの市場規模は2030年度に810億円を予測
~エネルギー安定供給やCO2排出量削減のモデルとなり得るスマートシティのエネルギーマネジメント~
株式会社矢野経済研究所(代表取締役社長:水越 孝)は、国内スマートシティ市場を調査し、スマートシティにおけるエネルギーマネジメントの取り組みの状況や主要プロジェクトの動向、将来展望について明らかにした。ここでは、スマートシティ等における地域単位や街区単位で導入されるエネルギーマネジメント用設備・システムの市場規模について公表する。
地域エネルギーマネジメント用設備・システムの市場規模推移・予測
1.市場概況
日本国内のスマートシティ等で地域のエネルギーマネジメントを目的として導入された、2021年度のエネルギーマネジメント用設備・システム市場規模は330億円、2022年度は355億円を見込む。
スマートシティとは、都市が抱えるさまざまな課題をICT (情報通信技術)やIoT(Internet of Things)などの新技術やデータを活用して解決を図る都市や地区をさす。取得データの解析結果から当該地域内における施設、設備、機器の運用の効率化や人の行動パターンの最適化などへと展開してくことが想定されている。
現下、日本国内のスマートシティのプロジェクトにおいては、再生可能エネルギーなど地域内で得られるエネルギーと、エネルギーマネジメントシステム(EMS:Energy Management System)やスマートグリッド/マイクログリッドを組み合わせたエネルギーマネジメントの取り組みが計画・実施されている。エネルギーマネジメントは、エネルギー需給の効率化や再生可能エネルギーの有効活用などにより、省エネや平常時・停電時のエネルギー供給、CO2排出量の削減などを促進する効果が期待されている。
2022年における日本のエネルギー事情について、夏季・冬季のエネルギー需給逼迫への懸念や原燃料価格の高騰などを背景に、エネルギーの安定供給とエネルギーコストの平準化という課題が顕在化している。加えて、日本政府の「2050年カーボンニュートラル(温室効果ガスの排出を全体として実質ゼロにする)」目標などを受けてエネルギーに起因するCO2排出量削減の重要度が増している。これらの課題に対して、スマートシティにおけるエネルギーマネジメントは対策モデルになり得ると考える。
2.注目トピック
スマートシティの創エネで主役となる屋根置き太陽光発電
スマートシティにおいて導入実績の多い再生可能エネルギーは太陽光発電である。日照があれば場所(屋根、平地、水上等)を問わず発電するため、他の再生可能エネルギーと比べると運用が容易であるほか、施工ノウハウを持つ事業者が多く、施工コストを抑えられる点が利点である。
太陽光発電の中でも、今後スマートシティにおいて導入が進むと考えられるのが屋根置き太陽光発電である。屋根置き太陽光発電は屋根にスペースのある建物であれば設置可能であり、新規の土地開発と比べて導入に係るコストと時間を抑えられる。再生可能エネルギーの活用で先行するスマートシティの中には、数十戸から数百戸の住宅に太陽光パネルが設置されている事例がある。
屋根置き太陽光発電で生み出された電力の使い方は、自家消費もしくはコーポレートPPA(Power Purchase Agreement)※1モデルによる活用が多くなるとみる。この背景には、電力価格が上昇する中で、自家消費やPPAで太陽光発電を利用することで電力コストの平準化を見込めるなど経済的なメリットが出てきていることがある。
※1. コーポレートPPA(Power Purchase Agreement)とは、PPA事業者が自己資金等によって再生可能エネルギー発電所を開設して所有・運営・維持し、この発電所で発電した電気を需要家に対して長期・固定価格によって供給する仕組み(オフサイトは小売電気事業者経由)を指す。電力需要家以外の第三者が発電設備を保有することから第三者保有モデルと呼ばれている。
3.将来展望
日本国内のスマートシティ等で地域のエネルギーマネジメントを目的として導入されるエネルギーマネジメント用設備・システム市場規模は、2023年度390億円、2024年度430億円、2025年度485億円と推移し、2030年度には810億円になると予測する。
短期的には、太陽光発電など発電量が変動する再生可能エネルギーの導入量が増える中で、エネルギーマネジメントは電力需給がひっ迫した場合の需給調整や再生可能エネルギー由来の電力を地域で有効活用するための取り組みとして重要になることから、市場規模拡大の要因になるものとみる。また、政府等が地域のレジリエンス※2強化やカーボンニュートラルの実現などを後押しする施策を打ち出していることも追い風となり得る。
中長期的には、水素社会の到来やカーボンニュートラルを見据えてグリーン水素の活用を目指す実証事業が増え、それに伴いエネルギーマネジメントのニーズが出てくるとみる。グリーン水素とは、再生可能エネルギー由来電力を利用して水を電気分解することで、製造工程においてCO2を排出しない水素を指す。再生可能エネルギーの発電量に応じて水素製造設備を制御するため、効率的なエネルギーマネジメントが必要になる。
まずは水素製造に必要な再生可能エネルギーを確保できる地域を中心にグリーン水素製造の実証プロジェクトが始まり、グリーン水素の安定供給や低コスト化、利用方法等の検証が進むことでその後、複数地域に広がっていくと考える。
※2. レジリエンスとは災害時や非常時(電力系統停電時)には電力自営線等を使用して自立的に電力供給をすることにより、地域内でエネルギー需給を完結できる地域エネルギーマネジメントシステム構築のことである。
調査要綱
1.調査期間: 2022年7月~10月 2.調査対象: スマートシティプロジェクトを計画・実施している地方自治体・民間企業、スマートシティ向け技術・事業を開発・展開している民間企業、その他エネルギー会社、業界団体など 3.調査方法: 当社専門研究員による直接面談(オンラインを含む)、電話・e-mailによる取材、ならびに文献調査併用 |
<スマートシティにおけるエネルギーマネジメント用設備・システムとは> スマートシティとは、都市が抱えるさまざまな課題を、ICT (情報通信技術)やIoT(Internet of Things)などの新技術やデータを活用して解決を図る都市や地区を指す。 本調査におけるスマートシティにおけるエネルギーマネジメント用設備・システムとは、CEMS(Community Energy Management System)やTEMS(Town Energy Management System)、電力自営線、熱導管、水素供給パイプラインなどを用いて対象地域において統合的に設備・機器制御やエネルギー供給を行う「エネルギーマネジメント事業向け設備・システム」と、地域EMS(CEMS・TEMS)などに接続された創エネ設備などの「地域EMS接続設備・システム」を対象とし、市場規模はスマートシティ等で、年度中に竣工(完成)した設備・システムの導入・構築費用ベースで算出している。 |
<市場に含まれる商品・サービス> スマートシティのエネルギーマネジメントを目的として導入される設備・システム(エネルギーマネジメントシステム、電力自営線、熱導管、創エネ設備・システムなど) |
出典資料について
資料名 | <スマートシティ> 2022年版 スマートシティにおけるエネルギーマネジメントの現状と将来展望 |
発刊日 | 2022年10月31日 |
体裁 | A4 240ページ |
価格(税込) | 198,000円 (本体価格 180,000円) |
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