尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権発足で日韓関係の改善が期待されている中、2022年6月末にスペインで開催される北大西洋条約機構(NATO)首脳会議に合わせ、5年ぶりとなる日米韓首脳会議が行われる。
韓国国内では日本製品や日本旅行の人気が復活するなど、「ノージャパン」運動は緩和傾向にあるようだが、歴史問題を巡る反日感情は依然として根深いようだ。
「日韓関係改善」の取り組みに温度差
韓国日報(コリアタイムズ紙)によると、金聖翰(キム・ソンハン)国家安保室長は2022年6月22日、政権交代後初となるNATO首脳会議でのスケジュールを発表。「6月29日に日米韓の三カ国による首脳会談を開催する方向で調節に入った」と、朝日新聞は報じた。前回、日米韓の三ヵ国による首脳会談が行われたのは2017年9月だった。
期待されている日韓関係改善への対処について、両国間で温度差があることは、日本側が日韓二ヵ国の首脳会議の開催に消極的である様子から感じられる。
ユン大統領は候補時代から一貫して日韓関係の修復に意欲を示しており、当選翌日(2022年5月10日)の記者会見でも、「将来的に何が両国の利益になるのか、しっかりと考えていくことが重要だ」と述べた。
これに対して岸田首相は、「1965年の国交正常化以来築いてきた日韓関係を発展させていく必要がある」と発言。「日本としてはこれまでの一貫した立場に基づいて、新政権と意思疎通を図っていく」と慎重な構えを見せた。
「ノージャパン」運動が下火に
ポジティブな材料は、文在寅(ムン・ジェイン)政権が主導した「ノージャパン」運動が、政権交代とともに下火になったことだ。
ノージャパン運動は、2019年に日本政府が韓国向けの半導体素材の輸出管理強化に踏みきったのをきっかけに、韓国で爆発的に広がった日本ボイコット運動である。微用工訴訟問題や慰安婦合意破棄により、両国の関係はすでに冷え込んでいた。
運動が長期化するに伴い、反日感情は日韓のビジネスにも飛び火した。ノージャパン運動の恰好のターゲットだったユニクロや日本ビールは、コロナショックの影響も逆風となり売上が激減するなど苦戦を強いられた。
ところが2021年後半あたりから、風向きが一気に変わった。2020年に巨額の損失を計上したユニクロのソウル店舗には買い物客の行列ができ、トヨタ自動車のレクサスが、4年ぶりに輸入車ベストセラーの座に返り咲いた。日本ビールや無印良品など、他の日本メーカーの売上も大幅に改善した。
統一日報は「ノージャパン運動は韓国国民が望んだものではなく、ムン政権下の政府や与党が作りあげたものだった」と、売上急回復の背景に政権交代がある点を指摘した。
日本行きの旅行予約も殺到
新型コロナウイルスの水際対策の緩和も追い風となり、日本が「韓国で人気No.1 の海外旅行先」の座を奪還する可能性も高まっている。
韓国の旅行会社インターパークツアーによると、2022年5月15~21日までの日本行きのフライト予約は、前週から139%増加。
今後、各航空路が本格的に再開し、日本への入国制限がさらに緩和されるに伴い、韓国から日本を訪れる観光客が急増することが予想される。大手旅行会社は需要の拡大を見越し、日本旅行のパッケージ化を急いでいるという。
日本の約6割、韓国の約8割の国民が「譲歩すべきではない」
しかし、これだけで「反日感情は消え去った」と判断するのは早計だ。そのことを示す調査結果がある。
読売新聞と韓国日報が2022年5月下旬、それぞれ約1,000人の成人を対象に実施した調査では、「日韓関係の改善に期待している」との質問に対し、日本の回答者の31%、韓国の回答者の53%が同意した。前年と比べると、日本は17ポイント増(以下pt)、韓国は24 pt増と大幅に増えた。
一方、「変わらないと思う」と答えた日本の回答者は61%(8pt減)、韓国の回答者は35%(23pt減)と、特に韓国側で大きな変化が見られた。
ところが、「日韓関係の改善のために、徴用工や元慰安婦などの歴史問題について、自国が相手国に歩み寄るべきか」という質問では、日本の回答者の58%(1pt減)、韓国の回答者の81%(2pt増)が「譲歩すべきではない」と答えた。
この調査結果を見る限り、大半の国民は日韓関係の改善を望んでいるが、歴史的問題になると話は別と考えていることがわかる。
反日感情が根強い韓国メディア
世論における一貫性の欠落は、韓国メディアにも反映されている。両国関係の修復を求めるかと思えば、逆鱗のスイッチに触れるやいなや反日感情を噴出させる。
2022年5月23日の日米首脳会談で、バイデン大統領が日本の国連常任国入りを支持する意向を示した際には、韓国メディアがこぞって猛反発した。韓国日報は「日本は戦時中の性奴隷制や強制労働などの残虐行為を認め、謝罪することを今なお拒否している」とし、「日本に安保理の常任理事国入りする資格があるとは思えない」と批判している。「ユン政権は、日本の歓迎されない動き(=安保理の常任理事国入り)に反対する、明確なメッセージを送るべきだ」と憤慨を露わにした。
さらに6月中旬、日本側が日韓首脳会談を見送る意向を明らかにしたことについては、複数の韓国メディアが日本側の「高慢さ」を叩く記事を掲載した。
韓国には反日活動を展開する個人や団体も数多く存在する。
根深い歴史的問題の解決は一夜にしてならず
日韓に限らず、国同士の歴史的問題は極めて根深く、一夜にして解決するものではない。お互いが100%納得できる解決策を見つけるのは恐らく不可能だ。それ故に、多数の国が対立から抜け出せずにいる。
とは言うものの、「過去」にこだわり続けたムン前大統領とは対照的に、ユン大統領が「未来」に目を向けていることは、何らかの前進を期待させるポジティブな兆候と受け止めるべきではないだろうか。
文・アレン琴子(英国在住のフリーライター)