「デジタルノマド」という言葉をご存じだろうか。インターネットで仕事をしながら世界を旅する人のことを指す。いまこのデジタルノマドに対して、専用の「デジタルノマドビザ」を発給する国が増えている。なぜこのような動きが出ているのか。解説していこう。
デジタルノマドビザを発給している国が増えている
デジタルノマドビザを発給している国として挙げられるのは、ヨーロッパだとエストニアやジョージア、クロアチア、アイスランド、マルタなどだ。そのほか、中東ではアラブ首長国連邦(UAE)のドバイ、英国領バミューダもデジタルノマドビザを発給していることで知られる。
ただし、デジタルノマドビザが発給されていない国でも、観光ビザを取得したりノービザで滞在可能な国であったりする場合は、その国に滞在しながらインターネットで仕事をすることはできる。しかし通常、観光ビザやノービザでは長くても30~60日程度しか滞在できない。
そのため、その国に長期滞在しながらデジタルノマドとして働くためには、出国と入国を繰り返すことで、観光ビザを何度も取り直したりノービザでの滞在権利を何度も獲得したりする必要があった。
これは本人にとって非常に面倒であるだけでなく、「観光ビザ」のステータスでその国で就労していることを問題視されることもあり、デジタルノマドとして安定してその国に滞在することを難しくしていた。
しかし、デジタルノマドビザが発給されている国では、状況がガラッと変わっている。
1年滞在できるビザでロングステイが可能に
デジタルノマドビザを発給している国は、滞在期間を「1年」というように長く設定しているケースがほとんどだ。
例えば、エストニアのデジタルノマドビザの滞在可能期間は1年間、クロアチアも1年間である。アイスランドのように「6ヵ月」としている国もあるが、そのような国はいまのところは少数派で、これからデジタルノマドビザを発給する国でも滞在可能期間は1年間というのが主流になっていきそうだ。
本人の月収などに関する「条件」面は要確認
ただし、デジタルノマドビザを取得するためには、いくつかの条件をクリアする必要があることがほとんどだ。例えばエストニアの場合、過去6ヵ月間の月収が3,504ユーロ(約48万円)以上あることを証明しなければならない。
ドバイでは、バーチャルワーキングプログラムの中でデジタルノマドビザを発給しており、雇用されて働く人の場合も、自分で企業を所有している人の場合も5,000ドル(約65万円)以上の月給が求められる。雇用されて働く人の場合は、給与明細の提出、企業を所有している人の場合は、企業所有権の証明なども必要だ。
このように月収の最低条件が設けられている理由については、公式には説明されてはいないものの、お金がない人に長期滞在してもらっても、その国にメリットが少ないからと考えられる。お金がない人は飲食や観光であまりお金を落としてくれず、受け入れてもその国の経済にプラスになりにくいからだ。
日本のインバウンド観光をイメージすると、この理屈は分かりやすいかと思う。なるべくお金持ちに多く日本を訪れてもらったほうが、経済的なメリットは大きい。たくさん買い物などをしてくれるためだ。
発給する国が増えた背景に「コロナ禍」があり?
デジタルノマドビザを発給する国が増えていることの背景には、新型コロナウイルスで各国の経済、特に観光業界が多大なダメージを受けたことがある。そのため、自国に滞在してくれる人を増やそうと、デジタルノマドビザの発給に踏み切っているわけだ。
ただしエストニアのように、コロナ禍が起きる前からデジタルノマドビザの発給を検討していた国もある。エストニアでは、2018年の段階でデジタルノマドビザの導入を検討していた。そして、2020年に入って導入のための法改正が行われ、実際に発給が始まった経緯がある。
しかしその後、他国でもデジタルノマドビザの発給を観光業界の回復につなげようという動きが出て、デジタルノマドビザを発給する国が増えていった。
現在はまだ、デジタルノマドビザの発給が始まっていない国ではあるが、東南アジアのタイもこのような目的でデジタルノマドビザの発給に動いている。現在、政府がデジタルノマドビザの発給に向けて検討を重ねている状況だ。
タイは主要産業のひとつが観光業で、コロナ禍で国の経済に甚大なダメージが出た。そのため、特に観光が盛んなプーケットでは、デジタルノマドビザの発給を先行して行おうという動きも出てきている。
ノマドワーカーにとっては朗報
場所を選ばずインターネットで仕事ができる人の中には、コロナ禍が収束したら海外を旅しながら、もしくは海外に長期滞在しながら仕事をしようと考えている人も少なくないはずだ。
そのような人にとっては、デジタルノマドビザを発給する国が増えているというニュースは朗報だろう。まだまだ発給する国が増えていくのか、注目だ。
文・岡本一道(金融・経済ジャーナリスト)