働き方改革の柱として、多くのメディアから取り上げられているダイバーシティ。SDGsやESG投資とも関連しているが、曖昧に理解している人も多いのではないだろうか。ここではダイバーシティの概要のほか、メリットやデメリット、進め方などを解説する。
目次
ダイバーシティとは?
ダイバーシティ(Diversity)とは、人々の多様性や相違点を表す言葉である。ビジネスシーンでは、「個人・集団のさまざまな違い」のように訳されることが多い。
近年では労働力不足などの影響から、さまざまな人材を採用する企業が増えてきた。経済産業省もダイバーシティ経営を推進しており、多様な人材を活かすことがイノベーションや価値創出につながると述べている。
では、ダイバーシティの多様性には個人のどういった属性が含まれるのだろうか。以下では2つのダイバーシティに分けて、具体的な属性をいくつか紹介する。
表層的ダイバーシティについては、外見から判断できる属性が多い。一方、深層的ダイバーシティは外から見えないため、違いに気づいてもらいにくい特徴がある。
インクルージョンとの違い
インクルージョンとは、多様な人材が相互に関係性をもって、それぞれ機能している状態を表す。日本語では「受容性」や「包括性」のように訳されることが多く、1980年代のアメリカでその考え方が広まっていった。
ダイバーシティ経営では多様な人材を採用するが、ただ人材を増やすだけでは意味がない。従業員ひとり一人が能力を活かせるように、個々に合った教育を行う必要がある。
つまり、ダイバーシティだけでは理想的な社会は実現しないため、近年では「ダイバーシティ&インクルージョン」として施策に取り組む企業が増えてきている。
日本でダイバーシティが広まった背景
ダイバーシティはアメリカで誕生した考え方だが、最近では以下の要因によって日本でも注目されている。
○日本でダイバーシティが広まった要因(背景)
・国内企業のグローバル化
・労働人口減少や構造の変化
・消費ニーズや働き方の多様化
・新型コロナウイルス蔓延による働き方の変化
例えば、現在では原料費や人件費のカットを目的として、海外に工場を構える企業が多く見られる。そのような企業は外国人労働者を多く雇うため、言語や文化、慣習などの違いに対応しなければならない。
また、政府や公的機関がガイドラインを取りまとめた点も、日本にダイバーシティが浸透している一因だろう。国内企業向けの資料として、経済産業省は「ダイバーシティ2.0行動ガイドライン」を、商工会議所は「中小企業のための ダイバーシティ推進ガイドブック」をそれぞれ公開している。
企業がダイバーシティを推進するメリット
社内でダイバーシティを推進するには、コストや労力をかける必要がある。その一方で、経営面にはどのようなメリットが生じるだろうか。
ここからは、中小経営者が特に押さえたいメリットを解説する。
人材不足が解消される
企業がダイバーシティを進めると、採用する人材の幅を広げられる。例えば、女性やシニア人材、外国人労働者、障がい者などを雇用しやすくなるため、業種によっては人材不足の解決策になる。
また、社会的な評価や信用力が高まることで、優秀な人材を集めやすくなる点も大きなメリットだ。
革新性や創造性の向上
社内のカルチャーやパーソナリティが多様化することで、革新性や創造性が向上する点もダイバーシティの利点だろう。考え方の異なる人材が増えれば、魅力的なアイデアやイノベーションが生まれやすくなる。
プロジェクトで課題や壁に直面した際にも、さまざまな解決策が提案されるはずだ。
市場での優位性
ダイバーシティは世界的に注目される概念なので、積極的に推進すると自社のイメージアップを図れる。これに加えて人材確保力や革新性、創造性がアップするため、市場での優位性も築きやすくなる。
ダイバーシティ推進のデメリットや課題
一方で、ダイバーシティの推進にはデメリットや課題も潜んでいる。特に以下で挙げる点については、プランを立てる段階から対策を意識しておきたい。
ミスコミュニケーションによる生産性低下
ダイバーシティ推進によって人材が多様化すると、言語や文化などの違いによってミスコミュニケーションが生じやすくなる。情報共有に問題があると、生産性低下やトラブルの増加につながるだけではなく、各従業員のストレスも増えてしまうだろう。
このようなリスクを抑えるには、ダイバーシティに関する社内教育を徹底し、従業員の意識改革を図る必要がある。
組織の混乱や不平不満を誘発するリスクがある
ダイバーシティを推進すると、社内の採用環境や労働環境は大きく変化する。その結果、チームワークに混乱が生じたり、かえって不平不満が増えたりするリスクもゼロではない。
例えば、多様な人事評価にこだわり過ぎると、仕組みの複雑化によって適正な評価が難しくなることもある。制度や仕組みの変更にはこのようなリスクを伴うため、導入前のシミュレーションや効果検証を徹底することが重要だ。
施策によっては大きなコストがかかる
ダイバーシティを推進すると、将来的には採用コストや教育コストの節約につながる。ただし、施策によっては推進の段階で大きなコストがかかるため、慎重にプランを策定しなければならない。
また、特定の部署(人事など)に負担が集中すると、モチベーションの低下を招く点も注意したいポイントだ。
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ダイバーシティ推進のポイントや進め方
上記のデメリットや課題を踏まえて、ここからはダイバーシティ推進のポイントや進め方について解説する。
会社と従業員が相互理解をしながら取り組む
会社が一方的に施策を打ち出すだけでは、形式的なダイバーシティに陥りやすい。例えば、PMIを意識して無理に女性管理職を増やすと、その人材のパフォーマンスを活かせなかったり、余計なストレスを与えたりするリスクがある。
前述のメリットを最大化するには、会社と従業員が相互理解をしながら施策を打ち出す必要があるので、協力体制の構築や情報共有にはしっかりと力を入れたい。
もともとの経営理念を意識する
ダイバーシティ推進では、経営理念とマッチした施策も意識しておきたい。
企業にとってのダイバーシティ経営は、あくまで競争優位性を築くための戦略である。社会貢献だけではなく、ビジネス的なメリットや利益が必要になるので、経営理念の達成と同時進行で取り組むことが望ましい。
そのため、まずは自社の経営理念やビジョンを明確にし、これらをベースに具体的な施策を考えていこう。
見直しと改善を徹底する
会社の従業員を取り巻く環境は、短期間で大きく変化することがある。新たな文化をもった人材が1人増えただけでも、コミュニケーションの取り方や社内の関係性は変わってくる。
そこで意識したいポイントが、各施策の見直しと改善を徹底する点だ。特に人事評価制度については、従業員ひとり一人の事情を加味した上で、日々調整していく必要がある。
ダイバーシティに関するQ&A
ダイバーシティ推進の計画時には、基本的な考え方や知識をしっかりと押さえる必要がある。ここからはよくある質問をQ&A形式でまとめたので、おさらいの意味も含めて最後まで確認していこう。
Q1.ダイバーシティとはどういう意味?
ダイバーシティ(Diversity)とは、直訳すると「多様性」である。ビジネスシーンにおいては、個人の属性(年齢や性別、人種、国籍など)に関わらず多様な人物を受け入れる意味合いで使われている。
日本では1980~1990年代に注目され始め、実現に向けた一歩として1985年に「男女雇用機会均等法」が制定された。
Q2.ダイバーシティの例は?日本ではどんな施策が多い?
ダイバーシティの例としては、女性の管理職やリーダーを増やす、定年年齢の引き上げ、外国人が働きやすい環境づくりなどがある。日本国内では、女性やシニア人材、障がい者、外国人労働者の雇用・キャリアアップにつながる施策例が多い。
Q3.日本が抱えるダイバーシティの課題は?
ダイバーシティを推進すると、社内にはさまざまな言語や文化、慣習が混在する。このように異質な要素が増えると、コミュニケーション障害などのトラブルを引き起こす場合が多い。
そのため、ダイバーシティ推進では多様な人材を増やすだけではなく、ひとり一人が活躍できる環境づくりも必要になる(※インクルージョンと呼ばれる)。
Q4.ダイバーシティの進め方は?
ダイバーシティを推進するには、多様な働き方を受け入れる仕組みをつくり、従業員がそれを実践する必要がある。また、気軽に利用できる提案制度やアイデア共有会など、多様性や能力が活きる場を提供することも重要だ。
Q5.日本のダイバーシティはなぜ進まない?
日本でダイバーシティが進まない要因は、日常で身についた「アンコンシャス・バイアス」と言われている。これは無意識的な偏見のことであり、例えばビジネス面では「代表や会長は男性が勤めるもの」といった男性優位の偏見が見受けられる。
自社に適したダイバーシティを見極めよう
多様性を意味するダイバーシティは、今後さらに浸透していく可能性が高い。特に国内企業は人材獲得競争に乗り遅れないよう、早めに具体的な施策を用意する必要がある。
本記事の進め方を参考にしながら、自社に適したダイバーシティの形を見極めていこう。