300万人超パンデミックの北朝鮮 コロナ対策は塩水でうがい?
(画像=maroke/stock.adobe.com)

バイデン大統領の日韓訪問タイミングを狙い再びミサイルを飛ばした北朝鮮。新型コロナウイルスのパンデミックによる混乱の最中、まるで平静を装っているかのようにも見える。

北朝鮮政府の発表によると潜在的なコロナ感染者は、わずか1ヵ月間で累計300万人を突破したという。

北朝鮮はワクチンを確保しておらず、医療体制は脆弱でコロナに対応可能な医療設備も整っていない。その上、長引く食料危機の対応にも追われている。ワクチン供給を含め国際的支援を拒否し続けてきた同国は、この緊急事態をいかにして切り抜けるのだろうか。

「熱病者」からオミクロン株検出で都市封鎖令

朝鮮中央通信(KCNA)によると、北朝鮮は不特定多数の「熱病の症状」を訴える首都平壌の住民から、オミクロン株が検出されたと発表した。

政府は直ちに緊急予備の医薬品を供給し、全土に都市封鎖令を発令した。検疫施設の追加設置や「COVID治療ガイド」の作成などのまん延防止策を講じる傍ら、政府関係者や研究者らが一丸となって「悪性ウイルス感染の治療に有効な薬剤を大量に開発・生産し、より合理的な診断・治療法を確立する」ための努力を強化しているという。

しかし、国内ではワクチンや治療薬どころか基礎的な医療物質すら不足している有様だ。国営メディアは家庭向けのコロナウイルス対策として、鎮静剤や抗生物質、うがい用塩水、スイカズラやヤナギの葉茶などの使用を推奨しているという。

金正恩(キムジョンウン)総書記は、5月17日に行われた与党労働党の政治局会議で、「国家の危機対応能力の未熟さ」を厳しく批判した。その一方で「(国内の感染状況は)改善方向に向かっている」と、自力で危機を克服できるとの確信を繰り返し表明した。

熱病者300万人超え、コロナ感染の可能性大

同国でいつ頃から感染が拡大していたのかは定かではないが、かなり以前からコロナ感染者を「熱病者」として扱っていた可能性は極めて高い。4月25日に平壌で行われた大規模な軍事パレードが、感染拡大を加速させたとの見方もある。

同国の発表によると、熱病者が急増し始めた4月下旬から5月17日の期間、死者数は累計68人、熱病者数は300万人を上回った。これまでに約9割が回復したが、30万人以上が治療中とのことだ。

国外の専門家は、同国に大規模な検疫検査を行える設備が整っていない事実を考慮し、発熱ケースのほとんどがコロナウイルスの感染によるものだと考えている。無症状者などを含めると実際の感染者数は、公表されている熱病者数をはるかに上回るだろう。

ワクチン支援拒否、データ共有拒否……国際社会からの孤立選択

国際社会が懸念しているのは、同国が「最も深刻な国家緊急事態」に陥っている事実を認識しているにもかかわらず、頑なに国際社会の協力を拒絶している点だ。

国連加盟国(UN)の中でワクチン接種プログラムを展開していないのは、北朝鮮とエリトリアの二ヵ国のみである。ワクチンを供給するという世界保健機関(WHO)からの度重なる申し出を拒絶し、ワクチンやマスク、検査キットを含む医療支援を提供するという最近の韓国の申し出にも無反応だ。

各国の感染状況に関するデータは、有効なパンデミック対策を講じる上で不可欠な要素である。それにもかかわらず、国内のコロナ感染状況に関する追加データの共有を求めるWHOの呼びかけにも応じていない。

世界保健機構(WHO)の緊急対応責任者マイク・ライアン氏は5月17日、「ウイルス感染が放置された場合、新たな変異株が生まれる可能性がある」と警告した。「各国が支援を受け入れない限り、WHOには対応するすべがない」との懸念を露わにした。

「唯一、中国から基本的な医薬品などの緊急物質供給を受けた」と韓国メディアが報じたが、韓国政府はこれに関して「事実を確認できなかった」と述べた。

長引く食料危機で人口の半分が栄養失調

北朝鮮の栄養失調率が高いことも、懸念材料の一つだ。

核ミサイル計画に対する国際制裁、パンデミックによる国境閉鎖、干ばつや台風の影響、コロナ禍の物価高騰などの複数の要因が重なり、同国では今なお食糧不足が続いている。5月上旬には工場労働者や会社員、政府関係者までもが、全国各地の農業施設の改善や水資源の確保を支援するために派遣されたという。

国際連合食糧農業機関(FAO)の推定によると、パンデミック以前の2018~2020年の時点で北朝鮮の人口の4割強にあたる1,090万人が栄養不足に陥っていたとのことだ。

栄養疾患と重症化リスクの関連性については、複数の研究で明らかになっている。その一方で、コロナの感染拡大が経済活動の足かせとなり、長引く食糧危機をさらに悪化させる可能性も考えられる。

孤立を選んだ北朝鮮の行く末は?

北朝鮮は、パンデミック下で極端な孤立を選んだ。国家の存続を揺るがす緊急事態下にあっても、国際社会とのつながりを避け、他国のいかなる介入も許さない。断固たる拒絶の根底にあるのは、「自国の力で切り抜けられる」という自負だろう。

その最大の被害者は、食糧不足や物価高騰、「熱病」感染拡大という三重苦に苦しむ国民ではないだろうか。

文・アレン琴子(英国在住のフリーライター)

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