「シン・世界冷戦」3つの独裁政権の暴走で深まる世界秩序の二極化にどう向き合う?
(画像=Nagahisa_Design/stock.adobe.com)

北朝鮮による7回目の核実験が懸念される中、北朝鮮に対する追加制裁の国連安全保障決議案を中露が拒否権を行使して否決。新たな「冷戦」の構図がより鮮明になった。

その一方で、日本が北大西洋条約機構(NATO)首脳会議に出席する可能性が海外でも大きく報じられるなど、国際社会の二極化が益々深まっている。

対北朝鮮追加制裁を中露が阻止

2022年5月27日に行われた国連安全保障理事会(UNSC)では、北朝鮮による一連の核実験及び弾道ミサイルの発射を受け、同国への原油・石油精製品の輸出量の追加削減や鉱物性燃料・鉱物性油・鉱物性ワックス・時計(部品含む)といったものの輸出禁止などの追加制裁が米国から提案された。

常任理事国5カ国(米・英・仏・中・露)および常任理事10カ国(インド、アイルランド、ケニア、メキシコ、ノルウェー、アルバニア、ブラジル、ガボン、ガーナ、UAE)間で決議案の採決が行われたが、中露が拒否権を行使したことにより否決に終わった。

北朝鮮制裁決議を巡り、常任理事国間で意見が真っ二つに分かれたのは理事会発足して以降初めてのことである。

リンダ・トマス・グリーンフィールド国連大使は決議後の記者会見で、「中露は理事会に対する責任と国際平和・安全を守るという責任を放棄した」と厳しく批判。「危険な選択」について両国に釈明を求める意向を示した。北朝鮮が核実験を続行した場合、引き続き追加制裁の圧力を強めるとも付け加えた。

北朝鮮のジュネーブ軍縮会議議長権に加盟国から不満と批判の声

皮肉なことに北朝鮮は2022年5月30日から4週間に渡り、世界の核問題について協議するスイスのジュネーブ軍縮会議の議長国を務めている。議長国は全加盟65カ国が英語表記のアルファベット順に交代制で担う。

2022年6月2日の本議会では、オーストラリア大使が48カ国と欧州連合(EU)の共同声明を読み上げた。声明は、北朝鮮が7回目の核実験を準備している可能性を含め、「軍縮会議の価値を著しく損ない続ける、北朝鮮の無謀な行動に対する重大な懸念」を表明したものだ。

北朝鮮に議長権の放棄を要求することはなかったものの、多数の国が出席者のランクを下げ、下級外交官を派遣する意向を明らかにした。

ここでも中露のほか、ナイジェリアやパキスタンが北朝鮮の議長権を支持した。

中露、追加制裁は「非効果的で非人道的」

安全保障理事会と軍縮会議と立て続けに、対北朝鮮姿勢、強いては国際社会における自らの立ち位置を強調した中露の“釈明”とはどのようなものなのか。

両国は一貫して、北朝鮮に対する新たな制裁が「非効果的かつ非人道的」であると主張している。

決議案否決後、中国の張軍国連大使はトランプ政権下で著しい改善が見られた米朝関係を停滞あるいは後退させたのは、バイデン政権下の米国であると非難。「休戦状態で止まったままの朝鮮半島問題を解決する唯一の方法は対話と交渉だ」とした上で、「追加制裁は問題の解決につながらず、さらに状況を悪化させるだけ」と強調した。

また、北朝鮮がすでに「世界で最も厳しい制裁体制」に直面している事実を挙げ、中露は新たな制裁を課す代わりに北朝鮮の国民の「悲惨な人道的状況」の改善に向け、制裁の一部を解除することを提案しているとも述べた。

一方、ロシアのネベンジア国連大使は「この1年間、朝鮮半島の情勢は悪化する一方だ」と指摘。「ロシアにも直接影響を与えるこの地域の安全保障問題は、地域の住民に直接影響を与える原始的で鈍重な手段では解決できない」と、ロシアに対する制裁を加速させている西側の対応に対する批判も匂わせた。

さらに中国は、米国が中国の経済・軍事大国としての台頭を脅威に感じており、北朝鮮や朝鮮半島の情勢を「戦略的・地政学的な切り札」に利用しているとも言及した。

米韓は軍事けん制を開始

グリーンフィールド国連大使の言葉を借りると、中露が「責任」を放棄したことにより、北朝鮮は追加制裁の懸念はなく、軍事兵器の“実験”に打ち込める。

実際、北朝鮮は2022年6月5日に8発の短距離弾道ミサイルを発射し、日本の排他的経済水域の外側に落下させた。翌日には米軍が8発の地対地ミサイルを日本海に向けて発射し、これをけん制した。

さらにプライス米国務省報道官は同日、北朝鮮が7回目の核実験を数日以内に強行する恐れがあるとの強い懸念を表明。さらなる挑発を抑制するために、米韓空軍が黄海上で最新世代のステルス戦闘機F35を含む20機の戦闘機を用いて合同訓練を行った。

日本がNATO首脳会議に出席?

長年に渡り対中露関係に慎重なスタンスを維持していた日本が動き出したことも、海外では「異例の事態」として報じられている。

2022年6月3日にソウルで実施された日米韓協議では、国連安保理決議に従った北朝鮮の完全な非核化の実現に向けて、三カ国間の安全保障協力を含む地域の抑止力強化といった観点から、緊密に連携していくことに合意した。

足元には対ロシアという問題も横たわる。岸田首相はウクライナに対するロシアの侵攻を「戦争犯罪」として繰り返し批判しており、G7首脳会合で中露の連携に警戒を呼びかけてきた。

2022年6月7日現在正式発表はないものの、関係者がロイター紙に明かしたところによると、岸田首相は26日~28日にドイツで開催されるG7首脳会議出席後、29~30日にスペインで開催されるNATO首脳会議にも出席することを検討しているという。実現すれば日本の首相として初めてのNATO首脳会議出席となる。

同会議には、オーストラリアとニュージーランド、韓国もアジア太平洋地域のパートナーとして招待されている。

「3つの独裁政権」の暴走

「中国、ロシア、北朝鮮という3つの独裁政権の指導者は、前世紀の戦争、特に第二次世界大戦と朝鮮戦争の歴史を大いに利用して、自国の現代的な課題を組み立て、自らの行動への支持を強化している」
米グローバルインテリジェンス企業、Pamir Consultingのエグゼクティブバイスプレジデント、マーシー・クオ氏は、国際オンラインメディアThe Diplomatの寄稿の中でこう語った。

3つの独裁政権の暴走が、世界秩序の二極化をさらに加速させている。

文・アレン・琴子(英国在住のフリーライター)

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