中国がロシアとインドで国境橋建築・開通 それぞれのプロジェクトの思惑を探る
(画像=xtock/stock.adobe.com)

中国が巨額を投じ、ロシアやインドに続々と国境橋を建築・開通させた。一見、「対西側戦略を意図した関係強化」という印象を受けるが、それぞれの思惑は異なる色合いを見せている。その真意を探る。

約504億円規模の共同プロジェクト

2022年6月10日、ロシア東部のブラゴヴェシチェンスク市と中国東北部の黒河市を結ぶ、両国初の道路橋の開通式がブラゴヴェシチェンスク市で行われた。

ユーラシアンタイムズ紙などのメディアによると、このプロジェクトは両国が総額24億7,000万元(約503億8,227万円)を投じ、ロシアではアムール、中国では黒竜江と呼ばれる全長4,368キロメートル、流域面積186 万平方キロメートルの巨大な川に、およそ1キロメートルの橋を建築するというものだ。

2016年に両国が作業と費用を二分割して請け負う形で工事に着手し、2019年末に完成した。当初、開通は2020年春予定だったが、新型コロナウイルスのパンデミックの影響により延期を余儀なくされていた。

道路橋の開通により、これまではフェリーなどを利用した海上に限られていた輸送手段が、大幅に改善すると期待されている。2024年までには年間約400万トンの貨物と、200万人の旅客の輸送が可能になる見込みだ。

ジェトロの2021年のデータによると、ロシアにとって中国は輸出額、輸入額ともに世界最大の貿易相手国で、中国にとってロシアはそれぞれ第13位、第11位となっている。

両国の貿易額は近年急速に拡大しており、2021年には前年比35%増の1,470億ドル(約20兆602億円)と過去最高を記録。ロシア側は、2024年までに2,000億ドル(約27兆2,873億円)に引き上げるという目標を表明した。

ロシア大統領全権代表「中露をつなぐ友好の糸」

中露が、西側諸国との緊迫が日に日に高まっている中、あえて開通に踏みきった背景には、貿易のみならず政治面においても、両国の関係強化を誇示する意図があるようだ。

特にロシアにとっては、ウクライナ侵攻を巡り欧米諸国との対立が深まっている現在、中国との連携強化を選択せざるを得ないといった複雑な思惑が交差しているものと推測される。

ロシアの極東連邦大学地域国際研究学部アルチョム・ルーキン副所長によると、アムール川近辺はもともと、「敏感で綿密に監視されていた地域」だった。1969年にソビエト連邦と中国共産党間の国境紛争の対象となり、1990年代になってようやく完全に解決したという歴史がある。

中国に依存することを警戒していたロシアは、中国が持ちかける湾岸沿いのプロジェクトに若干消極的だった。ロシアがよりオープンになったのは、欧米諸国から制裁を受けた2014年のクリミア併合以降だという。

西側諸国との緊迫がさらに増している現状を考慮すると、ロシアが道路橋の開通を「中国との揺るぎない関係」を世界に知らしめると同時に、貿易拡大による利益創出のチャンスと見なしていることは明らかだ。

極東連邦管区大統領全権代表のユーリ・トルトネフ氏は「今日の分裂した世界において、アムール川の道路橋は特別な象徴的な意味を持っている」「この橋はロシアと中国の人々を結ぶ友好の糸となるだろう」と称え、「国境インフラを拡大することで中露経済を発展させ、さまざまな利点を共同で活用するための良好な環境を創出し、両国の市民の生活の向上に貢献するだろう」と述べた。

板挟みの中国は貿易拡大で間接的支援?

中国側はどうか。

西側諸国から再三にわたり、ロシアへの軍事支援について警告されている中国は、公にロシアを支援するつもりはない。

NATO(北大西洋条約機構)拡大への懸念も含め、西側の圧力に反発している点ではロシアに共感しており、2022年2月には両国の提携関係強化を確認する共同声明まで発表したが、ウクライナ侵略に関しては中立的立場を維持している。

中国は、西側諸国とロシアとの板挟みの中、貿易の拡大を介してロシアに間接的な経済的支援を提供する意図が見える。対照的に対ウクライナ貿易は、輸出・輸入ともに大幅に縮小させた。

インドでも立て続けに橋を建設中

中国にはもう一つ、防衛強化という独自の思惑がある。

同国は巨大経済圏構想「一帯一路イニシアチブ(BRI)」の一環として、道路橋を含む加盟国間の輸送経路のインフラに注力する傍ら、BRIの構想に反旗を翻すインドとも同様のプロジェクトを進めている。

2022年4月には、インドのラダック連邦直轄地と中国のチベット自治区ルトク県に位置するパンゴン湖をつなぐ橋を完成させ、さらに2本目の橋を建設中であることをヒンドゥスタン・タイムズ紙が報じた。

インドの主要貿易国である中国は、ITや電気通信、鉄道などプロジェクトの多様な領域で、インドへの進出を加速させている。

しかし、インド・中国間の道路橋の狙いは、貿易拡大より防衛強化の意図が強いとの見方がある。

目的は軍事インフラ強化?

アムール川同様、パンゴン湖も国境紛争が長期化しているいわく付きの土地である。直近では2020年6月、ラダック地方の2国間の事実上の国境(LAC)付近で両国軍の乱闘が起こり、インド軍の兵士20人が死亡するという惨事となった。

2本目の橋は、幅10メートル、長さが450メートルと1本目の橋より大きくなる予定で、戦車や装甲車両などの大型重量車両に対応可能となる。

元軍事作戦長官のヴィノド・バティア中尉は、建設の背後にある中国の真意について、「国境紛争で一歩も譲らないという中国側の意志表明」であり、有事の際に迅速に移動することを視野に入れた「LAC付近のインフラの強化目的」であると述べた。

両国は紛争解決に向けて、これまでに15回の軍事交渉を行った。交渉の結果、2021年にパンゴン湖の北岸と南岸、およびゴグラ地区からの撤退を完了したものの、依然として緊張関係は続いている。

三カ国間の構図にも変化の兆し

ロシアは西側対策として、インドと中国との同盟の発足を熱望しているが、中国・インドの複雑な関係が大きな障害となっている。

インドは2022年5月、米国主導の「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」へ参加するなど、中露との距離感や三カ国間の構図にも変化の兆しが見られる。

文・アレン琴子(英国在住のフリーライター)

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