【陰謀論の嘘と真実】サル痘、帯状疱疹の急増はコロナが原因? すべてはビル・ゲイツの企み?
(画像=Alexander Limbach/stock.adobe.com)

2022年5月頃から、欧米や中東などの一部の国において、サル痘や帯状疱疹の急増が報じられている。

SNS上では「サル痘や帯状疱疹の増加はコロナワクチンが原因」「陰で糸を引いているのはビル・ゲイツ氏」など、新型コロナウイルスとの因果関係を主張する陰謀論が拡散されている。

陰謀論その1:「陰で糸を引いているのはゲイツ氏」

「コロナワクチンには監視用マイクロチップが入っている」「人口削減が狙い」など、コロナ禍でさまざまなゲイツ氏陰謀論が世界中を駆け巡った。

ゲイツ氏がかねてからパンデミックへの警戒を促していたこと、アフリカの一部貧困国における人口急増が世界の貧困抑制と健康増進の進展にリスクをもたらす可能性を指摘していたこと、メリンダ・ゲイツ元夫人と設立した慈善団体メリンダ&ビル・ゲイツ財団を介して、発展途上国へのワクチン普及を支援していたことなどが、陰謀論の背後にあるものと推測される。

そして現在、サル痘パンデミックの懸念により新たな陰謀論が生じている。

一例を挙げると、米ジョージア州のマージョリー・テイラー・グリーン共和党下院議員による、「ゲイツ氏がサル痘の発生で大儲けを目論んでいる」という主張がある。米国政府が2022年5月中旬、サル痘の予防にも有効な天然痘のワクチン1億1,900万ドル(約159億4,395万円)相当を、デンマークのバイオテクノロジー企業バイエルン・ノルディックに追加注文したというのがその根拠だ。

保健社会福祉省(HHS)の広報担当者は、「万が一の緊急事態用」の備蓄として米政府が同社から定期的かつ継続的に天然痘のワクチンを購入していると釈明。「特定のイベント(潜在的なサル痘の増加)とは無関係」であると、ゲイツ氏の関与を含む一連の陰謀論を否定した。

陰謀論その2:「サル痘と帯状疱疹は同じウイルス」

結論から言うと100%誤情報だ。サル痘と帯状疱疹は全く異なるウイルスを病原体とする。

サル痘は主に西・中央アフリカで発生しているポックスウイルス科オルソポックスウイルス属のサル痘ウイルスで、天然痘に似た特徴がある。サル痘は感染した動物と接触することで人に感染する。

これに対して帯状疱疹はヘルペスウイルスの一種(ヘルペスウイルス3型)で、子どもの頃に感染した水痘・帯状疱疹ウイルスが免疫力の低下などにより再活動することで発症する。焼けるような、あるいは刺すような痛みの後、水疱を伴う赤い発疹が帯状に現れるのが特徴だ。帯状疱疹患者が水痘に感染したことがない人と接触した場合、水疱液による接触感染あるいは唾液により飛沫感染することがある。

陰謀論その3:「サル痘・帯状疱疹増加の原因はコロナワクチン」

現時点においては、サル痘とコロナワクチンの因果関係を示すデータは存在しない。その一方で、帯状疱疹の増加とコロナ感染、コロナワクチン接種との潜在的な因果関係を示唆する研究結果は、複数報告されている。

コロナ感染者は帯状疱疹リスクが15~21%高い

その中でも大規模なデータを解析したものが、5月に「Open Forum Infectious Diseases(感染症オープンフォーラム)」で発表された研究報告書だ。

この研究は、50歳以上のコロナに感染したことがある約40万人と、感染したことがない約58万人の帯状疱疹を発症するリスクを比較したもの。その結果、コロナに感染したことがある人のリスクはそうでない人より15%高く、コロナが原因で入院した人のリスクは21%高かったという。帯状疱疹を発症したコロナ患者のほとんどが、コロナ感染後1~2週間以内に帯状疱疹を発症した。

また、ブラジルにおける2020年3~8月の帯状疱疹患者は100万人あたり40.9人と、コロナ以前から35.4~77%以上増加したとの報告もある。

研究チームの一員であるグローバル製薬企業グラクソ・スミスクラインのシニア臨床研究開発担当者アミット・バブサル氏は、「これらの症例報告を見る限り、コロナウイルスによる細胞媒介性免疫の機能不全が帯状疱疹の再活性化を引き起こす可能性はある」とし、医療従事者に注意を呼びかけている。

ワクチン接種後の帯状疱疹発症率は0.3~1.3%

ワクチン接種後の帯状疱疹発症率を調査した研究でも、同様の結果が報告されている。

アムステルダム大学医療センターのカルメン・ヴァン・ダム博士が作成した報告書によると、2021年7月時点の欧州におけるファイザーワクチン接種後の帯状疱疹発症数は4,103件、モデルナ接種後は590件、アストラゼナカ接種後は2,143件、ジョンソン・エンド・ジョンソン接種後は59件。全有害事象を占める割合は、それぞれ1.3%、0.7%、0.6%、0.3%と極めて低い。

コロナワクチン接種後、免疫応答の司令塔的役割を担うリンパ球(T細胞)に一時的な減少が見られたとの研究結果も報告されていることから、それが帯状疱疹につながった可能性が指摘されている。

とは言うものの、これらのデータはコロナワクチンと帯状疱疹発症の関連性を示す証拠としては不十分であり、今後さらに広範囲なデータ収集が求められる。仮に因果関係が立証されたとしても、発症率やリスクは限定される可能性が高い。

サル痘ウイルスの国内流入を警戒

2022年6月16日現在、日本国内でサル痘の発症例は報告されていないが、外国人観光客の受け入れが再開されたことで、ウイルス流入の可能性を警戒する声もある。

しかし、過度な警戒心から日常生活に支障を来したり、コロナの感染者やワクチン未接種者に偏見を持つといった行動からは、ポジティブな未来は生まれない。

文・アレン琴子(英国在住のフリーライター)

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