多くの企業がDX(デジタル・トランスフォーメーション)を取り入れて自社業務の変革を目指している。そのような状況のなかDX・メタバースの次に来る技術として注目されているのがVX(バーチャルトランスフォーメーション)だ。本記事では、VXの基本概念を整理したうえでDXやメタバースとの違い、VXの関連技術、VXの事例を紹介していく。
目次
VXとは
VX(Virtual Transformation)とは、「仮想」を意味するVirtualと「変換」を指すTransformationを合わせた造語で「現実世界と仮想世界を融合する変革」という概念のことだ。DX(Digital Transformation)によりすべてのモノがネットワーク上でつながり、業務の効率化が進められている。DXの目的は、デジタル技術により人々の生活をより良い方向へ変えていくことだ。
VXは、現在主流のDXを構成するデジタル技術と、さらにその技術を補完するサービスで構成され、より現実に近い行動・体験を提供することを目指している。VXをより深く知るための前提知識としてDXとは何かを改めて整理しておこう。
そもそもDXとは
DXとは、Digital(デジタル)とTransformation(変革)の頭文字を合わせた造語でデジタル技術を活用し仕事や生活を変革させる概念だ。DXを最初(2004年)に提唱した人物は、スウェーデン・ウメオ大学のエリック・ストルターマン教授である。IT化は単なるデジタル化を指すが、DXはIT技術を使い人々の生活や仕事を良い方向に変化させる「概念」を指す。
DXを実現する具体的なデジタル技術の例としては、チャットボットやEコマース、WEB会議、eラーニングなどが挙げられる。現在、スマホからネットショッピングを利用し業務を自動化して効率化するなどの変化は、すべてDXの効果といえるだろう。
VXとDXとの違い
VXとDXとの大きな違いは、仮想世界での体験を現実世界寄りにして実質的な体験や行動を経験できる点だ。デジタル技術によって、より良い社会を作り上げることを目標とする点は両者とも同じである。しかしVXは、その方法として仮想区間と現実世界を融合させる仕組みだ。例えばDXの例として挙げたチャットボットの場合、VXではCSアバターになる。
CSアバターとは、アバター(遠隔操作ロボット)やデジタルヒューマンを介して会話を進める技術の一種だ。同じようにDXでのEコマースは、VXにおいて仮想世界のなかでショッピングをするVコマースに、WEB会議はVR会議に、eラーニングはVRトレーニングに変換される。
VXとメタバースとの違い
メタバースとは、インターネット上の仮想空間内で実現する人間社会を指す。『マインクラフト』『あつまれどうぶつの森』など仮想世界でコミュニケーションができるゲームは、現在でも多く見られる。メタバースを利用するのには、ゲーム機やWebブラウザがあれば十分だが専用のゴーグルを装着して仮想空間を3Dとして体験することも可能だ。
VXとメタバースの大きな違いは、その目的にある。メタバースは「仮想空間内でのコミュニケーション」を目的とするのに対し、VXは「仮想空間と現実世界の融合」を目指す。
内閣府が掲げるムーンショット計画とVX
日本では、内閣府が2020年に「ムーンショット計画」制度を発表した。ムーンショット計画とは、超高齢化社会や持続可能な資源の活用など現在の日本が抱える社会的な課題に取り組むためにかつてない挑戦的な研究開発(ムーンショット)を推進する大型研究プログラムである。ムーンショット計画では、社会的な課題を解決するために9つの目標を掲げているが、そのうちの目標1は以下の通りだ。
2050年までに、人が身体、脳、空間、時間の制約から解放された社会を実現する
出典:内閣府
VXは、目標1を達成するためには欠かせない技術の一つ。誰もが多様な社会に参加できる基盤技術としては、現実の身体能力・認知能力・知覚能力を拡張するサイバネティック・アバターが挙げられる。内閣府は、2030年までのマイルストーンとして「1つのタスクに対してアバターを活用し10人分の速度・精度で操作できる技術開発と運用できる基盤の構築」を設定。
さらに2050年までには「複数の人が遠隔操作するアバターやロボットを組み合わせ、大規模で複雑なタスクが実行できる環境」を整備するとしている。
VXを推進する4つの関連技術
VXを推進するための関連技術は、以下の4つだ。
- XR関連技術
- デジタルツイン
- 5Gネットワーク
- デジタルヒューマン
XR関連技術
XR(クロスリアリティ)とは、仮想空間と現実世界を組み合わせ現実世界にはないものを知覚できる技術だ。XRを構成する技術としては、VR(仮想現実)、AR(拡張現実)、MR(複合現実)などが挙げられる。
・VR(Virtual Reality)
仮想現実に入り込み現実世界のような体感を得られる技術だ。専用のHMD(ヘッドマウントディスプレイ)を利用しゲームやメタバースでも活用されている。
・AR(Augmented Reality)
現実世界を拡張して現実世界の風景に仮想の視覚情報を表示する技術。身近な例としては、スマホゲームの『ポケモンGO』『ピクミンブルーム』などで目の前の景色にポケモンやピクミンを表示する機能が挙げられる。
・MR(Mixed Reality)
VRは仮想空間寄り、ARは現実世界寄りとすると、MR(Mixed Reality)は両者を融合した体験を得られる技術だ。代表例としては、「Microsoft HoloLens」が挙げられる。専用のHMDを着用すると現実世界にホログラフィックの3D映像が出現し実際に操作可能だ。MRの世界をイメージしやすいテレビドラマとしては、2022年4月にNHKで放送された『17才の帝国』が挙げられる。
ドラマのなかでは、実験都市の住人がスマートグラスをかけて現実空間に出現した映像を操作し政治AI「ソロン」とコミュニケーションを取る様子が描かれている。
デジタルツイン
デジタルツインとは、リアルタイムで現実世界のさまざまなデータを収集し、仮想空間に現実世界を再現する技術。「現実世界の双子を構築する」という意味でデジタルツインと呼ばれるようになった。デジタルツインを実現する技術としては、AIやIoT、ARなどの技術が挙げられる。デジタルツインは、デジタル上に現実世界を描写することで業務の効率化やコスト削減などが可能だ。
デジタルツインの利用例としては、商業施設やビルなどの建設への活用が挙げられる。建設予定地にIoTセンサを設置し周辺の動き(人や乗り物など)をリアルタイムに再現するという。また仮想空間に街を構築しリアルタイムにデータを収集して交通渋滞や災害のシミュレーションを行う自治体もある。
5Gネットワーク
5Gネットワークとは、「第5世代(5th Generation)移動通信システム」を利用したネットワークの総称。5Gネットワークは、高速かつ大容量の通信が実現できる。VXを支える各種技術は、非常に多くのデータをやり取りしなければならない。5Gネットワークのように高速かつ大容量の通信網は、VX実現のために必要不可欠なインフラ技術といえる。
デジタルヒューマン
デジタルヒューマンとは、バーチャルヒューマンとも呼ばれ、CGとAIにより人間に酷似した姿と動作を実現する技術だ。代表的な例としては、バーチャルモデルとして活躍する「imma」や、アパレルブランド「GU」のデジタルヒューマン「Yu」などが挙げられる。
VXの事例
ここからは、VXの具体的な5つの事例を紹介していく。VXを実際に活用するとどのようなイメージになるのか、これらの事例を参考にしてほしい。
METAの「Workrooms」
META社(旧Facebook)は、メタバース「Horizon Workrooms」を提供している。Horizon Workroomsでは、メタバース内にデスクやキーボード、ホワイトボードを出現させWeb会議を開催できる環境を実現。物理的な距離という拘束から自由になるとともにZoomよりも臨場感のある会議が可能だ。物理的に同じ空間にいる必要がないため、コロナ禍のように感染症拡大が問題となる場合も安全に会議を行える。
東京都のデジタルツイン実現プロジェクト
東京都では、仮想空間上に東京都を再現する「デジタルツイン実現プロジェクト」を推進中だ。本プロジェクトの目的は、リアルタイムに収集した各種データを仮想空間上の東京都に重ね合わせ、そこから新たな知見を得ること。本プロジェクトの活用分野は、防災やまちづくり、モビリティ・エネルギー・自然・など多岐にわたり、経済の発展と社会的課題の解決の両立が期待されている。
アウディのVRショールーム
自動車メーカーのアウディは、世界中にある自社の自動車ディーラーのうち1,000店舗にVRショールームを展開している。日本では、東京・千代田区の「Audi City紀尾井町」で体験可能だ。専用のVRヘッドセットを装着し、見たい自動車の内装を3Dで見学したり、ホイールやカラー、ダッシュボードなどの仕様を選んで確認したりできる。
三越伊勢丹のバーチャル百貨店
三越伊勢丹では、スマートフォン向けの仮想都市空間サービスとして仮想伊勢丹新宿店「REV WORLDS」を展開している。スマホアプリでアバターを操作して仮想の新宿にある伊勢丹新宿店に入店し現実世界のようにウインドーショッピングを楽しんだり気に入った商品を実際に購入したりできる。店内では、ショッピングを楽しむだけでなく「アバターの着せ替えを楽しむ」「イベントを観る」などの体験も可能だ。
VXは人が物理的な制約から解放された社会の実現に必要な技術
DXの次にくるものとして注目されているVXは、内閣府のムーンショット計画にて掲げられた「人が身体、脳、空間、時間の制約から解放された社会」という目標達成に必要となる技術だ。今後の動向に注目しつつ企業も必要に応じてVXに対応していく流れになるだろう。
VXに関するQ&A
Q1.VXは何の略?
A.VXとは「仮想」を意味するVirtualと「変換」を指すTransformationの頭文字を取った略語のことだ。
Q2.VXの正式名称は?
A.VXの正式名称は、「Virtual Transformation」である。
Q3.VXとはどういう意味?
A.VXの意味は、現実世界と仮想空間の融合という「概念」だ。IT技術により人々の生活や仕事をより良い方向に変革するDXの次に来る技術として注目されている。
Q4.VXとDXの違いは?
A.VXは、仮想区間と現実世界を融合させる。DXは、仮想世界での体験をより現実世界寄りにすることで実質的な体験や行動を経験できる。VXには「仮想区間と現実世界を融合させる」という概念がある点がDXと異なる。
Q5.VXとメタバースの違いは?
A.メタバースは、仮想空間内でのコミュニケーションを取るのが目的だ。一方VXは、仮想空間と現実世界の融合を目的とする点が大きく異なる。
Q6.VXを推進する技術は?
A.VXを推進する技術としては、XR関連技術(VR・AR・MR)、デジタルツイン、5Gネットワーク、デジタルヒューマンなどがある。
Q7.VXの事例は?
A.METAの「Workrooms」上で開催できるWeb会議や仮想空間上に東京都のデジタルツインを構築する東京都の「デジタルツイン推進プロジェクト」などがある。商用利用としては、アウディの「VRショールーム」や三越伊勢丹のバーチャル百貨店「REV WORLDS」が挙げられる。