この記事は2022年4月28日に「テレ東BIZ」で公開された「メード・イン・ジャパンで快進撃!ガレージで生まれた異色メーカー:読んで分かる『カンブリア宮殿』」を一部編集し、転載したものです。
パソコン市場の注目メーカー「マウスってどうなのよ?」
コロナ禍で在宅勤務やリモートによる授業が普及し、さらにはヨガや英会話、料理などさまざまな習い事も、自宅にいながらオンラインで受けられるようになった。そのため、家庭でのパソコン需要が高まり、国内のパソコン出荷台数は2020年に過去最高の1,700万台を超えた。そんな中、注目を集めるのがマウスコンピューター。マツコ・デラックスさんのCMが印象的なパソコンメーカーだ。
東京・新宿の直営店、「マウスコンピューター新宿ダイレクトショップ」のオープン当日。客の行列が注目度を物語る。「メード・イン・ジャパンで安心」「性能に比べてコストパフォーマンスがいい」とファンをしっかり掴み、売り上げは右肩上がり。2021年は500億円を突破した。
▽「マウスコンピューター新宿ダイレクトショップ」のオープン当日
人気の秘密1「自分好みで低価格」
関井康彰さんは自宅用のパソコンを買おうと秋葉原ダイレクトショップに来店。まずベースとなるモデルを選んだ。そして「メモリーを32ギガ、SSDは1テラ」などと店員に相談しながら細かく注文。「かなりカスタマイズできる。容量を選んだり、機能を付け加えたりできる」と言う。
マウスのパソコンはビルド・トゥー・オーダー(BTO)、注文に沿って作る受注生産が基本だ。一般的なパソコンには、メーカーが勧めるさまざまなソフトや機能があらかじめ入っている。一方、マウスのパソコンに入っているのは基本機能だけ。そこに自分が必要な機能やソフトを追加できる。用途に応じてスペックも上げられるから、自分好みのパソコンが格安で手に入るのだ。
関井さんがパソコンを買ったのは、音楽仲間とネットでつながりリモートでバンドの練習をするため。パソコンのスペックが低いと音がずれてしまうので、こだわってカスタマイズしていたのだ。
▽リモートでバンドの練習をする関井さん
国産を売りに快進撃 ―― 年中無休サポート&プロ用品質
人気の秘密2「国産品質」
都内の家電量販店でパソコン売り場を覗いてみると、並んでいるのはアメリカのアップル、デル、台湾のエイスースに中国のレノボなど、海外メーカーの商品が目に付く。
かつて一世を風靡したソニーの「VAIO」は2014年、投資ファンドに売却され、今やソニー製品ではない。NECの「LAVIE」、富士通の「FMV」、東芝の「dynabook」は海外メーカーの手に渡った。日本の大手電機メーカーでパソコン事業を続けているのは、法人向けに強いパナソニックくらいだ。
そんな中で奮闘しているのがマウスコンピューターだ。マウスは国内生産をアピールする。その生産拠点は風光明媚な景色の中にあった。長野・飯山市にある飯山工場。朝8時過ぎ、続々と軽自動車がやってくる。マウスコンピューターの作り手は地元の女性たちだ。
彼女たちの作り方は普通のパソコン工場とは違う。まずお客さんが細かくオーダーした注文書をチェック。たとえばある注文内容には「オフィスソフト」を追加、メモリーの容量やDVDドライブの種類なども指定されている。
注文に合わせた部品を集め、ひとつのダンボール箱に入れていく。準備が整ったところで次の工程、組み立てだ。普通の工場なら生産ラインに流すところだが、マウスはベルトコンベアを使った生産ではない。1人が1台のパソコンを最後まで作り上げる「セル生産」と呼ばれるやり方で、客の注文が入るたびに1台1台、違うパソコンを作っているのだ。
▽長野・飯山市にある飯山工場の様子
女性従業員のひとりは「もともとモノを作るのが好きだったので、初めて自分で1台作った時は感動しました」と言う。慣れてくれば1台15分ほどで組み上がるという。この工場には167人(生産本部)が勤務し、一日500台以上を生産している。
出来上がったパソコンは全て検査へ。動作に問題がないか、1台ずつチェックした後、3時間連続で動かし続け、部品に異常がないかを確かめる。さらに別の担当者がアトランダムに1台のパソコンを抜き取り、実際にパソコンを使ってみて不具合がないかを確認する。こうして国産品質のパソコンを1台1台生産。注文を受けてから3日ほどで発送している。
▽別の担当者がアトランダムに1台のパソコンを抜き取って検査する
人気の秘密3「年中無休のサポート」
ユーザーからは「マウスのサポートは安心」という声をよく聞く。秘密は沖縄・沖縄市にあった。
保育園と書かれた建物の3階にあるマウスのコールセンター。通常、コールセンターは外部委託する企業が多いが、マウスのコールセンターは自社で運営しており、オペレーターの8割近くは正社員だ。しかもシフトを組んで24時間対応している。深夜にパソコンを使う人は多いため、電話はひっきりなしにかかってくる。
▽マウスのコールセンターの様子
人気の秘密4「プロに選ばれる品質」
東京・台場にあるデジタル技術を駆使したミュージアム「エプソン チームラボボーダレス」。デジタルアートは複雑なプログラミングで動いている。それを支えているのが500台以上のパソコンだ。実はそのほとんどがマウス製だ。
「僕らの無理難題なスペックをカスタマイズして対応していただける、マウスコンピューターの力なくしてこの空間はできていないと思います」(「チームラボ」工藤岳さん)
マウスは、最先端をいくデジタルアート集団にも選ばれる程の実力なのだ。
マウスコンピューター社長・小松永門(58)は、「国内で作ることで付加価値を高められるのが、日本のものづくりのいいところかなと思います」と言う。
始まりはガレージ~注文殺到! 自作パソコン
4月1日、マウスコンピューターの入社式が開かれた。新入社員は、飯山工場と沖縄のコールセンター、東京の本社、合わせて10人。社長の小松が仕事の心得を説いた。
「とにかく行動を早く、自分の頭でよく考えて動く。小さな失敗をしながら次の成功につなげていく」
▽入社式で仕事の心得を説く小松社長(右)
マウスは1993年、埼玉・春日部市で誕生した。創業者・髙島勇二が19歳の時、実家のガレージで自作のパソコンを作ったのが始まりだ。
客から注文が入ると秋葉原へ。そこで部品から本体ケースまで全て仕入れた。それらをガレージで組み立て、客に送った。当時、大手メーカーのパソコンは1台、数十万円と高額なモノばかり。格安だった自作パソコンは口コミで評判となり、注文が殺到した。
1998年には秋葉原にパソコンの店をオープン。ブランド名はマウスコンピューターとした。“ウリ”は客の注文を受けてから作るBTO、受注生産だった。
「自分好みのカスタマイズができる」と、パソコンマニアの間で人気となり、売り上げは急拡大。2004年には東証マザーズに上場した。
そのころ、小松は世界最大の半導体メーカー、インテルに勤務。営業担当としてマウスにも出入りしていた。
「インテルと一緒にビジネスをやりましょうと。僕らはこういうサポートをする用意があるとか、そうやってお付き合いが始まった」(小松)
ある日、会食の席で、小松はマウス側からヘッドハンティングの申し出を受けた。大手で培ったノウハウを求められたのだ。
「びっくりしました。本当ですか、と。新しいことにチャレンジできるまたとない機会だと思いました」(小松)
小松はこの申し出を受け入れ、2006年、社長に就任する。ところが、そこで待ち受けていたのは大量の不良品とクレームの嵐だった。
当時、工場で行われていた検査は完成品のみだった。小松は仕入れた部品の検査も徹底。不良品を生む原因の洗い出しにかかった。
「部品不良をとにかく減らしていこうと。それが最終的な品質につながると信じて、ずっと地道に取り組んだ」(小松)
その結果、マウスの品質は劇的に改善し、クレームも大幅に減った。すると小松は次のミッションに取り掛かる。それは知名度の向上だ。
「『マウスって知っていますか』と聞くとほとんどの人が知らない。少しでも『知っている』に変わるだけで、伸び代があるだろうなと」(小松)
小松が仕掛けたのがテレビCMによる大規模なプロモーション。この戦略が当たり、売り上げは一気に伸びた。
子どもたちがさまざまな職業を体験できる兵庫・西宮市のアミューズメント施設「キッザニア甲子園」。小松は去年、ここにパソコンの組み立て工場を作った。マウスのパソコンに興味を持ってもらい、ファンの裾野を広げようという狙いだ。
今年3月には新宿駅の目と鼻の先に直営店をオープン。マニア向けから一般客向けへ。マウスのイメージを変えるシンボルにするつもりだ。
「ニッチからマスへ、ターゲットを絞らず、もっと幅広いお客様にアクセスしていきたいと思います」(小松)
▽兵庫・西宮市のアミューズメント施設「キッザニア甲子園」
eスポーツ1,000億円市場 ―― 秋葉原から世界を狙う
都内のとある一軒家の地下に不思議な空間が広がる。
カメラが入っても振り向きもせず、パソコンに向かう集団が没頭していたのはゲーム。彼らはゲームの大会で賞金を稼ぐプロチーム「DetonatioN Gaming」のメンバーだ。
「ゲーミングハウスといって、プロゲーマーが集団で生活して、大会に出て勝つための練習をするための家です」(吉田恭平さん)
世界と戦う選手とコーチ、計6人で共同生活して腕を磨く、プロゲーマーのシェアハウスなのだ。
今、熱狂的な盛り上がりを見せるeスポーツ。世界各地で大きな大会が開かれ、ライブ配信を楽しむ人も増え続けている。世界の市場規模は1,000億円以上にまで膨らんでいるのだ。
そんな彼らが使っているのがマウスのゲーム専用パソコン。一般向けのパソコンよりも映像処理能力を高めている。そのため滑らかな動きを実現できる。
「スペックがいいパソコンだと操作に支障がないので、集中力を失うことなく没頭できるんです」(吉田さん)
マウスは業界に先駆け、2004年にゲーム専用パソコンを開発。今では海外大手とも肩を並べるトップメーカーなのだ。
▽滑らかな動きを実現したマウスのゲーム専用パソコン
~ 村上龍の編集後記 ~
BTOとは「Build To Order」の略称で、受注生産を意味する。マウスコンピューターは、すごく若い創業者によって作られ、小松永門に引き継がれたが、BTOは守られた。
守るため、創業者はM&Aを繰り返し、小松は法人向けに展開して一気に飛躍させ、サポート体制を充実させた。
マウスコンピューターは、奮闘している。衰退している日本の製造業の中にあって、と言われがちだ。ただ、「日本の製造業」という括りはもう止めたほうがいいと、マウスはそう主張している。
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<出演者略歴>
小松 永門(こまつ ひさと)
1964年、千葉県生まれ。1989年、千葉大学工学部卒業後、インテル入社。2005年、営業本部長としてマウスコンピューター入社。2006年、社長就任。
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