ロシアによるウクライナへの軍事侵攻は木材供給に深刻な影響を与えつつある。ロシアは対露経済制裁の当事国など非友好国に対して単板など一部木材の輸出を禁止、一方、木材流通の国際認証機関はロシアとベラルーシ産木材を「紛争木材」に指定、認証を取り消した。米国の景気回復とコンテナ不足が招いた所謂「ウッドショック」、FRBの利上げを契機に市場は徐々に落ち着きを取り戻すだろうとの楽観はロシアによって一挙に吹き飛んだ。供給不足の長期化に対する懸念が価格を更に押し上げる事態となっている。
ロシアは世界の森林面積の2割を占める森林大国だ。強度が強いカラマツの単板やアカマツの垂木は日本でも住宅用に使われてきた。しかし、単板の輸入は完全に停止、輸出禁止対象から外れた垂木も消費者イメージの悪化等を考慮し、新規発注はストップ状態にある。業界はロシア産に代わる木材の調達に動く。加えて円安だ。日銀の国内企業物価指数4月速報によると木材・木製品の価格は前年同月比56.4%増、3月の同58.9%増に続き、高止まり状態にある。
こうした中、高さ44m、11階建ての純木造高層ビルが横浜に完成した。施工は大林組、耐震性能など安全性能に問題がないことはもちろんであるが、木造のメリットとして強調されたのは環境への貢献である。鉄筋コンクリート製と比べるとCO2の排出量は1/4に抑えられるという。国際エネルギー機関(IEA)によると世界のCO2排出量の1割を建材製造と建設セクターが占める。脱炭素は業界にとって喫緊の課題だ。実際、2021年10月に施行された木材利用促進の法律の名称も「脱炭素社会の実現に資する等のための建築物等における木材の利用の促進に関する法律」である。今、時代が林業の再生を後押しする。
木材供給不足の長期化は避けられまい。住宅建設業界にとって厳しい局面が続く。しかし、国土の2/3を森林が占める日本にとって、脱ロシアと脱炭素を背景とした供給網と需要構造の変化は大きなチャンスである。戦後一貫して国際競争力を低下させてきた林業であるが、木材の自給率は回復基調にある。2000年代前半、2割を切っていた自給率は2015年には32.2%、2020年には41.8%(林野庁調べ)まで回復してきた。筆者は昨年本稿で「森林は循環型経済を構成する中核資源であり、その視点から林業を再定義することで、持続可能な産業としての未来が開ける」と書いた。森林の多面的な効用に対する再評価は林業に新たな価値をもたらすはずであり、その可能性に期待したい。
「輸入木材、高騰。国産材への回帰トレンドは林業再生のチャンス」(2021年7月9日)
今週の“ひらめき”視点 5.22 – 5.26
代表取締役社長 水越 孝