【民主主義国VS独裁主義国】団結強めるNATOに対し中国、ロシアは?
(画像=Grenar/stock.adobe.com)

2022年6月下旬、G7首脳会議とNATO(北大西洋条約機構)首脳会談を軸に、多数の2ヵ国、3ヵ国間首脳会議が欧州で開催された。

主要首脳会議では、気候変動から食料危機、人権、ジェンダー平等、テロ、サイバーセキュリティまで、国際社会が直面している多岐に渡る議題について意見が交わされたが、最大の焦点はロシア、中国、北朝鮮による国際秩序への影響と対策に当てられた。

NATO「ロシアは最も直接的な脅威、中国は最大の懸念事項」

首脳会議リレーの先陣を切ったのは、ドイツ・バイエルンで2022年6月26~28日の期間に開催されたG7首脳会議だ。G7加盟国(日、米、英、仏、独、伊、加)の他、インド、ウクライナを含むゲスト6ヵ国、国連や国際エネルギー機関(IEA)などの国際8機関、アルメンディンガー・ジェンダー平等アドバイザリー評議会(GEAC)議長が出席した。

G7加盟国は武器や防衛装備品、資金の提供、難民の受け入れなどを介して、ウクライナを引き続き支援すると同時に、食料安全保障の強化に向けて45億ドル(約6,124億2,467万円)を追加拠出することに同意した。

続いて、スペイン・マドリードで28~30日にわたって行われたNATO首脳会議には、加盟30カ国に加え、アジア太平洋パートナー(AP4)として日本、オーストラリア、ニュージーランド、韓国が参加した。

およそ12年ぶりに採択された「NATO戦略概念」では、ロシアを「連合国の安全保障にとって最も直接的な脅威」と位置付け、中国の強圧的な政策が「NATOの利益や安全保障、価値に挑み、法に基づく国際秩序を破壊しようとしている」として、安全保障上の最大の懸念事項に挙げた。

その一方で、アジア太平洋パートナーはNATO首脳会議開催期間中の29日に、約1時間の4ヵ国首脳会議を開催し、北朝鮮への対応について協議を深めた。

岸田首相は日本の首相としてNATO首脳会議初出席

岸田首相はG7首脳会議、NATO首脳会議、アジア太平洋パートナー首脳会議、日米韓首脳会議の他、米国や英国、アルゼンチン、フランス、ドイツ、スペイン、スウェーデンなどの複数の国と2ヵ国間会議も行うなど、精力的にスケジュールを消化した。

日本の首相として初の参加となったNATO首脳会議では、同盟国などと連携を強化し、ロシア、中国、北朝鮮情勢への対応にあたる考えを表明している。その一方で、防衛費の大幅な増額を含め、日本の防衛力を今後5年以内に抜本的に拡大する決意を明確にした。

5年ぶりの日米韓首脳会議で「外交の重要性」も確認

一連の首脳会議では、文前政権時代に「戦後最悪」と評されるまでに冷え込んだ日韓関係の行方も、焦点の一つとなっていた。

5年ぶりに実現した日米韓首脳会議は、およそ20分間という短い会談ではあったものの、増大する北朝鮮の脅威を封じ込めるべく、3ヵ国の安全保障協力を推進する方針で一致した。日本は拉致問題に関しても米韓から理解と支持を得ており、「外交の重要性」という観点からも、一層緊密に連携することを確認している。

日韓関係の改善には時間が必要

日韓関係の改善に関しては、尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領が候補時代から、前向きな姿勢をアピールしていたことが期待材料となっていた。

同大統領は会談後、「数多くの日程の中で韓米日首脳会議が最も意味があった」と記者団に語った。また、大統領上級顧問は日本との関係の回復が韓国にとって優先事項であることを、スタンフォード大学で国際政策と東アジア研究の講師を務めるダニエル・スナイダー氏に伝えていたという。

しかし、日韓関係改善への視界が完全に晴れたと解釈するのは性急過ぎる。

両国の歴史的問題を巡る認識の差が大き過ぎること、今回韓国側が提案した日韓2ヵ国会議が実現しなかったことなどを理由に、日韓関係再構築への道のりを前途多難と見なす声も多い。

中露や北朝鮮は反応に温度差

民主主義国の結束が急速に強まる中、ロシア、中国、北朝鮮は憤怒の念を噴出させているが、反応や憤怒の矛先はそれぞれ微妙に異なるようだ。

北朝鮮の朝鮮中央通信は、日米韓3ヵ国が軍事協力強化や北朝鮮への圧力強化を協議したことについて、「北朝鮮を標的とする、極めて危険な軍事的共同対応策を議論した」「米国は世界各地で軍事的支配権を確保しようとしている」と猛批判を開始した。

畳みかけるように同国の外務省報道官が、「米国とその同盟国に対する自衛能力を強化する」という意向を発表した。

中国は名指しで日本を批判しロシアはNATOと西側諸国に反発

中国はNATOが「戦略概念」の中で、「(中国は)NATOに体系的な課題を提起している」と言及したことに強く反発。外交部の趙麗健報道官は記者会見で、「冷戦思考とイデオロギー的偏見に満ち溢れており、悪意を持って中国を攻撃し、ブロック(特定の目的のために結成された連合体)間の対立を煽っている」「中国は独立した外交政策を追求しており、世界平和の原動力であり、世界の発展に貢献している国際秩序の擁護者である」と強く主張した。

その一方で、「日本はNATOサミットで古いレトリックを繰り返しているに過ぎない。武力による現状変更に反対と言いながら、自国の軍備増強を正当化するための言い訳を探している」「NATOのアジア太平洋進出の先陣を切るつもりのようだが、ブロック対立を煽り、地域に反感と分裂をもたらすだけだ」と、日本を名指しで批判した。

目下のところ、ロシアの直接的な警告は、NATOとそれを取り巻く西側の諸国に向けられている。

ロシアの外交官は、NATO加盟準備を進めているスウェーデンとフィンランドに対して、「バルト海と北極圏の事態を悪化させ、欧州の政治的・軍事的緊張の激化に一歩近づくことになる」と警告し、「(両国が加盟後)ロシアはいかなる障害に対しても、確実に報復する」と、断固たる決意を表明した。

さらに、ウラジミール・プーチン大統領は2022年7月7日にテレビ中継された政府会議で、西側の制裁が世界のエネルギー市場に「壊滅的な結果」をもたらす可能性があるとけん制した。

独裁主義国と民主主義国の対立

戦後かつてないほど緊迫している現在の国際情勢は、暴走する独裁主義国と弱体化の一路を辿る民主主義国の対立という現実を、改めて浮き彫りにしている。世界は新たな激動の時代の到来を、乗り越えることができるのだろうか。

文・アレン琴子(英国在住のフリーライター)

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