矢野経済研究所
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7月2日未明に発生したKDDIの大規模通信障害は3日半を経て、ようやく全面復旧した。筆者もauのスマートフォンを使っているが筆者の住むエリアではSMS(ショートメッセージサービス)は生きており、また、Wi-Fi環境下ではe-mailやメッセンジャーが使えたので自宅やクルマ内で不便は感じなかった。ただ、Android Auto対応のスマホアプリは、2日午前時点では画面全体がぼやぼやっとした感じでナビとしては全く使えなかった。昼前になるとまず道路の輪郭が、そして、徐々に文字情報がクリアになってきて、なるほど通信制限とはこういうものか、と実感した次第である。

さて、筆者への影響は軽微であったが、UQモバイル、povoなどau回線を使った通信事業者はもちろん、社会全体への影響は甚大であった。ヤマトホールディングスでは配送車との連絡に支障が生じた。トヨタ自動車では「つながるクルマ」サービスに影響が出た。JR貨物ではコンテナの積み下ろしを管理するシステムが影響を受け、運行遅延が発生した。気象庁の観測システム「アメダス」も全体の7割近い観測所のデータが収集できなくなった。また、東京都では自宅療養中の新型コロナウイルス感染者との連絡が一時不通になった。SMSを使った本人認証システムも機能しなかった。そして、警察、消防への緊急通報が長時間にわたって不通となった。

一時的とは言え緊急通報手段が喪失した事態は深刻であり、総務省は「携帯電話会社が緊急時に他社の通信網に乗り入れる “ローミング” について具体的な検討を進める」と声明した。ただ、この問題は東日本大震災の直後、既に検討課題として取り上げられている。2011年11月10日、「第2回首都直下地震に係る首都中枢機能確保検討会」(総務省総合通信基盤局)は “アクションプランにもとづき取組・検討を進める” 事項の一つとして提携事業者間のローミングと通信サービス事業者間でのリソースの融通について言及している。

しかし、この10年間、検討は進んでいない。もちろん、実現には事業所間調整を含め様々な “現実的” な問題がある。しかし、通信ネットワークの社会インフラとしての重要性は10年前とは次元が異なる。いつ起こってもおかしくない大地震に対してもはや一刻の猶予もない。今回、KDDI高橋誠社長に対する通信障害発生の第一報は固定電話で行われたという。個人法人ともに固定電話の契約数は縮小の一途である。緊急時の通信手段をどう確保するか、まさに喫緊の課題である。

今週の“ひらめき”視点 7.10 – 7.14
代表取締役社長 水越 孝