持ち合い株,解消
(写真=PIXTA)

旧財閥系の系列企業などの間で互いの株式を保有する「持ち合い株」。敵対的買収の回避や系列関係の維持、取引関係の強化などを目的とし1980年代後半のバブル期には多くの企業が活用していたものの現在では解消の動きが進んでいる。この記事では、持ち合い株の目的、持ち合い株が使われるようになった経緯、およびなぜ持ち合い株解消の動きが進んでいるのかをみていこう。

解消の動きが進む持ち合い株

持ち合い株を解消する動きが加速している。2019年8月には、メガバンクをはじめとする13社が一斉にリクルートホールディングス(HD)株を売却する意向を明らかにして話題となった。

「メガバンクなど13社は8月28日、各社が保有するリクルート株を売却する意向を明らかにした。売却される総株式数は計約1億1,675万株で、発行済み株式総数の約7%。時価総額は同日の終値ベースで約3,868億円となる。HDをめぐっては、グループ企業のリクルートキャリア(東京)が就職情報サイト「リクナビ」で学生の内定辞退率を算出、データを企業に販売していた問題が発覚。株式保有リスクが高まっており、持ち株上場会社のガバナンスが問われる可能性があるとして、売却に踏み切ったとみられる」
出典:産経新聞『【経済インサイド】日本特有、株式持合い解消が加速』

HD株を売却するのは、凸版印刷や大王製紙などの事業会社、およびみずほ銀行、三井住友銀行、三菱UFJ銀行などの金融機関だ。HD株売却の発表後、凸版印刷や大王製紙の株価は上昇、持ち合い株の売却を市場が評価していることがうかがえる。持ち合い株は、1980年代後半のバブル期にさまざまな企業に活用された。しかしバブルが崩壊した後に解消の動きが進んでいる。

<「株式持合い比率」の時系列推移>
株式持合い比率

注1 持合い比率は、上場"会社(ただし、上場保険会社を除く)が保有する他の上場会社株式(時価ベース)の、市場全体の時価総額に対する比率(ただし、子会社、関連会社株式を除く)
注2 広義持合い比率は、持合い比率に保険会社の保有比率を加えたもの。
出典:野村資本市場クォータリー 2018 Autumn『我が国上場企業の株式持合い状況(2017年度)』

1990年代には30%を超えていた持合い比率は、時とともに減少。2017年度に初めて10%を下回り、その後も減少をつづけている。下の表は、2018年度に持ち合い株を減らした企業の一覧である。

【2018年度に政策保有株を減らした主な企業】
社名 売却数 売却額(億円) 主な売却銘柄
トヨタ自動車 6 850 いすゞ自動車
三菱商事 7 823 横浜ゴム
富士通 85 482 KDDI、OKI
帝人 5 396 キョーリン
三井物産 11 263 東京放送ホールディングス
日本郵船 13 247 三菱商事、出光興産
塩野義製薬 4 187 スズケン
小野薬品工業 24 149 資生堂、ダイワハウス工業
第一三共 10 143 清水建設、ツムラ
JXTG 10 127 三菱マテリアル
丸紅 13 48 日揮、日本郵船、住友倉庫

出典:日本経済新聞『上場企業 政策保有株の削減一段と、富士通480億円超売却』

2019年7月6日付の日本経済新聞によればKDDIやOKIなど85銘柄(482億円)を売却した富士通の前最高財務責任者(CFO)で副会長の塚野英博氏は「持合いに意味はない。今後も解消する方針」と話している。解消が進んでいる持ち合い株は、今後もさらに解消がつづく見込みとなっている。

持ち合い株とは?複数の企業が互いに株式を所有すること

持ち合い株とは、複数の企業が相手の株式を互いに所有することである。戦前の財閥グループ内の企業で多くみられ戦後の財閥解体後、系列グループ内の企業などでふたたび広まった。これは日本特有の仕組みだといわれている。持ち合い株は、2社の間で相互に行われるだけでなく3社以上で行われることもある。

3社以上の場合には、A社がB社の株、B社がC社の株、そしてC社がA社の株といった具合だ。このような3社以上での持ち合い株は「循環的相互保有」や「三角持合い」と呼ばれている。

持ち合い株の3つの目的

持ち合い株の目的は、次のようなものとなる。

1.敵対的買収の回避

持ち合い株を進めることにより保有する株式が外部に流出するリスクが低い安定株主が形成される。それにより敵対的買収を回避することが可能だ。

2. 系列関係の維持

系列グループ内で株式を持ち合うことにより系列関係を維持しグループの結束を高めることができる。

3. 取引関係の強化

取引先と株式を持ち合うことにより取引関係を強化し新たな取引につなげることができる。

持ち合い株が広まった経緯とは?

持ち合い株は、戦後の財閥解体を機にはじまった。持ち合い株が広まった経緯は、以下の3つのフェーズがあるといわれている。

・第1期:戦後の取引所再開から1965年の不況期まで
・第2期:1960年代の不況期から石油危機まで
・第3期:石油危機からバブル期まで

第1期:戦後の財閥解体から1965年の不況期まで

戦後の財閥解体と、それにともなう証券取引所の再開により株式は個人に放出された。それにより個人の持ち株比率は一時的に高まったものの戦争に負けて疲れ切った人々が株式を保有し続けることは負担が大きいもの。そのために株価が下落するなどすると個人保有の株式はすぐに売却されていた。

財閥は解体されても旧財閥の関係企業は、メインバンクを中心とした財閥時代のネットワークを持っていた。1949年と1953年に独占禁止法が改正され企業による株式の所有制限が大幅に緩和される。これを機に売却された関係企業の株式を保有するようになった。このころには、株式の買い占めなども盛んに行われていた。

買い占めに対抗するための安定株主づくりとして持ち合い株は急速に進展した。

第2期:1960年代の不況期から石油危機まで

1960年代の不況期に証券不況対策として株式買取機関によって買い取られていた株式が市場に放出された。この株式を金融機関や企業が取得することにより持ち合い株は一層進んだ。また1964年にOECD(経済協力開発機構)に日本が加盟し体外資本取引が自由化された。それにより国際競争力に劣っていた日本企業が外国資本により乗っ取られるのではないかとの危機感が高まった。

そこで産業界首脳は政府に打診し持ち合い株を容易とするように商法を改正。これを機に持ち合い株は一気に普及したといわれる。

第3期:石油危機からバブル期まで

石油危機からバブル期にかけ新株を発行して資金調達を行う「エクイティ・ファイナンス」が活発化。エクイティ・ファイナンスの受け皿として銀行が系列企業の株式を盛んに購入するようになった。これにより銀行の持ち株比率は大きく高まったのだ。銀行の持ち株比率が高まることは、系列の企業にとっては安定株主の形成につながるというメリットがあった。また銀行にとっても含み益が増大する点はメリットといえる。

持ち合い株の解消が進む5つの理由

バブル期にピークを迎えた銀行や企業の持合い比率は、1990年代の半ば以降減少に転じていく。持ち合い株の解消が進む理由は、以下の5点だ。

  1. バブル崩壊により売却益が必要となった
  2. バブルの崩壊により持ち合い株が下落して含み損が膨らんだ
  3. 会計基準が変更された
  4. 海外の投資家を中心に批判が強まった
  5. 持ち合い株の開示が厳格化された

1. バブル崩壊により売却益が必要となった

持ち合い株が解消に向かった第1の理由としてバブルが崩壊したことにより持ち合い株を売却し売却益(キャピタルゲイン)を確保することが必要になったことがあげられる。売却益をあてる対象となったのは、銀行の場合なら不良債権処理など企業の場合なら収益不振の埋め合わせなどとなる。もともと金融資産としてみた場合、持ち合い株の収益性は低かった。

株式を購入する理由が収益を得るためではなく安定株主づくりや系列企業間・取引先との結束を強化するためなのだから当然のことである。景気が良ければ、それでも保有するメリットがあった持ち合い株は、バブル崩壊後の長期不況でただの不稼働資産となってしまった。事業不振による資金繰りの悪化を解消するため、持ち合い株の売却が現実的に必要になったといえる。

2. バブルの崩壊により持ち合い株が下落して含み損が膨らんだ

持ち合い株の解消が進んだ第2の理由は、バブルが崩壊したことにより持ち合い株の含み損が膨らんだことがあげられる。企業が保有する株式は、そのころは取得原価で表示されていたためバブル期の時価が高いときには「含み益」を持っていた。企業は、その含み益を元手とし事業の安定や拡大を図ることができていた。

ところがバブル崩壊で株価が取得原価より低下すると含み益がなくなることはもちろん「含み損」が発生してくることになる。したがって持ち合い株を保有することは、銀行や企業にとって「経営上の大きなリスク」として受け止められるようになった。特に深刻だったのは、銀行だ。保有する持ち合い株の価格下落は、銀行の自己資本比率を低下させることになる。

そのために銀行の自己資本比率に関する基準を満たさなくなる恐れがあった。また自己資本比率が低下すれば市場における銀行の評価も低下する。そのために資金調達コストの増大や資金調達困難をまねく恐れがあった。銀行はそれらの経営リスクに直面し持ち合い株の売却を早期に進めることとなった。

3. 金融ビッグバンにともなって会計制度が変更された

持ち合い株の解消が進んだ第3の理由として金融ビッグバンにともなって会計基準が変更されたことがあげられる。金融ビッグバンとは、日本の金融市場を世界基準に合致させるため、1996~2001年にかけて行われた金融制度改革のことだ。金融ビッグバンに対応し1999~2001年にかけて会計制度も国際的な基準に近づけるよう改正された。

それ以前の会計制度においては、上で触れた通り企業が保有する持ち合い株などの有価証券の価格は取得原価で計上していた。一方新しい会計制度においては、有価証券を時価で評価し貸借対照表の資本の部に計上することが義務づけられた。そのために持ち合い株の利益や損失は、自己資本比率に対して直接影響することとなった。

持ち合い株が含み損をだしていれば自己資本比率は毀損される。また逆に含み益をだしている場合、株主資本利益率の低下をまねき投資家の不興を買うリスクがある。自己資本や収益性をあらわす指標が本業の業績とは関係がない持ち合い株の保有で変化することは、銀行や企業にとっては不本意だ。そのために銀行も企業も持ち合い株の売却を一層加速させることとなった。

4. 海外の投資家を中心に批判が強まった

持ち合い株の解消が進んだ第4の理由として海外の投資家を中心として持ち合い株に対する批判が強まったことがあげられる。持ち合い株はそもそも以下のような問題点や矛盾を抱えていた。

・資本の空洞化をまねく
資本は本来、成長事業への投資にあてられるべきものである。企業は、業績を高めて利益がでたら、その利益を株主に分配する。しかし持ち合い株においては、成長事業とは直接関係がない系列企業や取引先の株式を取得するために資本が使われる。また株式の配当も系列企業同士で分配する。これは資本の有効活用をしていないという意味で「資本の空洞化」と呼ばれている。

・非効率な取引が温存されやすい
持ち合い株を保有する企業同士は「資本関係がある」ことを理由として取引関係の改善や見直しを怠る可能性がある。そのために非効率な取引が温存されやすい。

・株主総会の機能不全
持ち合い株を保有する企業同士は、互いに身内同士となるために「物言わぬ株主」になりやすい。それにより株主総会が機能不全に陥り経営者の保身を助長する可能性がある。以上の問題点や矛盾点も日本国内においてはそれほど問題とされることはなかったが1990年以降、外国人投資家が大幅に増加してきたのだ。

しかも2008年のリーマンショック以来相場が悪化し株式関連の評価損を計上した企業が続出。評価損が理由となって最終赤字に転落し株価が下落したり減配を発表したりした。これでは外国人投資家も黙っていられないのは当然のことである。また外国人投資家が批判の声をあげるとともに国内の機関投資家も批判的な立場を表明するようになった。

5. 持ち合い株の開示ルールが厳格化された

持ち合い株の解消が進む第5の理由として持ち合い株の開示ルールが厳格化されたことがあげられる。2018年6月1日、東京証券取引所の企業統治指針(コーポレートガバナンス・コード)が改訂された。持ち合い株についての改訂点は以下のようになっている。

  1. 政策保有株式の縮減に関する方針・考え方など、政策保有に関する方針を開示すべき
  2. 取締役会等で適否を検証する政策保有株式の対象が主要株式から個別株式へ拡大。保有目的の適切性や保有にともなう便益やリスクが資本コストに見合っているかなどを具体的に精査し、その検証内容について提示すべき
  3. 議決権行使方針の具体的な基準を策定、開示し、その基準に沿った対応を行うべき
  4. 自社の株式を政策保有株式として保有している会社(政策保有株主)から株式売却等の意向に対し、取引の縮減を示唆するなどにより、売却等を妨げるべきではない。
  5. 政策保有株主との間で、取引の経済合理性を十分に検証しないまま取引を継続するなど、会社や株主共同の利益を害するような取引を行うべきではない

出典:野村資本市場クォータリー 2018 Autumn『我が国上場企業の株式持合い状況(2017年度)』

また金融庁も2019年3月期の有価証券報告書から純投資と政策投資の違い、あるいは個別の持ち合い株の目的や効果などの説明を求めるようになっている。

解消が進む持ち合い株の今後は?

旧財閥系を中心とし複数の企業が互いの株を保有しあう持ち合い株。敵対的買収の回避や系列関係・取引関係の維持・強化を目的とし戦後からバブル期にかけて盛んに活用されたが、バブル崩壊以後は解消が進んでいる。今後もこの流れは続いていくと見られるだろう。

文・THE OWNER編集部